ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい 作:ムラムリ
メイの技量も研ぎ澄まされたものである事は、見ていれば分かった。
最初にヤヌアールへと放った横振りも的確に首へと向けられたものだったし、それからもヤヌアールへと向けられる攻撃はどれも一撃必殺、もしくは五体の何れかが切り飛ばされるものだった。
また斧槍の射程も最大限に生かして、避けるだけでは距離を詰める前に返す一撃が間に合うように備えていたし、そもそも一つ一つの威力は、下手に武器で弾いたり受け流したりなどしようものなら、真っ二つに折れてしまう威力だ。
けれど、さも当然のようにヤヌアールはそのメイの攻撃の一つ一つを弾き、受け流し、メイの体勢を崩してその両手剣をメイへと突きつける。
足払いどころか、両足を切り飛ばすような一撃に対して、下から掬い上げるようにかち上げた。
袈裟斬りの一撃に対して刀の腹に滑らせて軌道を強引に逸らす。
頭から股間まで真っ二つするような縦切りを最低限の動きで避けて、柄を足で抑えながらメイの首に両手剣を添える。
突きの一つ一つもさも当然のように弾き、逸らす。
どれもがミノタウロスとしても優れた肉体から放たれている、ヒューマンには真似出来ない、刃先を目で追う事など目の良い獣人だろうと難しい速さなのに。少しでも角度やタイミングがずれてしまえば剣の方が破壊されるだろうに。
未来が見えているどころの話じゃない。このタイミングでこのように動けば勝てるという道筋に則って体を動かしているに過ぎないというような気味の悪さ。
観ている誰もが、それを感じていた。
「はぁ……」
色々試してみて、そのどれもが的確に致命的な反撃へと繋げられて、メイは溜息を吐いた。
けれど、そこまで残念そうではない。元からそうなる事は分かっていたから。
息切れもしていなかった。
同じく息切れもしていないヤヌアールが聞いてきた。
「やめるか? それとも俺から仕掛けても良いか?」
「そうだね……。でも、最後に一つだけ試してみる」
ヤヌアールのその能力を言葉で事細かに言うならば、勝てる可能性がほんの僅かでも……千に一つ、万に一つでもあるならば、それを実現出来る、と言ったところだろう。
その
私が斧槍だけで戦うのでは、その範囲から逃れる事は出来ない。きっとこれからどれだけ研鑽しようとも。
「……」
ヤヌアールはそれに対して何も答えず、改めて両手剣を握り直した。
その上で、メイには疑問があった。
……もし、私がこれからしようとしている事が、確実にヤヌアールを殺せるものだったとしたら、ヤヌアールはその時点で止めようとしてくる?
確実な未来までが見えるのか、単純に体を反応させて動かせるだけなのか。
……でも、まあ、今の私がどれだけ備えたところで、きっとそこまでは辿り着けないのが当然なんだろうな。
そう思いつつも、メイは呼吸を整えた。今ならそれだけで覚醒出来る。
そして、その上で飛び退いた。最大限、闘技場のほぼ壁際まで。同時に、斧槍の刃先に手を当てて。
「……ああ」
観ていたウトは思わず声を出していた。街のダンジョンでメイと相対した時の事。簡単に封殺された、苦い思い出。
あの時、メイの持つ手札は、属性付与による遠距離攻撃と手斧による投擲だった。
手斧は持っていない。ただ、腰の袋には鉄球が入っているのだろう。
そして……自分からは仕掛けていなかったヤヌアールが、そこで自分から動いた。それは……そうしないと対応出来ないとヤヌアールに言わせたようなものだった。
メイが腰の袋に手を伸ばしながら、片腕で斧槍を振るう。横に4回、とても幅の広い光の斬撃がヤヌアールに向けて放たれる。
僧侶としても少なからず成長していたメイの、その斧槍に込められた聖なる属性はまだ光を保っている。
4つの刃は、飛び越える事も出来ない高さ、伏せて避けるのも出来ない低さ。横に跳んで避けるにも体術の技量が必要な嫌らしい高さに、遅く飛んでいく。
ヤヌアールは、両手剣を抱えつつ、横に跳んで斬撃を越え……そこにメイは、鉄球を投げた。
街のダンジョンの35階で待ち構えていたリザードマン達にトラウマを植え付けた、緩い接着剤で纏められた小粒の鉄球の束、投げた瞬間に散らばり、散弾となるそれを。
ガガガガッ!!
「い゛あ゛っ??!!」
けれど、その散弾は跳んだヤヌアールの目前で硬質な音を立てて弾き返された。幾つかはメイにまで跳ね返って、体にめり込んだ。
「しょ、障壁……」
街でサブマスターが言っていた事を思い出した。
『僧侶の作る障壁だってさ、千差万別で。中には発動時間をとにかく短くする代わりにまず壊れないような障壁を作ったりだって出来るものもあるから、そういうのメイちゃんにはうってつけでしょ』
……これが出来るなら、サブマスターの無数の攻撃を掻い潜れたのも、納得……するなぁ。
そして、そういう能力に対しても、とても相性が良い。
「……終わりにしておくか?」
ヤヌアールが歩いて来ながら聞いてきた。
各所から血がだらだらと流れてくるのが止まらない。頭や胸には幸い当たらなかったけれど、太い血管も破れた場所があるらしく、体が死を訴えていた。
「……うん、そうしておく。治す前に鉄球を体から抉り出さなきゃいけないし。
それで……ナイフか何か持ってたりする?」
「ああ、使え」
手渡されたのは、妙な装飾の入っている折りたたみ式のナイフ。
武器というよりは、手の凝った日用品。常に持ち歩いているような、お守りみたいな印象すらある。
「……使うけど、良いの?」
「ああ。失血死する前にさっさと治せ」
「……分かった。ありがとう」
メイはナイフを開くと、最も血が溢れて止まらない場所に突き刺した。
「い゛っ……ゔあ゛っ……」
歯を食いしばりながら鉄球をほじくり出すと、手を当てて僧侶の魔法で治す。
とりあえず、それで死の感覚は消えた。
けれど体の各所にはまだまだ鉄球が埋まっている。
「……ああ、ヤだヤだ。後何か所やんなきゃいけない事やら」
「……痛みに、強いんだな」
「それは……」
当たり前でしょ、と言いそうになったけれど、ヤヌアールは今までそんなに怪我をした事すら無いのかもしれない、と気付いた。
それをヤヌアールも察したのか。
「とにかく、まあ……なんだ。
俺と再戦してくれるなんて思わなかったからな。ちょっと俺も自分のことを話そうか」
そう言うと、メイの耳に顔を近付けてきて、小さく言った。
「……俺は南から来た。そして、寿命はもう20年もない」
「……え?」
それだけ言うと、離れて。
「そのナイフ、やるよ。思い入れのあるやつだけど、あんたに渡すなら俺も後悔しなさそうだ。
それと今言った事は、まあ、旅仲間には話しても良いが、言うにしてもここを去ってからにしてくれ」
「え、ええと」
呆然とするままのメイを置いて、ヤヌアールはさっさと闘技場から去ってしまった。
ヤヌアール:
ヒューマン♂
戦士
魂☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
力☆☆☆☆
速☆☆☆☆
技☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
魔☆☆
神☆☆
特筆: 世界の理を理解している能力? 短命。多分他にも秘密が何個か隠れている。
比較用ユーリ:
魂☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
力☆☆☆☆☆
速☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
技☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
魔☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
神☆☆