ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい   作:ムラムリ

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メイちゃんは自分の大切なものを踏み躙った人達をボコボコのボコにする 2

 ダンジョンの目の前にまで来れば、衛兵達が恭しく出迎えようとするが。

 

「そういうの、どうでもいいから。さっさと入らせて」

「は、はいっ! た、ただ、一つだけ」

「……何」

「あの子を唆した人は、一階に配置しました」

 

 その途端、街の中では決して見せてはいけない感情が膨れ上がったのが、周囲の人達にも感じられた。

 殺意。

 一部の人は思わず足を後退り。尿が漏れた人も少しばかり。

 蘇生が約束されている事が不幸に思える程に、熟成されたそれ。

 

「そう。ありがとう」

 

 そうしてメイは、周りの何にも目をくれないままにダンジョンの中へと足を踏み入れた。

 

*

 

 1階。

 罠もなく、単純過ぎる構造。明るさも十分に保たれており、死角も多くない。

 そこには悪意など微塵もなく、まずはダンジョンというものに慣れて貰おうというおもてなしの心すら感じる。

 

「……」

 

 それは息を必死に潜めていた。

 手に持つ弓矢は余りにも心許ない。

 自死したら容赦なく送り返されると念押しまでされていた。あのミノタウロスを怒らせた事は、それ程に危惧すべき事だったという事で。

 

 ……なんで、こんな事に?

 

 ミノタウロスの肉体的な素質に圧倒されるだけの、歯牙にもかけずに殺された事は今でも夢に見る。

 そしてそのミノタウロスがこの街に来て目が合った時、殺した相手の事など微塵も覚えていなかった事にどうしようもなく腹が立ったのだ。

 本当に、自分達のパーティは地面を這う虫を気付かない内に踏み潰した程度でしかなかった。

 

「だったら、少しくらい憂さ晴らししたって良いじゃないか……」

 

 そう呟かずには居られなかった。

 しかし、それはそれとして……そのミノタウロスの気配は、微塵も感じられない。入ってきた時の音がした以後は、何一つとして音が聞こえてこない。

 殺された時もそうだった事を思い出す。

 暗がりから唐突に現れて、瞬く間に数人をあの黒い斧槍で真っ二つにした。それまでは、盗賊としてかなり習熟したと思っていた自分でも気配を感じ取れなかった。

 せめてと、壁に体を預ける。

 ……僅かに、ほんの僅かに、ゆったりとした足取りで歩いている振動が感じられた。

 矢を番えた状態の弓に、じっとりと手汗が滲む。

 チャンスは一度だけ。二本目の矢を番えるより前に、距離を詰められるだろう。

 自死すら許されないなら、せめて少しだけでも。

 

 一歩ずつ、一歩ずつ曲がり角の先からミノタウロスが近付いてくる。

 呼吸が自然と荒くなる。

 何も出来ずに殺された記憶が蘇る。そしてそれの怒りを買ったツケをこれから支払わされるという事実が突きつけられている。

 謝っても許されない事は、とうに理解させられていた。

 衛兵達に拘束され、まるで大罪を犯したかのような拷問紛いな取り調べを受けた。

 そしてそのままダンジョンに連行されていく間は、最早まるで見せ物のように扱われていた。いつの間にか話が広がっていて、自分が復讐されるのをまるで楽しみにしているようだった。

 殺されるとは言え、命まで取られないのだから良いだろうと。

 それは生き返った事のない人の、余りにも的外れな意見だった。生き返る事が約束されていても、殺されて自分が無に帰してしまうような感覚は、万人が耐えられるものではない。

 しかし、それでも保険処理が効いているが故に、こんな復讐も許されてしまうのも確かだった。

 

 曲がり角の手前でミノタウロスの足が止まった。

 獣人特有の長いマズル、その赤みがかった鼻先が見えた瞬間、それを貫いてやるという意志の元に弓を引き絞る。

 呼吸は相変わらず荒くとも、長年の鍛錬故に指先までは震えていない。弓を支える体の筋肉、骨格は心とは別に固定されている。

 しかし、まず曲がり角の先から見えたのは、手斧の切先だった。

 

 もしや……磨かれたその切先を鏡にして?

 

 その最悪な想像は、当たっていた。

 

 

 

 メイは標的が曲がり角の先に居る事を確認すると、一気に躍り出た。

 飛んできた矢。

 メイはそれをさも当然かのように手斧で横から叩き落とし、そのまま投擲した。

 

 がづぅっ!!

 

「う、うあっ」

 

 そのエルフの男は……メイからしたらいつ殺したかも覚えていない相手は、それをどうにか避けて、また距離を取ろうと背を向けて走り始める。

 だが。

 

 どっ、どっ、どっ、どっ!

 

 ミノタウロスは、基本的に鈍重である。とりわけ男は、分厚い鎧を着込み、重い武器を担いで如何なる障壁をも打ち砕いていく戦い方が一般的だ。最も種族的な性質を生かす事が出来る戦い方であるから。

 けれど、メイは女であり、才能に恵まれていた。男より柔軟に動く肉体を持ちながら、それでいて男に匹敵する膂力を持ち併せている。

 体躯の大きさは、一歩の大きさ。エルフの盗賊がどれだけ素早くとも、一直線ならば距離は容赦なく詰められる。

 エルフは曲がり角へと到達し、曲がって逃げる。そして距離を少しでも取れると判断して、再び矢を番える。

 柔軟な肉体をしていようとも、あの巨体が曲がり角で簡単に方向転換出来るとは思えないと判断して。

 しかし。

 

 どずっ。

 

 斧槍の先端が地面に突き刺さった。

 それを軸にしてメイは急転換を可能にした。

 そのままの勢いで迫って来る!

 

「う、うわああああっ!?!?」

 

 矢が放たれた。

 真っ直ぐにすら飛んでいないそれ。メイは身を低くして避けつつ、斧槍を構え。

 そして放たれた一閃は、エルフの両足を切り飛ばした。

 

「ぎぃぁああああああぁあああぁぁああ!!!!」

 

 悲鳴。良く聞いてきたものではあるが、今回はより一層耳障りだった。

 だから、まずその体を持ち上げて、口を手で封じた。

 そのまま壁に抑え付ける。

 

「〜〜!! 〜〜〜〜!!」

「……」

 

 両腕がせめてと抵抗するように、口を抑え付ける腕を引っ掻いてくるのを、メイはもう片方の腕で一本ずつ握り潰して動けなくする。

 

「〜〜!? 〜〜!?!?」

「…………」

 

 目から垂れた涙が手に垂れてくる。抑えた口のすぐ上にある鼻から吐息が手に降りかかる。口から漏れ出した吐息が手の平を湿らせる。

 切り飛ばした両足が意味もなく動いて、とめどなく垂れてくる血が無駄に跳ねて、自分の足元を汚してくる。

 

 ただただ哀れだった。甚振ってやろうという気持ちすら失せてくるように。

 でも、完全に失せた訳でもなければ、二度と自分にふざけた真似をして来ないようにする必要もあった。

 だから。

 メイは口を抑えていた手を、胸まで下ろした。

 そしてもう片方の手で拳を作る。

 

「ひっ、やだっ、やめっ、ご、ごめんなざいっ」

 

 今更になって謝るも。

 

「うるさい」

 

 そう跳ね除けると、ひと呼吸置いて。拳を固めて、肩の後ろにまで引き絞り。

 哀れみと殺意が入り混じる冷徹な顔のまま。

 

「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

 

 ぐちゃ。

 

 頭の全てを潰した拳は、壁まで容易く届いていた。




一応描写は控えめのつもりです。
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