ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい 作:ムラムリ
「うーん……」
悩むメイの前には、幾多の深い斬撃の痕跡が残る大岩が。
いつものメイなら、これだけの回数をこなしていたなら、とっくに真っ二つにまでなっていてもおかしくないそれ。
「……何を悩んでいるんだ?」
エロクーは、半ば察しつつ聞いた。
「もっと威力を弱められないかなーって」
「……私達に飛ぶ斬撃に慣れさせる為か?」
「そう。まともに当たっても死なないくらいにしたいんだけど、そうすると私の場合そもそも斬撃が飛ばなくなっちゃって」
「……手加減の習得は、かなり時間が掛かりそうだな」
「やっぱり?」
そもそも属性付与は、どちらかと言えば魔術師寄りの技術だ。
メイは僧侶の魔法が使える。障壁の技術も日に日に上達して、その内、瞬間的に驚異的な防御力を誇る障壁だって作れるようになる事に疑いはなかった。
属性付与が出来るのもあって、魔術師としての素質も平均よりはきっとかなりあるだろう。
ただ、単純に魔術師としての技術は鍛えられていない。ユーリがどのようにメイに属性付与を仕込んだのかは分かりかねるが、眩い程に付与した属性をまるで力づくで飛ばしているように見えるその飛ぶ斬撃は、真っ当に習得する為の過程を幾つか飛ばしていてもおかしくはなかった。
「でも、かなり必須だと思うんだよね。サブマスターの飛ぶ斬撃に少しでも慣れておくって。
それに私しか飛ぶ斬撃は使えないし」
ヤヌアールの寿命が短いらしい事は既に伝えてある。
ヤヌアールが北に行くの対し、出来れば待たせたくないし、待つとも限らない。
そうなると、そこまで時間は多くなかった。
エロクーは少し悩んでから、返した。
「そうだな……。
障壁を張れるようになったらディッツェが魔術師としての基礎を教えるべきか」
「あれ、エロクーは?」
「ワタシがこの中で一番魔法を使えるがな、残念ながらワタシは参考にならない。魔獣は元々魔法を使えるように体に素質が刻み込まれているからな。
人が理屈を捏ねて色々やる事を、ぱっと出来てしまう。メイが元から僧侶の魔法を使えたようにな」
「そう言えば、そんな事言っていたような」
そこにディッツェが口を挟んだ。
「生まれつき僧侶の魔法が使えたなら、エロクーさんが教えてみる価値もあると思いますけどね」
「……否定は出来ないな」
そこに更にウトが口を挟んでくる。
「そう言えばさ。多分俺だけユーリさんの飛ぶ斬撃を見ていないんだよ。
やっぱり、メイさんの飛ぶ斬撃とは別物なのか?」
「別物っていうか別次元」
「……別次元?」
*
*
戦場は、闘技場ではなく緩衝地帯となった。ユーリが全力を出すには闘技場という場所では狭過ぎるから。
壁の上では観客が数多く居る。
毒が染み込み、朽ち果てた遺骸が今もそこらに転がっており、罠すらもしかしたら残っているその大地で、大きい距離を取って二人は相対している。
ヤヌアールの敏感に死を伝える感覚は、今までにない悪寒を伝えてきている。
まるで全方位から何十人にも囲まれているような。
そしてそれらは一糸乱れぬ統率をこれでもかと言うように見せている。
「あれからね、かなり考えて、鍛えてもきたからね。
分かっているようで何よりだけど君は……これも潜り抜けてくる。そう僕は信じて疑わないんだ」
「……そりゃ、どうも」
「だから、避けてね。まともに受けたら、多分蘇生も出来なくなるから」
「……」
ユーリは以前戦った時と変わらず、一振りの剣に属性を付与する。
それは以前とは比べ物にならない、剣そのものが崩壊してしまわないのが不思議で仕方がない程の、まるで太陽の如き眩さを誇る……。
それを、ただ前へと差し出すように向けた。
ヤヌアールは走った。体がどう動けば絶望的な包囲から潜り抜けられるのかを教えてくれる。
けれどそれは、メイが本気で殺しに来た時とは比べ物にならない……針の穴に糸を通すどころではない道を示してくる。
そして感じた悪寒の通り、剣からはヤヌアールの全方位へと散らばりつつ収束してくる斬撃が飛んできた。
「……やっぱり、潜り抜けてくるんだよね」
ヤヌアールの全方位に、可能な限り同時に、飛ぶ斬撃を放つ。
全方位だからこそ、深く地中へと潜ったりしない限り、ヤヌアールには確実に当たる。
そして全方位だからこそ、攻撃の密度は流石に薄くなる。ヤヌアールのような魔力の乏しい相手でも、理論上は生還する事が出来る。
その『理論上は』を潰さない限りヤヌアールは生還する。
予想していたとは言え、舌を巻く。
流石に無傷とはいかない。けれど、五体満足。全身から浅く血を流しつつも、どれもこれもが致命傷ではない。
その内失血死はするかもしれないけれど。
「……」
ユーリは、その上で僅かに迷った。
手段を選ばなければ、負けない術はある。魔力はまだ潤沢にある。もう数回これを繰り返せるくらいに。だから、逃げつつこれを単純に繰り返してしまえば勝てるだろう。
戦争なら、どのような卑劣な手段を選ぼうとも勝つ事が最優先されるならば、それを選ぶだろう。
けれど、殺し合いであれど、自分が殺されたとて何かが犠牲になる訳でもない。殺されたとて、蘇生がある。絶望したりだとか、遺体が酷く損壊していなければ、大体の場合は生き返る事が出来る。
そして何よりも、男同士の一対一の戦いでそんなつまらない、遠くから圧殺するだけの戦術なんてやりたくなかった。負けるとしても。
それ故に、ユーリは改めて属性付与をし、そして呼吸を整えて覚醒をし。
待ち構えるのではなく、自分からも駆けてヤヌアールへと剣を振るった。
そんな意図はヤヌアールとしても透けて見えつつ、こちらも剣を振るって応えれば。
……こいつ、オレの事をずっと考えてきたんじゃないか?
そう思わざるを得なかった。
剣を振るった先に光の斬撃が遅れて届いてくる。剣を弾いてもその斬撃を防御しなければいけない。
それにそもそも、剣をどのように弾こうが体勢が全く崩れない。背中で開く翼が揺らめけば、体は反撃する間もなく整い終わる。
肉薄されようとも、ヤヌアールの能力を以てしても、詰みへと持っていけない。空を飛ばずとも、その背中に生える翼による制動の多彩さはより磨きを増しており、他の人族相手ならば届いたような攻撃が不自然に届かない。
攻撃も、防御も、掴みどころがない。
その癖して属性付与した剣による攻撃は体重が乗っていなくてもどれもこれもが、きちんと魔力を乗せた剣や障壁で受け止める事を強要する致死的な威力を持っている。
崩せる体幹がどこにも存在しない動き、それをユーリは体得していた。
弾く。受ける。体勢が崩れない。
受ける。避ける。距離を詰めようとした時にはもう離れられている。
攻めに転じる事すら出来ない。
しかし、それに弱点がない訳ではない事をヤヌアールは既に見抜いていた。
四肢に加えて背中の翼を精緻に動かす集中力。体重を乗せなくとも高い火力を実現出来る飛ぶ斬撃。
出来る事を総動員するその攻勢は、どう見ても長くは保たない。
だから、攻めてくれるならば耐えていればその内勝機は訪れてくれる……が。
「参った参った!」
最初に受けてしまった傷を癒す暇もなく、息をも吐かせぬ猛勢を続けられて、こちらの体力が尽きる方が先だと分かってしまった。
ヤヌアール自身の能力が、負けを誰しも先に理解してしまったとも言える。
そう、剣を捨ててまで降参したヤヌアールに、ユーリは振ろうとしていた剣をピタリと止め。
「あれ……」
もうちょっと耐えるだろうと思っていたような、呆気に取られた顔をした。
「今のオレじゃあ、耐えるまでしか出来ねえ、それだけだ。
完敗だよ、完敗」
そう言うと、へたりと座り込んで、使える基礎的な僧侶の魔法で体を癒し始める。
ユーリは落ち着いて、自分の手を見つめた。
「……そっか、僕、勝てたんだ。剣術で」
「剣術って言っても、ドラゴニュートじゃねえと出来ない芸当だろ」
「……そうだけどね。それでも君の能力を接近戦で押し切れた事は素直に嬉しいんだ」
オレも接近戦でここまで押し負けるとは思っていなかったがな……。
「はぁ……。
メイ達に、全員で掛かれば勝機はあるだろうって言ったの、訂正しに行かないとな……というか、あんた、もう西のダンジョンに勤めちゃいけないだろ。
元から19階から20階の難易度の上がりようは酷かったけど、もう流石にやっちゃいけねえよ」
「えっ、えっ、ええ……」
あからさまに動揺したので、面白がって付け加える。
「20階も21階と同じように負ける事を前提とするダンジョンにするか? 素晴らしい場所だなあ!?」
「僕……いつの間にか北の皆と一緒になっちゃってたのかなあ……」
もう、勝利の余韻に浸る事すらなくなっているユーリを見れば、少しだけ腹の虫は収まってくれた。
毎日投稿が途切れた理由は、まあ……戦闘シーンが納得行かなかったってのもあるけど、最大の理由はほの暮らしの庭です。
このゲームマジでやめ時がない。レイダーズより黙々と延々とやってしまう。
あ、レイダーズは裏ボスより難しいミニゲームオールAランクまでやり込みました。
それとほの暮らしの庭で飼った牛と羊にメイとディッツェと名付けました。
このゲームでそんな事して大丈夫ですかね……。
ユーリがヤヌアールに勝つ為に頑張って会得した事:
全方位斬撃:
相手は全方位から同時に襲いかかる光の斬撃で切り刻まれて木っ端微塵になる。まともに食らったら蘇生すら不可。魔力は30%くらい使う。
覚醒:
とりわけ、スピードと手数に特化。足りない火力は飛ぶ斬撃で補う。
体力と魔力を湯水の如く使う、かなり時間限定な力になるけれど、蘆名一心が3倍速で襲いかかってきて、弾いてもそもそも体幹ゲージが存在しないし、自分から攻めかかろうともひょいひょい避けられてしまう感じになる。