ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい 作:ムラムリ
大きなテーブル。異なる大きさ、頑丈さの椅子。
テーブルの上には豆やら野菜やらを煮込んだスープ。それからパンやら米やらの穀物と、腸詰めやチーズなど。
それからお茶。
「いただきます」
「いただきます」
都市の外れの空き家。そこでそれぞれが適した椅子に座り、適したご飯を食べる。
草食寄りなミノタウロスとガラドン、肉食寄りのドラゴニュート。雑食なヒューマン。
等しく、どうにも物々しい雰囲気を醸し出す首輪をしていた。
暫く、黙々と。食器がカチャカチャと僅かに音を立てる。それから咀嚼音が控えめに。
1人が水を飲んでから一息、声を出した。ヒューマンの、ヤヌアール。
「今日は何をするんだ? 出発2日前だが、全員特に予定はないよな?」
「んー……。部屋の後片付けをしたら、偶には日向で1日寝てても良いかなあって」
「私もそんな感じ。どうせ北に行くならそんなのんびりする日も全く無くなるだろうし」
メイとディッツェがそう答える。
「えー、僕、都市をまだまだ巡り足りないんだけど」
そう答えるのはドラゴニュート。災厄が終わった後に唯一死体として残り、そして蘇生に成功した。フミと名付けられて、首輪にて誓約を掛けられた上でメイの旅に同行する。
その誓約の都合上、首輪を付けた誰かが近くに居る範囲でしか行動出来ない。
「……ヤヌアールは?」
「それならフミに付き合って都市を回ってくるとするよ。じっとしているのは性に合わねえし」
「分かった。ありがと」
「何か買ってきて欲しいものでもあるか?」
「ご飯。肉以外で何でも」
「はいはい」
「私もまあ、メイさんのお零れでいいかな」
「分かりましたよ、と」
そう言って、ヤヌアールとフミは食事を終えるとすぐに出かけて行った。
20日程一緒の屋根の下で暮らして色々したとは言え、まだ関係はとてもぎこちない。
*
掃除を終えてから、庭で寝転がったメイの隣にディッツェも寝転がる。
災厄の影響はメイより色濃く受けており、角と体が少しばかし大きくなった代わりに魔法が苦手になった……長兄のデゼンに近付いているような雰囲気。
「私……まだ、少し引き摺っているんですよね」
何を、というのは、メイには聞かずとも分かった。
「……私もね、西のダンジョンで沢山殺してきたけど、昇天までしちゃった人の事は少し思い出したりするよ」
ウトにとっても、ディッツェにとっても。
悪ではない——外に出たとて積極的に害を為す存在ではない相手を殺した……蘇生される事もなく完全にこの世から消失させてしまったのは、気付けば初めての事だった。
それは、ディッツェにとっては引き摺る事になっているようだった。
……多分、ウトも少しは引き摺ってるかな。
でもディッツェ程ではない気はする。
「今回の事とは毛色は少し違うけどね。私1人にパーティを壊滅させられて、絶望しきったリーダーは案の定、蘇生が失敗して昇天しちゃったり。単純に運が悪かったのか昇天しちゃったり。
まあ、私が昇天させた人は少なからず、ええと、10人くらいは居るから」
「……最初に昇天させてしまった時って、結構引き摺りました?」
「んー……ほんの少しだけ。
でも引き摺るって言うよりかは、私だって、蘇生が成功しやすい体質だとは言え、同じ条件で、しかも時には1対5とか1対6とか、そんな非対称な形で戦ってるのなぁ……って感じだったかなあ。
でも、今でも時々思い出すって事は、何か心に引っ掛かっちゃったって事なんだろうけどね。
苦し紛れに鎧越しに殴ったのが、ちょうど胸にぶつかって心の根を止めてしまった、ヒューマンの大楯持ち。
属性付与した斬撃で縦に真っ二つにしちゃった、ドワーフの僧侶。
両足を切り飛ばされながら最期まで私の足に爪を立てて噛みつこうとしてきて、思わず頭を踏み潰しちゃったワーウルフ……」
……私も少しは先祖返りの影響が出ているみたいだけれど、やっぱり、メイさん程じゃない。
そんな事を思っているのも露知らず、メイは続ける。
「でも、ディッツェも別に大丈夫だと思うよ。これから先、またディッツェ自身や仲間の命が危なくなった時……相手が誰だろうと、躊躇なく殺せるでしょ?」
「……まあ、そういう時は、自分のそういう感情は殺せていると思うので」
ムシュフシュを殺した時点で、少なからずその感情は湧いて出ていた。けれど、ワイバーンも殺したし、ドラゴニュート……フミも殺した。
「それで十分でしょ。それとも……そんなフミとこれから旅をするのが不安?」
「ええと、それも、まあ、はい。メイさんは無いんですか?」
「だって、首輪付けてるから。正直不安って言ったら、ウトとエロクーと最初に旅の一歩を踏み出した時の方が不安だったよ。
ダンジョンで殺し合っただけの相手と、いきなり顔を合わせて旅してねって。だからまあ……最初は本当に、とてもぎこちなかったから。
そう言う意味じゃあ、ディッツェは……」
私達と旅をしろって言われた時は不安じゃなかったの? と聞こうとして、その時の事を思い出した。
エロクーに熱烈な視線を向けていたディッツェを。
……単純に性癖じゃない人ばっかりになって滅入ってるというか……。
「……エロクーが抜けるのが嫌だ?」
「それも、とても、とてもあります。でも、だからと言って、災厄に耐性がある私がそんな理由でメイさんとの旅よりエロクーさんとかと一緒に居るなんてしたら、エロクーさんに嫌われちゃうので。
後、それよりも不安なのは、エロクーさんより魅力的なグリフォンとかが居たら、私はどうしたら良いんだろうって……」
あ……スイッチが入った。
「エロクーさんはもう仲間なんですよ。前にも言ったかもですけど、エロクーさんが私を啄むところなんて、もう私自身上手く想像出来ていなくて。
でも、北にはエロクーさんみたいなグリフォンとか、色んな魔獣が居るんでしょう?
弱肉強食の世界で生きてきたような、エロクーさんの原液とも言うような、より苛烈な魔獣だらけで。
そこで私は、私を抑え切れるのか。そこから戻ってきた時にエロクーさんを見る目が、つまらないものを見る目になってしまっていないか、そこも不安で不安で……」
……まあ、ディッツェも何だかんだで大丈夫そうかな。
もう慣れたもので、メイは聞き流しながらそう思った。
戦闘シーン
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