ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい 作:ムラムリ
「僕達の親は、このダンジョンそのものだ。災厄じゃなくてね。
災厄は、あくまでこのダンジョンという擬似的な生命に働きかけただけで、災厄そのものから僕達が生まれた訳じゃない」
勝手に話し始めたドラゴニュートの話は半分ほどにしか聞かないで、メイは別の事を考えていた。
……私が負けたとして、この世から消えてなくなるのは、たった4人。
軍人みたいに、死んだら、負けたら、そこから先、自分の親しい人もそうでない人も、土地も思い出も尊厳も、とにかく何もかもが一気に蹂躙されてしまうなんて事は、ない。
そう考えると、気楽になれる……訳でもない。
背負うものが多かろうが少なかろうが、命を賭ける以上の覚悟なんて出来る事もない。
やる事も、変わらない。
「大昔の人達が、魂を色んな方法で捏ね上げて、色んな機能を持たせて、無機物に定着させた。それがダンジョンという名のゴーレム。とりわけこのダンジョンは色んな事が出来るゴーレムだけど、擬似的な生命には変わりなかった。
それが、災厄というエネルギーを経て本当の命になった訳だ。
そしてそれが抱いた感情は、まあ複雑なものだった。
ゴーレムとしても身動きなんぞ何一つとて出来ない身体である事に気付かされた事。災厄に備える為に生まれた自分が真っ先に災厄に飲み込まれた事。そして、その気になれば挑戦者達を好きなように出来る事」
「要するに……ゴーレムの憂さ晴らしって事?」
「半分くらいはね。もう半分はきちんと災厄に備えようとする気持ちもあるよ。ダンジョンというゴーレムだって、今までやってきた事の記憶がある。そして記憶は、誇りでもあり、存在意義でもある。
だから、自分の造られた意味を果たせなくなる事も、死ぬ事と同じくらい嫌だ、という訳らしい」
まあ、私にはダンジョンとして造られたゴーレムが考える事なんて分からないけど。
複雑な事が出来るなら、心も複雑になるんだろう。
「それで、そんな事まで私に言って、その身体は大丈夫なの?」
「苦労して複製された僕という存在を、こんな程度では壊さないと思っているだけさ」
「……」
「それに、僕も丁寧に造られている方だとは言え、どれだけ命が保つのか作ったゴーレム自身も分かっていないし、僕が死なないと君達は元の場所には戻れない。そして君達はここに居続けるとその内異形に成り果てる。
本当に糞みたいな事しやがって……」
最後の最後で、サブマスターが言いそうにない言葉が飛び出したのに、メイは少しだけ驚いた。
でも、同じような状況になったらきっと言うだろうとも思った。
そしてドラゴニュートは聞いてくる。
「さて。君
それなら、無駄話なんてもうしたくないのかな?」
「……まあ」
メイは斧槍を手にした。
「それなら残念だけど。手と足の一本ずつでも切り捨てて、止血して。後は君が異形になるまでお喋りの相手にでもなって貰おうかな」
目の前のドラゴニュートも剣を抜いた。どこからどう見てもサブマスターのものと変わらない、細身で無骨な片手剣。
……私達の事は知らない。記憶までは完全に引き継いでいない。
それは、サブマスターの戦法や技術まで完全に引き継いでいないとも考えていいはず。
精緻な魔力の操作。相手に防御を強要させる飛ぶ斬撃の弾幕。それと同時に届いてくる目にも止まらぬ剣術。
呼吸を整えた。
*
メイはドラゴニュートへと向けて駆けた。
そして……エロクーの腹に隠れていたウトが飛び出して、メイを一気に追い越す。
「やっぱりね」
ドラゴニュートは呟きながら後ろに跳び、剣に属性付与をする。
剣が太陽のように輝く。一振りの度に複数の光の斬撃が、メイと、そしてウトへと飛んでいく。
遅くとも、まともに当たれば身体を両断するその斬撃。
身を横にして跳ぶ、伏せる、隙間をすり抜ける。
足捌きで避ける、属性付与した斧槍で相殺する、障壁を張って受け止める。
ウトは身体捌きの一つのみで避けて。メイは足捌きである程度を避けつつも、障壁や斧槍でも受け止める。
ウトがドラゴニュートへと距離を詰める。メイはまだ距離がある。それを見てドラゴニュートはウトへと剣を向けた。
「うっ?」
ウトの事を視界から外した訳ではなかった。けれど視界の隅に寄せて戻した時には、ウトはもう消えていた。
思わず全身に障壁を張って辺りを見回した時、斧槍を遠距離から振り被るメイが見えた。
剣に劣らず輝く斧槍。
割られる!?
二重……いや、三重に!
「あ゛あっ!!」
叫びと共に振り下ろされた、飛ぶ斬撃。愚直な程に真っ直ぐ、速く飛んできたそれは、1つ目の障壁を両断し、2つ目の障壁を粉々にし、3つ目の障壁に皹を入れた。
おかしい威力だ……!?
いや、あのワータイガーは?
そう思った時には、皹の入った最後の障壁が破壊された音が、背後から。
「うっ」
思わず翼を広げて逃げた、そのドラゴニュート。
ウトの爪は僅かに届かなかった。
「……」
「……」
滞空するドラゴニュートを見上げるそれぞれの目。2人は驚いたかのように、追撃を仕掛けて来なかった。
何に驚いたかと言うと、案外大した事のない……それどころか想像を遥かに下回っている事に。
そんな感情は、ドラゴニュートにもありありと伝わって来ていた。
「この……!!」
ドラゴニュートは怒りを露わにして、属性付与が尽きかけていた剣に再び魔力を込める。
……その短気さも、ユーリにはないものだった。