ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい   作:ムラムリ

53 / 53
メイさんにはやっぱり破壊衝動がある

「ええと、お久しぶり、です」

 

 ウトより一回り小さい、そのヒューマンにメイはおずおずと話しかけた。

 

「名前、聞いていいかな。オレはヤヌアール」

「メイ、です」

 

 改めて間近で見ると、魂の質(レベル)の差をよりはっきりと感じる。それだけで心が挫けそうになる程だ。

 四つ足を放り出していたエロクーもしっかりと体を起こしていた。

 

「メイ、ね。お久しぶり」

「私の事を覚えていたのは、ちょっと意外だった」

「いや、まあ、ね。ミノタウロスとは言えど、あんな場所で俺と同じくらいの歳の、しかも女が一人でフロアボス張ってるとは思わなかったしな」

 

 まあ、そうなの、かな。

 でも……意外なだけ、ね。

 

「それでメイは何でここに? あそこから相当に距離があるだろう。負け過ぎてクビにでもなったか?」

「うーん、似たようなものかな……」

「今じゃ、メイも少しはオレに対して持ち堪えそうな気がするが……まあ言いたくないなら別にそれで良いさ」

 

 持ち堪える、かぁ。逃げる事なら出来ると思うけど。

 

「それでヤヌアール、さん?」

「ヤヌアールで良い」

「じゃあ……ヤヌアールは軍人だったの?」

「いや、今は剣を教えてるだけ。それとついでに軍人としての強さを学んでいるところだな」

 

 ……まだ、強さを求めているんだ。

 

「ええと、どうしてそこまでして強さを求めているの?」

「強さを追い求めるのが好きだから…………っていうのは、建前だな。

 メイもきっとそうだろう? 元から強かった」

「まあ……うん」

「ガキが物事にハマる要因は、結局最初からある程度出来て優越感を得られるからなんだよな。

 オレもそうだ」

「そうなると、ヤヌアール先祖返りもだったりするの?」

「…………いや」

 

 妙な間が開いた。何か理由があるのは確かだけれど、話したくないというような。

 そして同時に、そうであって欲しいと思っているところにも気付いた。何の理由もなく、ここまで強く成れるとは思いたくなかった。

 遅れて、メイ自身も思われる側だった事に気付いた。

 ……街でちょっかい出して来た人達もそういう気持ちだったのかな。

 いや、だからと言ってあんな事して来るのは気が知れないけど。

 その時。

 

 ぐぅぅ。

 

 メイの腹から大きく音が鳴った。

 ヤヌアールは苦笑する。

 

「ま、オレは見知った顔があったから挨拶したかっただけだ。

 それに目的は知らんが、きっとこれから国境まで来るんだろ? きっとそこで会うだろうからな、またな」

「……うん、また」

 

 そう言ってあっけらかんに背中を見せて収穫祭の方へと戻っていった。

 それを見届けながら、ウトとディッツェは買って来た、葉やら紙やらに包まれた食べ物をどさりと地面に置く。

 

「……あれが、ユーリさんをも倒したヒューマン」

「うん。本当に何の変哲もないただのヒューマンでしょ」

「ええっと、魂の質(レベル)が相当に高いのは私でも分かったけど。

 あの人別に多分、魔法とか使えるとしても大したものじゃないような? それでユーリさんって倒せるものなのかな?

 空を飛んでたらそもそも手の出しようもないような」

「地べたを這い回ってる相手にゲラゲラ笑うエロクーじゃないんだから。

 遠距離からチマチマやってるだけじゃ通じないって分かったら自分から距離を詰めに来るよ。……エロクーとは比べ物にならない量の魔法をこれでもかと時間差で放ちながらね」

「それを捌き切って、一太刀入れた、と」

 

 メイは食べ物の中で、干した果物をこれでもかと練り込まれたパンを手に取って口に運びながら。

 

「それが現実的かって言われたら、全くそうじゃないんだけどね」

 

 ……私は、覚醒した事でサブマスターの実力の何割まで引き出せたんだろう?

 少なくとも、まだ半分も行ってない事は確かだけれど。

 それから、何とはなしに、紙に二重三重に包まれたものを開く。

 

「……あー、これ」

 

 糸を引いている、あからさまに腐っている豆。

 

「メイさんも知ってるんだ。私の住んでる山脈から更に東に行ったところの、じめじめした土地の食べ物みたいだけど」

「西のダンジョンで本当にこれが好きな人が居てね、自作してご飯として出してくる事が時々あった。

 お米と食べるとまあ、美味しいんだけど。口の中もネバネバになるし臭くなるし、そんな嬉しいものじゃなかったなあ」

 

 それから、もう一つ厳重に包まれたものがあった。

 

「そっちは?」

「蛆虫に食わせて発酵させたチーズなんだって。これはメイさんの住んでた場所より更に西の、ある地方で伝統的に作られてるとか」

「…………」

「開けると虫が飛び跳ねて最悪失明するから気をつけろって言われた」

「……エロクー、食べる?」

「ワタシは、そういう腐ったような臭い全般が無理なのだが」

「……夜、カード遊びしよっか。

 拒否権、ないからね」

「…………」

「あ、後、メイさん。瓜割りの大会があるみたいだけど、出る?」

「えっ、割らせてくれるんだ?」

「ミノタウロスやドワーフでも持つのがやっとなハンマーを持ち上げて、叩きつけるんだって」

「へぇー……やってみようかな」

 

 俄然やる気が出て来たメイは、まるで力を蓄えるかのように食べるスピードが一気に加速した。

 

 

 

 そして……その巨大なハンマーを見てメイはどこかに行ったかと思えば、持って来たのは例の薬で。

 覚醒と薬の重ね掛けまでして、軍人すら思わず身構える程の悍ましい叫び声を上げながら巨大な瓜を粉々に破壊したメイは、その村で長く語り継がれる事になった。

 その代わりに疲れ果てたメイは、夜にならないうちにぐっすりと眠ってしまい。

 腐った豆と蛆虫のチーズは、ほとほと困り果てた後に結局、翌日に持ち越される事になった。




ヤヌアール: 1月
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

ミミック転生~人食い箱の食味記録~(作者:LA軍)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

目が覚めたらミミックに転生していた。▼もちろんミミック(人食い箱)なので動けません。▼そのため、その場でひたすら待ち伏せ、やってきた間抜けな冒険者を食べていた。▼何十人と食った。▼……じつに美味かった。▼だが、ミミックは知らなかった。▼たくさん食べているウチにいつのまにか強くなり過ぎていたことに。▼そして、気づかないうちに、外では厄災の箱と呼ばれるまでに有名…


総合評価:1116/評価:6.78/連載:101話/更新日時:2026年07月16日(木) 11:55 小説情報

元人間、今たぬき。現代ダンジョンを闊歩する。(作者:ばリオンズ)(オリジナル現代/冒険・バトル)

転生したらたぬきだった件。▼崩壊した東京で、ダンジョンに潜って生きていく。▼先とか未来とかはさておいて、▼日々を生きるために、今日もてちてちとたぬきはゆく。▼なんせたぬきはかしこいので。▼


総合評価:1306/評価:8.56/連載:14話/更新日時:2026年04月28日(火) 12:23 小説情報

妖狐の私、人間の社会で稼ぐためVtuberとして百合営業をしていたら相方の化け狸がガチだった件(作者:パッタリ)(オリジナル現代/日常)

 信仰が薄れ、妖怪も自力で稼がねば生きられない現代社会。妖狐のシズクは生き残るため、化け狸のコノハと組んでVtuberとなり、百合営業で日銭を稼いでいた。▼ しかし、画面の向こうで可愛らしく甘える相方の感情は、営業などではなくガチだった。▼ 防犯設備を妖術で容易く突破し、数百年の執念がこもった極上の手料理で胃袋ごと支配しにくる化け狸。▼ これは、平穏な生活を…


総合評価:911/評価:8.52/完結:30話/更新日時:2026年06月21日(日) 12:15 小説情報

「私で童貞捨てたくせに」と学園美少女四天王から言われてるんですが、まったく記憶にございません。(作者:会澤迅一)(オリジナル現代/恋愛)

高2男子の俺は、目を覚ますと一週間分の記憶が消えていることに気付いた。▼部屋には幼なじみがいる。▼中学に入ってからずっと不仲だったのに、なぜ?▼「私で童貞捨てたくせに、記憶がないなんて言わせないから!」▼教室に着くと、隣の席のギャルが笑いかけてくる。今まで一度も会話したこと無いのに、なぜ?▼「私で童貞捨てたくせに、陰キャのまんまじゃん」▼放課後、後輩の文学少…


総合評価:1347/評価:7.97/完結:142話/更新日時:2026年06月25日(木) 17:04 小説情報

TS転生人外ロリ、厭世魔法少女の使い魔になる(作者:蓋然性生存戦略)(オリジナルSF/冒険・バトル)

とりあえず地球が爆散して転生することになった人間が一人。▼元凶を名乗る自称神様モドキに願いを聞き届けてもらい、TS転生人外ロリになった彼は、転生直後に浮かれた気分だったためにボコられ、とある魔法少女の使い魔にされてしまう。▼最初は死にたくないがための投降だったが、次第に魔法少女《エンドロール》の私生活の彩りの無さに対し、お世話魂に火がついた。▼これは、厭世家…


総合評価:4945/評価:8.74/完結:12話/更新日時:2026年05月15日(金) 14:40 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>