ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい 作:ムラムリ
体験入隊の最終日。その昼休み。
食堂で、メイはいつものように皆から少し離れた場所で。そしてヤヌアールも同じように皆から少し離れた場所で、黙々とご飯を食べていたが、メイが食べ終えると、出る前にヤヌアールの方へと歩いた。
「ねえ、ヤヌアール。今晩ちょっと良いかな。ちょっと喋りたくて」
「……オレもそう思っていたんだ」
そうして、適当に街中を歩きながら喋る事になった。
*
夜の街中。都市や街ほどではないにせよ、街灯が少なからず灯っていて、夜でも普通に歩ける。
数多くある飯処からは、様々な匂いが漂ってきていた。
メイとヤヌアールが歩いていると、至るところから視線を感じる。
メイとヤヌアールの戦いの後、町中で頻繁に起きていた喧嘩も、少しだけ数が減ったとか。
どうにも戦った当人達が思う以上に、それを見た人の影響は強かったらしい。
でも、そんな気にする事はなかった。街の時のようなつまらない事をしてくる人は居なさそうだったから。
「……色々聞きたい事はあるんだけど。聞けそうな事で、一番聞きたい事は、やっぱり……これからどうするの? って事かな」
「これから、か」
ヤヌアールは頭の後ろに手を組んで、空を見上げて。
「その時が来るまでこの国を満喫したいと思っている、ただそれだけだ」
「……」
メイはその一言で、ヤヌアールが小さい頃にどのような扱いを受けてきたのか、大まかに分かってしまった気がした。
南の国でのヤヌアールの人生は、ヤヌアールのものではなかったのだろう。一人に押し付けて良い重さではない責任を押し付けられていたような、そういう印象を感じた。
「……この国は、オレ達の国に比べれば、時間の速さがとても違う」
「時間の、速さ?」
「言い換えるなら……何かにならなくてはいけないという圧力が少ない、というところか」
「……」
「様々な種族が暮らしているからかな。力仕事が得意な種族。手先が器用な種族。頭を動かすのが好きな種族。
それぞれが出来る事をしていれば、基本世の中が回っているんだよな、この国は。
もちろん、それで軋轢が全くない訳でもないと思うが、オレが歩いた限りじゃ、この国の鬱屈は、オレの国の鬱屈よりかなり少ない」
「……そう、なのかなあ?」
あんまり肯定は出来なかった。メイ自身はそういう鬱屈とした感情をぶつけられた事は多かったから。
「別にオレも、オレの国の事を深く知っている訳じゃないからな。もう何年かしたら、ここで過ごした時間が南の国で生まれ育った時間に並ぶくらいだし。
ただ、帰るつもりは全くない。オレはこの国に骨を埋める。それだけはきちんと決めている」
「……」
何があったのかは、今は言うつもりはないみたいだった。
でも……私が故郷の事をあんまり好きじゃないのとは比較にならないくらい、ヤヌアールはきっと自分の国の事が好きじゃない。
それは分かった。
「……この国の事は、好き?」
「好きか嫌いかというより、落ち着く」
「落ち着く?」
「オレが求められていないから。外からあれやこれや言われるのはもううんざりだ」
「……軍で剣の指南をしてるのは?」
「結局、それも趣味の範疇だよ。
オレは、進化した兵器が飛び交う戦場に出ても剣を振るって成果を上げられる。単身敵陣に飛び込んで殺戮まで出来る。
メイだってもっと鍛えればそう成れる余地はある。
だが、そう成れるのは極々少数。100人に1人とかそういう次元ですらない。
だからオレがやってるのは、剣を振るうのが好きな奴に、剣の楽しさを教えてるだけだ。その位ならオレだって歓迎だしな」
「……」
「メイ達は、旅をするのに別に目的はないんだったか? ウトやディッツェからはそういう風に聞いた」
「……まあ、そんなところかな。
一応お婿さん探しっていう目的も無くはないけど、気付いたらどっか行っちゃった」
「……あんたに似合う男、か。
……オレはどうなんだ?」
「私が抱いたら壊れちゃうでしょ」
「…………そりゃあ……そうだな」
好きとか嫌いとかの前の、当たり前のことを返したつもりだったけれど、妙に間が空いた。もしかして……本気だったところがある?
「……」
「…………」
気まずくなって、話題を変える事にした。
「……その内、北には行くの?」
「冬が明けて暫くしたら、一人で行くつもりだ。今のところは、な」
「私達が着いていくには、力不足だよね」
「まあ……そうだな。着いていくなら、都市のダンジョンか、東か西のダンジョンか、そこ辺りは踏破して貰わないと。全員ででも良いから」
「サブマスターに勝て、って事かあ」
「サブマスター? あの20階のドラゴニュートか?」
「うん」
「ああ、相当に強かったな。でも、オレが使った障壁を使いこなせれば、そして全員で掛かれば勝機はある、くらいだと思うな」
「そう、なの?」
「言っておくが……あの戦法、もう少し工夫を凝らされていたら、オレも結構危なかった」
「えっ」
「後は自分で考えるんだな。あんた、勉強はそんな出来なくともバカじゃないだろ?」
その後は他愛ない会話……この国を巡って好きな場所や食べ物を喋ったり、後は頑丈な障壁を作るコツを聞いたりしてから別れた。
*
*
翌日。荷物を整えて軍の施設を出る。ヤヌアールも見送りには来なかった事に少し疑問を思ったが、施設を出てから少しして、ウトが言ってきた。
「ヤヌアールさんからメイさんに向けて伝言なんだけどさ。
『オレも頑張る』って一言だけ伝えてくれって。……どういう意味なんだ?」
もしかして……私に抱かれても壊れないように?
本当に本気なの??
「ええと……うーん……思い当たる事はなくもないけど」
「ふぅん? ……まあ、突っ込まないでおくよ。
それで、これからはどうするか決まってるのか?」
「……やっぱり、北には行ってみたいと思うから。ヤヌアールとも一緒にね。
だから、ヤヌアールに認めて貰う最低限……皆でサブマスターを超えられるように暫く修行しようかなって思ってるけど」
「いきなりユーリさん越え!?」
「ヤヌアールが言うには、全員で掛かれば可能性はなくもない位なんだって」
「ユーリ越え、か」
エロクーはまんざらでもない様子だった。如何にも悪意のある顔だったけれど。
「私も何か出来る事があるなら、兄ちゃん達にでかい顔が出来るから良いかもしれない」
ディッツェも意外と前向きで。
「うーん、じゃあ、俺も頑張ってみる、か」
一番不安そうだったウトも押される形で賛同して。
「じゃあ、そうしようか。都市に戻ったらどうせサブマスターは居そうだし、都市に戻る道中で手頃な場所があったら、そこで色々頑張る形で。
今日はたくさん食べて、明日出発で」
「分かった」
「ワタシもそれで構わない」
「はーい」
それから、皆を改めて見回した。
久々に全員の顔を纏めて見た気がする。別に一人一人とは大体毎日顔を合わせてたのに。
でも……。
ちょっと気になって聞いた。
「ねえ、ウト。ヤヌアールにあれからも手合わせとかして貰ったの?」
「え? あれきりだけど?」
「いや、何か変わったような気がして。どこがとか言われてもちょっと分からないけど、強くなったというか」
「え、あっ、いやっ、ええと、メイさんが思うならそうじゃないのか?」
妙に動揺しているのを見て、メイどころか全員が察してしまった。
「……ごめん、いや、おめでとう?」
「あーあーあーあーあーあーあーあー!!!!」
ウトは街中にも関わらず、大声で叫びながら一気にどこかへと走り去ってしまった。
「……ほんと、ごめん」
そういう訳で4章おしまい。
高校の部活の同期と大学時代に飲んだ時の会話。
私「僕、結局童貞のままなんだけどさ、童貞捨てたりしてる?」
同期「そりゃ捨ててるけど」
私「ええっと、どうやって?」
同期「そりゃ普通に、そういう場所に行ってだよ」
私(普通なんだそれ)