ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい 作:ムラムリ
ナイトメアに乗馬したエルフ、その人馬の組み合わせまで、まだ距離はあった。
その距離を一瞬で詰め、防御行動をさせる間もなく、それぞれの首筋を的確に切り裂いた。
「……ウト??」
メイは思わず、もう一度問うていた。
ぽたた、と蹴られた土が落ちた音が遅れて聞こえてくるのがやけに印象的だった。
崩れ落ちていくその1組の人馬に、他の2組は理解が追いついていない。
ただ……幸いだったのは、ナイトメアに乗っていたエルフの首筋を抉る為に高く跳躍した後のウトが、爪を振り抜いた後の空中で、焦ったようにして着地に失敗した事だった。
「い゛ぎっ……!!」
素の声。少なくとも……心の底まで呑まれている訳じゃない。
少しだけほっとした。
斧槍を構え直す。息を軽く吸って止める。もう2組の人馬は落ちたウトを仕留めるより、駆けてきた勢いを止めずにメイへと向かう方を優先して向かってきていた。
エルフのそれぞれが持つのは馬上からも振るえる、丈の長い武器。メイの斧槍と似たものだが、重さは半分にも満たないだろう。どれだけ鍛えようがエルフはエルフ。人族の全体としても非力な種族が、馬上から基本片腕で振るうそれは、ナイトメアの勢いを足したとて、メイにとってはそう脅威ではない。
しかし、強い向かい風が唐突に吹いてきた。魔法によるもの。黒い靄がメイの周りに渦巻き始める。
そちらの方が脅威だが、顔周りに障壁を生成して対策する頃にはもう、それぞれに距離はなかった。
魔法……ナイトメアも含めて、4種類のそれが練られているのが、改めて研ぎ澄まされていく殺気で分かった。マナの流れが読めなくても。
そしてメイの直前で両脇に逸れて、武器でもそれぞれが叩き込もうとした合わせて6つの同時攻撃が繰り出されようとする時、それに合わせてメイは、ナイトメアの正面にすっと動いた。
如何にミノタウロスだろうと、全力で走ってくる魔獣の前に立つなど、自殺行為に等しい。
加えて、構えた斧槍は未だ振られる気配もなく。
だから正面衝突しそうになるのに、ナイトメアはメイをそのまま蹴り飛ばそうとした。
バギャッ!!
「ビィッ!?!?」
とても硬質な音を立てて、象られた障壁が破れる。
新しく習得した障壁でも、流石に受け止めきれなかった……けれどそれは、致死的だった勢いを大幅に削いで、騎乗していたエルフも含めて強く体勢を崩させた。
溜めていたマナも霧散する。
もう1組の人馬も攻撃を放ってくるが、微妙に距離が離れてしまえば武器は届かず、放たれた魔法も、味方を盾にされては大したものは飛んでこなかった。
そこまで受けてから、メイは斧槍を振った。
まず、すぐ目の前のナイトメアの前足を、短く持った斧槍で切り飛ばし。
長く握り直しながら、返す刃を切り上げて、乗っていたエルフの受けようとした武具など全く意に介さないまま首を刎ね。
そして最後に高く掲げて、崩れ落ちるナイトメアの首に振り下ろす。
流れるような3連撃は全て、まるで障害物など最初からなかったようにすっぱりと。
そして残り1組の人馬は、勝てる道筋が見えなくなったように動けなくなって、メイから目を離せなくなっていたが……。
そのエルフの頭に唐突に矢が飛んできて、慌てて躱した時には、メイは斧槍を下ろしていた。
理由は至極単純で。矢を放ったディッツェの隣には、誰も居らず。
パーティの残り1体がどこに居るのかその人馬が理解したのは、その全体を大きくな陰が覆った時だった。
ぐしゃり。
*
40階を突破した喜びなど全くないまま、メイはウトへと駆け寄る。
着地を失敗した事を恥ずかしがっているようだったが、そんな事より。
「ウト……何であんな事したの?」
「いや、なんか調子良くてさ、出来そうだったから。
足を挫いたのは失敗だったけどさ」
その割にはもう、平然と立っている。
「覚醒して、自己治癒まで出来るようになってる?」
「まあ、なんかそれも出来そうだったから」
「…………」
メイはウトをじっと見た。隅々まで僅かな違和感も見逃さないようにする、その過剰な心配振りにウトもすぐに気付く。
「俺がより強くなってるのが、災厄の影響を受けているからだと思ってるのか?」
「……うん。
もしそうだったら、急がないと」
余裕なさげなメイの顔。
ウトは嗜めるように返した。
「……急いでミスったら元も子も無いだろ?
それに、前向きに捉えてるよ、俺は。メイさんのその先祖返りだって、災厄の影響を受けたのがその先祖なんだろ?」
「……」
……確かにそうだけど。災厄の良い影響だけを身に受けた人の裏で、その何百倍もの人達が意志すらないような化け物になったんだよ?
けれど、そんな過去の歴史を伝えるなんて、野暮な事はしないべきだった。
後ろからディッツェとエロクーが歩いてくる。
エロクーは、踏み潰して血塗れになった足や腹を地面に擦り付けながら。
「私は何ともないけど、エロクーさんは?」
「ワタシも何とモなイ……うン?」
「……エロクー?」
エロクーが言葉を発するには、少なからず魔法を使っている。人と同じ声を出す為に、喉に障壁を張るという形で。
「少なからズ、影響を受けてイるようだ。
魔法の調子ガ変だ。火力は出せテも、微細なコントろールが効かないかモしれなイ」
「ウトと似たような感じね……。
ウトもエロクーも、今でも災厄に対して肌感は何もないの? ディッツェも」
「…………俺はやっぱり、何も」
「ワタシも」
「うん」
私は、やっぱり特殊な存在なんだな……。
私には、災厄に対する肌感がある。災厄に対する耐性もある。
別にそんな嬉しくないけど。
「休憩、必要ないよね? さっさと行こう」
「……これから、より厳しくなるんだろ? 一度、少しは休んでおいても……」
「……」
メイは皆の事を見回した。
まだ5階登っただけ。防御の意味を為さない圧倒的な力と、防御すらさせない圧倒的な疾さ。それを罠の探知や魔法での援護でサポートする組み合わせは今のところ、とても上手く行っている。
消耗も、その魔法を少し使った分くらい。
けれど、一歩間違えれば、死まで直結する強さをこれまで屠ってきた誰もが持っているのは変わらない。そして間違えてしまえば、蘇生される事すらなく終わってしまうというプレッシャーから来る緊張感はこれまでとは段違いにある。
それを一旦緩めておく事が必要なのは間違いない。
急いだら、焦ったら、良い事がないのも理解している。
けれど……災厄の影響が更にウトやエロクーを蝕んでいくなら、と思うと、一刻でも早く進みたいという気持ちもやはり捨てきれない。
そう悩んでいると。
「メイさんメイさん」
ディッツェが残る死体の方を見ながら話しかけてきた。
「……ん、何?」
「折角ナイトメアの死体がそのまんま残ってるなら、その靄の元を回収してこようと思う。これから役に立つかもしれないし」
ナイトメアの靄……今回は幸い誰も眠る事はなかったものの、魔術師が初歩として覚える眠らせる魔法とは桁違いに効き目が良く、物理的なものであるが故に長く空気中に留まる……言わば毒。
「その間休んでてよ。私はまだ何とも無いからさ」
「……分かった。じゃあ、休もうか」
メイはエロクーの背嚢から携帯食料を取り出して、口に入れつつ草原に腰を下ろす。
ウトも緊張を解くように、大の字になって草原に寝転んだ。
「……緊張しててもさ、こんな災厄に巻き込まれててもさ、俺、今、とても楽しいんだよ。
もうそろそろ1年? もう過ぎたかな。その時はエロクーに負けていた俺が、たった1年でこんな、街のダンジョンとは段違いの難易度の、こんな高層に挑んで、高めた実力を発揮出来てるなんて、1年前の俺は想像も出来なかったからさ」
「別に……パーティで挑んでたならともかく、1人でそこまで到達してたなら、その位伸びるのは当たり前でしょ」
「まあ、メイさんからもそう言って貰えるのは嬉しいけどさ、とにかく、その、なんだ、こんな楽しい時間をきちんとまだまだ続けたいのは当たり前だって事」
……だったら、そんなこれまでを振り返るような事、態々言わないで欲しかったなあ。
まるでウトが走馬灯を見ているような感じだよ。
ウト:
魂☆☆☆☆☆☆
力☆☆☆☆☆☆
速☆☆☆☆☆☆☆☆ + ☆☆
技☆☆☆☆☆☆ + ☆
魔☆
神☆
覚醒での体力の消耗が更に減り、速度に更に特化。
速度が更に増し、残像を不完全ながらも習得。
自己治癒も多少出来るようになっている。
災厄の影響を受け始めているかもしれない。