ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい 作:ムラムリ
3日間に渡って開かれていた収穫祭の最後は花火で終わる事となった。
爆音が鳴ると共に、色とりどりの火花が宙に模様を描いている。
「……」
花火を見るのも初めてなメイは、それを最後までぼうっと眺めていた。
観ながら食べようと思っていた、色んな食べ物の何一つにも手を付けずに。口をぽかんと開けたまま。
花火が終わって、ようやく食べ物に手を付けて。
メイはぽつぽつと口を開いた。
「何というか……私は、やっとこの世界には、私の思う以上に色んな人が色んな事をして、毎日を生きているんだって分かった気がする」
「ええっと……これまでは思わなかったのか?」
ウトが少し困惑した目線を向けると、メイは少し言葉を整理するような間を置いてから、また口を開いた。
「……分かっていたと言っても、なんというか体にまで染み込んでいなかった気がする。
街や都市は発展し過ぎていて、私が住んでいた田舎と同じ国にある延長線上のものだって思えなくて。なんというか、そこで生きる人達を見ても、子供達がそんな世界で遊んでいるのを見ても、そういう毎日を生まれてから過ごしているって、どこか心の底から信じられない部分があったんだと思う。
それにこういう祭りはまだどこでも見てなかったし。
だから……ええっと。
私が生まれ育った田舎よりはよっぽど発展した集落で、収穫の手伝いから収穫祭までやって。
私が生まれ育った田舎より、色んな出し物をやっていて、色んな食べ物を出して来て。
そしてこの花火みたいな……言ってしまえば食べる事も着る事も住む事も出来ないし、弾けた後は何も残らないものを作って生計を立てている人も居るってきちんと目で見る事が出来て。
何というか、本当に私の中で、しっくりと来た。
私の生まれ育った田舎と都市までが地続きなんだって事を、やっと受け入れられた気がする」
「そう、か」
メイさんって普通になりたいとか、確か言ってたっけ。元はと言えばヤヌアールに負けた事で、高かった鼻がへし折られて。
そういう意味では、俗世離れしていた部分が減ったんじゃないかと思う。
「まあ、でも、将来的に都市で暮らそうだとかは全く思わないけどね」
「1年も居ればすっかり慣れるけどねえ」
ディッツェが勿体なさそうに呟いた。
*
*
その翌日、観光客が時にドラゴンに乗って帰っていく中、結局片付けも手伝う事にして。
催し物をしていた舞台やらの解体をして、来年も使える資材とそうでない資材を分別して。
収穫の時から色々と作物やらが置かれたり炊き出しが行われたり、収穫祭では様々な舞台が立ち並んだその広場が、ただの何もない広場に戻っていく。
けれど、その前に簡素な椅子やテーブルが並べられて、残しておいた食べ物や酒が振る舞われた。
エロクーだけが軽く酒を嗜む。
「中兄ちゃんはお酒好きなんですけど、大兄ちゃんは自分の体が思うように動かせなくなるのが嫌だって言って飲みませんねー。
それに、私にはまだ早いって言って飲ませてくれなかったんですけど、まあ、少し飲んで良く分からなかったので私も良いです」
「何というかな……自分の中のタガが外れていく感覚するのが気持ち良いのだよな。
時々、ダンジョンの中で挑戦者がワタシのところまで来ない退屈な時に、同じダンジョンに勤めていた間柄の中で飲んだりする事もあってな。
この自由になる感覚は、酒を除いたらきっと麻薬とかでしか味わえない」
「自由になる感覚、ね……飲めば分かるのかもしれないけど、もし私が暴れちゃったら大変だよね」
「ヤヌアールを呼ぶか?」
冗談混じりでウトが聞けば。
「呼んだか?」
と来ていた。
「いや……別に冗談混じりだったんですけど……」
「まあ、ただ提案しに来ただけだからな。そう畏まらずに」
「提案?」
「あんた達も南に来るんだろ? オレ達と一緒に来ないか? っていう提案だ。
軍の人達も、特にメイには興味を持っているみたいでな。あのハンマーを持ち上げたのはどういう原理だ? ってかなり疑問に思っている。
覚醒していても、その肉体が特別製だとしても、流石に厳しいだろって見立てをしていてな」
「別に……秘密にする事でもないから教えても良いけど。
ただ、軍ってお堅いイメージしかないけど、道中を楽しむとかしないんじゃないの?」
「それは……否定出来ないな。
毎日進む距離が決まっていて、嵐でもその通りに進む」
「……それなら、やっぱり南で」
「分かった。オレからもそう伝えておく。
それで? 何を話してたんだ?」
「酔っ払ってみるのに興味はあるけど、もし私がどうにかなっちゃったら大変だからって。
でも、どうにかなって殺されるくらいなら別に良い」
「……別にこの人、殺さずに無力化も出来ると思う」
ディッツェが口を挟んだ。
「だってこの人、私達も素手で突破してるので」
それを聞いて、ヤヌアールがじろじろとディッツェを見る。
「……ん? あ、ああ、あんた、都市のダンジョンの、あの三兄妹の妹か」
「兄なら覚えていたんでしょうね。別に良いけど」
「…………どうやって?」
メイは思わず聞いた。
覚醒出来たとて、ただのヒューマンがあのデゼンの馬鹿力をどうやって。
「如何に肉体のスペックが異なる獣人だろうと、ガラドンの体格まではそこまで変わらないし、鍛えられない部分を突く事は出来る。
喉や股間を潰す、目へと突き刺す、背中の、肋骨の脆い部分を砕く。そういう事は、素手でも出来る。
流石にミノタウロスになると厳しいだろうが、それでもやれる事はある」
さも出来て当然と言うよう話すのに、ディッツェが震えた。
余り良くない殺され方をしたのだろう。
「……やっぱり飲まないで良いや。殺されないにしても、あんまり良い事にはならなさそう」
「そうか。ただ、酒なんて別に無理して飲むもんでもないからな」
「うん。そうしておく」
そうしてヤヌアールは去っていき。目の前に置かれていた酒瓶はエロクーの前に移動した。
エロクーが聞く。
「……もし、ワタシが酔っ払い過ぎたらどうなる?」
「折る」
端的に答え、更に拳を握り直して、酔っ払っても良いよ? と言うような目で見てくるメイに対しては、どこを? と聞こうとも思えなかった。
「…………程々にしておきます」
「まあ、明日には出発だからね。二日酔いとかになっても着いて来て貰うから」
「分かった分かった」
毎晩遅くまでの活気も、そろそろ落ち着いてきていた。
酒、ねぇ(色々書こうとして結局やめた)。