ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい 作:ムラムリ
目が覚めると、もうさざ波の音が当たり前のように気にもならなくなっていた事に気付く。
何かに駆られる事もなく、ただゆっくりと体を起こして背伸びをする。
「んー……」
もう、すっかりと夏の日差し。部屋の中はじっとりと暑くなっていて窓を開ける。
涼しく、べたつく潮風が体を撫でる。
「今日も頑張ろう」
布を纏って、寺院の空き部屋……エロクーもウトも居ない部屋から外に出た。
*
あれから。
欠損まではまだ治せないメイは、賭け試合に備えていた僧侶によって角と腕を直されて、拳を何度か握る。
長さも太さも感触も、何も違和感がなく、それだけで凄腕だと分かった。
そして、スィニチの方を向く。
「何でもすると言ってしまったが……」
「別に、もう私の気も収まったし。そんな甚振る趣味も私はないから、どうでも良いかな。
……あ、でも、一つだけ。また西のダンジョンに行ってみて欲しいな」
スィニチは凄く怪訝そうな顔をしながら聞いた。
「何でだ?」
「サブマスターにとっても、スィニチと殴り合った事は良い思い出だったみたいだから。
それに、今サブマスターは16階で分身を使ってフロアボスをやってるはずだから、そこまで行って分身を倒せば、そこで脱出しても、サブマスターは喋りにきてくれるんじゃないかな。
あの人、お喋り好きだし」
「……分かった。そうだな、何でもすると言った手前、それに従うとするか」
そしてメイは、先程の僧侶に腕を突かれる。
「あんさん、噂には聞いていたけれど、やはり僧侶の力も持っているわね?」
ヒューマンの老婆。僧侶としての能力は見ての通りだが、こんな場所で賭け試合を楽しんでいるところから真面目に敬虔、という訳でもなさそうだ。
結局、僧侶の素質というのはそもそも人柄には余り関係ないのかもしれない。
「うん。欠損を治すのも、蘇生もまだ出来ないけど」
「蘇生が出来ても属性付与が出来ない人も居るさぁ! 私のようにね!
これと言っちゃあなんだが、属性付与を教えてくれる代わりに、欠損を治すまでは出来るようにしてやろうか?
蘇生までとなると流石に時間も掛かってしまうだろうが、欠損を治すくらいなら、あんさんならきっとすぐに出来るようになる!
なんなら仕事として給金も出すし、それに欠損まで治せるなら、東に行く船代もぐんと安くなる!」
メイも教わろうかと思っていたところだったので、正に渡りに船だった。
「ええと、私も出来るようになりたいと思ってたので、お願いします」
「よし、決まりだ! 明日、寺院に来な! 部屋も用意してやるから!」
*
ウトはメイを鍛え上げてスィニチをも上回ったというところで、メイの出航の準備が整うまで道場でスィニチの代わりに師範代を務める事となった。
あの試合を見た人達の中で新しく道場に入る人もぼちぼち居たらしく、給金も悪くないようだった。
エロクーは賭け試合で一儲けしたようで、渡航の為の金も十分に稼いだようだったけれど、その後も賭け続けて今度はすっからかんになり、急いでまた働き始めている。
魔術の素質があって、氷系統の魔法も上手く使えるようになっているところから、まあそこまで長く働かずとも稼ぎ切れるようだった。
そしてメイは、僧侶の素質も鍛えている最中に、ある日いきなり一つのパーティが寺院までやってきて挑戦状を叩きつけられた。
街のダンジョンの15階で鏖殺され、メイに復讐を誓っていたパーティだった。
西のダンジョンに再挑戦したものの、16階にメイが居ない事に気付き、そして話を聞き、こっちまですっ飛んできたらしい。
港町の僧侶である老婆は、賭け試合をしろと熱心に誘ってきて、メイはそれに従う。
メイも殺された事があり、パーティ全体も殺された事がある。
逆襲の逆襲だとか、終わらない復讐の連鎖だとか、真の決着をつける時だとか、大々的な宣伝が為された上で、生死不問で賭け試合が組まれた。
久々に斧槍を持ったメイは、今回も最初から覚醒してパーティに襲いかかった。
覚醒は、上部だけ見れば以前メイが使った薬の作用とそこまで変わらないが、その為に二重三重にも練ってきた対策は、何も意味も為さなかった。
薬と似たようであっても、体を限界以上に動かしている訳でもなかったし、思考も衰えるどころか、研ぎ澄まされる。だから、僧侶の魔法も問題なく使える。
その上で、更に一段と上達した体捌きを基として斧槍が容赦無く振るわれる。
前回のように化け物そのものになったようなメイに怖気付く事もなかったものの、だからと言って出来る事もなかった。
僧侶がより分厚く掛けた加護も、覚醒で更なる破壊力を得たメイの前では紙の装甲と変わらず、誰もがその俊敏さに追いつけない。
勿論、鈍重な大楯持ちが多少加速したところで、盾役になる事すら適わず。
戦士も魔術師も盗賊も、どれもが攻撃を放とうと、すり抜けたと錯覚する程の精度で避けられる。
その上でメイはパーティ全員の四肢の幾つかをすぱんすぱんと切り飛ばして、全員を生かしたまま終えるどころか、欠損に対する治癒の練習台にすらしていた。
観戦していたエロクーがメイに全額を賭けたのもあって、ゲラゲラ笑っていた。
*
そして、夏の終わり頃。出発前夜。
寺院の一室と、ウトの実家にてそれぞれ。
「そういえば、あんさんの旅の目的はお婿さん探しって言ってたけど、ウトはどうなんだい? 悪くない男で、歳もそんな離れてないだろう?」
「そういやウト、メイさんの事はどう思ってるんだ? まあ……女性というには恐ろし過ぎるが、それでももう何十日も一緒に旅したりしてきているんだろう?」
「んー……嫌いか好きかで言ったら好きだけど」
「まあ……俺も魅力的だとは思うよ。見た目も、内実も……恐ろしいけど、別にそれだけじゃないし」
「でも、やっぱりお婿さんとしては見れないかな」
「ただ、俺がメイさんと番う事はないだろうな」
「だって」
「だってさ」
「抱いたら壊れちゃいそうだから。私が上になっただけでもウトはきっと潰れちゃう」
「盛ったメイさんがちょっとでも力を入れた瞬間に俺、ぽっきり逝っちゃうなあって。その想像が余りにも強くて、俺、メイさんで一度も抜いてないよ」
メイは溜息を吐いて夜空を見上げる。
ウトはごろりと床に寝転がる。
「私、結局、ミノタウロスか、似たような草食の獣人しかお婿さんに出来ない気がする。
ドラゴニュートすら抱き潰しちゃいそうだから」
「メイさんに似合う人が本当に東のダンジョンに居るのか、正直不安だよ、俺」
同時刻、海辺にてエロクーは振られていた。
まあ、エロクーは強い方だけどクズなので。そういうところを見抜かれたのでしょう。
2章おしまい。
感想とか評価とかあると嬉しいです。
3章は、多分続けます。最新話まで追ってくれてる人あんまり居なくなっちゃったけど、大体毎日投稿するくらい気に入ってるし。