ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい 作:ムラムリ
36階。
初めてこの都市のダンジョンに挑んで災厄に巻き込まれた時も、その後再現性を確かめる為に挑んだ時も、これ以後の階層の事は知らない。
毛皮の先を常にさらりとなぞられているような、不快な感覚が全身を薄く包んでいる。でも、以前程じゃない。
災厄の中に居続けると体が不可逆に変質すると聞くが、時間的な余裕はある程度ありそうだった。
それでも急ぐ必要はあるだろうけれど。
ディッツェに聞いた。
「最初っからこうなったんだったら、もう聞いちゃうんだけど。
36階ってどういう感じ?」
目の前には極めてオードソックスな、石造りの迷路が広がっていた。メイが勤めていたダンジョンのような。
「36階から39階と、41階から45階までは普通。30階までにフロアボスを勤めていた人とか魔獣とかがここらでは普通に徘徊してたりする感じ」
「それなら楽そうかな。罠を除けば」
「まあ、そこは私が斥候としても前に出るから」
前回はウトの腰にあった手鏡代わりの手斧は、ディッツェの腰にあった。
そして程なく気配を感じて、息を潜め。
メイが鉄球を手にしたのを確認すると、全員脇に避けた。
曲がり角からグリフォンが姿を現し、こちらに気付いたと同時に。
「ピィィィイイイイ」
ぶんっ。
ぐちゃっ。
相変わらずの威力でそのグリフォンの頭は弾けた。
「いきなり嘶いてきたって事は、やっぱり前と一緒で、自我はなさそうだね」
「…………そうだな」
エロクーはきちんとした生命かどうかも怪しい、死んでもその場に残り続けている同族に対して最大限の憐れみの目を向けながら返した。
それからディッツェが鉄球を拾い直しに行こうとすると、続けて複数の足音が聞こえてきた。
「ウト、後ろは任せる。エロクーとディッツェはウトを援護して。前は私が全部やるから」
言いつつ、斧槍を手に取ったメイ。
メイが鍛錬としてやっていた事と言えば誰よりもシンプルで、とにかく自分で作った障壁を叩き割るばかりだった。
けれど、その背中は、以前よりも遥かに頼もしく見えている。
より重くなった斧槍に適応したその体。見た目は大きく変わっているようには見えないが、代わりにその中に詰まっているものがより濃くなっている。そんな確信があった。
……きっと、
そう思いつつ、ウトは返した。
「はいはい」
そのウトも、覚醒した時の速さにはより磨きが掛かっている。
……こういう、動ける場所が限られた屋内なら、以前の私でもまだ勝率は高いだろうけど。
広い場所ではもう、今の私でもどの位勝てるか。少なくとも確実じゃない。
そう思いながら、息を軽く吐き、斧槍を掲げる。
縦切りだけなら、そしてきちんと構えて溜めを作れれば、覚醒しなくとも真空波を飛ばせるようになっていた。
目の前からはグレートウルフ……巨大な狼が顔を出した。魔獣らしく、個体によっては魔法も使える狼だ。1体のみならず、2体、3体と続けて。
どのように仕掛けてくるのか見極めようとしているのか、少しずつ少しずつ、列を為して歩んで来た。
メイはそれらに対し、ただ斧槍を振り下ろした。
殆ど見えない、飛ぶ斬撃。
何故そんな事をするのか理解が及ばないまま、1匹目は頭を真っ二つにされて倒れた。その隣を歩いていたグレートウルフが、いきなり倒れて顔から大量の血を流す様に唖然とするも、はっとして前を向き直した時にはメイは改めて斧槍を構え終えていた。振り下ろされて、とにかく軸だけをずらすも、後ろ脚が引っかかってしまう。
「ギャンッ!?!?」
かん高い悲鳴。
残りのグレートウルフ達が焦ってメイに襲い掛かっていくも、それは同時に、それぞれの間に罠がない事をメイに知らせてしまう。
自由に斧槍を振えるならば、また魔獣が連なり襲いかかってくるにせよ、その方向が限られているならば、メイが負ける道理はなかった。
*
階段を見つけて登っても不快な感覚は変わらず。そのまま40階まで到達した。
目の前に広がるのはだだっ広い草原と、黒い靄のようなものに包まれた黒馬に乗ったエルフが3組。
その黒馬は、ナイトメアという魔獣だった。
体の廻の靄は、言わば睡眠作用のある鱗粉のようなものであり、それを吸い込んでしまうと、眠ってしまうどころか酷い悪夢を見る羽目になる。
ディッツェから聞いた通りのパーティ。全員、とある部族の出身らしい。
だからエルフ達は特徴的な服装で統一しており、またその靄を自分達が吸い込まないように、同じく特徴的で分厚いマスクをしていた。
メイは予め、僧侶の魔法で状態異常に抵抗出来る強化を全員に付与していたが、それも気休めに過ぎない。
魔法で風を吹かせて散らそうにも、相手も風の魔法に長けていると来た。下手すればこちらの起こす風を利用されて、更にその眠らせる粉を集中させてくる、らしい。
「じゃあ、遠くからで良いから。援護はお願い」
「……分かった」
「じゃあ、やるか」
ウトとメイは大きく息を吸い込んでから、口元に布を当てて固定した。
ヒューマンやエルフなどと違い、獣人としてマズルが伸びている分、それも気休めに過ぎないが。
けれど、格闘家としての鍛錬を積んで来た2人。呼吸を止めても、長時間動ける。覚醒したとて、少しの間は呼吸なしで動ける。
狙うは短期決戦。
どがらっ、どがらっ、どがらっ、どがらっ!!
目の前からナイトメアに乗ったエルフ達が襲い掛かってくる。
狂っているような印象はない。けれど、不快な感覚は体をなぞり続けている。
そして……それはその内体そのものを蝕んでくる。
長くその感覚に触れ続けて、メイはその過程を確信していた。
……これらはなんとかなる。
でも、時間を掛けられないのは変わらない。
急がなきゃ。
——そう思った時だった。
ウトが低く姿勢を変えて、片方の手を開き、爪を最初から伸ばした。まるで血に飢えるかのように。
そんな構え、今まで見た事なんてなかった。
「……ウト?」
呼吸を止めているのも忘れて、思わず聞いていた。しかし、その時にはウトはその優れた脚力で体を跳ね飛ばしていた。
ダンッ!!
地面を蹴る音。雑草と混じって高くに跳ね飛ぶ土。
前を向き直した時には、人馬の一組の首筋から血が吹き出していた。
これまで見てきた疾さより、より一段疾くなっていた。
メイ:
魂☆☆☆☆☆☆☆☆☆ + ☆
力☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ + ☆☆☆
速☆☆☆☆
技☆☆☆☆☆☆☆ + ☆☆
魔☆☆
神☆☆☆☆☆ + ☆
覚醒での体力の消耗が少し減った。
より頑丈で重い斧槍に切り替えて膂力が更に増した。
その斧槍を振り続けて真空波を習得。縦切りだけなら覚醒していなくても出せる。
一瞬だけ出す、とても硬い障壁を習得。