ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい 作:ムラムリ
47階。
鬱蒼とした森が広がる。殺気も見事に隠されていて、簡単には顔を出してくれなさそうな雰囲気。
時間は掛けられない。
「……エロクー」
焦りと、苛立ちの混じった声。
「燃やしちゃって」
「……」
エロクーは若干引きながらも、無言でそれに応えた。
起こした火を、風で撒き散らし。土を動かして自分達には火が届かないようにして。
広い空間ではあるが、物が燃えるには一瞬で。焼けた煙は上の階へと過ぎていき、新鮮な空気も下の階から入ってくる。
黒焦げになった空間を歩き回って、土を被せて隠れていたフロアボス達が満身創痍で出てくるのを斬り殺した。
*
48階。
40階と殆ど変わらないような見通しの良い草原にグレートウルフ……ではなくフェンリルと、ワイバーンが3体。
出会い頭にメイが散弾を投擲するも、どれにも当たらず、ワイバーンと空高くに飛ぶ。
「……ウト。フェンリルを引きつけられる? ワイバーンを先に殺さないと、ちょっかいを出され続けてどうにもならなさそう」
フェンリル。幻獣。
魔獣であるグレートウルフにかなり似ている。要するに、ぱっと見は変わらず、巨大な狼。
しかし、見ればそれがグレートウルフではない事など、誰にでも分かる。
グレートウルフより一回り大きいだけではない。毛並みは勿論、その眼光も、生える牙や爪の鋭さも寿命も、そして膂力と魔法への素質も、何もかもがグレートウルフとは比較にはならない。
「あれにか。……やってみる」
そう言って、ウトはすぐに覚醒し、姿を掻き消すかのように体を跳ね飛ばす。
フェンリルの顔すら驚愕に染まる。土を蹴飛ばした痕を一瞬遅れて追い、思わず障壁で死角を防御する程に。
ギィンッ!
防御はギリギリ間に合うものの、ウトから目を離せなくなったそのフェンリル。
それを見て、メイは再び散弾を手にして空を見上げる。
ワイバーン。翼腕と、皮膜。長い尻尾。シンプルな肢体。
グリフォンのように前足と翼が分かれている訳でもない。魔法がそう得意な訳でもない。けれど、その代わりに飛ぶ能力に関しては幻獣にも匹敵するどころか、時には追い越す。
メイがどれだけ全力で散弾を投げようとも、愚直に投げるだけでは当てられない。
「エロクー、ディッツェ。ワイバーン達に攻撃を仕掛けてくれる?」
そう聞いた時には、ディッツェは既にエロクーに乗って弓矢を携えていた。
「言われなくても」
そして飛ぶ前に、メイはエロクーの背中に掛けられているもう一本の斧槍を手に取った。
少し折れ曲がった、以前まで使っていた斧槍。一段と重くなった斧槍に慣れた身では、片手で扱うのにも慣れたもの。
「…………」
勿論、フェンリルもメイの事を意識から外していなかった。メイに視線が外れてしまう時は、常に障壁を二重に分厚く張っている。
メイもまた同様。四つ足だろうと、幻獣だろうと、ウトよりは遅いのだろう。だが、ひと跳びで稼げる距離は相当にあるはずだ。メイがワイバーンに向けて散弾を投擲した瞬間、喉笛を喰い千切りにきてもおかしくない。頑丈な障壁を張れるようになったとて、それを貫ける手段を持っている可能性だって高いだろう。
それぞれのパーティの要が自分自身にあると、百も承知だった。
ワイバーン達もまた、そのミノタウロスからは目を離せない。予備動作はきちんとあるとは言え、その投擲を避けられなかったら体が穴だらけになるのは間違いなかった。
3体居るとは言え、ガラドンの乗ったグリフォンからは魔法と矢が飛んでくる。魔法も溜めが必要とは言え、範囲も威力もただのグリフォンが出すものより数段高く、大きく距離を取らざるを得ない。
そしてそれより、矢を番えて引き絞ったまま、じっと見てくる背中のガラドン。そこには殺意すらなく、放つ為に残された動作は弦を放すだけ。メイと等しくその矢からは目を離せない。
3体だろうと、飛行能力がどれだけ優れていようとも、空中戦は互角になっている。
ただ……このままでは、こちらが弾幕を掻い潜って牙を届けるよりも、いつかその魔法か、矢か、散弾に仕留められる方が先だった。
たった一人の、素手で襲ってくるワータイガーを仕留められない。
疾く動いて爪で切り裂くしか出来ないのに、それがとにかく研ぎ澄まされている。
目で追うのがやっと。魔法の広い範囲で仕留めようとしてもそこからさも当然のように避けてくる。マナの乱れすら正確に見えてないように思えるのに、それ以上に殺意に敏感だった。
障壁による防御に頼らざるを得ない。他の誰を先に攻めるにしてもミノタウロスのその斧槍の範囲に侵入する事は例えフェンリルだろうと無策では出来なかった。
グリフォンとガラドンを仕留めるならば、ワータイガーとミノタウロスを自由にさせる事になる。
ただ……このままでは分厚い障壁を張り続けて体内の魔力が削られていくばかりだった。
メイもまた、内心焦りを抱えていた。フェンリルすら翻弄し続けているウトも、広範囲、高威力の魔法を連発してワイバーン達を近寄せていないエロクーも、出来過ぎた動きをしていたから。
きっと、時間はない。
でも、フェンリルはメイから意識を欠片たりとも外さない。ワイバーンもまた、メイからは距離を取ろうと動いていた。散弾を投げてワイバーンを仕留められるタイミングがあったとしても、投げる隙にフェンリルに肉薄までされないだけの距離が必要なのも理解しているかのように、フェンリルから離れ過ぎない。
膠着したように見える状態。
それを破ったのは、ほぼ全員が同時のタイミングだった。
メイは斧槍を握ったまま投擲の姿勢に入り。ワイバーンの1体が捨て身でグリフォンとディッツェに急襲を仕掛け。
そしてフェンリルは、ウトがまず破れないような分厚い障壁を全身に張りながら、メイへと踵を返した。