単発!深淵歩き二次創作シリーズ!!   作:城縫威

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重力の彼方に深淵は眠る

空が遠く、まるで井戸のそこに沈み込んだような、そんな薄暗く、幻想的に差し込む光、血管のように数多に張り巡らされた配管、滴る水、その奥からは轟々と機械の動く音が微かに聞こえ、微かにもかかわらず耳の奥に漣のように残り、消える。外界から離れたそこに、一つ通路のような物がある。大方、この管の集合体を作る際に、足場として作った場所だろう。筒状のこの穴の世界に、節目のように作られた円形の道、その幅は、数人横並びにしても余るくらいには広く作られている。円の中心には、深く、より深く続く闇が続く。間違って落ちでもしたら、まあ怪我ではすまい。

 

「時が過ぎようとも、過去が私のもとに追いついてはこない。それとも、過去そのものが存在しないのか。過去なき者はどうして、こうも空っぽなのか。今が私の元から立ち去れば、過去になって土台となるというのに、底無き沼のように、過去を包んで落ちていく。後には何も残らない。これは本来の過去がそうするのか、それともただ、私が空っぽな木偶なだけなのか、さて、どう思うアビス。」

 

幅の広い道の端に、硬い壁に凭れて空を見上げれば、溜息ばかり、身体を満たす。背の高い、薄汚れた布を重ねた服に、人の良さそうな顔の男は、傍に寄り添い眠る、狼に似た何かに声をかけた。反応は薄い、くあと欠伸でかえされた。その狼らしき姿は奇妙で、手を伸ばして見れば、それこそ闇の中に手を入れるが如く、吸い込まれそうなほどの漆黒がその体である。ふわりとした毛先の一つ一つまで、目も、耳も、鼻も、ただひとつ違うとすれば、口の中の白く鋭い歯が光っている。

 

「今日は久しぶりに外に出て、食料でも探すか、それとも、今日も、空を眺めて過ごすか、悩むな。」

 

のんびりとした口調で、悩んだ様子もなく、アビスと名づけた狼らしきものを撫でる。ゆっくりと、首から背中にかけて撫で下ろす。それを繰り返す。何度も、何度も繰り返す。呼吸もまばたきも、座って空を見つめたまま、繰り返す。どれくらい同じことをやってきただろうか、近くの配管から、少女の叫び声らしき音が男の耳に入ってきた。

 

「どうやら客人が来るようだ。珍しいな、足を踏み外してどこかの穴にでも転げ落ちたのだろうか。」

 

程なくして、その姿を表わす。壁に空いた穴から、転がるボールのように金髪の少女が飛び出してきた。黒い衣装を着ているのだが、随分と露出が多い。若々しい、浅黒い素肌が、外気に触れていた。体つきは華奢で、彼女側には、どこかアビスに似た雰囲気のする猫がついている。キレイに尻もちをついた少女は、痛そうに呻いた。

 

「いててて……ここは、あっ!ふーん、なかなか……。」

 

立ち上がって直ぐに、頭上の空を見上げ、一人頷く少女、どうやら男とその連れには気づかず、この場所を気に入ったらしい。少女は少し、あたりを見て回ろうとしたのだろう、空に向けていた視線を周辺に向けた。

 

「……!えっと、どうも。」

 

ようやく、男とその連れの存在を認めた少女は、軽く会釈をする。

 

「あゝ、はじめまして。」

 

随分と久しぶりに、空以外をこの目に収めたと、男は思う、人に会う事を懐かしむくらいに、自分たち以外の者とは会っていなかった。

 

「あの、ここって、勝手に使っていいんですか…?」

 

じっと見つめてくる男の視線に、少女はちょっと後ろに引いて、おずおずと尋ねる。

 

「構わないと思うよ、私もずっとここに居るけれど、怒られた事は一度もない。」

 

一歩、後退りされた男は、ふと、自分の顔をなでてみる。ザラリとした髭の感触、ぽろぽろと崩れるように落ちる老廃物、どうやら自分の姿はかなり汚らしいらしい。確かに、ゴミにはだれも近づきたくはないだろう。男はなんだか笑えるようで、口元をニヤリと歪めたく努めたが、長らく使っていなかった顔の筋肉は、日にかざした干し肉に近く、固くひきつっていた。この身体は、凭れた壁に、同化しようとしているらしい。よく見ると、自分の腕は枯れ枝のようにやせ細っている。これでは自分の言葉もちゃんと少女に伝わっているかも怪しい。

 

「思えばこの身体を床と壁につけたからどれだけの時間が過ぎたのだろうか、考えたこともなかった。一度外を彷徨い、ここにたどり着いてから、そうか、そこから動かなくなってしまったのか。石になるのもうなずける。」

 

「え?何か言いました?」

 

男をうっちゃっておいて、少女は辺をキョロキョロと見ては、歩いて、何かを探しているようであった。男のボソリとした言葉に、振り返る。男が、いいやと返事をしようかとしたが、それより先に少女が男を通りすぎて、奥の、壁からその頭をのぞかせた、大きな配管があるところまで駆け寄った。

 

「閃いた!うーん、これくらいあれば行けるか、うんうん、しっかりしている、いい感じ。」

 

少女は両手を広げて配管の大きさを測ったり、飛び跳ねて頑丈がどうかを調べたり、ひとしきり確認すると、うんうんと頷いて何かを決めたようだ。

 

「ねえおじさん、ここって本当に使っていいですかね。」

 

一度配管から少女は出ると、取る必要のない確認を男にとった。管理人でも何でもない男は一つ、頷くことにした。それに満足したのか少女は、黒猫をつれて、その配管の奥へと進んでゆく。少しして、何かを壊す音と一緒に、少女の宣言のような声が聞こえてきた。

 

「決めた!今日からここが私の家ってことで!」

 

なるほど、少女はここを住処にすることを決めたようだ。ならば邪魔者は消えねばなるまい。身体を動かすいい機会だ、これを機に、外の世界を歩きまわって見るのもいいかもしれない。男は、紫煙で色を付けたような、くすんだ床に両手をやると、身体を立たせるために力を込めた。使っていなかった身体はなかなかいうことを聞いてはくれなかったが、なんとか立てた。しかし壁に手をやり支えなければ、今にも崩れるように倒れてしまう。男が動き出すのを感じ、アビスもゆったりとした動きで立ち上がり、大きな欠伸をした。

 

「適当に、穴の中を進んでゆけば何処かには出るだろう、なあ、アビス。」

 

わふと頷くように答えるアビス、その目は弱々しい身体の男から離れることはない。男は壁づたいに、一歩一歩、噛みしめるように歩き出した。身体のふしぶしが、油の切れたブリキのように、ぎりぎりと痛む。男はそれすらも懐かしく、楽しむ心で受け入れ、また一歩を進める。

 

「そういえば、彼女の名前を聞いていなかったな。なんという名なのだろうか、猫をつれていたからキャットとでも言うのか、いや、それではありきたりすぎる、言うならキトゥンの方がいいな、そのほうがいい。」

 

そう、彼は口に出して言いながら、適当な穴の中に入って、また暗い道を進んでいった。

 

「あの!これからここに住みますからよろしくおねがいしますねって、あれ?いない。」

 

少女が配管から顔を出して男がいたはずの場所を見ていると、先程までいたはずの男がもうそこにはいない。忽然といなくなってしまった。一応、近くに住むので挨拶はと思った少女だったが、なんだか狐につままれたような気分になった。先ほどまでいた男と狼らしきものは、本当はそこになかったんじゃないか、そんな気さえしていた。だがいないのなら仕方がない、これから作る家の為に家具やインテリアを集めてこなくてはいけない。

 

「あの男の人、どんな人だったんだろ、またどこかだえ合うかもしれないし、よし!あの人のことはウォーカーと呼ぼ、なんか色んな所歩いて回ってそうだし、いいよね。」

 

少女はそれだけ言うと、家造りのために、道具を探して外へとでるのであった。




グラビティデイズとのクロスオーバーですね、アルトリウスは記憶を失っている状態です。おそらくシアネアに記憶を戻して貰うのだとおもいます
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