ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい 作:ムラムリ
45階まで辿り着いた。
ここを過ぎれば迷路は終わり、フロアボスとの連戦が待っている。
相変わらず災厄の感覚は消えず、敵は全てただ殺しに掛かってくるばかり。
ウトの活躍もあって怪我の一つもない程に損耗は何もない。けれど、メイの中にはどうしようもない不安が募っている。
「……獣ノニオイがスるナ゛」
「うん……」
現に、エロクーの魔法の制御は更に効かなくなっているようで言葉が更に崩れている。
メイの肌感も、もう毛皮の先をなぞるだけではなく、もう地肌にまで辿り着いている。
もうそろそろメイ自身にも何かしらの影響が出始めるであろう事をメイ自身理解していた。
ウトは……まだ、見た目は何も変わっていない。声色も変わらず、殺意に呑まれたりもしていない。
それどころか、その疾さには階層を経る毎に更に磨きが掛かってきている。
けれどそれは逆に、目に見える形で災厄の影響が出たならばもう手遅れなのではないか? と言う予想が逆に立ってしまった。
……でも、出来る事と言ったら、早く踏破する事だけ。
脱出も出来ないのだから、前へと進む以外に出来る事はない。
「ここは、変わっていなければムシュフシュの夫婦が居るはず」
「ムシュフシュ……また厄介な」
竜の頭と尾。それと、毛皮のある胴体と四肢。
四つ足で、体躯としては魔獣よりも小さい。長い尾もあって、全長としては牛よりも長いものの、大きさとしては大型の犬くらいしかない。
しかしそれは、列記としたドラゴンに属する幻獣……魔獣とは比較にならない、珍しさと強さと、固有の性質を持っている。
炎を吐くし、魔法も相当に長けている。森の中ではその長い尾を生かして蛇のように柔軟に、変幻自在に駆け回る。
そして……何よりも稀有なのは、その牙から滴る毒は、僧侶の魔法も何も役に立たない、不死すら殺す致死的なものだという事。
ヴァンパイアのような不死性を持つ種族だろうと、どれだけ毒に蝕まれた部分を切り離して除去しようが、一向に柔らぐ様子のない苦痛に耐えかねて自死を選んだという逸話まで残っている程の劇毒。
数え切れない程の学者が成分の分析や複製、解毒薬の生成に挑戦してきても、一つも上手くいかなかった。
だから……その毒は、死という概念を平等に与えるもの、とまで言われていたりする。
ついでに言うならば、メイ達の務める西のダンジョンでは、その多く居るヴァンパイアの天敵でもあるが故に雇われていない。
「エロクー、風の魔法とかで、遠くの臭いを寄せてくる事って出来る?」
「……ヤっ゛てミよゔ」
風を起こして、臭いを嗅ぐ。ヒューマンなどよりは優れた嗅覚を持つ獣人と魔獣だ、少しは助けになる……はずだ。
「……後はやれる事は変わらないから、さっさと歩きましょうか」
ディッツェが変わらず先導し始めた。
*
曲がった先で行き止まりに遭う。戻る最中に風が運んでくる臭いが一気に強くなる。
「わざとらしい……」
近くで小便をしたような臭い。
場所はもう把握されている。風を吹かせて索敵の精度をより高めようとしている事も。
後はいつ、どこで仕掛けてくるかだけ。
42階のワータイガーのように、頭を蹴って首を折る、みたいな事も出来なくはないだろうが、やはりそれをムシュフシュにやるのは自殺行為にも程がある。
忍者は、急所を的確に狙ってくる。しかし、ムシュフシュは掠り傷でも致命傷になり得る。解毒法もない。
危険性が比較にならない。
その比較にならない程に張り詰めている緊張を逆撫でされているようで、それだけで少し疲れが増す。
「ディッツェは大丈夫? ここの行き止まりで一度休まなくて良い?」
「大丈夫」
ウトとエロクーの様子も丹念に見ていると。
「そういうメイさんは大丈夫なの?」
「私はほら、食べていれば大丈夫だから」
エロクーの背嚢からまた携帯食料を取り出して口に運ぶ。
都市で作られているそれは、普通にどれだけ食べても美味しいと思える質だった。
「ああ、もう半分くらい食べちゃってる?」
「えっ。……そうかも」
「そりゃあ、急がないとね。ここから先、メイさんが表立って動くのに」
逆に心配される始末だった。
45階は、ダンジョンとしては最後の階層。仕掛けられている罠も意地悪いものばかりだ。大半が致死的で、死ななかったとしても、損害は大きい。
それを、索敵も怠らずに探っていくのだから、全員の歩みはとても緩慢だった。
行き止まりが多く、幸いにも休憩出来るタイミングは多いが、災厄が体を蝕んでいる以上、急がない訳にもいかず。
「こノ先、行き止マりだナ゛」
「また……?」
風を流し続けていたエロクーが先に察知したのに対し、ディッツェが流石に疲れた声を漏らした。
「流石に、休もうか」
メイは流石に休憩を提案した。
「それにしても……これだけ行き止まりにぶつかってれば、迷路の構造も大体予想がつくものなんだがな」
ウトが呟く。その声色は変わらず普通だった。
「行き止まリまデの長さも絶妙に長グデ、少シは進まナイド、ワガラナイ゛ナ゛」
エロクーの言葉はもう聞き取り辛くもなりつつあるが、それ以外は変わらない。
メイは見張りをしながら、その言葉に気になるものを覚えた。
「……少しは進まないと、分からない?」
そして、折れ曲がった先にある行き止まり。
エロクーはその先が行き止まりだと感知したから、まだその目では確かめていない。
「ねえ、ディッツェ」
「エロクーさん、風を起こしてください。一応」
その可能性に気付いたのは同時だった。
「エ?」
「早く!」
その時、メイの目の前からもムシュフシュが姿を現した。竜の長い首と頭、それから長く太い尾。毛皮に包まれた獣の胴体。
メイでも察知出来なかった程に隠していた殺意が膨れ上がる。
メイは叫んだ。
「後ろっ、警戒してっ、挟み撃ちで来る!」
魔法で行き止まりを感知出来る事こそが、きっと罠の範疇。行き止まりには、多分隠し扉がある。
前から片方が堂々と姿を現す。そして、もう片方は自分達だけがどこからどこへと繋がるか知っている隠し扉——それはパーティが戻ろうとした時に、後ろから不意打ちを仕掛けてくる事を想定した——を通って、ひっそりと仕留める。
「シュルルルルッ」
ムシュフシュが地面を叩くと、石畳が一気に持ち上がった。その煉瓦の一つに牙を立て、毒を染み込ませ、粉々にし……。
土を操る魔法と、自らの毒の合わせ技。
「後ろに飛ばさないようにしないと……」
毒の染み込んだものの混じる、土の散弾が飛んできた。
後ろに気を配る余裕は、もうなかった。
ディッツェ:
魂☆☆☆☆ + ☆
力☆☆
速☆☆☆
技☆☆☆☆☆ + ☆☆
魔☆☆☆☆ + ☆
神☆
障壁の技術の向上。メイ程でないにせよ、瞬間的な障壁の作成が出来る。
弓矢の技術の向上。エロクーに騎乗しながら、正確な射撃。
暗殺の技術の向上。気配をより消せるように。