ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい 作:ムラムリ
捨て身の攻勢を掛けたワイバーンへと、ディッツェが矢を放つ。
ワイバーンは全身を回転させる事で、その矢を弾いた。だが、そこへ加えてエロクーの雷の魔法が叩き込まれるのにはもう避ける事も出来ず、ワイバーンが張れる程度の薄い障壁も容易く貫通し。
黒焦げになって落ちていった。
しかし……ディッツェとエロクーは共に攻撃をした。新しく矢を番えるにも、魔法を再び行使するにも時間が掛かる。
逃げようにも、続いて襲ってきたワイバーン達の牙が届く方が先……のところに、メイの投擲した散弾が襲う。
ワイバーンの1体が身を挺して壁になった。それでも貫通した散弾は残り1体へも届くが、流石に致命傷には至らず、とうとうエロクーへと肉薄した。
散弾を投擲したメイ。それを見逃さずに襲い掛かるフェンリル。
投擲と同時に斧槍を片腕で突き出す。覚醒したメイの腕力ならば生半可な障壁は破壊出来る。
けれども、障壁は張られる事はなかった。フェンリルはそれを紙一重の精度で避け、その牙を大きく開けてきた。
属性付与も加えてしているのが見て取れた。
バギャッ!!
一瞬の、硬い障壁を展開しても破壊された。
メイは片腕を間に挟んだ。
ぶづぅ。
「ぃ゛……!!」
ミノタウロスとしての類稀な恵体がこれでもかと鍛えられて。その上で障壁を破壊した後に残った咬合力では、即座に喰い千切られるまではいかなかった。
それでもメイは、斧槍の根本へと片腕の手を滑らせて脳天へと突き刺そうとするも、重ねて展開された障壁で遮られた。
「う……」
フェンリルは噛みついた腕を食い千切る事もなく、その幻獣としての恵まれた魔力で魔法を放とうとする。
メイには、そのフェンリルの溜めが出来る僅かな時間で出来る事は、ほぼほぼなかった。
その時。
バギャッ!!
後ろから、障壁が破壊された音が響いた。それは、追い付いてきたウトが捨て身で拳を叩きつけた音だった。
驚き、迷い。フェンリルの動きが一瞬止まる。
メイの斧槍の向き先はフェンリルではなく、メイ自信の、牙が食い込んでいる腕へと向かった。
「ぎっ……」
食いしばった歯がひび割れる程に。目から涙がぼろぼろと溢れてくる。全身ががくがくと震える。
でも、今のメイはそれをも後で治せる。だから迷わなかった。
手にした斧槍を落とした。背中に手を回し、担いでいた新しい斧槍を掴んだ。
その、迫力。
逃げようとしたフェンリルの、その後ろ足をウトの爪が切り裂いた。
ずんっ!!
メイが強く足を踏み込んだ。片腕で掲げられた斧槍が、高くに掲げられた。
「あア゛あ゛あ゛っ!!!!」
獣の如くの咆哮と共に振り下ろされた縦切りは、それでも避けられた。伸びる斬撃。後ろ足に爪を食い込ませていたウトも引っ張られて避けた。
ずんっ!!!!
更に一歩踏み込んだ。斧槍を持ち上げ、呼吸を整えつつ、体を捻る。
「あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!!!!」
横切り。
フェンリルは、後ろ足にしがみ付くウトを振り落とした。
致死的でありながらも愚直な横振りを跳んで躱し、今度こそ喉笛に食いつこうとした。
けれど……その斬撃が、属性付与せずとも伸びているものだとは、気付けなかった。二撃目を放とうとするメイにばかり集中していて、一発目の斬撃がやけに長く伸びている事まではその視界に入っていなかった。
跳んでいる途中でやけに軽くなった体。後ろ足がすっぱりと切断されているのに気付いたのは、喉笛へと向かっていた体が不自然にずれてからだった。
メイが避けようと動いたのに、フェンリルの体がついていかない。肩と肩がぶつかる。
踏ん張り、斧槍の根本を掴んで喉元から突き刺して来ようとするメイ。
フェンリルは、体から急激に力が抜けていくのを感じて……そして視界の端に、ワイバーン達も全て地に伏しているのも見えて、抵抗しなかった。
*
「ゔ、あ゛あ、はぁっ!!
……豊穣よ、時経て幾重に命芽吹かす豊穣よ、私にその一片を分け与え給え……。
ゔ、ゔうっ、ゔゔゔゔああっ……ああっ……」
腕を生やし、一気に魔力の大半を使った事による虚脱感。血も流し過ぎて体はとても気怠い。頭痛すらしている。
でも、メイは倒れる事なく、よろよろとしながらも歩いていく。
「エロクー……エロクー……」
ワイバーンと共に地に伏していた。首から血を流し続けていて、もう見るからに事切れている。
ディッツェも側で立ち尽くすだけだった。
でも、僅かでも生きてくれていれば、と思わずには居られなかった。生きてさえいれば、幾らでも治せるから。
「エロクー……」
でも、やはり、エロクーは死んでいた。
体から生気はとうに失せていて、横たわった四肢のどこも微塵も動く事はなく。
ワイバーンには、首を裂かれた痕があった。エロクーが首を食い千切られたタイミングで、ディッツェが背中に乗り込んで、首を掻っ切ったのだろう。ディッツェの手には地に濡れた短剣が握られたままだったから。
「うぅ……」
意気消沈しながらも、エロクーの背嚢から魔力を回復する薬を取って、飲み干す。三本同時に。
そして這いずりながらもこちらに来ようとしているウトに寄って、砕けた四肢をまた治した。
「メイさん……エロクー、置いていかないよね?」
おずおずとディッツェが聞いてきた。
「当たり前。引きずる事にはなるけど、連れて行く。どうせ後2階だけだし、どうにかなる」
どうにかなる。
それが希望的なものである事はメイ自身分かっていた。誰1人とて欠けたらユーリを倒すのはとてもきつくなるのは分かりきっていたから。
「私が身代わりになった方が良かったけど……」
「ディッツェが身代わりになってたら、頭ごと噛み砕かれてそれこそ蘇生なんて絶望的だったよ」
「それも、そうかぁ」
ディッツェも流石に今はふざける事はなかった。
メイは携帯食料を食べ始める。沢山持ってきたはずだったそれももう、残りは殆どない。
「流石に、休まないと」
「……うん」
ウトの提案に、メイも流石に従って腰を落ち着けた。疲労がどっと襲ってくる。
……どうしたら良かったんだろう。
どうしたら。
新しく生やした腕の感触を確かめながらも、座っていると考えてしまう。
……どうしたら。
そんな思い詰めているメイに、ウトが声を掛ける。
「メイさん、一回、少しでも寝てくれ。俺達はまだ大丈夫だから」
「えっ、いや、それは」
「メイさんが万全じゃない方が、俺達は恐ろしいから。だから、少しでも」
「……うん。でも、本当に時間がないって分かったら、起こしてね」
背中の斧槍を外して、仰向けになると、メイは程なくして寝息を立て始めた。
「……やっぱり、メイさん、相当に疲れてたね」
「ああ」
……俺達が一方的にメイさんを信じていたから、そこの重圧もあったのだろう。
そう思いながら、ウトも坐禅を組み、呼吸を整え始める。
自分の形が崩れないようにするかの如く。
……やっぱり、ウトさんももう余裕はないんだ。
そう思いながら。ディッツェも血に塗れた短剣の手入れをし始めた。
角が伸び始めている頭が、少しずつ重くなっているのを感じながら。
*
*
*
*
ずっ。
ずっ。
重いものを引き摺ってくる音。
それを聞いて顔を上げたそのフロアの主。
「……」
ダンジョンの屋上。
50階。
開けた、石畳を敷き詰められた、円形のシンプルな戦場。
隠れる場所はどこにもない。
また、空には雲の一つもなく、きっと外を覗いても何もないのだろう。
その中央に立つのは、真紅の鱗に身を包んだドラゴニュート。
「……戦う前に、少し、話をしない?」
そのドラゴニュートは声を出した。
ユーリと全く同じ声色、同じ口調で。
「なんで」
最上階に辿り着いて来たミノタウロスの女。体そのものに傷は一つもなくとも、装備はボロボロだった。特に焼け焦げた痕が目立つ。
少し前、ドラゴンの咆哮が下から聞こえてきていたから、そのブレスを直撃とまではいかなくとも喰らったのだろう。
そして他に50階に来たのは、引き摺られてきたグリフォンの死体。
それだけだった。
「誰かと話せるのは、僕にとって最初で最後かもしれないから。
君
「……」
沈黙するメイを無視して喋り始めるドラゴニュートは、自信に満ち溢れていた。
……その足元には大量の血と、腕輪と足輪の4つが落ちていた。首輪だけはそのまま。
待っている最中、このドラゴニュートは、自分の手足の輪を外したのだ。きっと、相当強引な方法で。
それだけの血を失っても、腕輪と足輪を外した方が良いと判断したのだろう。
……サブマスターは、首輪と腕輪の一本を外して待っているはずだったけれど。
でも、その位はしないと心配で堪らなかったのだろう。
けれど、50階を務めるべき強さよりも一段と上の強さになっているのは確かだった。