ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい 作:ムラムリ
南から都市に戻る道すがら。途中で道を外れて誰の邪魔も入らないような山の中で、特訓を始める事にしたメイ達。
そのメイが、斧槍を手にして準備運動を始めた時、すっかり開き直ったウトはそう言えば、と聞いた。
「そういえば、メイさんってグローブと斧槍は併用出来ないのか?」
「出来ると思うけど、別にしたところであんまり私の戦力は変わらないかな、って。
近付かれたとして、パンチするって言っても、斧槍を避けられた時点でパンチしようとも体重とか勢いとか乗せられなさそうだし。
後、斧槍を持つ感覚が思いっきり変わっちゃったり、腰の袋とかから物を取り出すのも引っかかりそうだし」
「でも、選択肢は増えるだろ?」
「選択肢が増えるからって、ウトは何か持ったりする?
サブマスターが言ってた事だけど、選択肢が増える事は強くなる事じゃないって。逆に何が最適か考える時間が増えちゃって、判断に時間が掛かる。その僅かな時間の積み重ねは簡単に致命傷に繋がるって。
それくらいなら一つを極めた方が良いって」
「……まあ、俺とかはまだそうだろうけど。でも、メイさんは違うんじゃないか?
斧槍をこれ以上極めたって、ヤヌアールさんには手も足も出ないだろ?」
「うん。でも、やっぱりそれはパンチとかキックとか、そういうのじゃないと思うんだよね。
それに本当に至近距離まで詰められたなら、パンチするより、首を掴んで握り潰す方が早くて確実だから、殴る為のグローブより、鋭い爪の生えたような籠手の方が良い気がする」
……さらっと恐ろしい事言うな。
「それとやっぱり、私がこれから強くなる為に一番やるべき事は、ヤヌアールもやってたあの障壁の習得だよ」
「ああ、あれか……」
「私はミノタウロスとしてはとても疾い方だけど、それでもミノタウロスだからね。ウトみたいに何でもかんでも避けて距離を詰めるなんて事出来ないから、やっぱり身につけないと。
特にサブマスターみたいに手数で攻めて来る相手には」
「手数って言っても、一つ一つがメイさんの飛ばす斬撃に近い火力があるんだろ?」
「まあ……うん。だから、一つでもまともに食らったら、生身じゃ真っ二つな事は間違いないね」
ヤヌアールはそれでも、四人で掛かれば勝機はあると言っていた。
「その上で、体術もかなり優れてるはずだろ? スィニチさんを上回る程に」
「でも、疾さだけで言うなら、ウトの方が疾い。一撃の火力でだけで言うなら、私の方が高い。
ドラゴニュートは、全体で言ってしまえば、人族の中で敵う存在は居ないと言っても良いけれど。
一芸で勝てる種族は沢山居る」
「それじゃあ、私とエロクーさんはどうすれば?」
「サブマスターの手数をどれだけ削れるかってところ」
「嫌らしく水を差せって事ね」
「うん。
その為にも、ディッツェとエロクーにも、サブマスターの攻撃を防げる防御力は必要になるから……。ディッツェはエロクーの背中に乗って一緒に戦って貰うのが一番良いと思う」
「まあ、そうなるよな」
エロクーは嫌そうな顔をするも、絶対に嫌だという程でもなかった。
なんだかんだ、少しは慣れている。
「やれる事は幾らでもあるけど、一つ一つ整理して、出来る事を一つ一つ増やしていこうか」
*
*
山の中での鍛錬の日々。
狩り、もしくは採集をして腹を満たして、後の時間は出来る事を増やしたり、元々出来る事の質を高めていく、ひたすらに反復の日々。
けれど意外にも、それに飽きる事は誰もなかった。
強くなるという事自体がのめりこめる事だったウトは、言うまでもなく。
これまで逆らうという事自体を考えて来なかった相手を倒せるかもしれないと意気込んでいるエロクー。
ディッツェも最初は、兄達に大きい顔が出来るかもしれない程度の理由だったが、エロクーに乗って空を飛び回る事がかなり楽しいらしく、弓や障壁の技術はメイから見ても驚く速さで向上していた。
そしてメイも、サブマスターを超えられるかもしれないと言われた事は、自分自身でも驚く程に鍛錬に励める理由になっていた。
「……勝てたかもしれない、か」
「何か気付いたのか?」
「うん。ヤヌアールは、私がもっと工夫を凝らしていたら危なかったって言ってきたんだけど、多分それはこれの事だなっていうのが、障壁を作る練習をしていたら分かってきて」
メイはまず、そんなに硬くなさそうな障壁を作った。
「障壁って、基本的に魔法に強いもので。でもそれは物理には弱い」
その障壁はメイが指で弾くと簡単に砕けた。
それからもう一回、如何にも硬そうな障壁を作る。それは指で弾いても硬質な音を返しながらしっかり形を保っていた。
「物理に強い障壁も作れるけど、今度は魔法に弱い。
その両立はかなり難しくて。作るにしても、どちらかに偏らせたのを二枚重ねるのが普通だったりして。
まあ、それもそれでかなり難しいんだけど」
「そうなのか」
「うん。だから……一瞬だけとんでもなく硬い障壁を作るって、二枚重ねも、強さの両立も基本出来ないんじゃないかな」
メイはそれから、緩い接着剤で固められた、小粒の鉄球の束を取り出した。
「ああ、属性付与」
「うん。属性付与をして投げていたら、それでも半分くらいは跳ね返ってくるだろうけれど、半分くらいはきっと貫通して届いていた。
今まで、物理に強い障壁なんて作られても斧槍を叩きつければ簡単に壊れるものだったし。
そういう、一瞬だけとんでもなく硬い障壁を使って来る人なんて数えるくらいしか出会ってないし、その数えるくらいの人も連撃には対応出来なかったしで、そもそも経験が足りなくて頭が回らなかったんだなあ、って」
「でも……それはきっとユーリさんは分かっているだろ?」
「うん。
サブマスターは、体術も魔法も凄く強いけど、やっぱり魔法寄りだから、属性付与した散弾も完璧に防いでも全くおかしくないけど。
でも、作っている間、サブマスターが出来る事は、確実に削られる。
その間、他の魔法による攻撃は、少なくともかなり落ち着くはず」
「俺が懐に潜り込める隙が生まれる、と」
「そういう事」
結論が着いてから。
何故かウトは深く考え込むように腕を組んだ。
「何? そんな思い込んじゃって」
「いやー……1年前は空を飛ぶエロクーに手も足も出ずに殺されていた俺が、今は西のダンジョンの最上階付近で単身フロアボスを務めるドラゴニュートに牙を向こうとしている、っていう事が、ふと振り返ってしまえば有り得ないように思えてしまってな」
「だって、ウトがパーティ組んでたらとっくに私のところまで来てたでしょ」
「そしてメイさんに殺されて、メイさんにつまらない事を仕掛けて、復讐されていたかもしれない、と」
「……まあ、パーティを組まずに1人で頑張ってたのは、正解だったんでしょ」
「正解、か……」
頼りにしているというような言葉と全く同義な言葉を投げかけられて、ウトは思わず恥ずかしそうに頭を掻いた。
テトラカーン、マカラカーンが消費SP24で、
生命の壁は消費SP95ですか。いや……クソ安いな?