ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい 作:ムラムリ
メイが内心恐れてさえもいたような、舐められるような事は何も起きなかった。
ヤヌアールに新しい手を出させたというのもあるが、それ以上に闘技場に深く刻まれた4本の傷跡がそうさせた。
メイの放った飛ぶ斬撃は、深く、長く、闘技場の壁に傷を残した。
ミノタウロスが、業物を使って渾身の一撃を放てばそれはもちろん、その位の傷も付くだろう。だが、属性付与をした斧槍で斬撃を飛ばした、しかも片手で、となるとその威力はヤヌアールでさえも出せない。
更に言うならば、軍人だからこそ、ダンジョンに挑んだ事がある人は少ない。戦争も数百年起きていない。だから、軍人は別に人を殺す事に慣れていない。
それなのに、メイは当たらない事が分かっていたとは言え、最初から最後までヤヌアールをさも当然のように殺すつもりで襲いかかっていた。
図体がでかい以上の火力を出すミノタウロス。人を殺す事に何の躊躇いもミノタウロス。後者は別にウトもメイもエロクーも変わらないのだが、戦っていた時の迫力は少なくとも、誰からも恐れられるようになるには十分過ぎたのだった。
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冬の最中、体験という形で暫く軍に入っていたが、それも最初に決めた期日が近付いてきたある日、4人は呼ばれて軍に正式に入る意思があるか聞かれた。
大砲を触る事が出来たエロクーだけが少し迷っているように見えていたが、ここに自分だけ残る程に大砲に惹かれてしまった、という訳でもなかったようで、結局全員が最初に定めた期日に軍からは去る事となった。
ただ、その前に、と。
国境にまで見学しに行く事になった。
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「最後に戦争があったのって、何百年も前って聞いていたけど……」
国境には、分厚く、高い、何者も阻むような壁が延々と東西に伸びている。
ただ空高くに建っているだけのダンジョンが、まるで些細なものに見える程に、延々と。南の国とは分かり合えないと強い拒絶を示すように。
それからその壁の上に登ると、その先には地平線まで続く緩衝地帯が広がっていた。そしてそこは、最後に戦争が起きたのが何百年も前だとは思えない程の、荒れ果てたままの大地だった。
野生動物も、殆ど見えない。
「毒が大地の奥底にまで染み込んでいるし、罠だって色々と残ったまま。回収されないままの遺骨も沢山残っている。
ただの鳥でさえ、ここには余り足を降ろさない。そう言う場所さ」
今日も監視を続けている軍人が、もうこれまで何百、何千回と言ってきたような口調で説明する。
他にも見学に来ている人はぽつぽつと居た。
……ヤヌアールはもしかして、ここを1人で歩いてきたのかな?
メイは心の中で疑問を抱いていると。
「たまーにな、南の国から人がやって来るんだよ。単純に好奇心でやってきた学者だったり、南の国に居られなくなったような罪人だったり、後は気の狂ったような押し付けがましい宣教師だったり。
でも大半はな、獣人や魔獣がさも当然のように、ヒューマンやらエルフやらドワーフやらと混じって生きているのを見て、動けなくなるんだ。
ま、だからと言って帰す訳にもいかねえから、ここから近い場所でこぢんまりと暮らして貰ってるがな」
……でも、ヤヌアールからは、南の国の話から聞いたような嫌悪感は微塵も感じなかった。
慣れただけなんだろうか。
「……こっちから、南に行く人は居るの?」
「来る奴が居るなら行く奴も居るというのはまあ、当たり前だな。夜も監視は欠かしてないが、国境沿い全てにきちんと、誰も通さないように出来ているとは言えないし、それに他の国から経由して行く手もありはする。
この国と南の国の直接の行き来が出来ないってだけだからな」
「……そう」
ヤヌアールが強い理由には、短命な事にもきっと関わっている。
でも、何で短命なのか、何で南からここに来たのか、そこ辺りは何も分からないまま。
ここを去る前に、もう一度話してみよう。このナイフの事も含めて。
そう決めてから、改めてその荒れた大地を眺めた。
沢山の、とても沢山の人が戦争の度にここで死んでいった。時に壁も破壊されて、幅広く攻め込まれた事もあったと言う。
私のような強さなど持たない人達が、凶悪な兵器を運んでドラゴンをも殺した。
マスターのような、個としての力を大きく越えたような人達が協力し合って、それを滅ぼした。
歴史の勉強をしていると、そのマスターの名前も出てきていた。
けれども、遥か昔には、その南の国とも交流がある時代があったのだとか。その時の災厄を止めた人達は、その南の国に助けを乞われて、南の国で起きていた異変から人を救出した事もあったとか。
それでもこうなった理由までは教わっていないけれど、別に……正直そこまで知りたくもないというのが本音だった。
「まあ、俺達が行く事なんて無いだろうからな。嫌われてる獣人と魔獣だし」
「でも、無関係じゃないって事でしょ」
ウトの言葉にディッツェが補足した。
「そりゃあ、な」
エロクーの方を見ると、どうにも真面目な顔で大地を眺めていた。
大砲をここから撃つ想像でもしていそうだった。
ただ……人をぐちゃぐちゃにする事を想像して愉しんでいる、とまではいかない気がした。
「……もう少し、この光景、見ていても?」
「好きなだけどうぞ」
……また、用があってここに来る事は、出来ればあって欲しくないな。
実は、これから戦争がまた起きたとしたら、エロクーが使い方を学んでいる、ただ重い鉄球を飛ばすだけの大砲なんて、もう使わないらしい。
もっと簡単に狙いを定める事が出来て、もっと効率的に破壊を達成出来る、そんな発展した兵器が行き交う場所になる。そういう兵器を扱う為の良く分からない訓練もさせられたけれど、その内実は敢えてこの国には広められていない。
個がどれだけ強いかなんて、全く関係ない場所。どれだけ多彩に想像して入念に準備をしてきたか、どれだけ数を揃えられるか、それだけの場所。
「……ヤだなぁ」
そんな戦争がまた起きたら。
でも、以前の戦争は災厄で、この国が酷く傷ついた後に起きたらしい。
そして……災厄の予兆みたいな出来事を、私は既に体験している。
「……ヤだなぁ」
思わず二度も呟いてしまったそれに、誰も何かを言う事もなく。
もう暫く一向はこの光景を眺め続けていた。
まあ、銃も実はありますよって事です。基本出さないけど。