ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい   作:ムラムリ

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メイちゃんは年端もいかない女の子

 先頭をすたすたと歩くメイと、それからヴァンパイアの女性。日中だからか、フード付きのマントを深く被っている。

 

「ジュアンは夜にコウモリにでもなって飛んでいけば、私よりすぐ着くんじゃ?」

「真面目に働いてばっかりだったメイちゃんがいきなりやった事もない護衛だなんて、ユーニも無茶振りしてさぁ。

 しかも直前に弱い者虐めした人達にぃ? そんあ提案しておいてユーニは面倒臭いから着いて行かないってぇ? あのバカ弟はいつだって変な事ばっかりけしかけてさぁ。

 流石に不安なんだよぉ」

 

 ジュアンと呼ばれた女ヴァンパイアに、メイは若干不服そうにしながらも特に返す言葉はない。

 契約の首輪なんてものも用意して貰って、気付けば有無を言わさずやってみれば良いと唆されていた。

 

「それに、メイちゃんは街なんて行った事もないでしょお? いきなり雇われて鍛えられて、血生臭い時間ばっかり送ってきて。

 もうあそこで働いてきて2年は経ってるんだっけ?」

「えーっと、秋に来て、冬はもう3回目だったかなぁ」

「これから夏だから、2年半くらいかぁ。

 その間ずっとばっさばっさと切って斬って跳ねて刎ねてしかしてないんでしょ?

 そんなメイちゃんが街なんて行ったら…………。

 と、とにかく、お姉さんがきちんと案内してあげるからさっ」

「……何想像したの」

 

 むっすりとした顔で聞くも、ジュアンははぐらかすばっかりだった。

 

*

 

 少しの休憩を時々挟みながらも、後はひたすらに歩く。

 持久力という点で言えば、人間は数多の種族の中でも上位に入るらしいが、メイもそれに劣らない。

 それに加えて、道中は驚くほど何も起きる事はなかった。

 挑戦者のパーティがダンジョンに行くまでの道中に魔獣やらに見つけられると、常に襲うか否かの品定めをされていたのだが、メイが先頭を歩くようになってからはそんな雰囲気は全くなかった。

 ダンジョンの近くには、メイの体躯を軽く越えるような魔獣も生息しているというのに。

 

 そうして、日が暮れてくる前に野宿をする事になった。

 

「夜の見張りは私がやるから、ゆっくり寝ていても良いわよぉ。

 ま、メイちゃんを襲うようなバカはここらには居ないと思うけどね」

 

 そう言って、ジュアンはふらりとどこかへと消えてしまった。

 多分、食事となる血を適当に吸いに行ったのだろう。

 

「……」

「…………」

 

 気まずい時間。

 火を起こして軽く食事をするパーティの一行と、そこから少し離れて水と食べ物を静かに食べるメイ。

 

 ……まあ、慣れてるけど。

 でも、早く帰ってきて欲しいな。

 

 そう思っていると、パーティの方がぼそぼそと何かを話し始め。

 そして、大楯持ちが意を決したようにメイの方を向いた。

 

「な、なあ、一つ聞いて良いか?」

「……私に?」

「あ、ああ。あんた、どれだけ鍛えてそれだけの強さに至ったんだ? 相当に努力したんじゃないか」

「ええっと、半年くらいかなあ」

「はん……とし……? いや…………?」

「んー、私みたいなの、里で何十年に一人生まれるかどうかみたい。

 僧侶の素質を持っているのも、先祖返りなんだって」

「僧侶、まで?」

「うん。ほら、そこの盗賊の矢が私の腕を貫いたじゃん。あれ、私自身で治したんだから」

 

 そう言って何ともない腕を見せたら、更に唖然とされた。

 

「……でも、別に私もまだ大した事ないよ。本当に強い人は、私の足が震えちゃうくらい強くて、何も出来ない」

「聞かせて、くれないか?」

「ヤだ」

 

 そっぽを向いて吐き捨てれば、それ以上は何も言って来なかった。

 

 

 

 ジュアンが戻ってくる前に、メイは斧槍を抱えたまま木に凭れて目を閉じてしまった。

 パーティは恐る恐る、そんなメイを眺める。

 無骨な斧槍。少なくともミノタウロスたるメイの膂力に耐えうる素材で出来ている、それ。大楯を真っ二つにし、地面をも深く切り裂きながら、びくともしない斧槍。

 柄や刀身の大半は輝く事もない漆黒であり、夜の闇に良く馴染む事だろう。

 

「……」

 

 誰かが、自然と息を呑んでいた。

 今のパーティの全員は、武器らしい武器を持っていない。けれど、持っていたとしても、それを向けようとしたら……不審な行動をしたら、即座に目を覚まして睨んでくるような、そんな確信がある。

 もし万全で、武器を持っていたとしても。リーダーたる戦士が生きていたとしても。この距離で、互いに座っている状態から戦うとなったら、二度目だろうとも何もさせて貰えずに全員切り殺されるだろう。

 縦振りを構えるメイの事を思い出した。大柄な自分より更に高い位置から、ただ冷たい目で斧槍を振り下ろしてくるその姿。

 そして、切り飛ばされた腕からとめどなく血が流れていくのを抑えるしか出来ず、最後に自分の前に立って、片腕で、無表情のまま胸を貫いてきたその姿。

 思い出してしまうと、ぶるるっ、と全身が音を立てる勢いで体が芯から震えてしまった。

 

「わ、わるい……」

 

 確実な蘇生が効かない場所で、挑戦者をどれだけ殺してきたのかが、それだけで伺える。三桁はまず殺しているだろう。

 その癖して、道中ジュアンと喋っているのを聞いていれば、メイという長閑な場所で両親に愛されて生まれ育ったような名前の通りの、年端もいかない女の子としての相応そうな様子もあった。

 こちらに表情としては出さないが、街に行くのを楽しみにしている、浮ついた声もあった。

 そして、ふと気付いた。

 

「…………」

 

 何で、こんな……。

 命の危険まで覚える程に思い出してしまったからか?

 それと同時に、メイの胸や肢体まではっきり目に刻まれていたからか?

 大楯持ちは、周りに気付かれないように何度も静かに深呼吸して、収まったのを確認してから、立ち上がった。

 

「俺ももう寝る」

 

 そう言って、火元とパーティから少し離れて横になったものの。

 その日に眠ったのは、一番最後だっただろうと、大楯持ちは確信する羽目になった。

 

*

 

「ただいま。ご飯足りてるぅ? 果物とか木の実とか色々ついでに取ってきたけど」

「ありがとー。明日歩きながら食べるね」

 

 もうパーティは全員横になっている。

 小声でお礼を言うメイに、何かを察したのかジュアンは。

 

「何かあった?」

「……ううん。でもやっぱり、私って変なんだってちょっと思っちゃって」

「……うーん。そうねぇ。

 メイちゃんはそれで色々と悩むかもしれないけど、でもね、メイちゃんはこれから、同じミノタウロスの中でもとにかく色々出来るからね。

 あんなダンジョンでかけがえのない命を賭けてまで、律儀に働き続けなくたっても良いんだから」

「でも、お給料はとっても良いんだよね」

「そ、そうねえ……」

 

 取り敢えず、そこまで強い悩みではないみたいだった。




つよくてデカい雌クリーチャーがね、冷たい目をしながら殺そうとしてきたらね、男の子は命の危険と興奮を履き違えて元気になっちゃうと思うんですよ。
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