ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい 作:ムラムリ
「ええと、お久しぶり、です」
ウトより一回り小さい、そのヒューマンにメイはおずおずと話しかけた。
「名前、聞いていいかな。オレはヤヌアール」
「メイ、です」
改めて間近で見ると、
四つ足を放り出していたエロクーもしっかりと体を起こしていた。
「メイ、ね。お久しぶり」
「私の事を覚えていたのは、ちょっと意外だった」
「いや、まあ、ね。ミノタウロスとは言えど、あんな場所で俺と同じくらいの歳の、しかも女が一人でフロアボス張ってるとは思わなかったしな」
まあ、そうなの、かな。
でも……意外なだけ、ね。
「それでメイは何でここに? あそこから相当に距離があるだろう。負け過ぎてクビにでもなったか?」
「うーん、似たようなものかな……」
「今じゃ、メイも少しはオレに対して持ち堪えそうな気がするが……まあ言いたくないなら別にそれで良いさ」
持ち堪える、かぁ。逃げる事なら出来ると思うけど。
「それでヤヌアール、さん?」
「ヤヌアールで良い」
「じゃあ……ヤヌアールは軍人だったの?」
「いや、今は剣を教えてるだけ。それとついでに軍人としての強さを学んでいるところだな」
……まだ、強さを求めているんだ。
「ええと、どうしてそこまでして強さを求めているの?」
「強さを追い求めるのが好きだから…………っていうのは、建前だな。
メイもきっとそうだろう? 元から強かった」
「まあ……うん」
「ガキが物事にハマる要因は、結局最初からある程度出来て優越感を得られるからなんだよな。
オレもそうだ」
「そうなると、ヤヌアール先祖返りもだったりするの?」
「…………いや」
妙な間が開いた。何か理由があるのは確かだけれど、話したくないというような。
そして同時に、そうであって欲しいと思っているところにも気付いた。何の理由もなく、ここまで強く成れるとは思いたくなかった。
遅れて、メイ自身も思われる側だった事に気付いた。
……街でちょっかい出して来た人達もそういう気持ちだったのかな。
いや、だからと言ってあんな事して来るのは気が知れないけど。
その時。
ぐぅぅ。
メイの腹から大きく音が鳴った。
ヤヌアールは苦笑する。
「ま、オレは見知った顔があったから挨拶したかっただけだ。
それに目的は知らんが、きっとこれから国境まで来るんだろ? きっとそこで会うだろうからな、またな」
「……うん、また」
そう言ってあっけらかんに背中を見せて収穫祭の方へと戻っていった。
それを見届けながら、ウトとディッツェは買って来た、葉やら紙やらに包まれた食べ物をどさりと地面に置く。
「……あれが、ユーリさんをも倒したヒューマン」
「うん。本当に何の変哲もないただのヒューマンでしょ」
「ええっと、
あの人別に多分、魔法とか使えるとしても大したものじゃないような? それでユーリさんって倒せるものなのかな?
空を飛んでたらそもそも手の出しようもないような」
「地べたを這い回ってる相手にゲラゲラ笑うエロクーじゃないんだから。
遠距離からチマチマやってるだけじゃ通じないって分かったら自分から距離を詰めに来るよ。……エロクーとは比べ物にならない量の魔法をこれでもかと時間差で放ちながらね」
「それを捌き切って、一太刀入れた、と」
メイは食べ物の中で、干した果物をこれでもかと練り込まれたパンを手に取って口に運びながら。
「それが現実的かって言われたら、全くそうじゃないんだけどね」
……私は、覚醒した事でサブマスターの実力の何割まで引き出せたんだろう?
少なくとも、まだ半分も行ってない事は確かだけれど。
それから、何とはなしに、紙に二重三重に包まれたものを開く。
「……あー、これ」
糸を引いている、あからさまに腐っている豆。
「メイさんも知ってるんだ。私の住んでる山脈から更に東に行ったところの、じめじめした土地の食べ物みたいだけど」
「西のダンジョンで本当にこれが好きな人が居てね、自作してご飯として出してくる事が時々あった。
お米と食べるとまあ、美味しいんだけど。口の中もネバネバになるし臭くなるし、そんな嬉しいものじゃなかったなあ」
それから、もう一つ厳重に包まれたものがあった。
「そっちは?」
「蛆虫に食わせて発酵させたチーズなんだって。これはメイさんの住んでた場所より更に西の、ある地方で伝統的に作られてるとか」
「…………」
「開けると虫が飛び跳ねて最悪失明するから気をつけろって言われた」
「……エロクー、食べる?」
「ワタシは、そういう腐ったような臭い全般が無理なのだが」
「……夜、カード遊びしよっか。
拒否権、ないからね」
「…………」
「あ、後、メイさん。瓜割りの大会があるみたいだけど、出る?」
「えっ、割らせてくれるんだ?」
「ミノタウロスやドワーフでも持つのがやっとなハンマーを持ち上げて、叩きつけるんだって」
「へぇー……やってみようかな」
俄然やる気が出て来たメイは、まるで力を蓄えるかのように食べるスピードが一気に加速した。
そして……その巨大なハンマーを見てメイはどこかに行ったかと思えば、持って来たのは例の薬で。
覚醒と薬の重ね掛けまでして、軍人すら思わず身構える程の悍ましい叫び声を上げながら巨大な瓜を粉々に破壊したメイは、その村で長く語り継がれる事になった。
その代わりに疲れ果てたメイは、夜にならないうちにぐっすりと眠ってしまい。
腐った豆と蛆虫のチーズは、ほとほと困り果てた後に結局、翌日に持ち越される事になった。
ヤヌアール: 1月