ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい   作:ムラムリ

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メイさんは腹を殴って跪かせてゲロ吐いているところを見下したい 3

「じゃ、また明日」

「また明日……」

 

 くたびれ果てたメイを宿の前まで送り届けて、ウトも帰路に着く。

 帰るのは実家ではなく、道場の方。実家にも一応顔は出したが、働いている訳でもないウトに根っからの漁師である父親や弟妹達はそんな良い顔をせず、居た堪れなくなって道場の方で雑用をしながら寝泊まりしている。

 そして、帰るとスィニチさんに呼び止められた。

 

「飯、食いに行かないか?」

「俺も色々聞きたい事があったんです」

 

 

 

 何となく無言のまま、屋台の飯をそれぞれ食べ終えて。

 それからスィニチが口を開いた。

 

「俺がメイを見てまず最初に何を思ったか分かるか?」

「えっ? ……番いたい、とか?」

「まあ、そうなんだが……もっと強い。何で俺は、メイと同じくらいの時期に生まれなかったかって思わず後悔せざるを得ない程だった」

「…………メイさんからは、情けない姿を見せたら娶られるって聞きましたけど」

「直接はそんな事言ってないんだけどな」

「俺もスィニチさんがそんな事言うとは思ってなかったので、驚きましたよ」

「ただ、まあ……今日はもう5回は抜いてる」

「…………」

 

 遠い目をしながらスィニチは肘を着いて溜息を吐いた。

 そのメイをも軽く超える巨体が小さく見える程の覇気のなさ。

 

「嫌われた事なんて分かってるよ。俺が力づくで手に入れようものなら、あのメイは本当に手段を選ばずに俺に報復しようとする事もな。そういう、躊躇いのない目をしていた。

 全く……西のダンジョンの奴等はどいつもこいつも狂ってやがる」

「……」

「否定はしないだろ?」

「それは、まあ……」

「死んでも確実に生き返られる街のダンジョンだからと言って、人の頭に拳を全力でぶつけられる奴はそういない。ウトも街のダンジョンに挑んでいたなら分かるだろう?」

 

 ダンジョンに挑んでいるというだけで変な目で見られた事は時々あった。

 

「ましてや、その確実性がないダンジョンで、あのメイやドラゴニュートは何人も何十人も何百人も殺してきているときた。仕事とは言えな」

「……喋ってみれば普通ですけどね」

「逆に言おうか? 人を殺した後も、殺されて蘇生された後も、いつも通りに飯を食えるんだぞ? ウトはダンジョンで最初に人を殺した時。最初に蘇生した時、飯が喉を通ったか?」

「……通らなくはなかったですね。流石に、食欲はそんななかったですけど」

 

 良く覚えてはいる。ただ、街に来てしまった以上、情けないまま帰れるかと踏ん張る気持ちの方が強かった気がする。

 

「ふぅん……? 肉食の獣人だからというのもあるかもな」

 

 取り敢えず……スィニチさんは意外と繊細なようだとウトは思った。

 

「まあ、俺は下心があるのは事実だとしても、本気で娶ろうとは思ってない。情けない姿を見せたとしても、精々道場にぶち込んで、見劣りしないくらいまで鍛えるくらいか」

「……」

「言いたい事でもあるのか?」

「……ちょっと待ってください」

 

 腕組みをして、色々考える。

 西のダンジョンの奴等は狂っている。狂っている上で、普通の人のように振る舞える。

 その二面性をメイさんに限らずあのユーリさんも、そしてメイさんと一緒に居たヴァンパイアも備えている事に、俺自身疑いはない。

 ただ……スィニチさんはその狂気を、推し量り損ねているように思えた。

 けれど、メイの言っていた事をそのままスィニチさんに伝えてしまうのは、あまりよろしくないだろうから……。

 

「いや……10日後くらいに、あっちの岩礁に行ってみてください。

 ……ただ、それだけ伝えておきます」

「良く分からんが……まあ、言われた通りにしてみよう」

 

 岩礁は、1日にして目に見えるくらいに形を変えつつあった。

 

*

 

 2日目には少しずつ蹴りや肘打ちなども混ぜ始める。

 目に見える執念は衰えるどころか、更に研ぎ澄まされていくようで、ただ力づくでも十分に恐ろしかった体術に無駄が少しずつ無くなっていくのを感じる。

 

 4日目には様々な高さ、速さで投げた石を打ち砕くようにし始めた。

 その夜に、寝ている間に握っている石を握り砕いていたと聞いた。

 

 7日目には何個もの石を同時に投げて砕いて見せるようになった。

 ウトがそれまでにした事といえば、とにかく石を集めて、後は少しだけ体の使い方を矯正した程度。

 メイは休まなかった。朝も昼も夜も、残りのお金とエロクーの金も、エロクーの稼いだ金も30日で使い果たしてしまう勢いでご飯を食べて、その分だけを全て鍛錬に注いでいた。

 執念は、未だ衰える事を知らなかった。

 

 8日目からは組み手をする事にした。ありったけの防具を道場から持ってきてそれをウトが着込み、更にメイの両手両足に柔らかい、体術の威力を削ぐ為のグローブなどを嵌めて。

 それでも当たったら洒落にならないが、ウトにとってもかなり良い鍛錬になる事は確かだった。

 腕が2回折れて、肋骨を3回折った。1回顎が砕けた。その度にメイが治した。

 ただ、それに対してウトは何十回もメイの肉体に……時に首筋や太い血管の通る場所も触れる事も出来ていた。

 メイが覚醒を使えるようになったらそれも無くなるのだろうと思いつつも、全ての点でメイより劣っている訳ではない、メイに通る牙が自分にもあるというのは、ウトにも自信を付けさせた。

 

 

 

 10日後。

 言われた通りに、スィニチは岩礁を訪れた。

 あのミノタウロスが鍛錬していると、噂に聞くようになっていたが……。

 

「何だこれ」

 

 思わず出た言葉。

 別にスィニチはこの港町の生まれではない。ここらの風景も慣れ親しんでいる訳ではない。ただ、その岩礁が純粋な暴力で至る所が破壊されているのは、目に見えて明らかだった。

 歩いて、そこらの石を拾い上げてみれば、どれもこれもが最近砕かれたように角ばっている。波に削られて丸みを帯びた石など小さいものしかなかった。

 

「どれだけの……? いや、いやいやいやいや…………」

 

 何個の石を砕いた? 千とかいう数では到底足りない。もしかしたら万も普通に行っているかもしれない。

 時に岩礁そのものを砕いて、砕けたその一つ一つも更に細かくしたような。

 

「俺に、ここまでの? 俺に……ここまでの?」

 

 嫌われているどころか、まるで殺そうとしているとしか思えないような意志の痕跡。

 要するに、ウトが言おうとしていた事は。

 

『スィニチさん……貴方が思うよりメイさんはよっぽど狂っているんですよ』

 

 どうやら俺は、竜の尾を踏むに値する事をしたらしい。

 そして、それが真に竜となるのに十分な時間を与えてしまった。

 

「竜というより、災厄そのものか……?」

 

 ただ、そんな言葉を吐いてしまった時点で。

 同じ時に生まれようとも、釣り合わない存在だったのだろうと自覚させられたようだった。




次から戦闘かな。
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