ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい   作:ムラムリ

72 / 72
メイちゃんも発展途上

「それでメイちゃんは、硬い障壁の習得を頑張っている、と」

「うん」

「攻撃面では何かしている事はある?」

「……色々考えてるけど、悩んでる。斧槍と鉄球だけでもうかなり十分だと思うけれど、そのままじゃいけないとも思ってる」

「うーん……確かに、メイちゃんの攻撃力はもう一級品だけど、ヤヌアールには歯が立たなかったよね」

「うん……あれには力だけじゃどうしようもないと思うんだけど」

「そうかもしれない。でも、そうじゃないかもしれない」

「?」

「メイちゃんに今必要なのは理屈より、理想なんだよね」

「ええっと……?」

 

 そこまで言って、何故かサブマスターも言うかどうかを少し悩むような素振りをした。

 

「……メイちゃんは、ヤヌアールを倒せるようになれるなら、どのように倒したい?」

「それは……私の一撃を、いなされる事も、防御される事もなく、真っ二つにしたい」

「……柔よく剛を制すと言うけど、柔よく剛で叩き潰したいという感じかな」

「そうなる、かな」

 

 ヤヌアール……。君もメイちゃんに好意を抱いてるみたいだけど……ごめん。

 

「それなら、やってみて欲しい事があるんだ。

 覚醒して、とにかく全力で縦切りをしてみて」

「? うん」

 

 呼吸を整えてさっと覚醒する。

 そしてそこから、斧槍を高くに振りかぶって。

 めぎ、めぎめぎと全身の筋肉がまるで音を立てるかのように怒張して。

 

 ずんっっ!!!!

 

 周りに地響きすら起こしたと錯覚する程の威力。実際、衝撃波で木々の葉が揺れていた。地中深くにまで突き刺さった刃先。

 そして……ただ振り下ろしたにしては、どうにも地面の亀裂は不自然な程に先まで続いている。

 

 ……近くでこれをされると、もう目を離したくもないな。

 

「……うん。やっぱり、今のメイちゃんは、斧槍を使えば真空波を使える魂の質(レベル)までに達しているみたいだ。

 しかも、肉体を使うだけでは吹っ飛ばすだけにしかならないのと違って、メイちゃんの斧槍を使った真空波は、飛ぶ斬撃と同じか、それ以上の威力になる可能性もある」

「でも……これ、ヤヌアール相手には避けられる気しかしないけど?」

 

 結局、魔力を使わずに斬撃を飛ばせるだけじゃないの?

 

「勘違いしないでね。これはただの入り口だよ。

 メイちゃんは覚醒をまだまだ使いこなせていないから。

 ウトよりも覚醒出来る時間もかなり短いでしょ? 多分半分もいかないんじゃない?」

「……うん、多分」

「覚醒も格闘家としては、ある程度の魂の質(レベル)も要求される、かなりの高等な技術になるけど、出来るようになった人にとっては、やっぱり入り口に過ぎないからね。

 覚醒出来るようになった後、最終的にどうなりたいのか。それがないままに闇雲に鍛錬しても、良くて器用貧乏にしかならないから」

 

 ……なんというか、特定の個人を示しているような言い方だけど。

 

「とりあえず、これを習得する頃には、一瞬だけ展開する硬い障壁も破壊出来るようになってるだろうから、まずはそれを目指してみれば良いと思うよ。

 出来るようになったら横切りとか、切り上げとか、突きとかでも出せるようになると、より良い。

 どう当てるかは、そこから考える事にしても遅くないから」

「分かった。……因みにサブマスターはこれ、出来るの?」

「出来なくはないけど……」

 

 そう言って、サブマスターも覚醒して、全身を捻った上で片手剣を一振り。

 目の前の木に浅い傷跡が刻まれた。

 

「片手剣をメインの武器にしてるんじゃ、このくらいしか出ないんだよね」

 

 分かりやすく落胆した顔をしていた。

 

「まあ、取り敢えずやってみる事にする」

「うん。それが良い。僕がやるよりよっぽど凶悪な攻撃になるはずだよ。

 それに、使いこなせるようになったら、結構他にも良い事あると思うよ?

 道具と魔力の節約とかさ。

 それと最後に、もう一つ」

 

 ユーリは指を一本立てて、斧槍を指した。

 

「?」

 

*

 

「じゃ、そろそろ行くから。

 そんな日の経たない内に、また来ると思うけど、元気でね」

「ええと、ありがとうございました」

「良いの良いの。僕が好きでやってる事でもあるんだから」

 

 軽く手を振ると、皮翼を広げてさっと飛び上がって、そのまま西へと飛び去って行った。

 それを見届けてから、メイは斧槍を見つめ直す。

 

「どうしたんだ?」

「もうそろそろ、この斧槍、お役御免になるって言われちゃって。

 寂しいなあ……」

 

 ウトが驚いてその斧槍を見る。

 真っ黒で、背筋が凍える程に鋭い斧の切先と、槍の穂先は、メイ自身の手で丁寧に手入れをされていて、今も全く衰えのない、鈍い輝きを放っている。

 柄も、どれだけ見ても曲がったりもしていない。

 限界とは思えないけれど……。

 

「ええと、打ち直しとかは出来ないのか?」

「いや、そういう事じゃなくて。覚醒した上で、私が全力で叩きつけたりすると、もうこれじゃ耐えられないんだって。

 だから、サブマスターが新しい斧槍を持ってくるって言ってて」

 

 メイにとっても思い当たる事はあった。

 街のダンジョンで薬を使って無茶をした事もあって、一度この斧槍は折れている。その時は、ダンジョンの作用で元に戻ったけれども、覚醒を使って同じような火力をこれから出し続けるなら、この斧槍はもう耐えられない。

 

「……ユーリさん、鍛治も出来るんだ?」

「いや、出来るのはマスターの方。

 まあ……もう別に言っても良いか。軍の方で歴史の勉強をしている内に名前も出てたし」

「あ、もしかしたらと思っていたけど、やっぱり先の戦争で活躍した人達の中の一人だったのか」

「うん。ハーフリングのフィヴ。

 他人が出来る事は自分にも出来ないと気が済まないという、ただそれだけで魂の質(レベル)が上がり続けた、とんでもない人」

「……ハーフリングなのに?」

 

 ヒューマンの更に半分くらいしかない背丈。

 その小ささの割には、出来る事は色々とあって、とりわけ隠密や魔法に優れている……とは知っているものの、それでもあの小ささで? とどうしても疑問に思ってしまう。

 歴史に名を刻んだ人であれど。

 

「うん。私の腰の背の高さもないけど、500年以上は生きてる人」

「ええっと、西のダンジョンの21階って、そのフィヴさんと戦うって事? ヤヌアールさんはそれをも倒した?」

「いや、負ける事前提だからね。だから、サブマスターを倒したらあのダンジョンは実質終わりなの」

「あ、ああ……そういう……」

 

 それはやっぱり、あんまり言ってはいけない事だったか。

 

「あんまり言わないでね。一応、ちょっとした秘密だからね。もし言いふらすような事をしたら……分かるよね?」

「分かります分かります! 言いません言いません!」

「よろしい」

 

 メイさんって、私が何かやらかしても殴るのかなあ。

 ……殴りそうだなあ。




フィヴ:
西のダンジョンマスター。
ハーフリングで500歳以上。
他人が出来る事は自分も出来ないと気が済まない、というだけでとんでもなく強くなってた人。
メイの斧槍やユーリの片手剣もフィヴが作ったもの。
とてもシャイ。
過去の南の国の侵略を止めた主戦力の一人。
務める21階は負けイベント。
どれだけ抵抗出来たかでクリア報酬が決まるらしい。

最初ではメイの斧槍を作った人、とだけ決めてたから、ドワーフにしようかなーとも思ってたけど、ハーフリングの方が似合いそうだったので。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

ミミック転生~人食い箱の食味記録~(作者:LA軍)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

目が覚めたらミミックに転生していた。▼もちろんミミック(人食い箱)なので動けません。▼そのため、その場でひたすら待ち伏せ、やってきた間抜けな冒険者を食べていた。▼何十人と食った。▼……じつに美味かった。▼だが、ミミックは知らなかった。▼たくさん食べているウチにいつのまにか強くなり過ぎていたことに。▼そして、気づかないうちに、外では厄災の箱と呼ばれるまでに有名…


総合評価:1142/評価:6.83/連載:108話/更新日時:2026年08月08日(土) 11:55 小説情報

勇者が生まれないか街を見張っていた魔物の私、懐いてきた子をうっかり勇者に育て上げてしまう(作者:うちっち)(オリジナルファンタジー/コメディ)

 勇者監視役を任命された魔物の少女ネリネは、幼い頃から自分に懐いていたユリスを、放っておけずに世話していた。▼ あくまで少し面倒を見ていただけ。▼ そのはずだった。▼ けれど成長したユリスは、本当に勇者に選ばれてしまう。▼ もちろん、ユリスは知らない。▼ 昔からそばにいた「ネリネ姉ちゃん」が、実は勇者を見張る側の魔物だなんて。▼ ネリネは正体を隠したまま、勇…


総合評価:1086/評価:8.34/連載:24話/更新日時:2026年07月20日(月) 08:49 小説情報

「私で童貞捨てたくせに」と学園美少女四天王から言われてるんですが、まったく記憶にございません。(作者:会澤迅一)(オリジナル現代/恋愛)

高2男子の俺は、目を覚ますと一週間分の記憶が消えていることに気付いた。▼部屋には幼なじみがいる。▼中学に入ってからずっと不仲だったのに、なぜ?▼「私で童貞捨てたくせに、記憶がないなんて言わせないから!」▼教室に着くと、隣の席のギャルが笑いかけてくる。今まで一度も会話したこと無いのに、なぜ?▼「私で童貞捨てたくせに、陰キャのまんまじゃん」▼放課後、後輩の文学少…


総合評価:1378/評価:8/完結:142話/更新日時:2026年06月25日(木) 17:04 小説情報

添い寝してもらわないと眠れない女の子in百合猛獣だらけの女子寮 〜案の定美味しく食べられてしまうと思いきや、女たらしの才能に目覚めてしまいます!?〜(作者:鐘楼)(オリジナル現代/恋愛)

毎日姉に添い寝をしてもらっている少女、花平希沙音は高校一年の夏、ついに「一人で眠れるようになりなさい」と姉の家を追い出されてしまう。▼一人で眠れる気がしなかった希沙音は、なんとか添い寝を頼めないかと転居先の女子寮で出会った親切な少女、伊咲深白にお願いをする。▼しかし、深白は何人もの少女を手篭めにしてきた悪女だった。▼案の定、希沙音も深白に美味しく頂かれるのか…


総合評価:2705/評価:8.89/連載:31話/更新日時:2026年07月14日(火) 12:05 小説情報

妖狐の私、人間の社会で稼ぐためVtuberとして百合営業をしていたら相方の化け狸がガチだった件(作者:パッタリ)(オリジナル現代/日常)

 信仰が薄れ、妖怪も自力で稼がねば生きられない現代社会。妖狐のシズクは生き残るため、化け狸のコノハと組んでVtuberとなり、百合営業で日銭を稼いでいた。▼ しかし、画面の向こうで可愛らしく甘える相方の感情は、営業などではなくガチだった。▼ 防犯設備を妖術で容易く突破し、数百年の執念がこもった極上の手料理で胃袋ごと支配しにくる化け狸。▼ これは、平穏な生活を…


総合評価:927/評価:8.52/完結:30話/更新日時:2026年06月21日(日) 12:15 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>