ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい 作:ムラムリ
山を越え、谷を越え。
ひたすらに、ひたすらに歩き続け。
2日目も3日目も本当に何事も起こる事はなく、その3日目の終わりには、パーティが行きに泊めさせて貰った最後の宿にも着いてしまった。
5日間の旅路とは言わず、明日にはもう街に着くだろう。
「…………おかえりなさい」
宿の主人はパーティの戦士が居なくなっている事も、そして2人の妙な同伴者が増えている事も、その全員に怪しげな首輪を嵌められている事も、特に何も言う事なくそれぞれを部屋に通した。
そのダンジョンに挑む為の最寄りの宿としては、そう珍しい事ではないのだろう。
金はジュアンが纏めて払った。
「私の方がお給料高いと思うけど、良いの?」
「高くても、半分くらい里に送ってるんでしょ? それに、全員の首輪代もメイちゃんが払ったんでしょ?
だから、せめてこういうところできちんとオトナらしさは見せておかないとねぇ」
里に送っているのは、親への感謝もあるにはあるが、それ以上に当てつけみたいなものなのだ。
同世代の男と同じくらいに力が強い癖して、男よりも駆けたり跳ねたりも出来て、更に僧侶の使う治癒や魂に直接触れるような魔法まで使える。
女の癖にと疎まれてきたところもあった。そんな自分が、里全体が稼いでいる金に匹敵する程の金を稼いでいる事を、見せつけたい気持ちも強かった。
そこまでジュアンが理解している上で、そう言ってくれているのかどうかは、メイには分からなかったけれど。
素直に礼を言っておく事にした。
「……ありがとう、ございます」
「いーのいーの。それよりメイちゃん疲れているでしょ。野宿なんてこれまでした事ないでしょ。
明日には街に着くんだからさ、下手に体調崩しちゃったら勿体ないから」
「……疲れてるのかなぁ? 鍛えられていた時の方がよっぽど大変だったけど」
「初めての経験っていうのは何にせよ疲れるものよ。しかも3日間も立て続けで。
良い部屋取ったし、湯浴みも出来るし、美味しいご飯も準備して貰うし、ゆったりしましょぉ?」
「うーん、うん、ええと、お言葉に、甘えさせてもらいます」
「いーのいーの!」
*
ご飯は草食寄りの雑食であるミノタウロスにも、生き血でないと十分な栄養の摂れないヴァンパイアにもきちんと美味しく食べられるものが出された。
湯浴みもまた、ミノタウロスの毛皮を梳くのに適したブラシや、ヴァンパイアが好みそうなきめ細かいタオルまで。
相応の金を払ったにせよ、かなり手が込んでいるというか、人間やらに比べればかなり数の少ない種族である自分達に適したものばかりが提供されてくる。
「もしかしてここ、マスターの手が入ってたりするのかな」
「かなりあり得るねぇ」
ここからダンジョンまで徒歩で3日以上掛かるとしても、最寄りの宿である事は確かだから。
そうして裸になって汚れを落として、それぞれ体をしっかり拭って。
「やっぱりメイちゃんの体はすごいねぇ。柔らかいのに、しっかりがっつりしてるぅ」
「鍛えたって言っても、半分以上生まれつきだから。
そういう意味じゃ、あの大楯持ちの人間の方が鍛えてるよ」
……褒めているようで、物凄く残酷な事を言っているのに気付いているのかなぁ?
「ジュアンの体は、なんか、食べちゃいたいくらい」
「ええっと、褒め言葉、だよねぇ?」
「うん、とっても綺麗って事ー」
湯浴みも終えると、メイは大きく欠伸をした。
「う、ん……うーん……やっぱり、ジュアンの言う通り、少し疲れたみたい。なんか、いつもより眠い」
「でしょぉ?」
そのままベッドへと倒れる。
どずん! みし、めりりっ……。
「それに、ベッド、柔らかい……。藁みたいに沈むのに、全くチクチクしない……」
「明日からお楽しみなんだから、ゆっくりおやすみなさいね」
「ちょっと、喋りたかったけど、うん……」
程なくして、寝息が聞こえてきた。
穏やかな寝顔。この姿だけなら、かなり鍛えられているとは言え、ただのミノタウロスの女の子にしか見えない。
才能があるとは言え、その通りに色々やれてきたとは言え、長寿のヴァンパイアからすれば一割の時間にも満たない時間しか生きてきていない、このミノタウロス。
「これから、どうなるのかねぇ……」
マスターもあの場所で一生働かせるつもりではないだろう。
これから適切に試練を与え続ければ、覇道を歩めるまでの才能があるとしても、それはメイにとって別に欲しいものではないのは、ジュアンから見ても分かり切っている。
ダンジョンが各所に作られた意図……この世界にいつか再び災厄が訪れるとしても、それはメイが生きている間に訪れるとも限らない。
ダンジョンに挑む人達も、そんな大それた真っ当な目的の為というより、単純に名誉や強さを求めている人ばかりだ。
そう思いながら、角を撫でようとすると。
「……首を……すっぱり……」
「……」
街に行く前日にメイと話した時の事を思い出す。
『今日はね、久々に首を綺麗に飛ばせて、ちょっとだけ、やったー! って思っちゃったんだよね』
ダンジョンで働いているのが似合っているのは、残念ながら否定出来ないのも確かだった。
*
そうして、4日目の夕方には街の近くまで着いてしまった。
互いを契約で縛っていた首輪が、それぞれの目的が達成出来たと認識された事により、自然と効力を失っていく。
「それでは、ええと……その、お疲れ様でした」
仕事とは言え戦士を殺した相手には、礼までは言えないというように、ぎこちなく言葉を伝えると。
首輪を渡して、一行はぎこちなくもそくささと先に街へと去っていった。
そんなパーティの様子も上の空で、メイは。
「人も、建物も、多いね……」
到底数えきれない程に行き交う人の雑踏。もう一つ一つは聞き取れない程に響き渡る様々な人の声。それらの為に薄らと立ち上っている土煙。
里ではまず見る事のなかったような3階建て以上の建物も、地平線の先まで延々とあるようで、その中央にはまた一際高い塔……ダンジョンがあった。
メイは、それが自分が働いているダンジョンとは、比べ物にならない程易しいとだけ知っていた。
「うん。今日はさっさと宿に泊まりましょぉ? ……そう出来るかは、ちょっと私にも分からないけれど」
「うん……」
手斧ももう鞄の中。斧槍もしっかりと刃先が出ないように分厚い革のカバーで包む。
それでも、よそ者のミノタウロスはかなり目立ち、じろじろと見られながら歩いていく。
「大丈夫?」
「ちょっといけない想像してる……」
「……早く行こうねぇ」
どうしても縮こまりながら衛兵の詰所まで歩く。
「ん、なんだお前ら」
「あのー、私達、こういう者です」
そう言って、メイとジュアンはダンジョンに勤めている事を示す証を取り出した。
「えっ、あっ……!? もしや、それは……?!
な、なんの用事でしょうか!? も、もしかしてその、そちらのミノタウロスの方は……??」
いきなり慌てふためき始めた衛兵に、ジュアンは釘を刺すように言う。
「単なる観光だから。ミノタウロスも泊まれるような、大きなベッドのある宿を案内してくれれば、それだけで十分よぉ」
「は、はいっ! 直ちにっ!!」
そう言って、衛兵はすぐに各所に連絡をし始めた。
「……あのパーティも、なんか私の事を事前に知っていたみたいなんだけど、私、もしかして有名人?」
「……かもねぇ」
メイがダンジョンに勤め始めてから2年。その間に死んだ回数が7回。
逆に言えば、7回しかメイは挑戦者をその先には通していない。
メイの座する14階層まで到達した挑戦者達もそこまで多くないにせよ、かなり分厚い壁として立ちはだかっている事は確かだった。
「何も無いと良いけれど」
「…………」
ジュアンは、何も返せなかった。
3000文字いっちゃった。
メイちゃんのお給料は日本円換算で少なくとも年収2000万は行ってる気持ち。良いなぁ……いや、良いか? 7回死んでる訳だし。蘇生しやすい体質とは言え、100%ではないし。