ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい   作:ムラムリ

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メイは35階に辿り着く 1

 扉を開くと、荒涼とした大地を再現したフロアに、3人の山羊の獣人——ガラドンが居た。

 こちらに指定したのと同じく、武器や防具は装備しておらず、簡単な布で股間を隠しているくらい。

 

 ガラドンと言えばミノタウロスのように鈍重ではない、野山を駆け回る機動力に長けた種族なのだが、それはそれとして力もない訳ではない。

 そして、脇に立つ2人は平均的なガラドンのように精悍であったが、中央に立つ1人はメイに劣らず筋骨隆々な体つきをしていた。

 体格も基本的にはヒューマンと同じくらいなのだが、その中央のガラドンはヒューマンより一回り大きいウトと同じくらいの体躯をしている。

 そして、ミノタウロスのように側頭から真横に生える角とは異なり、頭上へと弧を描きながら伸びる太い角。ガラドン共通であるその兄の角は、数えきれない程頭突きで叩きつけてきたような痕跡があった。

 多分、その頭突きは、盾や鎧すら破壊するだろう。

 

 そのガラドン達は、女がほぼ裸になってくる事ももう慣れているのか、そんな顔色を変えたりはしなかった。

 ……と思っていたが。

 

「にいちゃん大丈夫?」

「……必死に抑えてる」

 

 にいちゃんと呼ばれた中央に立つそのガラドンは、必死に呼吸を整えていた。エロクーが股間を見れば僅かに動いていた。

 

 ……メイの言う条件だけ言えば、このガラドンはメイに合ってそうだな。

 

 少なくとも、メイに抱き締められても壊れないだけの肉体は持っていそうだった。

 それに。

 

「ええっと、まあ、私が戦うしかないよね。ウトはあんまり使い物にならなさそうだし、エロクーじゃ勝てそうにないし」

 

 魂の質(レベル)も相応に高そうだった。

 

「だろうな。ワタシも魔法でサポート出来ればそうしておこう」

「お願い」

 

 多分、両脇のガラドンはサポート。中央のガラドンがそれを受けて暴れ回る。

 

「……ま、邪念なんかあったら一瞬で殺される相手だな。いくぞ!」

 

 そう言うと同時に、両脇のガラドンが手を伸ばした。

 目の前に分厚い障壁が2枚展開される。そして中央のガラドンは両手を地面に付けて、突進してくるかと思えば呼吸を整え……。

 それは覚醒の為の所作だった。

 

 メイがすかさず飛び出し、1枚目の障壁を破壊し……2枚目の障壁は、覚醒したガラドンの頭突きで破壊された。

 メイがその角を掴めば、ガラドンが頭をかち上げて。

 

「嘘っ!?」

 

 メイの巨体が浮いた。

 しかし角を掴んだままのメイがガラドンの背後へと着地して、そのまま逆に投げる。

 

「おおっ!?」

 

 遠くへと飛んでいくガラドンと、それを追いかける、多分弟のガラドン2人。

 

「脇の2人はせめてどっちか倒してよ!?」

 

 メイも叫びながら追いかけて行った。

 エロクーが相変わらず目を細めたままのウトに対して。

 

「ウト! その位はやれないと後で殺されるぞ!」

「わ、分かってる!」

 

*

 

 ……流石に、厳しいなあ。

 

 覚醒した格闘家……と言うには、角を向けて突進してくるばかりで余りにも技術がないが、しかしそれはスィニチの体術よりも威力があった。

 最初こそ障壁を破壊して威力が削がれていたものの、更に弟達の加護まで受けてしまえば、角を掴んで受け止めるなんぞ出来そうにもない。

 

 でも、サブマスターの言う通りなら、確か30階がフロアボスをしていた時の私と同じくらいなんだっけ?

 

 避けながら弟達を先に仕留めようとするものの、それも兄が防いでくる。

 そしてメイが覚醒するには、まだ長い前準備が必要なまま。

 

 ……それって、斧槍を持った私がこの3兄弟と同じって事じゃないの? 私だけじゃ3人相手は無理じゃない?

 

 そこまで思った時、エロクーが空から、ウトが岩陰からそれぞれの弟に急襲を仕掛けた。

 そして、弟達も、自衛出来るくらいの力はあるのだろうが、そのくらいしかない。

 エロクーとウトが即座に仕留める事までは出来なくとも、兄から引き離す事は簡単で。

 そしてエロクーの方へと向かおうとした兄の前に、メイが立ちはだかる。

 

「行かせないよ?」

「……避けるしか出来てないのにか?」

「加護までなければ、どうにでもなる」

 

 言えば、兄は変わらず力を溜めて突進してきた。角を前に向けて、まともに喰らえば体が文字通りバラバラになりそうな速さ。

 でも、メイはそれを避けながら足払いを仕掛けた。

 

「うおっ!?」

「い゛っ……!!」

 

 兄が派手に転けて岩にまでごろごろと転がっていく。

 同時に足払いをしたメイの脛も折れていた。けれど、加護まで受けていたら千切れ飛んでいただろう。

 しかし欠損まで治せるようになったメイは、骨折くらいなら最早すぐに治せる。折れた足を掴んで正しい位置にまで持って行くという苦痛を受け入れる必要はあるが。

 

「ゔうゔ……豊穣よっ、その恵みを、信徒に゛っ!!」

 

 起き上がった兄に、駆けてくるメイ。突進する距離はもうない。

 メイはそのまま拳を突き出し、兄はそれに角を合わせた。

 

「い゛い゛っ!?」

 

 メイの拳が砕ける。

 そして、兄はメイの二の腕を掴み、メイの頭へと頭突きをかまそうとしたが。

 

 ……なんだ? 柔らかいぞ?

 

 身を捩らせて掴まれるのを回避しようとしていたメイの、その柔らかいものを掴んでいた事に気付いて。

 体が硬直した。

 

「……あのさあ」

 

 そこを掴まれた事よりも、それで体が固まった事に、殺意すら消え失せた事に心底呆れながら。

 メイは今更ながらはっとした兄の首を掴んでへし折った。

 

「やっぱり保険があると殺意も覚悟も鈍るんじゃないの?」

 

 死んで光の粒となって消えていく兄の顔は、どうにも唖然としたままだった。

 

*

 

*

 

 それから。

 

 何だかんだありながらも、34階も踏破した。

 マイマも宝箱の開錠には時折失敗しつつも、持ち前の多芸さから被弾する事だけは避けながら幾つかの役立ちそうなものを手に入れていた。

 中にはエロクーやウトが使えそうな、質の良い装備品まで。

 

 ただ、ウトも覚醒を何度も使い、メイとエロクーの魔力も半分を切り。

 疲労と消耗は隠せなくなってきていた。

 都市ではかなり改良された味になっていた携帯食料を食べつつ小休止。

 

「それにしてもこれ、美味しい……。また旅する事になったら買い込んでも良いかも。

 それで、次がオットーの居る階層だっけ? なら最初から覚醒しておこうかな」

「俺もそうしておこうと思う。……疲れも無視出来なくなっているけどな」

「ワタシに出来る事はあるだろうか?」

「オットーに適した環境っていうと、取り敢えず湿地とか、水のたっぷりある場所になりそうだから、容赦無く凍らせて。

 得意になったんでしょ?」

「そうだな。少し楽しみだ」

 

 エロクーは変わりたいとかそんな事も言っていたと思うが、下衆い笑みを隠せていない。

 

 何だかんだ。

 言い換えればそこまで危なげなく。

 3人とも平常心を保ったまま歩みを進められている。

 そんな様子を見て、マイマは聞いた。

 

「このままだと40階までいけそうですね?」

「私もそう思うけど。

 でも誰かが死ぬまで進むなんて馬鹿馬鹿しい事もしたくないし。これ以上は危ないって思ったら帰るつもり」

「出来なかった奴等がメイさんに殺されて行った訳だな」

「んー……いや、私はそうなのかな? 私は帰還スクロールとか使われる前に一気に全滅させてた方が多いから」

「あ、そうですか……」

「私の覚醒も、かなりお腹減っちゃうし。オットーとの戦闘が長引いちゃったらその時点で帰るかもね」

「まあ、僕は後ろから見させて貰います」

「スクロールは手に持っておいてね。もう私達、マイマを気にかけてる余裕もないから」

「はい、その通りにしておきます」

 

 

 

 そして、メイとウトが覚醒してから35階に足を踏み入れた瞬間。

 メイの全身の毛が逆立った。ウトもエロクーも等しく。

 目の前には、想像した通りの湿地が広がっていた。しかし、それ以上に濃い、血の匂いが全体を包んでいた。

 

「ねえ、マイマ。聞きたい事があるんだけど」

 

 静かながらも、有無を言わさないような声。

 余裕がないというより、最大限の警戒が見て取れる声。

 先程の、少しでも強敵と戦える事にワクワクしていたような、そんな遊びが全くない声。

 

「は、はい」

「魚とかって飼われてたりするのかな?」

「いや、飼っていたとしても少しくらいで、そこまで厳密に再現していないはずです」

「じゃあ、この血の匂いは?」

 

 マイマもヴァンパイアとのハーフであり、血には敏感な方だ。

 

「わ、わかりません」

「そう。それともう一つ。その帰還用スクロール、使わないで」

「えっ?」

「危ないかも、それ」

 

 メイは……一つの懸念を覚えていた。

 ダンジョンに入る時に感じた、あのぞわぞわとした感覚。

 それを、35階に入る時にまた、そして比べ物にならない程に強く感じていた。

 西のダンジョンに居る時も、街のダンジョンに挑む時も感じなかった。

 単純にダンジョンとして別物だから、もしくは、神経をそこまで尖らせていなかったからだと思っていた。

 そうでなかったら? この感覚が示すものが、この都市のダンジョンに異変が起きているからだとしたら?

 

「マイマ。34階に戻る事は出来る?」

「一人でも戻った瞬間、失格になってすぐに全員入口に戻されます」

「それなら、やめておいた方が良いかも」

「な、何を言っているんです?」

「自分の身を守る事に専念して。……来る」

 

 目の前の池から、波紋が浮かんだかと思えば、リザードマンの頭が一つ、水面から顔を出した。

 そしてそれは、頭だけだった。

 加えて言えば、下顎がなかった。

 槍に串刺しにされたまま、投擲されてきていたから。

 ……死んだ後も、光の粒になって回収される事なく。




ガラドン = 山羊獣人

がらがらどんからです。3人もがらがらどんがベース。
パンは神様だし、名称のない獣人全部にワー****って付けるのも嫌だなあって思ってたしで、まあ造語です。
因みにハーメルンにもがらがらどんの二次創作が数少ないけどあるんですって。

メイちゃんの見たいところ

  • 容姿の克明な描写
  • 戦っているところ(圧倒、虐殺)
  • 戦っているところ(苦戦、敗北)
  • 食べているところ
  • のんびりしているところ
  • ブチギレているところ
  • 年頃なところ
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