ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい 作:ムラムリ
1日、荒れてしまった村の掃除などを手伝いつつ宿で休んでから旅を再開した。
暫く歩くと、川に行き着いた。
この嵐でもびくともしない程に頑丈に造られている、幅広い石の橋。そして、1日経った今でも荒れていて、土の色に濁っている川。
「……私が落ちたら助からなさそうだし、見つけられもしなさそうだなあ」
それだけ言うと、メイは橋の真ん中を歩いて、少しでも端には寄ろうとせず真っ直ぐと歩き続ける。
どれだけ個が鍛えたところで、自然現象には敵わない。
そういう意味では、人の手で解明されて時に対処され、再発を封じられてきた災厄は、自然現象の中ではまだ優しい方なのかもしれない。
*
嵐から、一気に涼しくなった。
夜になればもうかなり肌寒い。季節毎に生え変わる毛皮を持つ獣人や魔獣にとっては大した問題でもないが。
畑では作物の収穫をしているところも多く、旅なんぞしているならば収穫を手伝ってくれないかと言われる事もあり。
お金には困っていないものの、相変わらず急いでいる訳でもないので、手伝う事になった。
その、昼休み。
「こういう場所じゃあ、メイさんは輝くなあ」
魔獣に匹敵する膂力と、底なしと言っても良い程の体力。刃物の扱いにも慣れていて、誰かが怪我した時は治癒まで出来る。
1人で3人分の働きをしていると言っても過言ではない。
食べる量は3人分では到底収まらないが。
「それにメイさんかなり真面目だよね」
「むぐむぐ……そう?」
「だってエロクーなんてまだ戻ってきてない」
「ああ、それは、ねえ」
午前中はずうっと臼を回す為に太い棒を括り付けられてぐるぐると歩かされていたエロクー。
何も考えないでとにかく時間が過ぎ去るのを待っていたせいか、今は同じく昼休憩で座っていたが、まだ意識が現世へと戻ってきていないようにただぼうっとしている。
「まあ、食べるの好きだし、体動かすのも好きだし。んぁ、んぐんぐ」
「将来は農家になります?」
ディッツェが半ば冗談気味に聞けば。
「それも良いかもね。私が育てたご飯を、私が好きなだけ食べられるんだから」
「税は取られるぞ?」
「それは嫌だなあ」
先日の嵐の時のやつれた顔はどこにいったのやら、ご飯をひたすらにもぐもぐと食べる無心な顔は、もういつも通りの顔だった。このままダンジョンに挑んだとしても、最良の動きを見せるだろう。
「そろそろエロクーも起こさないといけないよな。午後も働かないといけないし、飯をその口に詰め込んでおかないと」
「私やりたい!」
「駄目に決まってんだろ。
おい、エロクー、起きないとディッツェがお前の口に頭突っ込むぞ」
「……あ、あぁ? ああ、良いところだったのに」
「良いところ?」
「あ、いや、暇だったからな」
何か妄想していたのだろう。そして、それはきっと恥ずかしいもの。
「まあ……エロクーも午後も大丈夫そうだな」
「ただ、この調子だとまだ数日掛かりそうだね」
「えー」
ディッツェはあんまり楽しくないらしく不満気に声を漏らす。
「でも、終われば収穫祭だからね」
ここらでは中々に大々的にやるらしく、都市や南の国境付近からもそれ目当てで人が少なくない数が来るとのことだった。
その為の準備も収穫と同時並行で進められていて、その熱が少しずつ盛り上がっているのを感じる。
収穫祭は、メイ達にとっても楽しみだった。
単純に収穫された作物の大きさを比べるような催しから、聞けば思わず聞き返してしまうような馬鹿らしい催しまで色々と開くらしいし、都市に全く劣らない種類の食事が、収穫されたばかりの作物を使って振る舞われる。
また力自慢をするような大会とかも開くようで、大体の種族毎にきちんと階級は分けられているものの、ドワーフやミノタウロスの部門はかなり白熱するとの事らしく。
ウトはそれにメイが参加して蹴散らすのを内心楽しみにしているが、人見知りなメイが参加するとも限らない。
加えて言うならば、スィニチみたいなひたすらに重く、そして力自慢でありそうなミノタウロスは、農村では良く見かける。流石に純粋なパワーではメイも負けてしまうだろう、とも。
だから、それは控えめに思っていた。
*
収穫を手伝っている内に、そうして1日1日を過ごしていく内に、観光客が都市から、そして南からやって来る。
メイ達のように徒歩で来る人は多くなく、大体は馬車やらに乗って。中にはドラゴンに乗って来る人も居たし、そのドラゴンすらも収穫祭に居続けた。
グリフォンの、更に3倍くらいありそうな体躯。それでも、ドラゴンとしては小さい部類に入る。
だとしてもそんなドラゴンが何体も来たんじゃ、収穫祭で用意されたようなご飯やらも一気に食い尽くされてしまうだろう、と聞いてみれば。
行儀の良い子供のドラゴンの内、抽選された数体だけが来れるとの事らしかった。
そして、そんな子供のドラゴンが更に数体来て、人の賑わいも更に増えていって、収穫も終わりに近付いた頃の事だった。
南の方から、国境を守る軍隊——個としての強さではなく群としての強さを第一に考える……だとしても一人一人はエロクーやウトに匹敵するような強さを持つ人達がやってきた。
どれもきちんと身なりを整えた大人で、メイの倍以上生きているような人も少なくない。
そして、大体同じ服装をしているその軍隊が来るや否や注目を集めている中、メイは自然とその一番後ろに歩いているヒューマンの男に目を吸い込まれた。
「あ……」
思わず、声が出ていた。
体格も普通。歳もきっと同じくらい。背に担いでいる両手剣も、大き過ぎず重過ぎずの、別に普通のもの。
けれど、
遠くで眺めているドラゴン達にも分かるのか、目線が集中している。
メイが西のダンジョンに勤めている間、唯一踏破したそのヒューマン。
そして、ヒューマンの方もメイの方を見て、目が合うと。
何か見た事があるな……というようにじろじろと見られてから。
「あ!」
と、叫んで完全に思い出したように指を指された。
……私の事、覚えてたんだ?
手も足も出ず殺された。今でも手が少し震えている。
それでも覚えられていた事は意外で、それでいて……少し嬉しく思っている事にメイは気付いた。
彼の名前は1月にしたいなって思ってたんですよね。まだ決めてないけど。