ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい 作:ムラムリ
メイちゃんの事が不安で仕方がない
西のダンジョンにて。
独力で覚醒出来るところまで辿り着くも、技術は拙いにも程があるデゼンに体の使い方を教えるべく、スィニチは指南役として雇われる事となった。
そして、更にそこから何十日も経った後、ようやくダンジョンのサブマスターたるユーリとダンジョンマスターが帰って来たものの、ダンジョンマスターは共有をユーリに任せてさっさと自室に篭ってしまった。
ユーリは溜息を吐きつつ異変の話を共有するが、その後にはメイ達の事を楽しげに話し始める。
メイは西のダンジョンで務める中では一番若かったし、ヴァンパイアなど分身を駆使して務める人も多い中で、生身で務めていた。
更に言えば、たった一人で田舎から飛び出してきたというのもあって、一人でばっさばっさ挑戦者達を真っ二つにする程に恐ろしく仕上がった事を含めても愛されていたメイの事に、誰もが耳を傾ける。
そんな中、スィニチは口を開いて。
「なあ、メイは10年後や20年後にどうなっていると思うんだ?
少しは考えた事もあるだろう?」
そんな質問を投げた。
「メイは、お前さんすら超える可能性すら普通にあるだろう」
そう付け加えると、ユーリは難しい顔をした。
「……メイちゃんがスィニチすらも上回った一番の理由って、まあ言われなくても分かるよね?」
「……俺に腹が立ったから」
「うん。もう少し詳しく言うとするなら、その負の感情に常人より遥かに強いエネルギーを出せるから。
……メイちゃんが強くなれる理由って、男である僕達とは全く別物なんだよね。
僕達が、最終的に言ってしまえば、子供達が楽しげに剣を振り回しているのと同じ理由で強くなろうと思ってるのに対して、メイちゃんは誰かが気に食わないからという理由で強くなる」
「……」
スィニチも何とも言えない顔をした。
「メイちゃんはね、素質をきちんと開かせるだけで、ここのダンジョンの16階を1人で務める程に強くなった。
でも、この前メイちゃんをまた鍛え直して、僕がただ攻め立てるだけじゃ感情が全く波打たない様子を見て分かったよ。
メイちゃんがあそこから更に強くなるには、外的な要因がないと壁を乗り越えるくらいにまでは強くならない」
「その外的な要因は、俺みたいな……気に食わない、そしてその時のメイが全力で努力すれば乗り越えられる奴であれば良いという事か」
「まあ、そんなところ」
「ユーリがそうなる事は考えないのか?」
そう言うと、冷たい目で見られた。
「その言葉、そのまんま返すけど。
スィニチはまたメイちゃんにあんな感情を向けられた上で、殺し合いしたいと思うの?」
「……御免だな」
「事の顛末を聞いた時、メイちゃんのドス黒い笑みがかなり鮮明に思い浮かんだからね」
はぁ、と酒を飲む。
「……メイちゃんにもっともっと強くなって欲しい気持ちは僕にもあるよ。メイちゃんが僕達みたいに純粋に強さを求め続けたらどれだけ強くなるのか、見たくないと言ったら嘘になる。
でも、スィニチとの出来事みたいな事が続いたとしてもメイちゃんは歪むだろうし、そんな歪んだメイちゃんはもちろん見たくないし。
だから……旅の途中でそういう、前向きに強くなりたい理由が新しく見つかったりしたら、僕としてもとても嬉しいんだよね」
もし、メイが男だったなら。そして俺達みたいに純粋に強さを求める性格だったら。
そんな事もスィニチは想像してもみたが、それはそれでつまらないとも思ってしまった。順当に強くなるだろうが、あんな爆発的に短期間で強くなる事はまず起こらないだろうから。
「この機会だからもう一つ聞くが……。
その内メイにはここに帰ってきて、また勤めて欲しいと思うのか?」
「それもね、逆に聞くんだけど。
メイちゃんが普通の生活をしている姿って思い浮かぶ?」
色々と想像してみたものの……。
家庭を築いて家事ばっかりしているなんて、メイ自身も退屈で仕方ないだろう。
素質があるとしても僧侶として働いているのも正直似合わさそうだし、武術や体術を教える立場になるとしても、堅実に少しずつ積み上げてきた強さでないなら、正直それも向いてないような……。
そして働くなら……やっぱりダンジョンで立ちはだかる壁として戦っているのが一番似合う。
「……どれも似合わないな。だからダンジョンに戻ってきて欲しいと?」
「うーん……。それも難しいところだと思ってて。メイちゃんが旅をする内で数ある選択肢を見つけた上で、最終的にここに帰って来るならそりゃあ大歓迎だけどさ。僕もそんな感じだし。
何にも見つからなくて、まあとりあえずまたここで働きますって言われたら、もっと旅を続けてよ! って言いたくなっちゃうと思う」
「人生でやりたい事なんて無理に見つけるものでも無いわよぉ。ただただ毎日を生きているだけで楽しいって人だってたくさん居るんだから」
ヴァンパイアとなって長年生きてきたジュアンが口を挟んできた。
「でも、見つけて欲しいって思うのが親心ってものでしょ。……親じゃないけどさ」
「生きていてくれれば私は満足なんだけどねぇ」
それには難しい顔をするユーリ。もう一度酒を注いで飲む。
都市で色々振り回されたのだろう、今日は量が多い。
「後……これはただの妄言なんだけど。
メイちゃんには、今のうちに色々楽しんで欲しいんだよね」
「…………」
それには、誰もが口を噤んだ。
「災厄の予兆と言っても良い出来事に、一番最初に巻き込まれたのがメイちゃん達だった。
メイちゃん達はまだ、ダンジョン内でしか起きないような、自分から巻き込まれにいかなければ、また関わるような出来事ではない、くらいには思ってるみたいだけど。
どうにもね、僕は運命的なものを感じてしまうんだ。
次に遭遇したパーティは、1人を除いて帰って来なくて。死んだら回収もされず、蘇生もされずという本当の殺し合いにいきなり置かれて、パニックになってしまったみたいで。
最終的にその1人も後を追っちゃって、昇天しちゃって……。
初めての災厄に巻き込まれてもあっさり生還したメイちゃん達は、またダンジョンに挑もうが挑ままいが、また災厄に巻き込まれる。
……そう思えて仕方ないんだ」
「それなら……もうユーリさん自ら、正直に伝えて鍛えに行った方が良いんじゃない?
16階をデゼンとデケムに任せるなら、ユーリさんの出番も早々無いでしょお?」
「……過保護みたいだけど、そうしようかなぁ……」
ユーリは、酒が入って来るに連れて不安が漏れて来ていて。
結局、翌日には書き置きだけ残してまた外へと飛び出していた。
メイちゃんが普通にニコニコしているところは想像出来ないんだけど、ドス黒い笑みを浮かべてるのはもうそういう部分を書いたからか容易に想像つくんですよね。