ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい 作:ムラムリ
「こんにちは」
「……こんにちは」
ヤヌアールの前にドラゴニュートが降りてきた。それは、西のダンジョンにおいて実質的なラスボスを務めているユーリ。
ヒューマンよりやや大きい程度の大きさでありながら、全身を艶やかで硬質な赤い鱗で包みつつ、頭からは角を、背中からは翼を生やすその姿は、威厳も内実もリザードマンとは比較にならない。
この国で色んな相手と戦ってきたが、かなり強烈に覚えている相手だった。
複数人ならば、ユーリを上回れるというパーティは少なくない数が存在している。都市のダンジョンや、北を除いた、西のダンジョンと毛色の似ているダンジョンの最上層に座しているのも基本はパーティだ。その中にはドラゴンを含んでいるものだってある。
個で最上層に座しているのは、本当に数える程度。その中の一人がユーリ。
……オレと同じく、発展した兵器が飛び交う戦場を駆け抜けて戦果を上げられる強さを持つ存在。そして……その内、一人で戦況そのものを塗り替えてしまうような強さまで至る事に疑いもない。
「いきなり現れて、何かオレに急ぎの用でも?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど。君がここにいるとは思わなかったからさ。つい声を掛けちゃった」
「……」
直に話すのは初めてだけど。喋りは軽いんだな。
「でも、君がここに居るなら納得か」
「……何が納得なんだ?」
「ああ、ごめん。最初から順に追って説明しようか。
時間、大丈夫?」
「ああ」
メイ達は災厄の予兆に巻き込まれていた事。
それに対して、後からまた不安になって会いに行ってみれば、南に行ったはずなのに、ここからそう遠くない場所で山籠りをして鍛錬をしていた事。
顔を合わせるよりも、南で何があったか知りたくて来た事。
「メイちゃん達はかなり真面目に鍛錬してたんだけど、そもそもメイちゃんはそんな自分から本気で強くなろうって思うタイプじゃないから気になってね。
でも、君に触発された訳だ。……どう触発されたのか、かなり気になってるけど」
不安そうに見て来る目は、怒らせてないよね? とでも言いたげだった。
オレとしては、どちらかと言うとあんたの方が不安なんだけどな。
「……オレは、近い内に北にも挑むつもりだ。そして着いて行きたいなら、都市とか西くらいの難度のダンジョンは仲間と一緒で良いから踏破しておけ、って言っただけだ」
そう言うと、ユーリは本当に予想していなかったような驚き方をした。
「そうなると……あれは、僕レベルの相手を倒す為に?」
一人称も『僕』なんだ。
「というか、あんたを倒す為に頑張ってると思うぞ。まあ、そうだよな。近しい強さでメイが一番親しいのはあんたなんだろうから」
「へぇー……へー、へー……」
怒っているとか、呆れているとかではなく、楽しそうに、嬉しそうにしていた。それもかなり。
「メイと戦いたかったのか?」
「いやいや。
さっきも言ったけどね……僕はね、これからメイちゃんが災厄に巻き込まれていくんじゃないかって嫌な想像がずっと離れなくてね。
でも、今のままじゃやっぱり不安で、もう少し強くなってくれないかなー、自分からそういう目標を見つけてくれないかなーって、思ってたんだ。
それを見つけた事が、嬉しくて嬉しくて。
ありがとうね、本当にありがとう」
「……それであんたが負ける事になったとしても?」
「僕を殺せるくらいにまで強くなったなら、もう願ったり叶ったりだよ。僕が心配される側になるくらいでさ」
「…………」
羨ましいな。
「あんたさ、どうせオレの事も事細かに知ってるんだろ? オレが南から来た以上に、どういう所以を持つヒューマンかって」
「まあ、ね。最初の災厄を収束させたパーティの、そのリーダーのヒューマンに似た、そしてそれ以上に磨かれた能力だよね。
誰にでも得られるチャンスはある。でも、そんな事を自らしようとする人は居ない。
そういう事を……複数重ねたんでしょ」
「…………」
「君に対して、僕は何も言うつもりはないよ。南の国に戻らないつもりなら、尚更だ」
「…………なあ」
「何だい?」
「あんたにとって、オレはメイを引き立たせる為だけの存在か?」
ユーリはすぅ、と目を細めた。
「言ってしまえばそうだね。
だって、僕はメイちゃんを一から育て上げたんだから。
君の能力から推測出来る過去は、僕としても、とても同情するけれど。
でも、僕にとってはメイちゃんの方がよっぽど、比べ物にならないくらいに、大事だ」
余りにも、当たり前な。
それでいて、心が深く傷付いた感覚。
奥底から湧き上がって来る怒り。
「それに、僕が君に慰めるような事を言っても、君には響かないでしょ。
僕にとって君が大切な存在じゃないように、君も僕の事が大切じゃない」
「……」
「だから、僕が君に出来る事は精々、僕自身が長く生きて来て感じている事をそのまま言葉にして、君の残りの人生が少しでもマシになるかの判断材料にして貰うくらいかな」
「……それはなんだ」
「自分の為だけに生きるより、他の誰かの為に生きる方が最終的に満たされるって事」
「……陳腐な台詞だな」
「陳腐になる程に使われてきて、滅びなかったって事だよ」
溜息。
舌戦で勝てる事はないな。オレがこいつに勝てるのは、単純な強さだけだ。
「……なあ。それでもオレはあんたにムカついた事は変わらねえんだ」
「そうだろうね」
「1回戦わせろ」
「本当に殺し合うかい? それとも模擬試合で済ませるかい?」
……どこまでもあっけらかんとしやがって。
「オレに勝てると思ってるのか?」
「僕はね、君があの時のままなら勝てると踏んでいる。でも、そうじゃないだろうしね。
勝つか負けるかより、それぞれがどれだけ前に進んだのか確かめたい気持ちの方が強いね」
「その為に死ぬ事になってもか?」
「それだけの危険を犯す価値はある」
「……」
淡々と、偽りのない、飾り気もない、それどころかオレの感情なんぞ微塵も慮らない言葉。
「本気で殺し合おうか。あの時と同じくな」
「うん」
言葉に、僅かながらも興奮が乗っていた。
ユーリにはモデルは居なかった……はず。