ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい   作:ムラムリ

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メイちゃんも発展途上

「それでメイちゃんは、硬い障壁の習得を頑張っている、と」

「うん」

「攻撃面では何かしている事はある?」

「……色々考えてるけど、悩んでる。斧槍と鉄球だけでもうかなり十分だと思うけれど、そのままじゃいけないとも思ってる」

「うーん……確かに、メイちゃんの攻撃力はもう一級品だけど、ヤヌアールには歯が立たなかったよね」

「うん……あれには力だけじゃどうしようもないと思うんだけど」

「そうかもしれない。でも、そうじゃないかもしれない」

「?」

「メイちゃんに今必要なのは理屈より、理想なんだよね」

「ええっと……?」

 

 そこまで言って、何故かサブマスターも言うかどうかを少し悩むような素振りをした。

 

「……メイちゃんは、ヤヌアールを倒せるようになれるなら、どのように倒したい?」

「それは……私の一撃を、いなされる事も、防御される事もなく、真っ二つにしたい」

「……柔よく剛を制すと言うけど、柔よく剛で叩き潰したいという感じかな」

「そうなる、かな」

 

 ヤヌアール……。君もメイちゃんに好意を抱いてるみたいだけど……ごめん。

 

「それなら、やってみて欲しい事があるんだ。

 覚醒して、とにかく全力で縦切りをしてみて」

「? うん」

 

 呼吸を整えてさっと覚醒する。

 そしてそこから、斧槍を高くに振りかぶって。

 めぎ、めぎめぎと全身の筋肉がまるで音を立てるかのように怒張して。

 

 ずんっっ!!!!

 

 周りに地響きすら起こしたと錯覚する程の威力。実際、衝撃波で木々の葉が揺れていた。地中深くにまで突き刺さった刃先。

 そして……ただ振り下ろしたにしては、どうにも地面の亀裂は不自然な程に先まで続いている。

 

 ……近くでこれをされると、もう目を離したくもないな。

 

「……うん。やっぱり、今のメイちゃんは、斧槍を使えば真空波を使える魂の質(レベル)までに達しているみたいだ。

 しかも、肉体を使うだけでは吹っ飛ばすだけにしかならないのと違って、メイちゃんの斧槍を使った真空波は、飛ぶ斬撃と同じか、それ以上の威力になる可能性もある」

「でも……これ、ヤヌアール相手には避けられる気しかしないけど?」

 

 結局、魔力を使わずに斬撃を飛ばせるだけじゃないの?

 

「勘違いしないでね。これはただの入り口だよ。

 メイちゃんは覚醒をまだまだ使いこなせていないから。

 ウトよりも覚醒出来る時間もかなり短いでしょ? 多分半分もいかないんじゃない?」

「……うん、多分」

「覚醒も格闘家としては、ある程度の魂の質(レベル)も要求される、かなりの高等な技術になるけど、出来るようになった人にとっては、やっぱり入り口に過ぎないからね。

 覚醒出来るようになった後、最終的にどうなりたいのか。それがないままに闇雲に鍛錬しても、良くて器用貧乏にしかならないから」

 

 ……なんというか、特定の個人を示しているような言い方だけど。

 

「とりあえず、これを習得する頃には、一瞬だけ展開する硬い障壁も破壊出来るようになってるだろうから、まずはそれを目指してみれば良いと思うよ。

 出来るようになったら横切りとか、切り上げとか、突きとかでも出せるようになると、より良い。

 どう当てるかは、そこから考える事にしても遅くないから」

「分かった。……因みにサブマスターはこれ、出来るの?」

「出来なくはないけど……」

 

 そう言って、サブマスターも覚醒して、全身を捻った上で片手剣を一振り。

 目の前の木に浅い傷跡が刻まれた。

 

「片手剣をメインの武器にしてるんじゃ、このくらいしか出ないんだよね」

 

 分かりやすく落胆した顔をしていた。

 

「まあ、取り敢えずやってみる事にする」

「うん。それが良い。僕がやるよりよっぽど凶悪な攻撃になるはずだよ。

 それに、使いこなせるようになったら、結構他にも良い事あると思うよ?

 道具と魔力の節約とかさ。

 それと最後に、もう一つ」

 

 ユーリは指を一本立てて、斧槍を指した。

 

「?」

 

*

 

「じゃ、そろそろ行くから。

 そんな日の経たない内に、また来ると思うけど、元気でね」

「ええと、ありがとうございました」

「良いの良いの。僕が好きでやってる事でもあるんだから」

 

 軽く手を振ると、皮翼を広げてさっと飛び上がって、そのまま西へと飛び去って行った。

 それを見届けてから、メイは斧槍を見つめ直す。

 

「どうしたんだ?」

「もうそろそろ、この斧槍、お役御免になるって言われちゃって。

 寂しいなあ……」

 

 ウトが驚いてその斧槍を見る。

 真っ黒で、背筋が凍える程に鋭い斧の切先と、槍の穂先は、メイ自身の手で丁寧に手入れをされていて、今も全く衰えのない、鈍い輝きを放っている。

 柄も、どれだけ見ても曲がったりもしていない。

 限界とは思えないけれど……。

 

「ええと、打ち直しとかは出来ないのか?」

「いや、そういう事じゃなくて。覚醒した上で、私が全力で叩きつけたりすると、もうこれじゃ耐えられないんだって。

 だから、サブマスターが新しい斧槍を持ってくるって言ってて」

 

 メイにとっても思い当たる事はあった。

 街のダンジョンで薬を使って無茶をした事もあって、一度この斧槍は折れている。その時は、ダンジョンの作用で元に戻ったけれども、覚醒を使って同じような火力をこれから出し続けるなら、この斧槍はもう耐えられない。

 

「……ユーリさん、鍛治も出来るんだ?」

「いや、出来るのはマスターの方。

 まあ……もう別に言っても良いか。軍の方で歴史の勉強をしている内に名前も出てたし」

「あ、もしかしたらと思っていたけど、やっぱり先の戦争で活躍した人達の中の一人だったのか」

「うん。ハーフリングのフィヴ。

 他人が出来る事は自分にも出来ないと気が済まないという、ただそれだけで魂の質(レベル)が上がり続けた、とんでもない人」

「……ハーフリングなのに?」

 

 ヒューマンの更に半分くらいしかない背丈。

 その小ささの割には、出来る事は色々とあって、とりわけ隠密や魔法に優れている……とは知っているものの、それでもあの小ささで? とどうしても疑問に思ってしまう。

 歴史に名を刻んだ人であれど。

 

「うん。私の腰の背の高さもないけど、500年以上は生きてる人」

「ええっと、西のダンジョンの21階って、そのフィヴさんと戦うって事? ヤヌアールさんはそれをも倒した?」

「いや、負ける事前提だからね。だから、サブマスターを倒したらあのダンジョンは実質終わりなの」

「あ、ああ……そういう……」

 

 それはやっぱり、あんまり言ってはいけない事だったか。

 

「あんまり言わないでね。一応、ちょっとした秘密だからね。もし言いふらすような事をしたら……分かるよね?」

「分かります分かります! 言いません言いません!」

「よろしい」

 

 メイさんって、私が何かやらかしても殴るのかなあ。

 ……殴りそうだなあ。




フィヴ:
西のダンジョンマスター。
ハーフリングで500歳以上。
他人が出来る事は自分も出来ないと気が済まない、というだけでとんでもなく強くなってた人。
メイの斧槍やユーリの片手剣もフィヴが作ったもの。
とてもシャイ。
過去の南の国の侵略を止めた主戦力の一人。
務める21階は負けイベント。
どれだけ抵抗出来たかでクリア報酬が決まるらしい。

最初ではメイの斧槍を作った人、とだけ決めてたから、ドワーフにしようかなーとも思ってたけど、ハーフリングの方が似合いそうだったので。
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