ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい 作:ムラムリ
メイは元々素足だった。格闘家として鍛錬を積む為に靴を履くまでは。
ミノタウロスの手はヒューマンなどと似たような、物をしっかりと掴める指の生えた手であるが、足はヒューマンなどとは異なり蹄で、下手な靴を履くより頑丈だ。メイの脚力ならば、別に靴を履かずとも威力は過剰にも程がある。
だが、肉体と
そして何より、鋭く尖った石を踏んで平気な訳でもない。
エロクーが吹かせた強い追い風を受けながら、未練たらしくその場に残っている石を踏み砕く。
斧槍を両手で構えながら、前へと駆ける。
一度逃げてくれるならそれでも幸いだった、背中に攻撃の余波を飛ばしてはいけない仲間が居なくなるだけでも十分にやり易くなるから。
けれど……目の前のムシュフシュは何の行動も起こす気配もないどころか、目を見開いて固まっていた。視線はメイではなく、その奥に向けられていた。
……?
メイは疑問に思いながらも、斧槍を振り下ろす。目の前のムシュフシュはどこかそれを受け入れるように、首を差し出して来たようにすら見えた。
振り返ると、ディッツェがもう1体のムシュフシュの目から短剣を引き抜いているところで。
それからまた、今首を切り落としたムシュフシュに顔を戻す。
……オットー達リザードマンは自我もなく同士討ちまでしながら襲ってくるばかりだった。
ただ、40階のエルフとナイトメアは負けが濃厚になるとどうするか躊躇うくらいの思考は持っていた。
そしてこのムシュフシュ達は、片割れが殺されたら素直に首を差し出した。
元の個体の
「……喋ってきたら嫌だなあ」
*
「ウト、無茶をして……。本当に大丈夫?」
「づぅ……まあ、今のところは」
メイに治癒されながら、ウトは返す。
メイが嘘を言っていないか、更にじっと見てくるのに対して、少しだけ顔を逸らして加えた。
「……体を折ったのは、わざとというか、折れないようにも出来たけど、速さに加えて頑丈さまで足そうとしたら俺の中の箍がまた外れて、多分戻れなくなるって直感したから」
「ギリギリって事ね」
「でも、速さだけなら大丈夫だから」
「いや。時間でも蝕まれていくから。……でも、ウトがそのギリギリを自覚してるなら、私はそれを信じるよ。
余裕もないしね」
「……分かった」
砕けた四肢を治し終えると、魔力を補充する薬を何本か飲む。
欠損を治すよりはよっぽど楽だけれど、燃費は悪いし、何より戦闘中に折れたからと言って、前線を張るメイが治すのに前線を離れる訳にもいかない。
「エロクーは大丈夫?」
そう聞くと、エロクーはただ首を振った。
「……もウ、言葉ヲ、紡グのが、難しイ。
魔法の、威力ハ、多分、かなり、強イ。
アの風、ワタシの、全力ノ、半分にも、満たなイ」
全力でやろうとしたら、重い私すらも吹き飛ばしていた?
「それ以外は、体の調子は?」
エロクーは口を開く代わりに翼を広げて、大丈夫というように答えた。
「ディッツェは……なんか大きくなってない? 体も、角も」
「えっ?」
ディッツェは自分の角を触って。それから、背丈をウトとかと比べて。
「私、最終的に大兄ちゃんみたいになったりするのかなあ……。ちょっと嫌だな。
それでメイさんは?」
「もうそろそろ、何か影響起きてもおかしくないかな……」
「それも分かるんだ?」
「うん。最初は毛皮の先にあった違和感が、そろそろ体に触れようとしている感じ」
「メイさんがそれなら、私やウトさんやエロクーさんはもう、って事ね」
「……うん」
「それなら、もう行く? ウトさん次第だと思うけど」
「そうだな……後は罠を気を付けるだけだろ? なら歩きながらで十分だ。メイさんにきっちり治して貰ったし。もう飛んだり跳ねたりも出来る」
そうして探索を再開した。
*
*
46階へと登り終える、その直前。
メイは投擲武器を手にした。鉄球と、散弾と、それから最近は全く使っていない手斧。
「エロクー、この3つそれぞれに属性付与して。目一杯」
鍛錬の時に試していたのをメイは見ていた。中々上手くにいかず、付与しようとした石などが粉々に砕けてしまったのも、鍛錬の末に時間を掛けさえすれば出来るようになった事も。
戦闘中の付与は出来ないものの、こうして事前に付与しておくならば十分役に立つ。
そして、込められる魔力は今やメイとは段違い。
「……」
エロクーは無言のまま、床に置かれたそれらに前足を当てる。そして最も鍛錬していた氷の属性——熱を奪う力——を、可能な限り込めた。メイはそれを布を重ねて被せて手に持ち。
「ありがとう。じゃあ、行こうか。これからは、出し惜しみはしないで、さっさと登る」
それがどうなるか……。
46階の広間。目の前に立つのは普通の編成のパーティ。ただ、今まで会ってきたどれよりも高水準。
だから、矢面に立った大楯持ちは、覚醒したメイの鉄球をその大楯で受け止める事が出来た。
しかし、大楯は鉄球と共に砕け、解放された属性が全身を氷漬けにする。続けて散弾を投擲されれば、僧侶が展開した頑丈な障壁で半分は跳ね返るものの、半分は貫通してそれぞれに致命傷を負わせる。
メイも跳ね返ってきた散弾を障壁を展開して受け止める。
残るは各所から血を流し、全身を凍てつかせながらも、辛うじて立っている戦士と忍者だけ。
それらに対して、メイは斧槍を手にして歩いていく。
「ウトはいいから」
「あ、ああ」
警戒を怠らないように、一歩一歩ゆっくりと歩いて近付き。
苦し紛れの一撃を避けて止めを刺したメイには、味方であれどやはり恐怖を覚えずには居られなかった。
……大兄ちゃんがどんな武器を持ったところで、こうはならない……。
「何ぼーっとしてるの。さっさと行くよ!」
3人は慌てて走り始めた。