ダンジョンにネフがいるのは間違っているだろうか   作:黒狐

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「「「新人(ルーキー)歓迎会やあああ!!!」」」

 

黄昏の館の大広間。

ロキの雄叫びを合図に、静寂に包まれていた館は一瞬にして酒と肉の匂いが漂う喧騒の渦へと叩き落とされた。

並べられた長机には山盛りの料理と酒樽が置かれ、冒険者たちが次々とジョッキを打ち鳴らす。

 

「わー! 可愛い子じゃん! ねえねえ、どこから来たの!?」

「楽器持ってるってことは、やっぱり歌ってくれるの!?」

 

ツクリを取り囲んだのは、好奇心の塊のようなアマゾネスの姉妹――ティオナとティオネだ。

まだLv.4になったばかりの彼女たちは、自分たちより少し背の低いツクリに興味津々で顔を寄せてくる。

 

「ええと……ツクリ・瀬笈です。極東のさらに先の方から来ました。機会があれば、ぜひ一曲お聞かせします。」

「極東!? いいなー、珍しいね! 私はティオナ、こっちはお姉ちゃんのティオネ! よろしくね、ツクリちゃん!」

 

そんな賑やかな輪を、不機嫌そうに蹴散らす影があった。

銀髪の狼人――ベート・ローガだ。彼は手にしたジョッキを乱暴に煽ると、ツクリを上から下まで、値踏みするように睨みつけた。

 

「チッ、まーたロキがどこからか『荷物持ち』を拾ってきやがったか。……おい。そのひょろい腕で、本当に迷宮(ダンジョン)に潜るつもりか? 足手まといになる前に、そのデカいガラクタ売って田舎に帰るんだな」

「ベート、言い過ぎだ。彼女は……」

 

リヴェリアが口を挟もうとするが、ツクリはそれを手で制した。

彼女はエメラルドの瞳をベートの濁った瞳に真っ直ぐに向け、静かに口を開く。

 

「ご心配ありがとうございます。ですが、この『ガラクタ』がなければ、私はここまで生きて来られませんでしたから。……あなたが望むなら、実力で証明しますが?」

「……あァ?」

 

ベートの眉間に深い皺が寄る。

周囲の団員たちが「お、新人がベートに食ってかかったぞ」と色めき立つ。

一触即発の空気が流れたが、それを切り裂いたのはロキの楽しげな声だった。

 

「はいはい、そこまでや! ベート、あんまりいじめると後で泣きを見るのはあんたやで? それよりツクリ、一曲頼めるか? この騒がしいガキどもを黙らせるようなやつをな!」

「……わかりました」

 

ツクリは傍らに置いていたチェロを静かに取り出した。

ざわついていた広間が、彼女の佇まいにわずかな静寂を取り戻す。

彼女が椅子に腰掛け、弓を引いた瞬間。

広間の空気が、物理的に「変質」した。

スキル**『万象奏者(オルフェウス)』**の発動。

紡がれる重厚な低音は、酒で昂った冒険者たちの精神に染み入り、荒ぶる気を鎮めていく。

それは単なる音楽ではない。聴く者の精神を研ぎ澄まし、魔力を活性化させる「魔法」に近い旋律。

 

「…………」

 

壁際で一人、ジャガ丸くんを口に運んでいたアイズが手を止めた。

彼女の黄金色の瞳が、ツクリの指先から溢れる音の色に釘付けになる。

一曲が終わる頃には、先ほどまでツクリを侮っていた団員たちの目つきは変わっていた。

ベートさえも、毒気を抜かれたように黙って酒を煽っている。

 

「……ふん、音楽だけは雑魚じゃねぇみてぇだな」

 

ぶっきらぼうに吐き捨てて背を向けるベート。

それを見送ったツクリの隣に、アイズがひっそりと歩み寄ってきた。

 

「……いい音」

「ありがとうございます。アイズさん、でしたね」

「うん。……明日、私もダンジョンに行く。……あなたの『音』、また聴きたい」

 

アイズの真っ直ぐな言葉に、ツクリは今日一番の柔らかな笑みを浮かべた。

 

「ええ、喜んで。……迷宮の底でも、退屈させませんよ」

 

その夜、ツクリ・瀬笈の名は、驚きと期待と共に「黄昏の館」に深く刻まれた。

そして翌朝、彼女はいよいよ、自身にとって初めての、そしてオラリオにとって「異変」とも呼べるダンジョン探索へと足を踏み入れることになる。

……とツクリ本人は思っていたのだが。

 

「残念だが、明日はギルドに冒険者登録をして私の講義を受けてもらうぞ。」

 

「……へ?」

 

期待に胸を膨らませていたツクリの口から、間の抜けた声が漏れた。

隣で同じく「明日から一緒に潜れる」と思っていたアイズも、心なしか肩をおとしてしょんぼりとしている。

リヴェリアはそんな二人を冷徹な、もとい慈愛に満ちた(?)眼差しで見下ろした。

 

「いいか、ツクリ。君の数値(ステイタス)がどれほど規格外であろうと、君はこの街では『新人』だ。ダンジョンの構造、ギルドの規約、そして何より――魔力の制御。それらを叩き込まずに迷宮へ放り出すほど、私は無責任ではない」

 

リヴェリアの言葉は正論そのものだった。

ロキは横で「リヴェリアの教育ママモードが入ってもうたな、ドンマイ」とニヤニヤしながら酒を煽っている。

 

こうして翌朝、ツクリの「オラリオ初陣」は、ダンジョンの入り口ではなく、ギルドの重厚なカウンターと、リヴェリアとのマンツーマン講義室から始まることになった。

 

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