ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい   作:ムラムリ

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メイさんは意外とそこまでなりたいものがない

 馬や牛や山羊だけではなく、魔獣も時折牧畜や農耕に携わっている。

 そんな光景をエロクーは飽きが来ないように眺めている。

 もしくは……ディッツェから目を逸らす為にか。

 そんなエロクーに、メイはふと思い出した事を聞いてみた。

 

「そういえばエロクーって、北の魔獣の血が濃いって聞くけど、親からはそういうのって感じなかったの?」

 

 いや……喋る事すら見た事がないからな。

 魔獣が人と同じように喋るのって意外とコツがあるんだよ。声帯の内側に軽く障壁を張ったりして、そういう音が出るように工夫している。

 それに魔獣は本当に言葉なんか使わなくても、この身一つで生きる事自体は別に困らないからな。

 喋る必要がなくなれば、喋らないままワタシも過ごすと思うよ。いや……ワタシにとってはそんな生活はもうつまらないくて耐えられないかもしれないが。

 とにかく、ワタシの父も母も喋るところは見た事がないし、記憶の中では別に何の変哲もないグリフォンだった、とは思う。今戻って声を掛けてみたなら分かる事もあるのかもしれないが。

 ……そうだな、少し何か、引っかかるところはあるか、思い出してみる。

 ……。…………。

 驚く程に何も無いな。逆に言うならば、ワタシは、父母の下で生まれたワタシ達兄弟は、小さい頃に何も命を脅かすような危険に晒される事がなかった。

 そうだな、ワタシは他の魔獣を率いていた時があったのもあって色々な個を見てきたが、その中でいつも飢えているような奴も少なからず居た。飢えていると言っても、空腹ではなく、仲間に飢えていた。

 そいつ等は大体どいつもこいつも傷だらけで、時折目や耳だったり爪や指だったりの幾つかが無かったりして、ついでに言うと性欲も強く、孤独を恐れていて、その癖して攻撃的だったりして、ついでに良くモテていた。

 その時のワタシは苦労してきたのだろうなとぼんやり思うだけだったが、奴等はきっと、小さくして親を亡くすかして、死に物狂いで生きてきたのだろうな。

 街でダンジョンに挑んでくる人には、似たような奴等が少なからず居たからな。

 野生では、ワタシのような魔獣の方が稀有なのか、それとも奴等の方が稀有なのかまでも知らない内にワタシはユーリに見つかって街へと連れられて行ったから言える事は少ないが……少なくとも父母は優秀だったのだろうとだけは思う。

 

「……そういやさ、異変の中で、メイさんは俺を一番心配してたじゃんか」

「まあ、うん」

「それって、やっぱり……俺が一番普通だから?」

「まあ……うん」

「要するに、普通な奴から本物のダンジョンでは蝕まれていく、と」

「いや、それも私の感覚の話でしかないんだけど」

「でも正直、納得感あるんだよ。……悲しい事にな。

 俺は本当に生まれも育ちも普通のワータイガーだからさ。

 だから聞きたい事があるんだけど、普通じゃないって、生まれ以外でもあるのか? 西のダンジョンにそういう人が居たら聞いてみたいんだ」

「街で私と一緒に居たヴァンパイアのジュアンも元々はただのヒューマンだったみたいだし、そういうヴァンパイアは西のダンジョンには結構居るよ。

 ウトは、ジュアンは普通だと思った?」

「……言ってしまうと、メイさんに比べれば普通かなあ」

「まあ、それもそうか」

 

 ……メイさんって、そういうの認めるんだ。ちょっと意外かも。

 でも……客観的に見てしまえば、やっぱり普通じゃないよね。大兄ちゃんが、ハプニングがあったとは言え覚醒もしてない、素手のメイさん1人に負けたって聞いた時は本当に驚いたし。

 

「それと、……一応、マスターは普通の人だったみたいなんだよね。それでいて、別にダンジョンに挑んでいた訳でもなくて、好奇心のままに色々やっていたら、気付いたらそうなっていたとか。

 それもそれで素質がありそうだと思うんだけど、聞く限りだと本当に私みたいな田舎の生まれみたいで。

 本当にダンジョンにも挑まずに、そこまで魂の質(レベル)って上がるのかなあって疑問ではあるんだけど。

 だから、まあ、もしそれに本当に嘘の1つも混じってなかったら、生まれが普通でも育ちは普通じゃなくなれる事はあると思うよ」

「問題は……俺がどうなりたいのか正直分かってないところなんだよな」

「別に私だって、そんな事何にも思えてないよ。

 一応、この旅の目的はお婿さん探しだけど、そこまで切実に叶えたい訳でもないし、旅している事自体が楽しい方が今となっては先に来ている気がするし」

「意外ですね?」

 

 ディッツェが口を挟んできた。

 

「別に……夢とか、なりたいものとかある方が珍しいでしょ。

 そういうディッツェは何かなりたいものあるの?」

「言ってしまえば、もうちょっと難しいダンジョンに務めてみたいかなーっては思うんです」

「ええっと、それって」

「やっぱり、私の首を食い千切るのに相応しい殿方が現れるのは、そういうダンジョンかなーって」

 

 そういう事公にしている時点で、少なくとも保険のないダンジョンに務める事なんて拒まれると思うけど……。

 

「なので、もしこれから先、北の方に行くなら、私のこの癖は黙っておいて貰えると助かります」

「私達が黙ってても、他の誰かから漏れると思うけどなあ……」

「それは困ります!」

 

 困りますって言われても……。

 

*

 

*

 

 日が暮れてくる頃に宿に泊まる事にした。

 田園風景が続いていると言っても、まだかなり賑わいがある。

 

「そういえば私はさ、知らない誰かと一緒の部屋で寝るよりは、厩舎でエロクーに凭れて藁の上で寝る方が好きなんだけど、ディッツェはどう?」

「えっ……あの、いや、すみません、それだと私は寝れなさそうです」

「藁はあんまり好きじゃない?」

「いや、そういう訳じゃなくて、興奮しちゃって」

「……個室、取ろっか。お金も今は余裕あるし」

 

 エロクーもほっとした顔をしていた。

 

「俺はエロクーと厩舎で寝るよ。女2人のところに俺も泊まるのは、メイさんとディッツェが許しても俺が嫌だ」

 

 ……そう言えば、ウトはダンジョンに挑んでから娼館に行くような素振りもなかったな。




当たり前ですがエロクーはもうディッツェが初日から苦手です。
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