ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい 作:ムラムリ
ふらりふらりと見るもの全てに興味を持つように動き回るフミに対して、ヤヌアールはもう慣れたように溜息なども吐かず、黙々と着いていく。
言葉は通じる。文字も読める。一般常識もある。けれど、経験だけは何一つとしてない。
そんな歪な記憶を持って、そして……この複製された身体がどれだけ保つかも正直分からない。
何千年という歴史の中でも、こうして災厄の中から生まれた存在が災厄の力が及ぶ外でも自由に動き回れるなど、前例も少なく、フミはそれだけ稀有な存在だった。
……それを一緒に旅に出させるとは、ずいぶん振り切った決断をするもんだ。
研究しようと思えば色々出来るだろう。体の構造はまるっきり一緒なのか、何故力の及ばない場所で生きる事が出来るのかを知る事が出来れば、災厄の影響を軽減する可能性も生まれてくるかもしれない。
ヤヌアールも最初はそう思っていた。けれど、前例からしてそれも余り期待出来ないようだった。
端的に言えば、何千年と災厄と付き合ってきて、それの法則性が『ランダムな場所か生命に、不可逆な影響を与える。その影響に耐えられなかったら、影響を受けたものは崩壊する』という程度しか定義出来ていない。
災厄の源となるエネルギーすらも、空から降ってくるのか、地から湧き出てくるのか、海から波と共に打ち寄せてくるのか、それすらも異なってくる。
不可逆な影響も、体が大きくなったり小さくなったり、時には指や尻尾が増えたり、凄い時には翼や腕や頭まで新しく生えてきたり。知性が高くなったり、逆に低くなったり。全体に対して異なる種との繁殖が可能になった、なんて事も。
そして災厄のエネルギーが体の中の許容量を超えたら、等しくぐちゃぐちゃになる。色んな意味で。
そんな時点で、研究する為に閉じ込めるよりかは、ある程度自由にさせて役に立って貰う方が価値があると言う事らしい。
「ねえ、昼ご飯、この店にするけど良い?」
「俺も少し気になっていたが……」
外に居ても、辛い匂いが漂ってくる店。嗅覚の鋭い獣人は、物好きでもなければまず近付かない。
「ドラゴニュートも嗅覚や味覚はヒューマンとかより鋭い方だろ?」
「でも獣人程じゃないはずだよ。それに食べられるものだってヒューマン以上に多いし、胃腸だって強い」
「まあ、それなら入ってみるか」
席に着いて、お勧めを聞いてその通りに注文した。
待っている最中、ヤヌアールは唐突に聞いた。
「なあ。メイとディッツェに関してどう思ってるんだ?」
それに対して、フミはヤヌアールを見つめ返した。
「……ヤヌアールこそ、メイを恐れているでしょ。僕も見てたんだからね」
「……」
あるご飯の時。メイがふと、ヤヌアールをじっと見ていた。
ほんの少しの時間だけ。けれどそれは……この状況なら、自分はヤヌアールを殺せるか? と考えていた顔だった。
すぐに顔は食べ物の方に戻ったが、狭い部屋、それぞれ武器も持っていない状態では、メイは殺せると断じたようだった。
「俺も前にボコボコにしたからな。メイも俺をボコボコにしたいと思ってるのは仕方がない……が、まあ、俺でも、アレはビビった。
実際あの場所で襲い掛かられたら、俺でも逃げられるかも……かなり怪しい」
苦し紛れの言葉は、実質的に出来ないと言っているのと同じだった。
フミも、ヤヌアールの能力をもう既に知っていたから。
「……ふーん。まあ、僕も似たようなものだよ。あの2人は怖い。同じくらいにね」
「同じくらいに?」
「君には奇襲とか絶対に通じないだろうから分からないだろうけど。体に石畳の粉を塗していたって言っても、僕が何度地面を舐めるように見回しても、ディッツェを見つける事は出来なかった。
災厄による影響を受けているとしたら、アレはね……多分、自分の存在を薄く出来るような能力を新しく身に備えてるよ」
「メイは言わずもがなか」
「まあ、ね」
この体に毒矢が刺さる直前。体の中に無尽蔵にあったはずの魔力はもう殆どなかった。斬撃を無数に放つよりも、恐怖に駆られて障壁を展開し続けた時の方が余程に魔力を消費させられていた。
「僕は元となったドラゴニュートのように戦闘狂にはなれてないみたいだからね。アレの前で剣を振るうなんて無謀は絶対にしたくもない」
諌める言葉を吐き出したい気持ちもあったが、飯の前に雰囲気を悪くする事もしたくなかったので控えた。
それに、似たような境遇である事もあった。
その代わりに聞いた。
「これから一緒に旅をする事になるのに、不安はあるか?」
「不安は無いよ」
驚いたヤヌアールにフミは続けた。
「だって、僕はそもそも、死んだら終わりだって思ってたんだもの。
蘇生が成功して、こうやって色々出来る時点でもう、とても恵まれている」
遠い目をしていた。
「思うところは色々……本当に色々あるけどね。でも、あの2人も、ウトも含めて、不思議と嫌いじゃないんだ。
本気で殺し合ったにせよ、生きる為に必死だったところは変わらないからかな。
何なら、僕が負けた事が良かったとも思ってる。僕が勝っていたら、あの空間で、ひとりぼっちで死んでいったのかもしれないしさ。
だから不安はないよ」
「……聞けて良かったよ」
少なくとも、旅の途中で空中分解する、なんて事はなさそうだ。
程なくして飯が届いた。鉄鍋の中で、見るからに真っ赤な色をした、肉やら香辛料やらの煮込み。
まだぐつぐつと音を立てている。
「やばそー!」
フミは歓喜の声をあげて、匙を手に取り、早速一口……。
*
*
翌朝。
本日の予定は、挨拶回り。
「ウト、エロクー、居る?」
「あれ? メイさん、ディッツェ。今日はフミとヤヌアールも一緒じゃないの?」
「旅立つの、ちょっと延期になっちゃって」
その2人の尻が昨晩から壊滅的になっている事を伝えた。
「……意外と可愛らしいところもあるんだな」
「まあ、ね。サブマスターも呆れてたよ。
でも……災厄から生まれた身でも、特別な能力を持っている身でも、蓋を開けてみればただの人である、というのは、一緒に生活してて分かってきていたと思うけど。
こんな事をしでかして、やっと言葉に出来た気がする」
……うーん、メイさんもただの人って括りで良いのかな。
そう内心で思いつつ。
「なら、まあ、旅は出来そうか」
「多分ね」
「……私達モ、今すぐでハないが、絶対に北に行くかラな。遅れるダけだ」
エロクーの言葉遣いも、少しずつ元に戻っていた。魔力のコントロールもまた出来るようになりつつあるのだろう。
また一緒に旅を出来るのが10年後とかになったとしても、ウトとエロクーは私に追い着いて来てくれる。
その願いを込めながら、メイは返した。
「うん、待ってる」
かなーり伸びたけど、5章おしまいです。
6章は、ぼちぼち間挟みます。二次創作で(pixivにしか投げないような濃ゆい代物を)幾つか書きたくなってきたところとかあるので。
まあ、感想とか評価とか、あったら嬉しいです。
フミ(7月):
災厄から生まれたドラゴニュート♂
ユーリ(7月)と合わせて文月よりフミ。
ユーリをベースとして生まれたので、見た目、能力値は基本一緒だけど、性格はかなり異なる。
というより、経験が真っ新な状態でいきなり、全ての防御を破壊してくるミノタウロスと、常に防御を張ってないと視界から消えて/死角からこっそりと殺そうとしてくるワータイガー/ガラドンと戦わされた事で、ああいう戦法を自然と取る事になったというか。
旅に出るにあたってユーリにスパルタ教育されただろうけど、結局戦闘狂でもないので、戦法はそこまで変わってない。
あとどれだけ生きるのか、災厄から生まれた身として、ユーリと他に異なる点がどれだけあるのか、フミ自身にも全く分からない。
メイ:
災厄の影響は一番薄いが、何かしらあるはず。
流石に狭い空間で、それぞれ素手なら、ヤヌアールにも勝てる。
■凄い斬撃
真空波 + 属性付与 + シンプルな膂力での斬撃。
防御をどれだけ重ね合わせたとて、一撃で無に帰すだろう。
ディッツェ:
災厄の影響は二番目に薄いが、体や角が少し大きくなったり、また隠密に更に長けたり、ところどころで影響が出ている。
エロクー:
異形になる数歩手前まで災厄の影響を受けている。魔力のコントロールが効かなくなるも、魔力量は増えている。
四肢や翼などの大きさ、長さが左右で若干歪になっている。
旅からは一旦脱落。
ウト:
異形になる寸前まで災厄の影響を受けている。体を砕く勢いで全身を過剰に動かせるようになっている。見た目にも変わりはないが、旅からは一旦脱落。
■捨て身
体を砕く勢いで突進する。
見てから防御は不可能なので、常にその突進を防げる障壁を張り続けたりするなどの対策が必須になる。
戦闘シーン
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分かりやすい/面白い
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分かりやすい/つまらない
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分かりにくい/面白い
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分かりにくい/つまらない