ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい   作:ムラムリ

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メイは35階に辿り着く 2

『さて、メイちゃんの鍛錬も今日は一区切りにして。

 ちょっと歴史の勉強をしようか』

『えー……』

『まあまあ。少しだけだから。ダンジョンに関して、ちょっとだけね。

 そもそも、ダンジョンって元々どういうものかっていうので。

 ……ダンジョンはね、元々天然に存在していたものなんだ。それを僕達が模して訓練施設として作り上げた』

『……天然?』

『何らかの要因で、力が集まった場所。言ってしまえば、火山だとか、地震が頻発する場所だとか、船が通ったらまず沈没するような荒い海域とか、そんな場所に近いんだとか』

『その……力って?』

『魔力や魂の力の一つではある、らしい。でも雑然としていて、災厄が収まった今でも説明が付けられないようなものは沢山ある。

 問題は、その力が生き物にどのような影響を与えるかという事なんだ。

 無秩序で、説明のつかない力。それがダンジョンに入った生き物の中に、問答無用に潜り込んでくる』

『すると……どうなるの?』

『上手くそれに適応出来たなら、より強い力を得られる。時に何年、何十年愚直に鍛えようとも手に入らないような力がね。

 でも適応出来ない時の方が圧倒的に多い。ダンジョンの中でしか生きられなくなるようになってしまうのは序の口で、自我を失ったり、果てには自分の生き物としての形すら保てなくなったり。

 ただ……災厄の時代の人達はそれでも力を求めて自らダンジョンの中に入っていく事も少なくなかったみたいだけどね』

『もし……今は心配しなくて良いと思うんだけど、もし、そんな本当のダンジョンに入ってしまう事があったら、どうすれば良いの?』

『まあ、毒されない内にさっさと出る事だね。もし、それが適わないなら……そうしている元凶を潰すしかないけれど、そう出来た事はかなり少ない。

 ま、僕も文献として知っているだけで、実際の天然物のダンジョンに入った事なんてないんだけどね!』

『でも、私もそんな機会はこれから、百に一つもないんでしょ?』

『まあ、ね。でも知っておくに越した事はないよ。

 世の中なんてものは、やっておいた方が良い事、知っておいた方が良い事なんて、一生がどれだけ長くてもやりきれない、覚えきれない程にあるけど。

 災厄に備える施設で働く身としては、こういう事はきちんとね、覚えておきましょうって事で。

 近い内にテストするからね』

『えー……』

『きちんと覚えていたら、メイちゃんの好きな果物とかまた持ってくるから』

『うー……まあ、頑張る』

 

 メイは投擲された、リザードマンの頭が付いたままの槍を斧槍で弾いて。

 サブマスターとの会話を思い出していた。

 

 ちゃぽ……。

 

 ソレは投擲しただけで、顔も見せずに再び水場の下に身を完全に潜めた。

 この都市のダンジョンは、そして街のダンジョンも、言ってしまえば最初から遊びがあった。これから入るパーティは前々から中の人達に周知されていて、パーティの側もダンジョンの中の事を知ろうと思えば知る事が出来る。

 きっと、オットー達もその前提で、地の利を活かしつつも、何をしてでも勝とうとまでは思っていなかったと思う。

 メイの勤めていた西のダンジョンはそんな遊びは全くなかった。どちらも何も知らされないまま、如何なる手段を用いても相手を仕留めようとする純粋な殺意で構成されていた。

 そんな殺意が……同士討ちすらした狂気と共に今、メイ達に向けられている。

 

「メイさん、エロクー、起きている事に心当たりはあったりするのか?」

「本物のダンジョンになった可能性がある、とだけ言えるかもしれない」

「本物?」

「分からないなら、この場所に長く留まっているだけでも危ないって思っておいて」

「あ、ああ」

「私達は少なくとも、この階は踏破しなきゃいけない。今はそれだけ考えて」

「……分かった」

 

 次の階層へと行くには、そのフロアの敵を全滅させなければいけない条件が設定されている場合もあれば、そうでない場合もある。

 遠くに見える次の階層への階段は、閉ざされていなかった。

 一応、聞いた。

 

「ねえ、マイマ。35階って全滅させなきゃダメ?」

「えっ、にっ、逃げる事も可能ですっ」

「んー……エロクー、水面の表面を凍らせる事は?」

「どのくらいだ?」

「薄くで良い。水から出ようとしたら絶対に音が出るくらいに」

「それなら魔力も十分に持つ」

「マイマ。エロクーの背中に乗って。前は私が。後ろはウトが。そうして36階に行く」

 

 それからメイは、弾いた槍を見た。リザードマンの一人の頭が付いたままの。

 どれだけ悪趣味でも作り物ならその方が良かったけれど、この頭はどこからどう見ても本物だった。一応触って確かめて、やはり本物だった。

 頭だけでも持っていけば蘇生出来る可能性はある。だとしても、可能性は少ないけれど、その頭をエロクーの背嚢に入れる事にした。

 槍も背負わせた。

 

「じゃあ、行くよ」

「……ああ」

「分かった」

 

*

 

 ぱき、ぱきき、とエロクーが水面を薄く凍らせながら慎重に湿地を歩いていく。

 きちんと地に足を付けて歩ける道を選んで階段まで辿り着くにはかなり迂回しなければいけず、しかし湿地の中を通る訳にもいかないし、全員を背中に乗せて飛べる程エロクーが身軽な訳でもない。

 暫く歩いて、まだ襲撃はない。タイミングを推し測っているのか、それとももう襲う場所は決めていて待ち構えているのか、それも分からない。

 それとまた……歩いていると、リザードマンの体の欠片がぼろぼろと落ちていた。

 死んだのは1人だけじゃない。現時点で少なく見積もっても多分3人は。

 この狂気……サブマスターが()と端的に称したそれにいつ私達も呑まれてしまうのか、それも分からない。

 

「……ねえ、ウト。大丈夫?」

 

 メイは聞いた。

 ウトは、死んだら蘇生される事もなく終わりの戦いをほぼして来ていないだろうから。メイも言ってしまえばそうだが、それでもウトとは雲泥の差だ。

 ウトは少しだけ間を置いて答えた。

 

「……大丈夫? か。正直言って、分からないけど。

 ただ、メイさんよりオットーは弱いんだろ?」

「まあ、一対一で陸地ならまず負けないと思う」

「それだけで安心出来る」

「ワタシは心配しないのか?」

「いや、マイマも含めて何となく大丈夫そうって印象があって」

「俺、マイマより心配なのかよ」

「……うん」

 

 言ってしまえば、この中で一番普通なの、ウトだから。

 その言葉はしまっておいた。

 

 ……迂回して、階段は少しずつ近付いて来ている。

 半分の道のりはもう越えた。

 けれど、階段に通じているただ一本の道は細く、長く、曲がりくねっている。

 全滅させずとも次の階に行けるとしても、そう簡単にさせる訳はない、という事だろう。

 

「エロクー、魔力は保つよね? リザードマンが襲って来ても使えるくらいにある?」

「……少し、不安だな」

「マイマ、背嚢から魔力の薬を探して、エロクーに飲ませて」

「は、はい」

 

 街のダンジョンに挑んだ時は湯水のように使ったそれ。後からかなり高価なものだと知ったものの、出し惜しみしている場合ではない。

 

「……不味いな」

「まあね」

 

 でも、その軽口には正直助かっていた。

メイちゃんの見たいところ

  • 容姿の克明な描写
  • 戦っているところ(圧倒、虐殺)
  • 戦っているところ(苦戦、敗北)
  • 食べているところ
  • のんびりしているところ
  • ブチギレているところ
  • 年頃なところ
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