ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい 作:ムラムリ
メイは昔話をする
「では、欠損を治せる事をこちらで証明して頂きたく」
そう言って乗船前のメイの前に出されたのは、身が少し欠けさせられた魚。
ぴちぴちと台に乗せられて身を震わせている。
「いつも通りやれば良いからね」
「うん」
僧侶の老婆の声かけの元にメイが魚を抑えながら片手をかざすと、程なくしてその身が欠けた部分が治っていった。その魚も少しばかり元気を取り戻したよう。
……どっちにせよ今から三枚おろしにされるのだろうけど。
「確認しました。それでは、欠損を治せる僧侶として半額となります。ですが……諸事情によりまして、メイ様の支払う金額は定額となります」
「……諸事情?」
その受付の人はメイときちんと目を合わせつつも、とても申し訳なさそうにしながら。
「ええと、その……エロクー様が払う金額が高い事と同じ理由です」
「あ……うん。それなら納得」
要するに、重いからという事だろう。別に私は気にしないんだけど。
「まあ、私も助かったし楽しかったし、半額くらい出してもいいかね」
「えっ。お金も貰ってたのに」
「良いの良いの、後先短い身で金なんて残しても意味ないんだから」
「んー……お言葉に甘えます」
何を言っても引かなさそうだった。
そうして、ウトと何故か気落ちしているエロクーと共に船に乗る。
「行ってらっしゃいー!」
ウトの両親と思われる人も居る中でメイも手を振って返し。
程なくして船は大きく帆を張って出航した。
「……戻ってきた時もまだ元気だったら良いな」
「あの婆さん……俺が小さい頃から変わってないんだよな」
「もしかして、
「かもしれない」
*
荷物を個室に置いて、整理してから甲板に出る。
メイは泳げないというか沈むので、もう予め浮袋を身につけていた。
不恰好でメイとしてはあんまり好きになれないけれど、それは置いておいて。
相変わらず全く元気のないエロクーに声を掛けた。
「エロクー、何かあった?」
「放っておいてくれると嬉しい……」
「ああ、そう?」
ウトはメイを軽く引っ張ってこっそりと話す。
「振られたんだってさ」
「えっ。同じグリフォン?」
「みたい。強いし賢いし魔法も結構使えるしで、魅力的に見られていたっぽいんだけど、賭けで破滅していたりゲラゲラ笑ったりしているのを見られていたらしくて」
「あぁ……それは、うん、仕方ないね」
多分その性格治らないだろうし、言ったら悪いけど正解かなあ。
でも、好きな相手が出来ていたっていうのは、それだけでちょっと羨ましいかも。
「それにしても地面が揺れるの、何か慣れないな。ちょっと気持ち悪くなりそう」
「ああ、キツい人はキツいみたいだけど、メイさんはどうだか……。キツくなったら言ってくれ。一応色々対処法はなくもない」
「うん。助かる」
それから船の内外を探検目的でもぶらぶらと歩いていると、リザードマンの集団が前からやってきた。
リザードマンはその括りの中でもかなり種類が分かれるのだが、海での活動に素で耐えうるような頑丈な鱗と、どんな魚も噛み砕けるような大きな顎を持つ種類が主だった。
尻尾もリザードマンの中でも太くいかつい形をしており、メイやウトのように攻撃手段としてはまず使えないそれとは全く異なる。
携えている武器も水中での戦闘に適したような、流れるような形をしている。
目が合うが、取り敢えずは軽く会釈をするだけですれ違う。
「あれらがクラーケンに対する護衛だな」
「漁師をしているリザードマンとかより、かなり強いね。クラーケンに巻きつかれても逆に足を食い千切りそう」
「それでも命懸けだろうに、あんまり緊張感もなかったよな」
「私もそれ、ちょっと気になった。
もう何度も護衛しているから慣れてるのかな。一人一人は私でも勝てそうくらいなんだけど。もちろん、陸上の話だけど」
「まあ、見れるならお手なみ拝見しようか。今日中にはもしかしたら遭うかもしれないし」
「うん」
*
それにしても、見渡す限り海って、私にとっては正直ちょっと怖いな。
泳げないし。浮き袋は不恰好だけど、うん、ないとちょっと甲板にいるのも避けたくなっちゃうかも。
サブマスターはこういう海もひょいひょい飛んで行っちゃうだろうけどね。
……うん、私がフロアボスをしていた2年とちょっとの間に1回だけサブマスターは死んでる。
……そうだね、私がスィニチに勝てたの、ウトのおかげだし。その私が戦った中で一番強い人の事、話そうか。
その人は、ただのヒューマンの男。別に体格も普通。
武器も普通のヒューマンが使える大きさの、普通の両手剣を一本だけで、防具も別に普通のものばっかりで、本当に見た目は普通。
歳も、多分私と同じくらい。でも
それを私の体のどこかが察したのか、私のフロアに来た瞬間に、私の手も足も震え始めちゃって。そんな事初めてで……でも、私に逃げるなんて選択肢はなくて。私のフロアの先に行くには、私を殺さないと行けない仕組みになってたし。
奇襲しようとも思ったんだけど、どれだけ息を潜めて、耳を澄ませてもどこに居るのか全く分からなくて。だからせめて奇襲されるのだけは避けようと思って、閉ざされている次のフロアに進む、閉ざされた階段の前に立って待ち構えて。
そのヒューマンがゆっくり暗がりからやってきた。
……足が震えて止まらなかったの、本当に。
ほら、思い出すだけで腕もちょっと震えてる。あのヒューマンだけには、覚醒を使えるようになった今でも、本当に勝てる気がしないの。
そのヒューマンは両手剣をゆっくりと構えた。それも別に変わったところのない普通の構えで、それでいて全く勝てるイメージが湧かないまま。
私は、自分を奮い立たせる為に吼えた。そんなの初めての事だったし、他に死んだ事は何度かあってもそんな事したのはそれが今のところ最初で最後。
そうやって奮い立たせないと、本当に私も灰になって蘇生失敗、いわゆる昇天しちゃいそうだったし。
……うん。心の持ちようがとにかく大事ってまず叩き込まれた。
私は僧侶の素質もあるから、素で蘇生成功しやすいっていうところもあるけれど、それ以上に前向きなのが重要。
私が街に来る前の、最後に殺したパーティの1人は昇天しちゃったんだけど、あれはこれまで順調だったのに私1人に壊滅させられた事を受け入れられなくなっちゃったのが悪いね。
そもそも別に普通の人だって頻繁に死んでたりとか、遺体がぐちゃぐちゃになってない限り、まず蘇生成功するんだから、あんな世界の終わりみたいな顔しないで、また次頑張ろう! くらいに思っておけば良かったのに。
私も無駄にぐちゃぐちゃにする殺し方なんてしてなかったのになあ。
……ごめん、話逸れちゃった。
うん、ええと、それで、私は吼えてそのヒューマンに手斧を何個も投げつけた。
近付けさせたくなかったのもあったから。
でも、どれも遅過ぎるとでも言うように早くもない足捌きでさらっと避けたり、時に弾かれながら淡々と距離を詰められて。
弾かれるのもおかしかったんだけど。普通のヒューマンだったら、私が思いっきり投げた手斧を武器で受け止めたら、両手剣だろうとまず壊れるはずなんだけど、どうしてかそのヒューマンの持つ両手剣は全く無事で。
そして斧槍の間合いまで近付かれて、私は斧槍を振って。けれどそれは両手剣で滑らせるようにいなされて。
そのまま首をすぱんとされておしまい。
……うん。目が覚めた時に、蘇生成功したのに安堵したのは、あの時だけだったなあ。
……あのヒューマンが今どこで何しているのかは知らないけれど。ウトが知らないって事は、少なくとも街のダンジョンには挑んでないって事だろうし。
まあ……それまで私は私自身の強さに少し自惚れていて、選ばれた、愛されたミノタウロスなんだって思っていたところもあったけれど。
あのヒューマンこそ本物の覇道を突き進むような、愛された人っていうものなんだろうなあって思うの。
もしかしたら、それもあって私は普通に恋焦がれる気持ちも強くなったのかもしれない。それ以外に私が殺された相手だったりパーティは、覚醒を使えば相手にもならないくらいで、実際そうだったし、そういうのだけだったら私の自惚れは続いていて、お婿さん探しなんて目的で旅をするなんてしていなかったと思う。
……え? えっと……うん、そのヒューマンは21階も踏破したよ。
でも21階の事はあんまり他人に話しちゃいけないから、今回はここまで。
もしウトも将来的に西のダンジョンに勤めたりする事になったら教えられるけどね。
3章始まりました。
なんか1話から3500文字くらいまで膨れたけど。
後、カクヨムとなろうには予約投稿したけど、AO3の方はそもそもオリジナルを受け入れる文化がハーメルンよりかなり低そうだったので一旦保留。
別の英語の小説投稿サイトじゃないとダメかぁ。
メイちゃんの見たいところ
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容姿の克明な描写
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戦っているところ(圧倒、虐殺)
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戦っているところ(苦戦、敗北)
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食べているところ
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のんびりしているところ
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ブチギレているところ
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年頃なところ