ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい 作:ムラムリ
「最後に、煮出したこの液体を、この木の皮を3日酒に浸したものと1対3で合わせたら完成。
合わせた後は、空気には余り触れさせないようにしておく事」
「……製法としては、3つ分の、相乗効果も相まってそのまま使うにしては激し過ぎる効能を、どうにか人の身でも受け入れられるようにした、というところか。
3つ分のキツい効能が入っているから、確かに体質に強く依存するところも分かる」
「それも使える人は2割も居たら良いところの、薬か毒かって言われたら毒になるから」
「……それでも、どうしても動かなくてはいけないって時の選択肢が増えるのは良い事なんだ。
余りそういう時は来て欲しくないと言えどもね」
見つかったメイがその薬の作り方を教えるまでは、さくさくと事が進んだ。
軍に属する薬師の元で、一から順に教える。
「他に、何か役に立ちそうな薬はないのか? もちろん、これも含めてタダとは言わない」
「んー……それならもう、私の故郷にまで足を運んだ方が良いんじゃないかな。
かなり遠いし、田舎だし、余所者も嫌いだけど、お金を積めばあっさり転がると思うし」
「……あんまり、良い思い出はないのかな?」
「まあ、うん。
それに私は、成人になる前に出て来ちゃったし、だから危ないような薬の作り方はそこまで教わってないし、忘れちゃったのも多いし、きちんと覚えているものでこれ以外だと、2個3個……それも僧侶の魔法で代用出来るような効能のものしかないけど」
「それでも、僧侶の魔法は誰でも使える訳じゃないからね。スクロールにするにしても、1日に作れる数は多くないし、効果も薬より早くになくなってしまう」
「……それじゃあ、一応」
*
*
「それで、これからどうするんだい? 聞いたところによると、あんまり目的もないみたいだけれど」
「本当に……。空気感はもう十分に分かった気もするけれど、どうしようかなあ?」
そう言うと、あからさまにムっと不快そうな顔をされて。
「……この程度で分かった、って言ってしまうのは流石にこちらとしても困るなあ。
それなら提案だけど、体験でも軍に入ってみないかい? 私達がどのような事を想定して備えているのか、南の国をどのように見ているのか、より深くに分かるはずだ。
それに、宿代も掛からないし、ご飯も3食分出るし、やる事をやるなら少しだけど、お金だって出る」
「えー……その代わりに、毎日朝早くに起きて、色んな事をやらされて、命令には絶対で、自由な時間なんてあんまり無いんでしょ?」
収穫祭に来た軍人達も、楽しんでもいたけれど、誰も彼も羽目を外すというようなところまではしないと心掛けていたのが見て分かった。きちんと大人で、少なくとも人の目がある場所では己を常に律していて、誰から見ても恥ずかしくない振る舞いを常に心掛けていた。
訓練もサブマスターの扱きに比べれば楽だろうけれど。
それに貰ったお金で余裕も出来たし。
「まあ……それはそうだけど。折角ここまで来たなら、10日だけでもさ。
メイさんのような、その歳にしてこんな豪傑が居る事は、他の人達にとっても刺激になるだろうから」
「……私なんかよりヤヌアールの方がよっぽど凄いでしょ」
メイとしても自嘲気味にそう返すと、薬師も遠い目をした。
「ヤヌアールさんはね、誰もが何十年掛けてもその足元にも追いつけないだろうからね。言わば天上の人扱いだよ、もう、ね……」
「それに比べて私は……言ってしまえば追いつけそうな雰囲気がある?」
「何十年と掛ければ、きっと何割かは、今のメイさんには届くかもしれない、って思えるくらいではあるね」
スィニチの事を思い出した。あの位には成れる人は多い、という事。
「それにね、言っちゃうと。軍に就く人達は、誰も彼もがメイさんの思っているようなしっかりとした人じゃないんだよ。最初から家族や国を護りたいだなんて真っ直ぐな目的で軍人になろうなんて人はまず居ない。
そもそも、最後に戦争が起きたのは何百年も前だからね。
だから、体の頑丈さだけが売りだったり、ダンジョンに挑んで名誉を得るよりとにかく体を動かしてお金が欲しい人だったり、後は……メイさんみたいに、気に入らない田舎から飛び出してきたような人が集まって来ていてね。
言っちゃうと、ダンジョンに挑む人達とは別の方向で血の気が多いんだ。メイさんはまだ見ていないかもしれないけど、街中での喧嘩もどこかしらで起きているくらいでね。
それに後は……とりわけここ最近は平和で、やっぱり退屈なのもあってね」
……なんか、色んな方向から言いくるめられようとしているような気がする。
「うーん……とにかく、ちょっと1回帰ります。入るにしても私は今1人じゃなくて、皆と一緒に旅をしているので」
「是非とも待っているからねー」
そう言われても、なぁ……。
とりわけエロクーやディッツェなんて、軍に試しにでも入ってみるなんて、毛を逆立ててまで拒絶するんじゃないかな。
*
エロクーが、その夜おずおずと切り出した。
「今日、ワタシの魔法を褒められてな。基本的な属性を満遍なく使える魔獣なんて早々居ないし、それでいて計算も出来るなら兵器の運用も出来るだろうとか言われてしまってな。
軍のような場所などまっぴら御免だと思っていたのだが、少し揺らいでしまっている」
メイはそのまんざらでもない言いように目を丸くして驚き。更にウトが口を開く。
「俺も、この若さでここまで鍛え上げているのは早々居ないとか言われて」
「私も訓練中の肉食獣人を眺めていたら、軍に体験でも入って見れば間近で見れるよって言われて……」
……外堀が、いつの間にか埋められている?
「メイさんは?」
今日あった事を話した。
「……それで、どうする?」
「どうしようか……」
色々話し合おうとしたものの、詳しい事を聞かないと何も分からないという事で、翌日、取り敢えず話だけでも聞きに行く事にした。
エロクー: 拒否感は強いだろうが、おだてれば簡単に傾いてくれるだろう
ウト: 拒否感もないだろうし、武術に費やして来た時間を褒めれば傾いてくれるだろう
ディッツェ: 何故かは分からないが肉食獣人の事を常に目で追っていたので、そこあたりを唆せば傾いてくれるだろう
メイ: 我が案外強そうで、エロクーのように縛られる事も好まず、それでいて比肩する者が早々居ない程の力を持っている事から、簡単には意志を曲げなさそうだが、他三人を弄すればきっと傾いてくれるだろう