ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい 作:ムラムリ
散弾の一つでも当たってはいけない、後ろに逸らしてもいけない。
分厚く広く障壁を展開して、砕けた石畳の散弾を受けた。
ガガガガッ!
重い音。体で受けたらきちんと穴が空く威力。
それに対して目の前のムシュフシュは、その身をで共に攻め立てる事なく、再び石畳を牙で砕いていた。
……攻めないと。
砕いた石畳を飛ばすのと、それに対して漏れなく障壁を展開して防ぐのと。魔力の消費が激しいのは明らかに後者だ。
メイには僧侶の素質があり、それを伸ばしてきているとは言え、魔術師程に魔法をバンバン放てる訳じゃない。
それに対して、目の前のムシュフシュにどれだけ魔法の能力があるかと言われれば、幻獣と冠している以上、そして2体とは言え45階のフロアボスを務めている以上、エロクーと同等以上にはあるだろう。
でも……。
メイは足を前へと出せなかった。
その魔法の扱いに長けた性質。弾かれて転がっている、劇毒の染み込んだ石畳の破片。前に足を進めた途端、その一つ一つを背後から動かせる可能性だってあった。
メイから散弾の投擲や飛ぶ斬撃を仕掛けようにも、目の前のムシュフシュという幻獣は明らかに小回りの効く身体をしている。蛇のように長い全長に獣の四肢がくっついているのだから、壁を爪を立てて這う事だって出来るだろう。
的確な一手が見つけられないまま、二度目の散弾が飛んできて防ぐ。
変わらず、重い音。体の内の魔力が強く削がれていく、その感覚。
……駄目だ、私だけじゃ動かせない。
後ろが手一杯だったら、という懸念もあった。でも、メイは叫んだ。
「エロクー! 風、こっちに、とにかく、思いっきり吹かせて!!」
「分かっタ!!」
強い風。散らばっていた石畳の破片がムシュフシュへと押し流されていく。
けれどムシュフシュもそれを想定していたようで、不自然に動かない破片が幾つかあった。でも、数は少ない。
メイは仕掛けた。
*
ウトは自分の体に存在していた箍が外れたような感覚がしていた。
それを自覚しながら、体を動かしていた。
調子に乗りすぎたならば、きっと自分の体は元の形さえ忘れて崩れてしまい、それは二度と戻らない。
けれどギリギリを見極める事が出来れば……俺だってきっとメイさんやデゼンののような生まれながらの傑物に並ぶ事が出来る。それどころか、俺の素質が時々後世に生まれ出るような、そんな代々語り継がれるような存在にすら成れるかもしれない。
その誘惑に、ウトは抗う事など出来なかった。何せ、ユーリに言われた、疾さを極めた先にあるものを垣間見る事が出来たから。疾さを極めたならば、技など必要ない。防御すら許さずに一方的に命を刈り取れるその万能感。
理性が慎重に、慎重にと叫びながらも、どうしてもその万能感に任せて体を動かしてしまう。
まだ、大丈夫なはずだ。まだ。
そう無根拠に盲信して。
曲がり角の先から姿を現したムシュフシュに、瞬時に後ろに回り込みながら攻撃を仕掛け。
けれど、強い危険を察知したそのムシュフシュが長い尻尾を丸め、障壁を隈なく周囲に展開するのに阻まれた。
ガンッ!
「ゔっ!?」
疾さの乗った爪でも弾かれる堅牢さ。
尻尾を丸めてしまえば、展開する障壁の面積はそう多くない。維持出来るだけの魔力も保持している。
ムシュフシュが睨みつけてくる。障壁の中で閉じ籠りながら、石畳を砕いて細かくしつつ、毒を滴らせていた。
「くそっ」
メイの散弾がウトの脳裏に思い浮かんだと同時に、先から複数の固いものが弾かれる音がした。
メイの投擲する散弾よりは軽い、その音。想像が合っている事を理解した。
後ろは行き止まり。その砕かれた石畳を一斉に放たれたらウトには逃げ場はない。ムシュフシュがやってきたはずの隠し通路も、ぱっと見ではどこにあるのか全く分からなかった。
……覚醒して、更に外れた箍を最大限活かして、全体重を乗せてきちんと殴るか蹴るかしてやっと壊せるであろう硬さだ。
けれど、流石にそれは躊躇われた。それをしたら、自分の中身が致命的におかしくなる可能性が強いように思えた。
エロクーとディッツェの元まで戻れば障壁を展開して防ぐのに合流出来るだろう。でもそこまで思考を巡らせただけの時間でもう障壁の中で散弾は用意されつつあった。
選択肢は自ずと一つだけになった。
「……」
呼吸を小さく整える。全身を脱力させ、手が地面に着く……その途端に体を跳ね飛ばす。
全力で、とにかく疾さだけを追い求めて。
べぎっ。
最初の一歩で、足の骨が折れた感覚がした。でも、構わなかった。
べぎっ。
次に踏み出した一歩も等しく折れた。
加速のまま、障壁に拳を突き出す。
べぎゃっ!
拳が砕けながら障壁も砕けた。
その時……ほんの僅かに目が合った気がした。でも、それだけでも、きちんとした魂があるかも分からない存在だろうと、今、この場では生きているという理解をするには十分だった。
残った無事な片腕でその長い首に手をかけたものの、身を捩られて避けられた。
躊躇ったとかいう理由ではなく、無事な四肢が他にない状態では、単純に爪を食い込ませて切り裂くまで正確に出来なかった。
勢いのまま、ムシュフシュの背中を越えて、ごろごろと転がる。
「エロクー! 風、こっちに、とにかく、思いっきり吹かせて!!」
「分かっタ!!」
それに一瞬ムシュフシュの意識が向くものの、ウトにすぐに視線が戻る。
体の至る所が砕けて、立ち上がる事も出来ないウトに。
けれど、その顔はどう見てもこれから死ぬ事を察しているような顔ではなかった。
片割れを一人で捌いているミノタウロス。
そのミノタウロスの援護に強い風を吹かせているグリフォン。
たった今、致命傷を当てるまでは出来なかったワータイガー。
……もう一人、居たような?
そう思ってもう一度グリフォンの方に首を戻した時、白い毛皮が目に入る。
何をするよりも前に、その目に短剣が差し込まれ、それは捻られた。
私のファンタジー生物好きはこのコンビニ本で一気に深まった感じなんですよね。
https://hon.gakken.jp/book/1340405300
今kindleとかで買ってもイラスト集としては色褪せないと思いますよ。ベースになってるムシュフシュのイラストは調べても出てこないし。