ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい 作:ムラムリ
早朝、メイ達が起きる頃には軍の人達はヤヌアールも含めて出立しつつあった。
来た時と同じく、キビキビとした所作で、画一した服装で。
「真面目だなあ」
毎日規則正しく。
ダンジョンが求める人材は、個や少人数のパーティに対してひたすらに強くある事だ。そしてそれを必要な時に引き出せる事。
それに対して軍が求める人材は、大人数の中で自律思考出来つつも、時に死地へと向かうような命令にも従える事や、何十、もしかすると何百という日数において低くないパフォーマンスを保ち続けられる事。
才能や生まれは必要ないが、その代わりに日頃からただただ己を鍛え、律していかなければならない。
メイにとっては出来るかどうかより、やりたくなかった。
あの田舎から飛び出す為ならば……もし、ダンジョンでなく軍がスカウトに来ていたら、きっとそれに入っていただろうけれど。
そして朝食を食べてから程なくして、多少惜しまれながらもメイ達も出立した。ここから先はきっと、南の国境に着くまで収穫祭ほどの何かはないだろう。
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*
それから数日歩いて分かったのは、軍の人達はメイ達が3日で歩く距離を2日で歩いているらしいということだった。
メイ達が残り20日掛けて歩く距離を13日から14日で歩き通す。
あのキビキビとした所作までを崩さずに?
もしそうだとしたら、サブマスターの扱きとはまた別の意味で辛そうだなあ、と何となく。
そして、街道沿いだとは言え、本当に長閑な光景が続くようになった。
都市に近いところではかなり丁寧に舗装されていた街道も、ただの踏み均されただけの広い道になって久しい。
隣に深い森がある時は、注意深く見渡せば人が通ったような、如何にも怪しいような道があったり。
歩き続けるのにも飽きて、そのサブマスターからそれぞれに与えられた宿題も少しずつこなすようにしていた。
メイは僧侶として障壁をより多彩に、瞬時に作れるように。
ウトは見切りの上達。手甲と足甲を身につけて、体幹を崩さないまま攻撃を避けたり弾いたり出来るように。
エロクーは魔力のコントロールをより精緻に無駄なく、長時間魔法を扱えるように。
ディッツェはそんな3人と軽く手合わせして、それぞれとの息を合わせられるように。
時々、その宿題に熱中して宿が見つかる前に夜になってしまって野宿をすることもあった。
そんな時は、メイとディッツェは食べ物を採集して、ウトとエロクーが狩猟をして、それぞれ火を囲みながら雑談をしたり。
それからはたまたカード遊びをしたり、他にも都市で長らく過ごしたディッツェが色んな遊びを紹介したり。
また賑わいのある町に着けば、そこでも気ままに数日過ごして観光したり、少しだけお金を稼いだり。
メイの
少しずつ冬が近付いてくるも、それぞれが毛皮を持つ獣人であり、南に歩いている事もあってか寒さに悩まされる事もない。
そうして全く急ぐ事もないままに道のりを進んで。
結局……国境近くに辿り着くまでには、そこから30日以上が経過していた。
*
*
再び街道がきちんと舗装されたものになり、それに伴って街道沿いの街並みも賑わいが続くようになってくる。
そして、それ以上に……住民の大半がキビキビとしている。
物々しい、とまではいかないけれども、日常から完全に緊張感を抜けさせる事がなく、ただの痩せっぽちというような、1日中部屋に閉じこもって書類仕事しか出来ないような軟弱な人は数えるくらいしか居ない。多分、平均の
更に言えば、ドラゴニュートやムシュフシュといった、人族の中でも稀有な種族や、幻獣と呼ばれる稀有な魔獣もぼちぼちと見かけた。中にはメイや、ユーリさえ超えるような
「それで……着いたは良いけど、何の待ち合わせとかもしてないし、薬の作り方を教える以外にやる事もないんだよね」
「メイさんは目立つから、どうせその内あっちから声が掛かるだろ」
「んー……まあ、別にそれで良いか。何日かまたのんびりしたいし、ご飯も色々美味しいのありそうな雰囲気あるし、お金を稼げるところもありそうだし」
お金も、流石に余裕は無くなりつつあった。
「そうだな」
魔獣も泊まれるような長期宿泊に適した宿も、都市に比べても多く。それで居て都市より質素な代わりにかなり安かった。
食堂も多い。それでいて安く量が多い。
娼館が眼に見える場所にあった。寺院も鍛冶屋も数が多い。寺院も、僧侶の魔法だけでは対処できないような事柄にも対応出来るようにかなり広く作られている。
「ただ、その代わりに、何というか……ゆとりが無いというか、ひたすらに機能性が高いだけで遊びがないというか、そんな感じがする。
実用品を売ってる店は沢山あっても、着飾る為のものを売ってるような店はあんまり見かけないし。
食堂だって大衆向けのが殆どで、気取ったような店は、あるにはあるけど……ってくらいで」
「そうだな。備え続けているなら、そんな息苦しさもあるだろう。それに、もし戦争になったらここが真っ先に戦場となるのだからな」
ディッツェに対して、エロクーが返す。
その感覚は長く居れば慣れる程度のものであったが、人の多い場所で長らく暮らして来たメイ以外にとっては敏感に感じ取れるもののようだった。
「戦争、かぁ」
最後に南の国との戦争が起きたのは、もう何百年も前。災厄でとりわけ傷付いたこの国が弱った隙を狙って、領土やらを奪いに来た、らしい。
一度起きれば一人一人を蘇生させるなんて手間の掛かる事をしている余裕は微塵もなく、ただただ数と数がぶつかり合う、凄惨な殺し合いが幕を開ける。
そして南の国は手痛いにも程がある反撃を受けて撤退した後も、獣人やら魔獣やらがのうのうと暮らしているこの国を気に食わない目で見ている、らしい。
「良く分かんないよね、南の国って」
「別に分からなくて良いよ、アレは」
「うん。本当に」
聞いたところで不快にしかならないから、本当に知りたい人だけ知れば良い。
そう教わって、ウトとディッツェはその南の国の内実を聞いた事があった。
「そう、なんだ」
「……ワタシは聞かないでおこう」
「私も……そうしておこうかな」
苦々しい顔をしているウトとディッツェの顔を見ていると、こちらまで滅入ってくるようだった。
南の国は、獣人や魔獣を含めた、災厄によって新しく生まれた種族全般を人族や、人族の隣に立って良い存在として認めていない、という感じ。