ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい 作:ムラムリ
ひゅるるるる……どん! どんどん!
という花火の音と共に収穫祭が始まった。
「えっと、この音、何?」
「あれ、メイさん花火も聞いた事なかったり?」
「あ、これが花火なんだ」
「夜の花火はとても綺麗だぞ」
収穫祭の中央から少し離れた高台。
花火の爆音に少し不快そうにしたメイが、ふぅんとそこまで期待しないような顔をする。
人の賑わいも気付けば都市と同じくらいにまでなっていて、楽しみにしていたメイも意気消沈しているところがあった。
とりわけ、ご飯を出しているところには人が集まっていて、腹を空かせていても余り行く気になっていなさそうな。
ただ、それよりもウトは気になる事があって聞いた。
「あのヒューマンとは結局会ったりしていない?」
「うん。軍の人達は昨日も収穫祭の準備に掛かりっきりだったし。今日も楽しむっていうより、警備とかしてるんじゃないかな」
「会って話したかったりするのか?」
「うーん……分かんない。会ったところで、話したい事も別にないというか、今戦ったところでまた首をすぱんとされるだけだって、見てみて分かったし」
「そう、か」
強さの秘訣とかは別に聞こうと思わないんだな。
聞いても参考にならなさそうと言われれば、全くもってその通りなんだが。
「じゃあ、メイさんはここらでのんびりしてる? 飯でも何か持ってくるか?」
「出来ればお願いしたいかな。折角都市から離れて人混みとは無縁になったのに、またこんな人混みを掻き分けて……流石にちょっと気力がない。
お金多めに渡すから」
そう言って財布からウトの両手にじゃらじゃらと置かれたお金は多めというには多過ぎて。
「えっ、えっ、ええ……」
「あの人混みを掻き分けてご飯色々買ってきて貰うならこのくらいじゃないかな。
それにウトの時間も奪っちゃってる訳だし」
「そ、そうか……? ま、まあ、色々買ってくるよ」
「ありがとう。すぐ買って戻って来るんじゃなくて、色々楽しんできて良いから」
「分かった、……まあ、そうさせて貰おうかな」
*
人が多過ぎるのには辟易してても、メイは眺めているだけである程度は楽しんでいた。
集まっている場所にはとにかく人は沢山居るけれど、少し離れれば座れる場所なんてどこにでもある。都市でも座れる場所はあるにはあったけれど、重いミノタウロスであるメイも気兼ねなく、という場所はそんな多くはなかった。
また、体を撫でていく風には都市のようにとにかく色んな臭いが混じっている訳でもないし、目に見える光景のどこもかしこもが建物に遮られている訳でもない。
そして、収穫祭を楽しんでいる人混みに自分が入るのは嫌だけれど、眺めているならばその盛り上がっている雰囲気——昼間から酒を飲んで聞こえてくる笑い声や、ドラゴンを見て歓声を上げている子供達とまんざらでもないそのドラゴン達や、色んなところに設置された大人でも楽しめるような遊具から湧き立つ楽しげな声——を味わえて、もうそれだけで結構満足出来るものだった。
エロクーは、ここから見える場所には居ない。どうせ、これだけ規模が大きいなら賭け事とかもやっていそうなのもあって、そういう場所に居てぐるぐる歩いて稼いだお金を溶かしている気がした。
ディッツェはというと、子供達に混じって何体も居るドラゴンを見ていたけれど、何故か飽きてしまったようにそんな長い時間留まらずに、こっちへとやって来た。
「ディッツェって、ドラゴンは好きそうに見えたけど」
「私もそう思っていたんですけど、やっぱりダメでしたね」
「えっと、ダメって?」
別にそんな聞きたい訳じゃないんだけど。
「別に、あんな大きな口にばりばり噛み砕かれるんじゃ、私達が米の一粒一粒を意識して食べないのと同じなので」
「……ええと?」
「要するに、私は、私を食べるなら、私を食べるという事をしっかりと意識して、私だけで一回お腹いっぱいになって欲しいんですね。
元からある程度それは分かってはいたんですけど、ドラゴンの実物を間近で見る事が出来て、よりはっきりと分かったので。それは収穫です!」
「ああ、そう……」
「お腹空いてるなら何か買って来る?」
「いや、もうウトに頼んでるから。お金も結構渡してる」
「じゃあ、私もウトさんに会って色々買って来ようかな。
収穫の手伝いで私、ちょっとまだ疲れてるみたいなのと、ここで収穫祭の空気感と風を感じているだけでも、結構楽しそうだし」
「お願い」
そう言ってまた人混みへと歩いていった。
「……私も疲れてたりするのかなあ?」
収穫はかなり色々やったけれど、その分ご飯も沢山食べたから、体は大丈夫だけど。
稲刈りに脱穀に、藁を纏めて干したり。腰や膝を痛めた人を治したり、皆のご飯の大きな鍋をひたすらにかき混ぜたり。
色んな人と色んな事をやったから、そういう点では疲れてるのかもしれない。
収穫祭の中央では、大きな瓜が転がされながら並べられ始めていた。確か、1つはドラゴンに乗せて持って来ていたはず。
それと、とにかく大きさや重さだけを競う為に作られたもののようで、味は酷いものらしい。
あれ……殴って壊したり、斧槍で真っ二つに出来たら楽しそうだなあ。
終わった後貰えないかな。いや、そこまで含めて作るの楽しみにしてたりしそうかな。
後ろの上空から気配を感じて振り返ると、エロクーがメイの隣に着地してきた。
そして四つ足すら崩してへたり込む。
何というか、恐ろしいものから逃げて来たような、精魂尽き果てたような。
「負けたの?」
「いや、勝ったぞ。……いや、賭け事をしていたのは事実なんだが、メイはワタシを見に来てないよな?」
「うん。どうせそういう事してるだろうなって」
「…………まあ、久々にしてはとても楽しんだからな。ワタシの全身に血液を行き渡らせる心臓が、今までの何よりも激しく動いていた」
「……サブマスターがやって来た時よりも?」
「……あの時は死を覚悟させられたから、意外と静かだったな……」
「そう……」
それも良く分からないけど。
「まあ、ゆっくりするの?」
「そうだな。ワタシは十二分に楽しんだ。後は見ているだけで十分だ」
高台の斜面にその巨体を寝転がせて、緊張の欠片もなく草の匂いを嗅いでいるような仕草。
……何というか、満たされた気持ちになっているなあ。
この気持ちになっている理由は、分かる気がする。
収穫を何日も手伝って。そうして、私達の手伝いもきちんと勘定に入った上で収穫祭を無事に迎える事が出来て。
誰もが緊張感なんてものと無縁に、思うがままに楽しんでいる。ウトも、私のご飯を買いに行くついでに色々楽しんでいると思うし。
そういう、ふんわりとした、なだらかな空気感。
「良い気持ちだなあ」
足を伸ばして、背を伸ばして。大きく欠伸。
後はウトが帰って来てくれれば色々食べられるけれど、のんびり待とうかな……?
「……なんでさ」
ウトとディッツェが人混みから外れて戻って来るのが見えた。
その、過去にメイを下したヒューマンも連れて。
「何話せば良いんだろう……?」
怖いとか、恐ろしいとかより、それが一番重くメイにのし掛かっていた。
祭りっていうのは傍から見ているのが一番楽で楽しいんですよ、と言いつつも、楽しむって決めて中に突入したならば、それでいてお金をみみっちく気にしない事が出来たなら、それもそれでやっぱり楽しいんですよね。
あ、でも流石に東京のでっかい公園とか競馬場とか競輪場とかで数日掛かりで開かれるようなフェスには、平日に行った方がいいです。ほんとに。