ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい 作:ムラムリ
ぐしゃりと音を立てて、ドラゴニュートが地に落ちた。足を砕き、上体を打ち付け、ぴくりとも動かない。
「……」
ディッツェは弓矢を構えながらドラゴニュートに恐る恐る近付いていく……その前に、最後の一本、等しくムシュフシュの毒が鏃に塗られた矢を、ドラゴニュートに向けて放った。
ぶつっ。
首筋に刺さっても、ドラゴニュートはもう動かなかった。
「終わっ、た?」
終わったならどうなる?
いや、それより。
「ウトさんっ、大丈夫?」
ディッツェはウトに駆け寄った。もう何度目か分からないくらいに砕けた四肢、けれど顔は上げている。
「メイさんの怪力に、感謝だな……。そのおかげで、無茶をせずに済んだ」
「うん、うん、体に異常は?」
「痛くて分かんねえ……」
「それもそうかあ……」
メイもよろよろとしながらも、歩いて来ていた。
「どうにか、終わったね……」
膝を着いて、残り少ない魔力でメイはウトの治療を始める。
でも、祝詞を口にする気力もないようで、痛みを少しばかり和らげるくらいしか出来なかった。
「終わったなら、どうなるの? 出口もないし、転移陣みたいなのが出る訳でもないし……」
そう言って、ディッツェが改めて辺りを見回すと。
「あっ!?」
立っているドラゴニュートが居た。首輪と四肢に腕輪を付けたままの……ユーリが。
「あれっ、みんなっ!? いつの間に??
……いや、そんな事より、救護班呼んでくるね。もう大丈夫だから。少しだけ待ってて」
そう言って、空を飛んで行った。
「帰ってきた、みたいだね」
「うん。良かった。良かった……」
メイは緊張の糸が切れたように上体を崩させて……。
「いぎゃあああああああああ」
最悪な事に、ウトの砕けている足の上に倒れ込んで、そのままもうびくともしない。
ウトは今までの中で一番の悲鳴を上げていた。
「あー、あー……」
「ディッツェ、ど、どけてっ。メイさんっ、起きてっ!!」
「メイさん、これは……起きそうにないや。それに無理だよ、私の何倍の重さがあるって」
「とにかくっ、なんでも良いから、どうにかしてくれっ!!」
「えっ、えっ、いや、どうやって……」
「むりっ、むりだって、いたいたいたいたいたいっ!!!!」
「……あ、そういえば、一つだけ……」
ディッツェは、メイの腰の袋から一つ、紙の包みを取り出した。
中には、包みを開いた途端に宙に散らばってしまいそうな、黒い塵。
ナイトメアの、靄。
「悪夢は見るだろうけど、恨まないでね」
「それでも良いから、早くっ!!」
ディッツェは、ウトの顔の前でその包みを破いた。
「あぁ、ぁぁ…………。
あ、ああ? ゔっ、ゔあっ!?
いやっ、やめっ、お、俺の体がっ!?」
ディッツェは驚いてウトの体を見直すも、何の変化もない。メイの体で潰れている足を覗いても、多分。
「ゔあっ、やめてくれっ、やだっ、異形になんかなりたくないっ!! やだっ、ああっ、ああ゛っ!!??」
「……どっちもどっちでしかなかったね」
それからディッツェはエロクーの方を見た。
「……蘇生、成功すると良いけれど……。成功、するよね?」
*
*
目が覚めた。
「……お腹、減った……」
そう言いつつ体を起こすと、どこかの宿の中。
隣にはマイマが居た。
「あれ、マイマ。どうして?」
「メイさんは一番何でもないけど、きっとご飯を食べたいはずだから、案内してくれって、ユーリさんから直々に頼まれまして」
起き上がって発した言葉がそれだった事に若干呆れのような顔を見せつつ、マイマは答えた。
そして植物の葉に包まれたおにぎりを渡されると、メイは少しだけそれをじっと見つめた後、その葉ごと一気に口に運んだ。
「むぐむぐ……ウトとエロクーは?」
それを聞くのには少し緊張があったものの、マイマの素振りを見て最悪ではない、とは既に思えていた。
「生きています。エロクーさんは蘇生も成功して、きちんと会話も出来るそうです。ただ、体に異常はない、とは言えないみたいなのですが……」
すぐに食べ終えてしまったメイは、マイマに手を出して聞く。
「おかわりないの?」
「あ、ああ、はい。あります」
おにぎりやらパンやらを手渡されながら、メイはそれでも不安気に答える。
「まあ……これからも一緒に旅が出来れば言う事ないんだけど……」
「僕もまだ細かい事は聞いていません。けれど、近い内に会えるそうです」
「……今は食べておくしか、出来ないのかな。そう言えば、ディッツェもそんな感じ?」
「はい。ウトさんやエロクーさん程でないにせよ影響を受けているようでして、念入りに検査を受けているようです」
「……私には、何もなかったのかな? 少しくらいは受けていたと肌感では思っていたんだけど」
「角が少し大きくなったようですよ」
「え?」
メイは頭を振ってみたり、自分の角をぺたぺたと触ってみる。
「うーん。別に重くなったとかも感じないし、そう見た目も変わってないでしょ?」
「見た目は、多分変わってないと思います」
「……見た目は?」
「私もはっきりと言える事ではないんですけど、多分また
「
そう言ってから、空腹に耐え切れなくなったからか、渡されたご飯を食べ始め。止まらなくなった。
そしてすぐに食べ終えると、改めてマイマに聞く。
「私、別に何日も寝ていた訳じゃないでしょ?」
「まあ。メイさんがダンジョンに挑んだのは昨日です。今は昼前ですね」
「半日くらいかあ。……サブマスターからお金は貰ってる?」
「え、まあ、かなり。この前メイさんと一緒に食事をした時の倍以上は」
「じゃあ、食べに行こうか。全く足りないや」
「……」
冗談抜きに全額使い切りそうだとマイマは思った。
……けれど、前回よりも食べない内にメイの食欲は収まってきてしまう。
言葉も少なく、やはり皆の事が不安なようだった。
それどころか。
「やっぱり止めておくべきだったのかなあ……」
憂鬱そうな顔をしながらそう呟くメイは、ダンジョンでの出来事を振り返って、もう大体の事を察してしまっていた。
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