ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい   作:ムラムリ

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メイちゃんは健啖家

「ええっと、これなら、今の私にも似合ってる、のかな?」

「良いわよぉ」

 

 露天商から少し離れた花屋にて。

 鏡の前に立って、大柄な自分を少しだけ不安そうな顔つきで見つめる。

 角の先にちょこんと、小さな花の輪を。腕や足に控えめに花の輪を。

 そこまで目立たないけれど、だからこそ、今の大柄な自分にも合うような。

 ジュアンが付け加える。

 

「それにね、この花の花言葉にはね『安全』とか『無事』とかそういうものがあってね、ほんの僅かだけど、身につけておくと、あの指輪とは逆の効果が発揮されるみたい。

 香油とかにして匂いを纏ったり、それを染み込ませたものをアクセサリーとして身に纏えばもっと効果が発揮されるけど、流石にそれはメイちゃんにはよろしくないよねぇ」

 

 奇襲も得意なメイにとっては、匂いで位置がばれるなんてあってはならない。

 

「うん……ちょっと残念だけど。

 でも、この花を育てていれば、いつでもこうして身に纏えるんだよね?

 今回はジュアンに花輪を作って貰ったけど、私でも作りたいなあ。器用じゃなくても、作れるかな」

 

 斧槍を強く握り締め続けてきた手。手斧を思いっきり投げる手。時にそのまま殴る事もある、ごつごつとした拳。生半可な刃物では傷つく事もなさそうな手のひら。

 

「メイちゃんは若いんだから、何かを諦めるには早すぎるわよぉ」

「じゃあ、やってみようかな?」

「それでは、お買い上げで?」

「えっと、暫くこの近くに居るから、帰る時にまた買いに来ます」

「分かりました、待っていますね! それにしても、お姉さんは随分と立派な体をしていますね。

 どこかで衛兵とかでもしていたりするんですか?」

「えーっと……まあ、似たようなものかな」

 

*

 

 花屋を出ると、ピリリとした雰囲気をジュアンは感じた。

 

「露天商の通りだと、とにかく人が多くてはっきりしなかったんだけど、やっぱりね、私を知っている人が私を見つけたみたい」

 

 要するに、メイが殺した事のある相手という事だ。

 メイは大きいからただ歩いているだけでも目立つし、衛兵が何をするまでもなく、相対した人が近くに居たら気付いてしまうだろう。

 

「別に何してきても大丈夫だと思うけど、見られているのは不快だなあ。

 このまま帰ったら宿まで分かっちゃうし。

 何か良い方法ない?」

「そうねぇ。血生臭い方法は選べないものねぇ」

 

 今はまだ昼。ヴァンパイアのジュアンも体を覆い隠していないと碌に活動出来ないし、そもそもここはダンジョンのような無法地帯ではない。

 

「衛兵に相談すれば良いかしら」

「それも心許ないなあ」

「そうねぇ」

 

 あれがどれだけ束になったらメイに匹敵するかを考えて、思わず頷く。

 

「取り敢えず歩きましょう? お腹空いたんじゃない?」

「うん」

 

 メイは溜息を吐きながらも、腕につけた控えめな花輪を気に入るように見つめた。

 

 

 

「えーっと、そこの赤いリンゴ10個と、緑のリンゴも10個ください」

「その、輪っかみたいなパン、ぶら下がってるだけください。あ、あと、そのレーズンがたっぷり詰まってるパンも、えっと、5個ください」

「……メイちゃん?」

「おにぎり……あの、全部の種類2つずつ貰えますか?」

「あの、メイちゃん?」

「その焼き団子、えーっと、うーん、5本ください」

「メイちゃん??」

「そのジュース、あの、炭酸のない方、えーっと10本ください」

「メイちゃん????」

 

 テーブルの上に大量に並んだご飯。

 リンゴを一口で半分食べて、もう一口で一気に。

 輪っかの硬いパンをばりばりと音を立てて、それを買ってきたジュースで流し込み、更に団子を口に運ぶ。

 ジュアンは血のソーセージを小さく食べながら、そんな様子が全く止まらないのを呆然と見ていた。

 先程までのおずおずとした雰囲気は未だ少しあるものの、どこか吹っ切れたような。

 周りの人達も、体躯の大きいミノタウロスとは言え、その大量の飯に少し注目が集まっている。

 

「お腹が減っていたのは確かなんだけどね。むぐむぐ」

 

 おにぎりを食べる。一口で一つが吸い込まれて、咀嚼している間にもう次のおにぎりが片手に握られている。

 

「うん」

 

 レーズンの詰まったパンを食べる。長いそれがどんどん口の中に吸い込まれていく。

 

「それよりね、まあ、むしゃむしゃ。ええっとね、ごくん」

 

 またリンゴに手が伸びる。掴んだところでリンゴがぺきりと音を立てた。

 

「落ち着いてね?」

 

 布を渡して、腕の花輪が汚れないように促す。

 

「むぐ、ありがとう」

 

 ジュースを飲む。もう瓶は5本も消化していた。

 

「うん、それで、私を追ってきた人を、私が強く睨みつければそれで済む話な気がしてね、でも、ぼりぼり」

 

 団子を食べる。串から外すのが面倒臭くなったのかばりぼりと串ごと食べ始める。

 

「今の気圧された、怖気付いてる私じゃ、あんまり意味ないかもなって思ったの」

 

 気付いたらもう半分近くの食べ物が腹に収まっていた。

 

「それに、こういう人が多い場所なら、逆に私から見える位置に居てくれそうだしね。もぐもぐ」

「居るの分かるの?」

「食べ終える頃には、大体場所まで分かると思うなあ。……すっぱ!? いや、しょっぱい!?!? 何、このおにぎりの具……?」

「それね、食べてると病みつきになるわ。私がただの人間だった頃ね、結構好きだったわぁ」

「ふ、ふーん……?」

 

 

 

 ジュアンがゆったりとソーセージを食している内に、結局メイは一度も止まる事なく大半を食べ終えた。

 残るのはリンゴの1個と、その酸っぱい具材のおにぎりが1つ。

 リンゴを手のひらでコロコロとしながら、おにぎりを意を決して食べて。口をきゅっと閉めて。

 

「えーっと、なんか、私を知っている人が、もう2人くらい増えたみたい」

「あら……」

「うーん。ジュアンって、この街何度も来ているんでしょ? なんか、追ってくる人を待ち構えられるような、迷路の袋小路みたいなところってあったりする?」

「それならお任せして良いわよぉ。

 因みに、何するつもりか聞いても良い?」

「ちょっと怖がらせるだけ」

 

 そう言って、帰る前にメイは硬い殻の果物を何個か買って、ジュアンと共にその場から去った。

 そして……追っていった人達が見たものは、あからさまに両目を示すような2箇所を指で穴を開けられたり、ただの握力で捻じ切られたり、地面に派手に凹みを作ってまで拳で叩き割られた、その常人では素手ではどうとすら出来ないはずの果物の残骸達だった。

 

 

 

「……うん、追って来なくなったかな」

「ええっと、宿に戻ったら夜ご飯もあると思うけれど、入るの?」

「うん、この頃ご飯控えめだったし、まだまだ入るよ」

「そ、そう……」

「でも……明日からもこんな事が続くのかなあ? 全員にこんな事するのも面倒だし」

「やっぱり、私も考えてみるわね」

「……ごめんね、ありがとう」

「いえいえ。初めての街なんだから、メイちゃんには楽しんで貰わないとねぇ」




安全とかが花言葉の花ってあるかなーって調べたら千日紅がヒットしました。
花輪にも出来そう。
名前は初めて知ったけど、多分どこかでは見た事があるくらい。地元じゃ雑草のように自生していたような気も……。

千日紅の花輪:
レアリティ:なし
特性: クリティカル耐性と運がほんの僅かに上昇

メイが見つけた呪いの指輪:
レアリティ:☆☆☆
特性: クリティカル耐性と運がかなり減少。千日紅の花畑に埋もれるか、香油に浸すくらいで相殺。
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