単発!深淵歩き二次創作シリーズ!!   作:城縫威

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問題児たちの中に深淵歩きが紛れ込むようです

【深淵歩き】

暗闇が続く。あてもなく、動かない左腕を置いて、ただ前に前にと進んでいく。どれほどの時間、そうしてきたのだろうか。今では思考も擦り切れて、何を考えているのか自分でさえわからない。右肩に担ぐ体験の重さを感じることさえ、出来なくなっている。刃の重みを忘れた自分は何て、何て罪深いことを、と、残った思考の欠片で思う。何時かはその思いさえ、擦り切れて消えてしまうのか、それで、いいのかもしれない、業を負う私に対する、罰なのかもしれない、そう彼は思って歩いた。視界は真っ黒、まるでそうしなくては生きていけな以下の様に、足だけは動く。自分が担っていた筈の使命は、達することなく放棄した。放棄せざるおえなかった。友の一人、聡明な少女が、深淵の中に取り込まれていた。たとえ闇を広げる悪しき魔物でも、友は切れない、それだけは出来ない。シフ、あいつが今の私見たらどう思うのだろうか、アルヴィナ、君はただ何も言わず私に笑を浮かべてくれるだろうか。あゝ、オーンスタイン、ゴー、そしてキアラン、もう会えないと思うと切ないよ、もうその声を、姿を、優しさを、温もりを、全てを、あゝ、あゝ、進まなくては、今の私にはそれしか出来ないのだから。哀れな騎士は、一人闇の中を進んだ。ゆっくりと深淵の中に沈み込んでいくのを感じながら、前にすすんだ。

 

そんなことを続けてまた、どれくらい経っただろう、ずっと歩き続けた彼を止める、あるものが落ちてきた。最早自分が誰であるかも忘れかけている彼の前に、一通の紙が落ちてきた。真っ暗闇の中に、光を放つかのように上から下へとそれは落ちる。足が、自然と止まった。身体の動くままに、大剣を自らのソウルの中へと入れると、右手でその紙を拾った。どうやらそれは手紙で、封がされているようだ。そこに自分の名が書かれていたが、それを読むには、いささか擦り切れすぎていた。何故高中身が知りたくて、手紙を地面に置くと、地面と一緒に抉るようにして、封蝋をとり、中身を抜き出した。何が書かれているのだろう、何が、擦り切れた中残った何かが何かを求めて書かれているものを読もうとする。

 

ーー悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。その才能を試すことを望むのならば、己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて、我らの〝箱庭〟に来られたしーー

 

そう書かれていた文字をみて、なんと残念なことだろうか、それは彼に読める字ではなかった。底知れぬ落胆が彼を満たした。何故だ、何故読めもしない手紙が私の前に現れた、何故闇の中を彷徨う私の前に現れたのだ。その湧き上がる感情は叫びへと変わっていた。涙も枯れた彼の叫びは咆哮となって四散する。同時に、目を焼かんとする程の眩い光が彼を襲った。

 

【黒い森の庭】

 

何処かもわからぬ暗い森の中、途切れてしまった友の気配を木にして空を見上げた白描は呟く。

 

「おい、あんた、シフを残して何処に行ったんだ。何時も仲良しこよししていたお友達置いて、どこに消えちまったんだよ。ウーラシールが消えるのはもうどうしようもない、けどあんたまで消えることあないじゃないか。残された者は、あんたを思って泣くんだよ。……でも、そうだね、あんたは十分に頑張った、それはもう、褒めちぎってもイイくらいに。休んでもいいのかもしれないね、でも、やっぱり消えることはないじゃないか、アルトリウス。」

 

震えるその声は、誰にも届かず夜の森に消えていった。アルヴィナも、白煙と一緒に、どこかへ消えた。

 

【異世界の光のなかで】

 

落ちる。高い所から低い所へと落ちるふわりとした感覚が身体を包む。あの眩い光の後、ずっと目を瞑っていた。目が焦げてしまうと思ったからだ。だがこのままにもいけない、ゆっくりと目を開く、つもりだったがその目は驚きにパッと開いた。青が見える、綺麗な青が、光が、見える。身体を捻って落ちる方向を見る。なんということだろうか、何て、美しいんだろうか、大地が見える、雄大な大地が。慣れない光は、チクリと目を刺すが、暖かな光はその痛みをかき消すぐらいに彼に感動を与えた。自分が今まさに落ちていることなど忘れさせるぐらいにだ。

 

ふと、自分以外の誰かの悲鳴が聞こえた。そちらを見ると若い少年と少女達が落ちているではないか、おい、危ないぞ、そう自分も同じだというのに、そう彼は言ってやろうと口を開く。言いかけた途端に、水が彼を包んだ。ようやく自分も落ちていたんだと彼は気づいた。水のずっと深くに沈んだ彼は、水でぼやけてなおキラキラと揺れる水面を綺麗だと、見ていた。数秒の後に苦しくなり、ようやく浮き上がろうと片腕でもって水を掻いた。

 

近くの岸に這い上がると、近くには既に水から上がっている少年少女達がいた。後からあがってきた彼を少年少女達が見つめる。一人の少年に二人の少女をみてアルトリウスは安堵した。そうか、無事だったのか、それは良かった、そう思った。そこで彼はまた驚く、擦り切れていたはずの自分がこうまで心に余裕があるとは、まるで奇跡だ、夢の中にいるような感覚だ、思えたことが彼にとってとても嬉しかった。ぼんやりと嬉しさを噛み締めながら、水の中から完全に上がらないまま座り込んで空を見上げた。夢だとしたらなんと良い夢だろうか、また、こんなにも広い空を見上げることが出来た。空をみあげている間、ずっと陸の方で少年が自分に向かって何かを叫んでいるようだったが彼の耳には入っていなかった。

 

「何だあいつ、まったく反応しねぇな。」

 

少年が毒付く様に言う。その言葉には少女二人も同感の様だ。少年の言葉にそうだと頷く。

 

「全くよ、言葉が通じないにしても多少の意思疎通をしようとするべきだわ。」

 

少女の一人が声高に言った。二つ、左右に付けた赤いリボンと共に、長い黒髪がゆれる。黒いロングスカート、白いブラウスに黄色のタイが可愛らしい。少女はアルトリウスに聞こえるように大きな声で言ったつもりでだったが、等のアルトリウスは全くの関心を少年少女達に向けやない。

 

「……無関心。」

 

別の少女がボソリと呟く。その少女が白いハンカチで拭いてやっている三毛猫は答えるようにブルブルと身体を震わせた。

 

「ヤハハハハ、全然お前の声、届いてねぇな。」

 

金髪にヘッドをを付け、黒い学生服の少年が声をあげて笑う。その声が耳障りだと、高飛車な少女は顔を顰める。

 

「その下品な笑い方今直ぐやめて、あとさっきから言ってるお前って言う言い方も訂正して、私には久藤飛鳥よ、以後気をつけて。……そこの三毛猫を抱える貴女は?」

 

三毛猫を抱く彼女は振り向かずに言った。茶色のちょっぴりの赤を混ぜたような短髪に銀色のヘアピン、裾が長く袖のないジャケット、中に白シャツとショートパンツを着ている。首元にはネックレスを下げいる。

 

「……春日部耀。」

 

「そう、よろしく春日部さん。それで? 目つきの悪い野蛮で凶暴そうな貴方は? 」

 

お前と呼ばれたことがいまだ気に食わないのか、やけに高圧的に飛鳥は聞く。その態度に気分を害する事無くケラケラと少年は名を答えた。

 

「高圧的な自己紹介をありがとよ。見た目通りで野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗悪で凶暴で快楽主義者と三拍子揃ったダメ人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれよ、嬢様?」

 

どうにもその軽い態度が合わないのか、飛鳥の顰めた顔がきつくなる。

 

「そう。取扱説明書を作ってくれたら考えてあげるわ、十六夜君」

 

「ハハッ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけよ。」

 

十六夜は飛鳥の態度を楽しんでいるようである。ニコニコ笑って睨みつけてくる飛鳥の目をじっと見つめた。終いには飛鳥のほうが折れて視線をそらす。勝負事にでも勝てたように十六夜は笑を深くした。

 

「にっしても誰も来ねぇな、こういう摩訶不思議な場所にいきなり出されたらそこには案内人ってのがつきものだと思ってたんだがなぁ。」

 

「そうね……。でも今更私が案内人って言われて出てきてもムカつくわね。」

 

飛鳥は十六夜の言葉に不本意ながら同意する。いきなり高いところから落とされずぶ濡れにされた怒りは収まってはいない。

 

「ふむ……しゃあないからさっきから隠れてる奴にでも出てきてもらいますかね。」

 

「あら、気づいてたの。」

 

「あゝ勿論、かくれんぼの鬼をやったら無敗ですよ俺は。三毛猫に夢中なお嬢さんも分かっていたはずだぜ、なあそうだろ?」

 

そっと三毛猫を抱きかかえたままようやく耀は此方を向く。コクリとその首を動かした。

 

「あらそう、面白いわねあなた達。」

 

「心にもないこと言うねぇ。」

 

「心のこもった言葉は認めた相手以外は使わないようにしてるの。」

 

「ん?このダメ人間様は認めてくれないと。」

 

「論外ね、あ、春日部さんは違うわよ。」

「きっついねぇ、このお嬢様は。うんじゃま一つ獣狩と行きますか。」

 

やれやれと言ったように十六夜は肩をすくめて、悠々と草木の茂った場所に向かう。

 

「あ、そうそう、今直ぐ出てこなかったら容赦なくしめるから、そこんとこよろしく。」

 

なかば脅し文句のようなものを言う十六夜に、がさりと茂みの奥からうさぎのような耳を持つ少女が現れる。無理に笑顔を作っている。

 

「や、やだなあ皆さん。そんなに怖~い狼みたいなお顔で睨まれると黒ウサギは死んでしまいますよ? ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。ここは黒ウサギの脆弱な心臓に免じて、一つ穏便にお話を聞いていただけたら嬉しいのでございますよ?」

 

カジノにいるバニー程の露出ではないが、それに近いジャケットにチェックのスカートをはいた黒ウサギと名のる少女が言う。必死そのものだ。

 

「断る」 

 

「却下」 

 

「お断りします」

 

十六夜、飛鳥、耀の順に断りの言葉が出る。にべもない。

 

「あっは♪ 取り付くシマもございませんね全く」

 

黒ウサギはお手上げとでも言いたいのか両手を上にあげて降参のポーズを取る。いい笑顔がなんとも情けない。こういう豪胆な所は良い、私の存在に気づいてた点から能力も問題ない筈、しかしすさまじい程の問題児みたいです、しかもなんですか、あそこに黄昏れてる騎士様は、なんで此方に来て話しを聞こうとしないのですか、普通何かいきなりのことがあったら状況を知ろうとするでしょう!と心のなかで彼らの能力、また水の中で涼やかに休む彼を見て黒ウサギであるが。

 

「はぎゃ!?」

 

いつのまにやら気配でも消していたのか、黒ウサギの後ろに耀が近づいていて、むんずと黒ウサギの長い耳を掴んだ。

 

「お話も聞いてくれないうえのに初対面の私のうさぎ耳をちぎろうというのですか、一対どういう了見ですか!?」

 

「好奇心のなせる技。」

 

「自由すぎます!あ、ちょっと、やめ、抜けちゃいます、ほんとうにぬけちゃいますぅ!」

 

そんな黒ウサギを少しは罪悪感がわいたのか、耀は手を離すが、黒ウサギの両サイドには十六夜と飛鳥が立っている。にやりとした笑顔が目につく。

 

「あ、はは、まさか、とはいいませんよねぇ。」

 

乾いた声で黒ウサギが呟くように言う。その後に出てきたのは悲痛な叫びである。十六夜も飛鳥も面白いのか容赦なくグイグイと黒ウサギの耳を引っ張っていく。その光景を見た耀もまた手をわきわきとさせた。

 

「そ、そこのお方、い、今直ぐにでも助けてください、おねがいしますよ!いやほんとしゃれにならないですって!」

 

「だれに助け求めてんだお前、それにへんな鎧きたやつに助けを求めても無駄ってもんだ、ぜ?」

 

うさぎ耳で遊んでいて三人共直ぐに気づけなかったが、直ぐそこにはゆっくりと歩いてくるアルトリウスの姿がある。三人は彼が此方に近寄ってくることよりも、その気配に気づけなかったことに戦慄した、と言うといささか大げさであるが、驚いたことに違いはない。。もう黒ウサギのところまで数歩である。そこまで接近を許したのは異常だ。足音だって金具のこすれあう音だって気づけなかった、近くで見るとなおのことわかるが、アルトリウスの身長は馬鹿でかい。十六夜の身長の二倍以上はある。3メールちかい巨体がこうまで近づいて気づかないとは、そんな事を思っている、未だにうさぎ耳を掴んで離さない三人を気にすることなく、アルトリウスは黒ウサギの前に立つとしゃがんで目線を合わせる。この世界にきて初めて口を開いた。

 

「可愛らしいお嬢さん、君は何故そんな困った顔で私の顔を見ているんだ。」

 

低く掠れた声が、兜によって影ができ、その表情をよく読めない黒ウサギの大きな耳に響いた。

 

「え、あの、えっと、この三人を私から引き離して欲しいです、はい。」

 

引っ張る行為自体はもうやめているのだが、おずおずと黒ウサギはいた。

 

「そうか、済まないが手を離してやってくれないか、少し痛そうだ。」

 

「お、おう、済まなかった。」

 

「……ごめんなさい、はしたなかったわ。」

 

十六夜と飛鳥は、何時もなら傍若無人な態度で返した筈の二人も何故だか目の前の大きな男の前では萎縮してしまっていた。耀に至っては、言われるより先に手を引っ込めていた。

 

「済まないな、直ぐに助けてやれなくて、痛かったな、もう大丈夫だ。」

 

そうアルトリウスは言って、優しく黒ウサギの頭をなでてやった。そのこそばゆさと暖かさに黒ウサギもつい目を細めて頭をアルトリウスにまかせてしまう。数秒なんとも言えない空気が流れると、はっと気づくようにして黒ウサギは立ち上がった。

 

「こ、こんな事をしている場合じゃないのでした。私としたことが……まさかこれほどまでに問題児だったとは。」

 

撫でられ続けていたことと、それを三人の少年少女達が見ていたことに恥ずかしさでも感じたのか、振り払うように慌てて黒ウサギは言った。

 

「あゝそうだ、ここはどこなんだろうか、随分ときれいな場所だが。」

 

彼女の言葉に横槍を刺すようにアルトリウスが口をはさむ。今まさにそのことについて説明しようとした彼女の出端を挫いたのだ。

 

「あの、だからそれを踏まえて今から説明をしますので。ちゃんと話しを聞いてくれますか?」

 

アルトリウスはその言葉に、そうだったのかと頷いて、そのまま足を崩して座った。座っていても耀と同じくらいの座高の高さがある。猫背なため、耀と同じ高さにはならないが、背筋をシャント伸ばせば同じくらいにはなるだろう。

 

「……ゴホン、ではみなさん良いですね。では言いますよ。ようこそ〝箱庭の世界〟へ! 我々は皆さんにギフトを与えられた者たちだけが参加できる『ギフトゲーム』に参加していただこうとこの世界へと召喚しました! 」

 

ギフトゲームという聞きなれない言葉に、アルトリウス以外の三人がオウム返しに答えた。

 

「YES! 既にお気づきかと想いますが、皆さんは普通の人間ではございません! その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えら れた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその恩恵を用いて競い合うためのゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力をもつギフト保持者がオモシロオカシク 生活できる為に造られたステージなのでございますよ!」

 

黒ウサギの笑顔で繰り出された言葉に、三人が固まる、何を言っているんだこいつは、といったような感じだ。確かに自分たちが普通の人間でないということに心当たりがある。だが普通の人間ではないとは言ったが、どういう定義で普通でないのかがわからない。ギフトという言葉もよくわからない。まあ、矢次早に言われた言葉を直ぐに理解しろというのも無理がある。黒ウサギが言うにはここにいる皆はギフトなるものを与えられた者たちであり、ここはそのギフトなる特殊な能力を存分に活かせるゲーム盤の様なものだということだった。次に、この世界への召喚という言葉、これに三人は興味を示した。異常に対する免疫が強い三人は直ぐに状況を理解し始める。何よりも心が踊った。新しい世界への招待とは、好奇心やら冒険心をくすぐるいい言葉だ、まあそれを受け入れる心の器があっての高揚感なのであるのだが、三人には問題がないようだ。説明を続けようとする黒ウサギに、飛鳥が手を上げて質問した。

 

「まず初歩的な質問からしていい? 貴女の言う〝我々〟とはあなたを含めた誰かなの?」

 

「YES! 異世界から呼び出されたギフト保持者は箱庭で生活するにあたって数多とある〝コミュニティ〟に必ず属していただきます♪」

 

「嫌だね」

 

間髪入れずに十六夜が言う。本能に生きる彼のような性格では、何処かに属するのは檻入れられると等しい。耐え難いものだった。

 

「属していただきますッ!!」

 

だが彼女の必死の剣幕に、むすっとはしているが一応コミュニティに属することを認めた。彼女の説明の中に、属した後脱退することもできる、というのが彼を納得させた一因の一つである。黒ウサギは一つ、コホンと咳払いをすると再び笑みを浮かべ説明を再開する。彼女曰く、ギフトゲームの勝者はそのゲームを主催する〝主催者〟と呼ばれる暇を持て余し試練を用意する修羅神仏や、または自身のコミュニティの力を誇示するグループなどから提示した賞品を得られるという構造であること。ゲームの内容は多種多様、それこそ唯の運試しなゲームや、命の取り合いだってある。そしてゲームの内容が過酷になればなるほど、賭ける物も大きく重くなる。法に近いものなのかと飛鳥が聞けば、その答えは合っているようで少し違うという解が出た。だがその発想は鋭いと、どこか嬉しそう表情をしていた。この箱庭の世界であったとしても窃盗や強盗は法に反し、それいがにも法に反する行いをすれば法の裁きが下る。しかしギフトゲームに勝てば対象からその全てを奪い取ることさえ可能である事を付け加えて言われた。〝主催者〟が提示した条件をクリアすれば、その者を殺すことも奴隷として一生隷属させることも意のまま、簡潔に言えば、ゲームに扱うチップは各々が持つもの、ゲームが始まってしまえばそのゲームが法となり、その時点から人道的な認識は一切なくなる。ゲーム以外の場での行為は、予め用意された法に準じるということだ。その詳細を聞いた久遠飛鳥は野蛮だと吐き捨てる。命を駒として扱えるこのルールが癪に障るのだ。

 

「ごもっとも、しかし〝主催者〟は全て自己責任でゲームを開催しております。つまり奪われるのが嫌な腰ぬけは初めからゲームに参加しなければいいだけの話でございます」

 

黒ウサギはそれを承知のうえで、挑発に近い言葉を投げかける。不敵な笑を浮かべ、三人を煽り立てる。アルトリウス依然、ぼうっと説明を聞いていた。この時の黒ウサギの内心はかなり緊迫したものであった。彼女の立場は誘う側、彼女自身に目的があってアルトリウス含め四人をこの場に呼んだ。今の言葉で一人でも元の世界に帰るとでも言えば彼女にとってはゲームオーバーと同義である。

 

「さて、皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭世界における全てを説明する義務がございます。が、それらを全て語るには少々お時間がかかります。同士候補である皆さんを何時までも野外に出しておくのは忍びない。この先の説明は我らのコミュニティ内で話させていただきたいのですが、よろしいですか?」

 

アルトリウスは彼女の言葉にどこか焦りを感じる。何としてでも自分のところに引き込みたい、そういった焦り。まあ今は関係ないとして捨て置いたが。

 

「待てよ。まだ質問したいことがある。」

 

十六夜が口を開く。どんな言葉が来るのか黒ウサギは気づかれない程度に身構えた。十六夜の言葉には、人を圧迫するような力が含まれていた。

 

「どういった質問です? ルールですか? ゲームそのものですか?」

 

十六夜は首を振る。

 

「そんなのはどうでもいいんだよ黒ウサギ。ああ、本当にどうでもいいね。俺が聞きたいのはただ一つだけだ。」

 

彼はスッと立ち上がり、力の篭った目で彼女を睨み言う。

 

「この世界は、面白いか?」

 

それに答える黒ウサギはどこにも嘘偽りを含めずこういった。

 

「YES。『ギフトゲーム』とは人を超えた者たちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします」

 

言葉の裏に、誇りがにじみ出ていた。その言葉に十六夜は満足したのか、近くの岩に寄って腰掛ける。後は何でもこいと言った態度だ。だが正直な所、話しを聞いていたアルトリウスにはどうでもいいことばかり、ゲームなどというものに興味は湧かず、面白い世界であるという言葉にうなずけない。アルトリウスはこの箱庭の世界に否定的な感情さえ抱いていた。

 

「あゝそうだ、皆様にコミュニティに来ていただく前に、少しだけ試させてもらいます。役立たずはコミュニティの中にはいれられないことになっていますので悪しからず。まあみなさんは勿論、試験に通るはずでよね。」

 

と言い出す黒ウサギ。いやみったらしい顔の歪みが鼻につく。そのような挑発にのるものは一人もいなかったが、少なからず苛ついた者はいるはずである。反論をすれば、臆病であるならのらなくてもいいなどと言った言葉が帰ってくるのは明白、アルトリウス以外は反論も何も言わずに頷いた。

 

「おや、皆さんやる気のようですね、重畳でございます。さて、初心者の皆様にはチップはもとめません。そうですね、代わりとして皆様のプライドをチップとして掛けてもらいます。」

 

「ならそっちは何をチップとして出すんだ?まさか何もないで終わらないよなぁ、黒ウサギ。」

 

「も、勿論でございますよ、十六夜様。ではこうしましょう、箱庭の眷属であるこの黒ウサギが、一つだけ言うことを聞きましょう。」

 

「へぇ、なんでもねぇ。」

 

「あ、せ、性的なものは駄目ですよ!」

 

十六夜の視線が自らの胸へと向かってることに気づいた黒ウサギは慌てて訂正を加える。心なしか十六夜の顔が残念そうに歪んだが、彼の前にいる二人の少女が睨みつけるので冗談だと返した。それに安心したのか、ほっと一息ついた黒ウサギは続ける。

 

「皆様には五十四枚のトランプのカードの内、絵札を選んでもらいます。無論カードは常に裏返したまま、表が見えるようにする行為は一切禁止です。よろしいですか?」

 

「ああ構わないぜ、なあ、そこの鎧も含めてOKだろ?」

 

「ええ、問題ないわ。」

 

「右に同じ。」

 

「……構わない。あと紹介をし忘れていたな、私はアルトリウスだ。」

 

最後のアルトリウスの言葉に、他の四人も改めて名を名のる。黒ウサギは思いの外アルトリウスの反応がよくないことに気がついた。しかしまずはゲームを行うことが大事であると、切り捨て、ポーカーテーブルに近いものを出現させるとともに、手元に出したトランプをシャッフルする。

 

「ああ、ちょっとまて、シャッフルが終わったら俺達に一回トランプに不正がないか確認させてくれ。」

 

「ええ、それくらいなら大丈夫ですよ。」

 

一つ一つていねいに確認して満足したのか、三人は自身にあふれた表情が浮かんでいた。アルトリウスは静かにそれを眺めるばかりだ。

 

「ではみなさん。ゲームをやることに異論はないですね。」

 

三人は勿論と頷いた。アルトリウスが頷いていないが、もう皆がゲームをやるものとして扱っているらしい。三人の前に羊皮紙が現れる。

 

「これは?」

 

飛鳥が尋ねた。

 

「ギアスロールと呼ばれるものです。言い換えれば契約書、ですね。そこにゲーム名、参加者、ゲーム内容、勝利条件、敗北条件、報酬が記されています。主催者のだすギアスロールに参加者の代表がゲームに同意すればゲーム成立となります。」

 

「ではゲーム成立を確認しましたのでゲームを始めます。あ、ちなみに私の前では不正は出来ませんよ。ジャッジマスターという特典を持っていますのでルールに抵触する行為はすぐに分かります。のでルール違反はしないでくださいね。違反を確認が確認されますとその場で失格、敗北となりますから。」

 

黒ウサギはテーブルの上に均等にカードを並べる。誰から先にひくかについては案の定十六夜が一番をとった。

これだ、彼はそう言って一枚を取ると、後ろに下がる。少女達二人も続いてカードを一枚引く。その様子を見ていた十六夜はニヤリとしていた。アルトリウスの番になるが一向にカードを引こうとしない彼に、黒ウサギがどうしたのですかと聞きに寄ると、船を漕いでいた。直ぐに黒ウサギがアルトリウスを揺らしておこしてアルトリウスさんの番ですと伝える。そうかとアルトリウスは答えて、適当に一枚カードを引いた。一瞬、十六夜が何かを言いそうになったが、それよりも早くアルトリウスがカードを引いてしまったので何も言えなかった。皆が一斉にカードを表にめくると、十六夜がクローバーのK、飛鳥がダイヤのK、耀がハートのK、そしてアルトリウスがスペードのエースにとなった。

 

「おや、これは私の一人負けかな。」

 

そういうアルトリウスは残念そうな声色ではなく、むしろ良かったといった色が見えた。だが黒ウサギからしてみればたまったものではない、一人でもせっかく誘ったものを置いては行きたくないのだ。なら賭け事をしなければ良いのではと思うのだが、彼女の何処かに、彼らならやってくれるという確信があった、 アルトリウスに砕かれてしまったが。

 

「えっと、あの、スペードのエースは絵札としています。ので合格です!」

 

「ん?絵札と言うのはJからKまでの事を言うのではないのか?」

 

とアルトリウスが聞くと、黒ウサギは慌てて言葉をたす。

 

「様々なトランプのゲーム上、スペードのエースは一番強いカードとされることが多いです。そして私の用意したカードも、他のスートのエースと比べるとわかるのですが、スペードのエースはひときわ大きく描かれています。そうですよね、十六夜様、飛鳥様、耀様。」

 

必死な黒ウサギに聞かれた三人は頷いた。どうやら不正ともならなかったようなので、アルトリウスはこの試験とやらに受かってしまうこととなった。多少強引ではあるが、うかってしまった。締りのないゲームの終わり、しかしそれを気にしていては行けないと、黒ウサギは促してコミュニティの元へ向かおうとする。アルトリウスはそのコミュニティとやらに向かおうとする四人とは違う方向に行こうとした。あまり彼らと共に行く事が自分にとって良いものとは思えなかった。漠然とした考えではあるが、自分が何時かの災いを被ることになるくらいなら、今のうちに少し苦労してでも離れておいたほうが得策かと思われた。だが、直ぐに十六夜が気づいて黒ウサギに告げ口した。それに驚いた黒ウサギが後ろを振り向いてみれば、アルトリウスがずっと先にいるではないか。慌てて黒ウサギはアルトリウスの元まで走り寄って、コミュニティはこっちです、と、彼の右手を掴んで引っ張るようにして進むものだから逃げるに逃げられなくなってしまった。ふむ、どうしようかとアルトリウスが思案していると、遠くのほうで待っていた三人を追い越してずんずんと黒ウサギは進んでゆく。すれ違いざまにこっちですというのを黒ウサギには忘れないで、アルトリウスを逃がすものかと力いっぱいに手を握って離さなかった。それをみた十六夜がお熱いねとやじを飛ばしたが、はやくコミュニティのところへと行かなくてはと頭のなかがいっぱいだった黒ウサギには届かなかった。

 

【魔王と死】

 

「ジン坊ちゃん、新しい方を連れてきましたよ!」

 

歩き始めてそう長くない、石造りの壁が見え、その入口のところに黒髪の少年が見えると、駆けるように黒ウサギは少年のところへと向かった。

 

「そちらの三名の方が新しくきた方ですか。」

 

とジン坊っちゃんと言われた少年は黒ウサギ腰に後ろにいる三人に目をやる。爛々と輝く目をそのままに、黒ウサギは嬉しそうに、そうです、この四名の方が、え、三名、と後ろを振り返ってみてみれば、十六夜の姿が見当たらない。黒ウサギは何度目になるのか慌てて、飛鳥と耀に聞いた。帰ってきた答えは気のない返事であり、彼は世界の果てまで行ってくるぜと意気揚々に走っていったのだ。黒ウサギは気づかなかった自分を責めると同時に飛鳥と耀に問いただした。

 

「何故直ぐ私に教えてくれなかったんですか!」

 

泣き声に近い声であるが、飛鳥と耀は視線を逸らして、止めてくれるなと、黒ウサギは言うなと釘を刺されたと言って返した。

 

「嘘です、絶対に嘘です、単に面倒なだけだったんでしょ!」

 

と黒ウサギが言えば飛鳥と耀は同時にうんと頷いた。それに頭を抱えた黒ウサギは、十数秒そのまま頭を抱え、それからくつくつと笑い出すと、自分をコケにしたこと後悔させてやると息巻いて、綺麗な青色の髪の毛を燃えるような緋色に変えて、うさぎのように跳んで、十六夜の走っていったという方向に行ってしまった。

その姿にジンは苦笑すると、改めて目の前の三人に自らの名を明かした。

 

「ジン=ラッセルです。よろしくお願いします。」

 

と丁寧にお辞儀をした。それに三人は答えたあと、天蓋に覆われた、箱庭の中にはいっていったのである。

中に入ると不思議なことに、何の障害もなく空を、太陽を見ることができた。歩きながらジンの説明に寄ると、これは吸血鬼などの、直に日光を浴びれない種族のための天幕らしい。どういった技術が使われているのか、アルトリウスは気にはなったが、自分が知ってもわからないだけだろうと、そのままジン達の後ろについていった。ここまで来たら、もうどこか別れて行く気はなかった。本来ならば黒ウサギが店を決めているはずであったが、本人がいないため、適当なカフェテラスがあったのでそこにすることにした。ちらりと六本傷のマークのある旗が店内入り口の横にたてられているのがアルトリウスの目に入ったが、気にしないことにした。テラスの丸テーブルに皆が座る。アルトリウスは身体細いので椅子には座れたのだが、テラスと一緒にたてられているパラソルに頭があたっていて窮屈そうである。そんな彼らのところに一人の猫耳を持つエプロン姿の店員が姿を表した。アルトリウスは料理やら飲み物やらの種類がよくわからなかったために、自分は水だけでいいと店員伝えた。注文を待っている間、この世界についての説明をジンが私用とした時である、身の丈二メートルはあるだろう男が、少しサイズが小さくきつそうなタキシードを来て現れた。現れた男の取ってつけたような笑みを見た瞬間、ジンの笑顔が一転して不快そうに歪む。

 

「……ガルド」

 

「おーおー、なんだなんだ? 何時から最底辺コミュニティ〝名無しの権兵衛〟のリーダージン=ラッセルくんは、俺を呼び捨てできるほどになったんだねぇ?初耳だよ。」

 

「……僕らのコミュニティの名は〝ノーネーム〟です。それに今やこの近辺を荒らし回る獣となり果てたかつての守護者に、僕は敬意を払おうとは微塵も思いません、〝フォレス・ガロ〟のガルド=ガスパー」

 

ガルド=ガスパーは、にやにやとした笑を浮かべたまま、ジンの言葉を鼻で笑った。男の言葉からコミュニティの名前らしき単語が飛び出したことにアルトリウス以外はぴくりと反応する。

 

「ハッ、それをお前が言えた義理かよ。過去の栄華に縋り、今や黒ウサギに奔走させている亡霊が。コミュニティの誇りである名と旗を奪われ、それで尚且つお前の我儘でコミュニティを苦しめているお前が、一体どの面下げて俺にそんな態度を取ってるっていうんだええ?」

 

険悪な空気が流れる中、口を開いたのは飛鳥だ。

 

「ハイ、ストップ」

 

飛鳥は手で両者を制しながら割って入った。

 

「貴方達の仲が悪いというのはよくわかったわ。その上で質問したいのだけれどジンくん、ガルドさんが指摘しいる私たちのコミュニティの現状、説明していただけるかしら?」

 

「……それは」

 

 ジンは言い淀む。その横で、ガルドがジンをニタニタと見つめる。

 

「よろしかったら私がお話しましょうか? レディ」

大仰に、ガルドは紳士の態度をとり飛鳥に言う。ジンが全てを話すよりも早く、この男は事の次第を話してくれそうだと飛鳥は考えて、心無い言葉でおねがいしますわジェントルマン、と答えた。了承を受け取ったガルドは、嬉々とした表情で語りだした。ガルドの話しは、まずこの箱庭でコミュニティを設立するためには『名』と『旗印』を申告しなければならないということから始まった。特に旗印はコミュニティの領土を示すために必要な物なのであること。例えを言えば、今いるこのカフェは〝六本傷〟というコミュニティの領土であること。それを証拠に店前には六本傷の旗がたてられている。

 

「あら、その理屈でいくとここの近辺は貴方達のコミュニティの支配下、ということかしら?」

 

飛鳥の言葉に満足気に頷くガルド。彼の胸に刺繍された同じ文様が、旗となってあちらこちらに飾られている。

 

「さて、ここからがレディ及びジェントルメン達の問題です。貴方がたが入ろうとしているコミュニティは、数年前まではこの東区画最大手のコミュニティでした。リーダーも、今のような頼りない者とは違ってそれはそれは尊敬に値する人物でした」

 

ガルドは嫌味や皮肉というものを言葉の裏には隠さずあけっぴろげに言う。自身への酷評に、ジンは何も言い返せずにいた。

 

「しかしそんな彼らも過去の栄華。その栄光は一瞬にして散りました。そう、彼らは目を付けられた、そして滅ぼされちまったんですよ。この箱庭に置いて〝天災〟と称される奴ら、魔王にね」

 

「魔王? なにそれ、まるでお伽話じゃない。」

 

ここにきて、飛鳥が初めて声を上げた。魔王という突飛な言葉に引っかかったのだ。

 

「魔王と言っても、貴方がたが想像するような物ではありませんよ。奴らは〝主催者権限〟と呼ばれる特権階級を使う修羅神仏で、本来両者の合意で成り立つはずのギフトゲームを強制的に行わさせる天災。奴らは暴風雨のように目に付いた物全てを薙ぎ払い、容赦なく破壊の雨を撒き散らす。だからこそ、この箱庭において天災と称される。それが〝魔王〟なのです。」

 

数多の修羅神仏が集う世界に置いて天災などと称されるとは、それほど恐ろしい存在なのだろうと、飛鳥と耀はごくりと唾を飲んだ。アルトリウスは魔王の話を聞いてふと思った。私達が滅ぼした古龍たちからしたら、グウィンが魔王、私や他の者達は魔王の軍勢、いきなり現れた私達に、さぞかし古龍達は驚いたのではないか、魔王とは言っているが、結局は力あるものが弱者を支配する等だけでしかない。そう思うと、思考する余裕が出来たことが、恨めしく思う。光をくれるにしても、どうせなら友たちの前で、そして友たちの中で息絶えたかった。

 

「大体わかったわ。」

 

飛鳥がそういったころに、注文していた物がテーブルの上に並べられた。

話の中で重要な点は、ジン達は自分たちのコミュニティには旗もなく、名もないほぼコミュニティとして機能していると言っていいのかどうかすら分からない状態であることだ。名も旗もなければどこのコミュニティにも信用されていない。そんなコミュニティには誰も入りたがらない。だからこそ、私達に白羽の矢が立ったのだと、飛鳥と耀は理解した。それを理解した上で飛鳥が問う。

 

「それで? 懇切丁寧に説明してくれたガルドさんは、どんな腹積もりで声を掛けてくださったのかしら。」

 

飛鳥が少々棘のある言葉と共にガルドを睨む。彼女は根本的にガルドを嫌っているようだ。しかしガルドは飛鳥の態度に、おどけた様に肩を竦めて返した。

 

「腹積もりだなんて滅相もありません。私はただ、貴方達を黒ウサギ共々我らのコミュニティにお迎えしたいと思っていただけですよ。」

 

「何を行っているんだガルド!」

 

「黙れジン=ラッセル。俺はこちらの方々に聞いてんだ。」

 

ジンが思わず立ち上がるが、ガルドが一睨みしただけで彼はまた座り込んでしまった。ジンに怒りはあっても、それを支えるだけの芯が彼の中にはないのだ。怒気の孕んだガルドの表情は一転して、貼りつけたような笑顔に戻った。

 

「それで、どうですか皆さん。返事は今でなくとも結構です。外界から召喚された貴方達には三十日ほどの自由が約束されている。よくご検討なさってみてください。」

 

「嫌ですわ。」

 

最初から答えが決まっていたかのように飛鳥は即答した。すぐに答えられるとガルドにも思っていなかったのだろう、ほんの数瞬ガルドは呆けた顔をするが直ぐに持ち直して、極力紳士な姿勢を崩さぬよう聞いた。

 

「し、失礼ですが理由をお聞きしても?」

 

「そうね、貴方が気に入らない、からかしらね。」

 

飛鳥はそう言ってのけた。

 

「私はジンくんのコミュニティで間に合ってるわ。久遠飛鳥は、裕福な家も、約束された将来も、大凡他人から見たら……こんな言い方はしたくないのだけれど『幸せ』と思える物全てを捨ててここへ来たの。たかが一地域を支配している組織の末端として迎え入れてやる、だなんて慇懃無礼な誘いで満足するはずがないじゃない。少なくとも、私はね。春日部さんはどうかしら?」

 

言いきると、飛鳥は今まで黙っていた耀へと視線を向けた。

 

「……別に。私はここに友達を作りに来ただけだから、どこでもいい。」

 

「あら、なら私が友達一号に立候補してもいいかしら?」

 

耀は無言でほんの少し考える素振りを見せて、小さく笑って頷いた。

 

「……うん。飛鳥は私が知ってる女の子達とはちょっと違うから、平気。」

 

「そう、良かった。貴方も友達になる?」

 

 飛鳥は小さく、少し気恥ずかしそうに笑うと今度はアルトリウスへ話しをふった。アルトリウスは今行わられている会話にあまり興味はなく、ぼうっとしていたので、気のない返事でああ、とだけ言っておいた。

 

「そう、よかったわね、春日部さん。もう二人もお友達が出来たわ。ジン君もお友達になるでしょう?」

 

そう飛鳥がジンに問うと、ジンは首をいきよいよく振って、勿論ですと言った。

 

「あ、あの、お言葉ですがレディ。」

 

「黙りなさい。」

 

少しでも言葉をはさもうとガルドは試みたが、少女の一言によって固く閉ざされた。その様子にその場にいる皆が驚きで硬直する中、少女の透き通った様な声だけが響く。

 

「貴方にはまだ聞きたいことがあるの。そこに座って、私の質問に答えなさい。」

 

少女の言葉に力が宿る。ガルドは必死に口を開こうとするが、見えない力に寄って口は閉ざされたまま、驚愕と屈辱で塗りつぶされることになる。

 

「まず一つ目ね。貴方はこの地域を『両者合意』の上で支配したと言っていたけれど、私はギフトゲームは〝主催者〟と挑戦者がそれぞれチップを掛けて行うものだと聞いていたわ。ジンくん、それでコミュニティそのものを賭けるゲームなんてあるのかしら?」

 

「か、かなりのレアケースですが、稀に……。」

 

ジンはおずおずと答えた。

 

「そうよね。箱庭の外個から来た私でもそんなことは分かるわ。だからこそ〝主催者権限〟を持つ魔王は恐れられている。でも不思議よね? なぜその特権を持っていない貴方が、貴方の言う両者合意のはずのゲームで、コミュニティを賭けたゲームを続けられたのかしら。教えてくださる?」

 

ガルドの歯がカチカチと鳴る。しかし意思に反して口が勝手に動いてしまう。

 

「……きょ、強制させる方法は簡単だ。一番簡単なのは女子供をさらうこと。それでも応じない連中は周辺のコミュニティを従わせてからゲームをせざるを得ない状況に追い詰めていく。」

 

「そう、中々堅実ね。それで? そんな風に吸収した部下たちは貴方達に従ってくれるのかしら? 内部崩壊を起こすのがオチではなくて?」

 

「各コミュニティから数人づつ、女子供を人質を取ってある。」

 

アルトリウス以外の顔が全て、苦々しい鎮痛表情となる 飛鳥も耀もどこかでは予想をしていた、裏切られたいとは思っていたが、どうやらそうは行かないようだ。

 

「その人質に取った人達はどうしたの?」

 

「もう殺した。」

 

最悪の答え、飛鳥、耀、ジンにその場の近くにいた店員や客でさえそう感じた。

 

「初めて連れてきたガキどもは、泣き声が鬱陶しくて殺した。その次の次も我慢しようとしたが、やっぱり言え恋しさに泣き喚くから頭にきてやっぱり殺した。しかし身内のコミュニティにばれれば組織に亀裂が入る。だから死体は証拠が残らない様に腹心の部下に食わせて証拠を消した。」

 

「黙れ。」

 

歯がかけるほど強く、勢い良くガルドの口は閉じられた。つまり今この時で働かせているかもしれない誰かたちは、この世にいもしない自分の家族の為に働かせているということになる。それは救いのない話だ。だがアルトリウスだけ、一切の嫌悪を持たずしてその話を聞いていた。戦いに生きていたからこそ彼には理解が出来る。簡単な支配に必要なのは恐怖であることぐらいは身を持って知っている。それが人質という形であることも。人も、神とよばれ畏れられた種族も、生きるというところから見ればどちらも変わらぬなと、アルトリウス心の内で呟いた。

 

「なるほど素晴らしいわ。さすがは人外魔境の箱庭の世界、外道の格も修羅神仏級といったところでしょうか。……ねぇ、ジンくん。今の証言で箱庭の法が彼を裁くことはできるかしら?」

 

問われたジンは険しい顔で答える。

 

「難しいです。勿論彼の行いは違法ですが……箱庭の外へ逃がしてしまえば、それまでです。」

 

全てを捨てて、無様に生き長らえる、またそれも裁きと言えるだろう。何もできなくなることは何よりの苦痛であり、屈辱でもある。

 

「そう。」

 

飛鳥はそれだけ呟くと、パチリと指を鳴らした。ガルドを縛る鎖が解ける。身体がふっと軽くなるのを感じたガルドは激情に身を任せた。

 

「こ、この小娘がぁ!」

 

テーブルを力任せに叩き割ると、ガルドの姿が豹変していく。タキシードを破り膨れ上がる肉、みるみる内に体が縞模様に変わって行く。ガルドが持つギフトは、人狼に近い性質を持つ混在種、ワータイガーだった。今のガルドに理性という大層なものは殆ど残ってはいない。

 

「テメェ……どういうつもりか知らねえが、俺の上にいるのが誰かわかってんのか! 箱庭第六六六外門を守る魔王が俺の後見人だぞ!! 俺に喧嘩を売るってことはその魔王にも喧嘩を売るってことだ! 分かってんのか、あぁ!?」

 

体を大きく見せながら吼える虎。だがどうにもその姿は小さく、滑稽なものに見える。飛鳥ただその姿を鼻で笑った。

 

「あら、誰かを使って脅迫? 貴方はさしづめ、虎の威を借る狐ならぬ、魔王の威を借る虎といったところかしら。ふふっ、ずいぶんと滑稽ね。」

 

「この女ぁ、八つ裂きにしてその肉食いちぎってやる!」

 

雄たけびを上げると、鋭い爪で持って首を掻き切ってやろうと腕が振るわれる。

 

「落ち着けガルド。」

 

凛とした声が響く。アルトリウスだ。

 

「お前の選択は間違っていない。簡易な支配を実現するために、恐怖という道具を使ったにすぎん。指揮官としては上々の選択をしたはずだ。」

 

アルトリウスの言葉に、沸騰した血で満たされた脳が、いくぶんか冷める。

 

「なぜむざむざと法に逆らうことをする。この箱庭にはこういうときにうってつけの物があるじゃないか。」

 

その言葉にガルドは気づくようにハッとする。そしてにまりと歪んだ笑を作る。

 

「確かに、こんな馬鹿はしなくてもいい。」

 

ガルドの爪が飛鳥の首に触れるほんの手前、アルトリウス言葉が間に合った。あと少し遅れていたら、飛鳥の首から上は地面に転がっていたかもしれない。

 

「ふふふ、ありがとよ、アルトリウスとやら、この屈辱はゲームで変えさせてもらうぜ。」

 

「ああ、隙にしろ、何時やるかはそこの飛鳥君に聞いてくれ、私よりずっと頭がいい。」

 

「そうかい、じゃあ話しあおうかレディ、楽しい楽しいゲームの日取りを。」

 

ガルドは楽しそうに笑う、その笑に飛鳥も嗤って返した。

でも、と少女は一度区切る。

 

「私は貴方のコミュニティが瓦解するのを待つ程度では満足できる聖人君子ではないの。腐れ外道はボロ雑巾のような惨めな末路を辿ることをお勧めするわ。」

 

なんとも妖艶な彼女の浮かべる笑に、アルトリウスはゾクリと背筋に冷たいものが走るのを感じる。何故こう女性と言うのもは怒ると怖いのか、キアランだって怒ると怖かった、笑顔で両手に持つ双剣を首元突きつけてくるのだから笑えない。肝の据わった女性ほど怖いものはない、そうアルトリウスは独り言ちた。

 

「私達とギフトゲームをしましょう。貴方の〝フォレス・ガロ〟存続と〝ノーネーム〟の誇りと存続を賭けて、ね。ゲーム開始は明日、時間はそちらで決めていい、どう?異論はあるかしら。」

 

「ねえよ、クソガキ。じゃ、明日の正午、お前さんの生首が見れることを祈ってるぜ。あゝ、あとアルトリウスとやら、お前さん、こっちのコミュニティに入りたいなら何時でもいいぜ、歓迎するからよ。」

 

そういってガルドは立ち去ってしまった。だがこれで一旦話が終わる、わけではない。次に矛先が向いたのは、先程ガルドを養護するような事を言ったアルトリウスにだ。言い訳があるなら言えと言われる。

 

「彼と私の言葉を聞いて反感を抱くなら、それは正常だ。何も気にすることなく、明日に望めばいい。」

 

そうアルトリウス言う。飛鳥達は何故かアルトリウスにそれ以上の事を聞けなかった。その大きい姿の筈なのに、ひどく小さく、憂いを帯びたように見えたからだ。アルトリウスはグラスの中に入った氷を、太陽に当てながらカランと回した。宝石のようなきれいな光が、したたかにアルトリウスの目を突いた。

 

【何故だろうか】

 

「な、なんであの短時間に”フォレス・ガロ”のリーダーと接触してしかも喧嘩を売る状況になったのですか!?しかもゲームの日取りは明日!?それ も敵のテリトリー内で戦うなんて!準備している時間もお金もありません!一体どういう心算があってのことです!聞いてるのですか四人とも!」

 

ようやく十六夜を捕まえてやってきた黒ウサギはまたもつかれるはめになる。その姿をみて多少の哀れみが湧くアルトリウスでもあるが、口には出さないことにした。にしても、両腕の露出した肌が怒りから少し赤く、それを上下に振ると大きい胸も一緒に揺れる。うさぎ耳も揺れる。扇情的である。

 

「ムシャクシャしてやった。だけど反省も後悔もしていないわ。」

 

飛鳥はなんとも潔く答える、それに続くようにうんうんと耀が頷いた。あの悲惨な話しを聞いて、それを自らの手で、ノーネームというコミュニティで罰する、そうしたい心が飛鳥と耀を奮い立たせている。反してアルトリウスはどこまでも冷めていた。せっかく暗闇から抜け出し、光を見たというのに、その感動も何も踏みにじられた気持ちである。目の前でぎゃあぎゃあと大声で責める黒ウサギに嫌気が指してつい口を出してしまう。

 

「黒ウサギ、容認してやってくれ。」

 

アルトリウスの言葉に何事かと黒ウサギは言う。

 

「貴方まで何を言っているのですか!このゲームだって、結局は自己満足でしかないんですよ!?」

 

怒る気持ちも分からないでもないが、少しは落ち着いて話しを聞いてもらいたいものだ、第一、飛鳥達は事の発端をちゃんと説明してすらいない。アルトリウスは捲し立てる黒ウサギにため息をついた。

 

「このゲームをやるように仕向けたのは私だ。」

 

「え?」

 

「それにな、黒ウサギ、私は容認してやってくれといった筈だぞ?まさか自分で出したゲームの報酬を忘れたわけではないな?」

 

アルトリウスの言葉に黒ウサギはビクリとする。そうだった、トランプゲームの報酬、それは自分がなにか一つお願いを聞くというもの、すっかり失念していた、そう黒ウサギは思って、これに反論する言い訳を考えてみたが、どうにもこのアルトリウスの前に立つとうまく喋れない。今のアルトリウスは最初会った時とは違い、どこか冷たい。それが言いようのない怖さを、黒ウサギの中にゆっくりと満たしていく。

 

「……わかりました。まあ、十六夜さんもいることですしなんとかなると思いますが。」

 

その言葉に十六夜はケラケラ笑いながら言った。自分は参加するつもりはさらさらないと、それがまた黒ウサギの落ち着いてきた勢いに火を付けてしまった。何故行かないのかといえば、喧嘩を買ったのは自分ではなく飛鳥と耀、アルトリウスであるから、自分がその喧嘩の中に入るのはおかしいという、それに対して黒ウサギはまたそんな事言わずに一緒に戦ってください、仲間でしょと説得を試みる、が、飛鳥と耀自身が助けを拒んだ。その様子にジンは自分も彼女たちの気持ちが分かるのか、止めることはぜずに苦笑を浮かべる。あの場にいた彼だからこそ、彼女達の一端を知ることが出来た。それは彼にとっては嬉しい事であり、何よりも仲間として戦ってくれることに感動すら覚えている。しかしまぁ、一度言ったことは覆さない頑固さには、最早諦め以外はないのだろうと、ジンは心中で呟いた。

 

何時になったらこの問答が終わるのか、そう思った後に何も疑問を持たずにいたあることがアルトリウスの頭に浮かぶ、私は、この世界に居座るつもりなのだろうか、と。置いてきた仲間はどうしているか、元の世界へと戻れるのか、いや、この私に戻る資格があるのか、だが元の世界に帰れないにしても四騎士皆で語り会いたいという気持ちがアルトリウスの心の中を埋める。同時に、そんな幸せを掴んではいけないという感情も湧いて出てくる。とにかく、戦うにしてもお互いに自分の持つギフトが何かを知るために、黒ウサギが昔から世話になっているという、サウザンドアイズの支店へと向かうことになった。頭を悩ませたまま消化できない黒ウサギの後ろについて歩くアルトリウスは、先ほどの喫茶店での出来事を思い出していた。人質に子供をさらい、しまいには鬱陶しいの一言で殺してしまう。咎められるべき行いを自分は出来ない。未来ある子供を殺すことなどどんな言葉にい言い換えても善い行いではない、だがな、その未来ある子供が待つ親たちを、殺して生きてきた私に何が言えるのだろうか。守るために戦う。結果、守るために殺す。血にまみれた手を持つ自分が、口を挟めることなどないのだろうな、アルトリウスは自分の動く右手を見つめて、また戦闘を歩く黒ウサギを見る。彼女は気づいているのだろうか、殺すということを、死を、健気だ、コミュニティのためにその身をすりつぶしてまで働いている、でもその行いが、まだ命を壊すということを知らない少年少女達に、死を押し付けているということの重さに気づいているのだろうか、ゲームの性質上、コミュニティの名を上げるためには絶対に死は避けては通れない、相手を殺さなければいけない時が出てくる、その時が来た時、この少年少女達に死が背負えるのか、そこまでが頭の中をぐるぐると回る。チリチリとした怒りに似た何かに、ヌルヌルとした罪悪感、綺麗な筈の道がやけに褪せて目の中に入り込んでくる。何時の間にか、鮮やかな紅に染まった、飛鳥達が桜と呼ぶ木のある道を歩いていても、感動など言うものは遠く、散る花びらが血と変わって自らに振りかかる幻想がアルトリウスを包んだ。なんだ、どこにも余裕などないではないか、今も、昔と変わらず私は死に取り憑かれている。なんて哀れな愚者なのだろうな、私は。

 

目の前には、木で組み立てられた和式の建物、入り口の両端には紫染めの布に黒でサウザンドアイズの旗の印なのだろうそれがある。アルトリウスはこの場で、自らの、この世界での在り方を決めようとそう決めた。その目に力強い光は灯らぬが、ただ芯だけは通っていた。

 

【入店仕舞い】

 

それではようやく店の中に入ろうかという所、店の女性店員がそれを是としたなかった。てきぱきと店仕舞いを行う彼女に黒ウサギが待ったを掛けるがどこ吹く風に流してしまう。

 

「当店では営業時間外で営業は一切やっておりませんので、どうぞご容赦下さいませ、お客様。」

 

にべもなく言い放つ店員にやはり黒ウサギが食い下がる。

 

「へ、閉店時間五分前の筈です、ギリギリセーフのはずですよ!お願いです、一寸でいいんです、一寸でいいですから!」

 

「私どもの店をそこまでご贔屓にしてくださいますのは嬉しい限りですが……これ以上しつこいようでしたら出入り禁止にしますよ。」

 

店員の目は細められ、冷たい気の様なものが、黒ウサギの首から腰へと流れていく。抗議を重ねる黒ウサギに合わせて飛鳥もその口を開いた。なんと客に対する態度の悪い店であるのかとなじるように言葉を重ねるが、店員も慣れたものでどんどんと黒ウサギと飛鳥に反論をさせないように追い詰めていく。ジンはその姿にハラハラとしたものを感じていたが、十六夜からしてみれば唯の娯楽である。冷たい視線を送る、割烹着姿の女性店員は容姿が中々のもの、黒ウサギに飛鳥も交えて美少女達が目の前で言の葉合戦を繰り広げるとなっては笑が深まるというものである。また、遠巻きに見るアルトリウスはどうにも冷たい目をする女性店員をみて喫茶店での飛鳥を思い出した。女性が苦手というわけではないが、気の強い女性というのはなるほどどうしてこうも芯が強いのかと、呆れに近い物で彼女たちを見る。

 

女性店員がふと黒ウサギの姿に思い当たるものがあったのか、一寸した間を置いてこういった。

 

「……よくよく見れば箱庭の貴族、黒ウサギ様ではないですか、これはまた失礼を、少し譲歩して入店可能かどうかを聞いてきてあげます、コミュニティの名前を名乗り下さい。」

 

譲歩という言葉に黒ウサギの顔は幾分か明るいものへと変わるが、店員の言葉は依然として固く棘がある。三人の声はよく通るので、何事かと通行人の何人かが此方をちらりと見ては過ぎていった。

 

「えっと、あの、その。」

 

せっかくの譲歩だというのに、黒ウサギは詰まってしまう。その姿に店員もよく見なければ分からない程度に笑を浮かべた。

 

「俺達はノーネームっていうコミュニティだぜ、クールなお姉様っと。」

 

何の負い目もなしにノーネームという言葉を口にする十六夜に、店員はしてやったりといったようなしたり顔で言った。

 

「ノーネームですか、それはそれは、では何処のノーネームでしょうか、旗印を示し下さい。」

 

嫌味な言い方である。黒ウサギはこう言われてしまうと何も言えなくなる。もとより開店時間五分前というのも客として余裕のないというか失礼に近いものである、それを無理を言っている自分たちに譲歩を見せる店員であるが実際は譲歩などというものではなく、入店拒否にトドメを刺すための一手に過ぎない。

 

「旗印はまだねえよ、ってか早く中に入れてくれよ、さっきから通行人が穴が空くほどこっちを見てきて居心地が悪いんだ。」

 

そう、十六夜は言ってけたけたと店員を見るが店員は最早勝ち誇った顔で答えた。

 

「あら、旗印なしのノーネームですか、それは残念、私どもの店ではノーネームかつ旗印なしのコミュニティは入店禁止となっておりますので、諦めてお帰り下さいませ。」

 

店員の言葉にあゝと黒ウサギは漏らした。このサウザンドアイズは箱庭の東西南北・上層下層の全てに精通する超巨大商業コミュニティ、ようは力のある店、ということは客を選べるほどの店ということ、この世界でのノーネーム旗印なしというのは最底辺を表わす言葉である。まだゲームの舞台に立ててさえいないような、そんな立場を表わす。そんな底辺を入れるほどこのサウザンドアイズの敷居は安くない、そういうことだ。何も言い返せない黒ウサギ達を尻目に女性店員はまた店仕舞いの続きをしようと店の方に目を向けた所、店の奥からだだだだっという床を駆ける音に叫ぶ声が聞こえてきた。

 

「おお、おお、黒ウサギではないか、久しいの!」

 

と、言いながら走ってきたのは銀髪の和服のような上にスカートをはいた少女なのであるが、そのまま店員を見向きもせずに黒ウサギに体当たり、その反動で二人一緒にゴロリゴロリと石造りの地面を転がって、終いには道沿いに流れていた川に落ちてしまった。ざぶりという水しぶきと共に音が聞こえるのだが、その後に聞こえるのは銀髪少女の、黒ウサギを愛でる言葉だった。触り心地がどうのとか、この胸の柔らかさがどうとか、それはまた満面の笑を浮かべて黒ウサギの谷間に頬ずりをしながら言うのである。たまりかねた黒ウサギはその細い両腕の何処にそんな力があるのか、銀髪少女の襟首を掴んでサウザンドアイズの店の前へと放り投げた。投げられたところにいたのはアルトリウスである。左腕がただぶら下がっているだけの彼に、両腕で抱えるようにして受け止めるといった事はできない、だがこのまま避けて地面と少女とを衝突させるのも気が引ける。そう思ったアルトリウスは右腕で抱きしめるようにして少女を受け止めた。

 

「ほうほう、初対面の美少女を何の躊躇いもなく抱きしめるか、中々やるなお主、しかし鎧のせいでちと痛いぞ。」

 

少女は何も気にすることがないかのようにさらりと言って、アルトリウスの腕からするり、抜けだした。早々に腕から抜けだしたのにはわけがある。抱きしめられて上を向けば、太陽の逆光によりその顔の全てが暗い影に隠されている鎧姿のアルトリウスが、些か気味が悪かったからだ。濡れた着物をパンパンとはたくと、懐から出したセンスを一つパンと広げ口元を隠した。

 

「さて、騒がせたな、もう店は終いじゃ、なんでおんしらには私の家に来てもらう。詳しい話しはそこですればよかろう。」

 

そういう少女に顔を歪めるのは女性店員だ。

 

「店長、この店ではノーネームはお断りですよ?」

 

冷ややかに言う女性店員の視線と言葉とを気にすることもなくケラケラ笑って言い返した。

 

「わかっていてノーネームと聞く意地の悪い店にわたしはした覚えがないのだがのう、最近仕事を任せっきりなのは悪いと思うが、少々客に礼を欠いたの、そのお詫びをこの店長がするのじゃ、文句はなかろう?」

 

女性店員はしぶしぶと、黒ウサギ一行に目をやらずにまた店仕舞いを始めた。また、気の強い女性が現れたとアルトリウスは思った。それからまた少し歩くと、今度は先程の店とはまた違った趣の家がある。その中に皆が靴を脱いで入ろうとするのだが、アルトリウスだけは、その鎧姿のままで上がろうとした。咄嗟に黒ウサギが窘める。日本家屋のマナーを少々アルトリウスに教え、しかし鎧姿のアルトリウスに足だけ脱げというのもまた変であると、講座の途中で口をつぐんでしまった。

 

「靴、と言うより鎧か、それを脱げばいいのだな?」

 

アルトリウスの言葉にええと困ったように黒ウサギが頷いた。十六夜も飛鳥も耀も、アルトリウスがどうするのかが少々気になって、玄関に上がっても、アルトリウス達の事を見ていた。少女もそれに合わせて、近くで待っている。

 

「そうか、鎧を脱ぐのも久しぶりだ、体が軽くなるな。」

 

そう言ってアルトリウスは片足を上げて、一段高くなった廊下に足をおろそうとした。それに驚いた黒ウサギがまた止の一言を言うが、お構え無しにアルトリウスは廊下をふむ。しかし気の板と鉄の足甲が触れ合う音はしなかった。そこにあるのは裸足である。黒ウサギや十六夜も不思議に思って足に向いていた視線を上に戻してみれば、何やら粒子のようなもので包まれたアルトリウスがいる。もう片方の足が廊下の上に立つ時にはその粒子もアルトリウスの体の中に吸い込まれていく。アルトリウスは麻で作られた薄い上下を着て、面食らったような顔をして自分を見ている面々をまた不思議そうに見返した。

 

「どおした、行かないのか?」

 

その声に弾かれるように少女が、こちらだと言って手招きをする。それに釈然としないにも他の者もついていった。

 

「さてと、あらためて、私はサウザンドアイズ幹部白夜叉だ、三々四五外門に本家を構えておる。黒ウサギとは少々縁があってな、何かと助けておる、まあ器の大きな美少女と思ってもらってかまわないぞ。」

 

またセンスで口元を隠してケラケラわらう。

 

「しっかしおんし、薄汚れた鎧の中にはどんな奴がいるやと思えば、なかなか良い面をもっているな。じゃがその目に覇気が宿ってないことが惜しいの。」

 

アルトリウスが鎧を脱ぐまで(いや仕舞うといったほうが良いのかもしれないが)、彼の素顔をよく見たものは以外にも誰一人としていなかった。大柄な彼の顔は、大抵カブトの影で隠れていて、うっすらと鼻筋や口元が見えたとしても、明確には見えていなかった。ようやくこの場になってまじまじとその顔を見ることが出来るようになったのである。引き締まった顔に黒髪、見た目から年齢を割り出すには難しい老けてるとも若いとも言える顔だ。

 

さて、ここら先、少々面白みに欠ける、まぁこの世界では重要事項であるが、話が続くので、勝手ではあるが、掻い摘んで説明させていただく。その場にいる全員がアルトリウスの顔を見た後、耀が一つ質問をした。外門とは何であるか、それについての答とはこうである、中心に向かって高くなる階層、例えるならバームクーヘン、または年輪と言えばわかりやすいだろうか、上空から見ればそう言った円の中に幾つもの線が並ぶ、中心が一番であり、付け加え言うなら若い番号が強い、ならば外側にいけば行くほど下層、つまり桁の多い外門となり力のないものがいる場所、しかし一番外の外門から更に外に出てしまえばそこは世界の果てに最も近しい場所、コミュニティなどというものは存在しない無法地帯、その中には外側にいる者達が叶わぬほどの力を持つ者達もいる、話がそれるが、十六夜は一度皆から離れて世界の果てを見に行くといっていたとき、彼はその無法地帯の中で蛇神と戦っている、そこで手に入れたのは水樹、水を生成する神秘なる樹だ、まあそれを含めた話、希少なギフトを早い段階で手に入れたければ、その無法地帯でドンパチやればいいのだが、それは置いておいてまた元の話に戻ると、三々四五、白夜叉の言っていた外門、四桁ほどとなると名のある神仏修羅が闊歩する人外魔境、といえばオドロオドロしいが、皆に常識があるために抗争といったものはそう活発に起きることはない、というよりもお互いに力がどれほどのものが分かるゆえにそこから訪れる被害がどれほどのものかを理解している、なら無駄に戦う必要はない、この箱庭という世界は上から下まで7つの階層に分かれておりさらに東西南北と4つに区分されている。

 

「しっかしどうやってその水樹を持ち主から手に入れたのだ?知恵比べかはたまた度胸試しか、じゃが初日から水樹を手に入れるとはなかなかだな。」

 

白夜叉は一つ疑問を口にした。

 

「いえ、十六夜さまが素手で蛇神様を倒しその報酬で手に入れました。」

 

なかば黒ウサギが呆れた口調で答えた。

 

「ほう、蛇神を素手でだと、その小僧は神格持ちか?」

 

神格とはこれも一種のギフトである。その持ち主の各を最高まで上げ、体を変幻させる力をもち、かつ他のギフトの性能を格段に上げる、ようは如何なる神ならざるものであっても擬似的な神になることが可能になるギフトだということだ、人が神格を持てば現人神か神童といったものになる。

 

「多分違います、神格を持っていましたらひと目でわかりますから。」

 

「そうか、それもそうだな、だが神格持ちでなければ倒すのにはそれ相応の理由があるのだが……まあいいだろう、そういった話をする時でもないしな。人と蛇の種族の差など微々たるもの、まあ勝てたのならそういうことなのだろうな。」

 

「おや、白夜叉さまはあの蛇神様の事をご存知だったのですか。」

 

「存じるも何もアヤツに神格を与えたのは他でもない私よ。まあ何百年と前の話ではあるがな。」

 

その言葉を聞いて方がにいと笑に変わる三人がいる。その筆頭が口を開いた。

 

「あいつに力を与えたってことはだ、なあ白夜叉、お前はあいつよりずっと強いってことか?」

 

キラリと眼の奥が好戦的に光る。それは飛鳥、耀も同じだった。

 

「おお、強いぞ、当然だ、なんせ私は東側の階層支配者だからな、東側の四桁以下のコミュニティに並ぶものはいない、最強の、主催者だからの。」

 

最強という言葉をやけに強調して白夜叉はケラケラ笑う。その言葉に乗せられるように、十六夜を始めとして飛鳥、耀が立ち上がった。三人共同じ事を思っていた。いきなりの事で黒ウサギはあたふたとしている、彼らが召喚されてからというもの、どうやら黒ウサギの気苦労というのは格段に上がったらしい、哀れな。

 

「ということわよ、貴方のゲームをクリアすれば私達が最強ってことよね。」

 

飛鳥が言う。

 

「勿論、そうなるの。」

 

「そりゃあいい、探す手間が省けたってもんだ、なあ、そうだろ。」

 

十六夜の言葉に飛鳥達が頷いた。

 

「ほう、まさかと思うが、私にゲームで挑むと、そういいたいわけか?」

 

「ああそうだ。」

 

「ちょ、ちょっと、皆様!何を言い出すのですか!」

 

黒ウサギの叫びに耳を貸す三人ではまあない。あるわけがない。それを若さと呼ぶのか無謀と呼ぶのかは任せる。

 

「いいの、そういう馬鹿は嫌いではないよ、私も暇に窮していてな、しかし、では問わんといけないな。」

 

もったいぶって白夜叉はパチリと扇子を閉じる。十六夜が食って掛かって、なんだよさっさと言えよ、と言えばまた黒ウサギがその無礼にあたふたとする。

 

「では問う、おんしらが求めんとするのは、挑戦か、決闘か。」

 

【白夜の盤上】

 

そういって、白夜叉扇子を床に突き立てた。瞬間、世界の情景がガラリ変わる。深く広がる暗雲の世界に、幾多もの光の道と、数多もの世界、その一つの中に吸い込まれる。白き雪原、凍りつく湖、そびえ立つ岩山、天に煌くのは大きな月に、永久に沈まぬ太陽、十六夜達は驚きのあまり言葉を失った。黒ウサギが白夜叉のちからに改めて生唾を飲む。アルトリウスといえば座ったままの姿勢で世界を変えられたのだから雪が冷たく体が冷えてしまった。

 

「そう驚くな、ここは私の持つゲーム盤の一つだ。」

 

この広大な世界が唯のゲーム盤の一言で終わってしまう。

 

「私は白き夜の魔王、太陽と白夜の星霊、箱庭にはびこる魔王の一人よ。……今一度問う、おんしらが求めんとするわ、試練への挑戦か、はたまた対等なる決闘か。」

 

十六夜達は答えられない、実力差を計れなかった故の挑戦、しかしその差が歴然となれば自然と体も震える。敵わない、それが今の三人の共通意識だった。観念したように十六夜は両手をあげた。

 

「はぁ、こんなもの見せてくれたんだ、おとなしく試練ってやつを受けてやるよ。」

 

「諦めても生意気な小僧だな、その両隣でだんまりしている童共も同じ考えかな。」

 

「……そうね、私も試練を受けてあげてもいいわよ。」

 

「右に同じ。」

 

そうやって強きに返すことが、三人にとってのなけなしのプライドなのだろうか、完全には屈してやらないといった様なそんな心が見えるようだ。

 

「そこに座り込んで震えてるおんしはどうする。」

 

「む、私か?」

 

「他に誰がいるというのだ、おんしだよおんし。」

 

「私はどちらもやらないが。」

 

「何、まさかいい男が怖気づいたか、情けない。」

 

アルトリウスの言葉に心底冷めたような口ぶりで白夜叉は言う。どこか不思議なアルトリウスに期待していたところがある。若い三人の力量などはかることは容易いが、どうにもこのアルトリウスの力量ははかれない、ただのほほんと一歩外から見る観客のように此方を見るばかりで、しっぽというしっぽを出さないでいる。だというのにこう言われては些か白夜叉も腹が立った。こういう曖昧な立ち位置にいる奴がいるとどうにも腹が立つのだ。

 

「ふむ、そこの小僧どもは今からくる奴の相手になれ、力比べ知恵比べ、なんでもいい。そこの腰抜けの男は少し私とおしゃべりと仕様じゃないか。」

 

どうやら一つ灸を据えてやらなければ気がすまないらしい、アルトリウスは、私は何も挑戦をふっかけるような事は言っていないだろうと独り言ちた。

 

さっそうと山陰から猛々しい雄叫びと共に飛んできたのはグリフォン、鷲の頭にライオンの体を持つ伝説上の生き物である。伝説が闊歩する箱庭の中では特に珍しくもない生き物ではあるが。自分を睨めつける可愛らしい少女の視線を受けながらアルトリウスはちらとグリフォンを見た。懐かしい記憶が蘇る、昔、何時頃だったか、ウーラシールに訪れた時出会い友となった、ウーラシールの宵闇が世話をしていた聖獣を思い出す。多少の違いはあるが、あの聖獣もグリフォンの様な姿をしていた。三人は驚愕を隠せないようであるが、アルトリウスからしたら愛らしい動物の一つでしか無い。

 

「ほうほう、グリフォンを見ても動じない辺はやはり成熟しているようだな、小僧。」

 

十六夜達の前に一つの羊皮紙が落ちる。そこにはグリフォンとのゲームの詳細が記されている。つまるところ何らかの方法で認められろということだ。

 

「黒ウサギ、彼らを見てやってくれ、私はどうも、このお嬢さんに気に入られたらしい。」

 

アルトリウスはそれだけ黒ウサギに伝えると、すくと立ち上がって自分よりはるかに小さい白夜叉に目を向けた。当の白夜叉は鼻を鳴らしてふんぞり返っている。

 

「なんでまた私などにこだわるんだ、お嬢さん。」

 

「それは闘争の中に加わる気概がないからだ小僧。」

 

「私は闘争を起こす意志すら見せた覚えが無いのだが。」

 

「若い芽達がやる気を出す中枯木のようなおんしを見ると苛つくのだ、やる気をだせ小僧。」

 

「はぁ、さっきから小僧小僧と、これでも長い時間生きているのだがな、お嬢さん。」

 

「それは此方とて同じだ小僧、で、おんしが望むのはどちらだ、挑戦か決闘か。」

 

「それを決めなければいけないのか、何もやらないという選択肢を私は欲するのだが。」

 

「欲せば戦え、さもなくば選べ、だ。」

 

「それでは結局一択でないか。」

 

「何を言う、挑戦と決闘の二択だ。」

 

「ならば私には挑戦を選ぶしかないではないか、やはり一択だ。」

 

「なんだ、男なら私と戦ってやるという男気でもみせんか、なさけない。」

 

「どちらか一方が滅法強く一方が悲しいほど弱ければ、戦う気力も湧きはせんだろう。」

 

「たとい力の差があろうとも立ち向かうのが男だろう、それができなくては勝機は万一にないぞ。」

 

「ならば私ではなくて十六夜に言ってやれ、喜んで戦うだろうさ。」

 

「なに、若い芽を摘むのはちと惜しいからの、枯木を倒した所で誰も気にせん。」

 

「枯木には枯木の美があるのだぞ。」

 

「老いぼれが何を言った所で生きていなけりゃ戯言よ、小僧。」

 

「暇の潰しに戦いか、随分と血気盛んなお嬢さんだ、服に合わせてお淑やかさを身にまとったらどうだ。」

 

「そんなことでは腹は膨れんよ、飢えを凌ぐにはやはり動かねばならんだろう。見ろ、若い奴らの内一人が空を飛ぶ、大した度胸だ、この寒空の中、肌を斬るような氷風を浴びても必死にしがみついて離さない、あれくらいの行動をせねば生きるには遠いな。」

 

「私が生きていぬと言うのならば、生きる君が私を気にする必要は無いだろう、屍に口なし動きなしだぞ。」

 

「生き返るすべがあるなら手を差し伸べるのが人情だろう。」

 

「有難迷惑という言葉をしらないのか?それに人でなしのお嬢さんが人情とは笑えるな。」

 

「笑えるならば戦うこともまたできよう、泥臭い騎士よ。」

 

「泥臭いとは、まあ否定ができんが、言葉が痛いな。」

 

「おんしの何処かに神格にた微かな匂いがするがどうにも泥臭さがじゃましていけない。おかげでおんしの力量をはかれないでいる、さっさとしっぽをだせ枯木が。」

 

「しっぽも何も、戦う気がないのだ、お嬢さん。」

 

「また振り出しだ、おんしは諦めというものがないのか?さっさと腹を括って決闘を選べ、安心しろ手心加えてやる。」

 

「対等という言葉を忘れるとは老いたなお嬢さん。」

 

「生と死は公平であれどもそれ以外で公平な事がどこにある、対等という言葉も立場が対等であり、そこにある闘争がどうであろうと構わないのだ。」

 

「随分な魔王だな、では仮に決闘を挑むとして何を賭ける、決闘という言葉の重みを知らぬというわけではないだろう。」

 

「無論心得ている、賭けるチップは互いの命、しかし私もまだ死ぬにはやることがたくさん残っていてな、だからこうしようと思う。おんしが勝てば私はおんしの願いを、死、以外の全てを叶えよう、土を食えというなら食う、おんしの性欲を受け止めろというならば甘んじてこの身体でもって受け入れよう。同じように私が勝ったらおんしには、死、以外の願いを聞いてもらう。」

 

「随分と軽い命だな。」

 

「決闘は本来片方が死ぬまで続く、であればこのルールは妥当だと思うがの。」

 

「ふむ、仕方がない。」

 

「お、決闘を受ける気になったか。」

 

「いや、妥協して挑戦を受けることにする。」

 

「……決闘以外の選択をした場合には傷つくのはおんしでなくて後ろにいる若人達だが良いのか?」

 

「なに?彼らは関係がないだろう、今は私達二人の話のはずだ。」

 

「何を言う、私からしたらおんしも奴らも一括りよ、誰かが私の気を逆立てるようなことをすれば皆が責任を負う。魔王を前にしてそれぐらいを覚悟できずしてなんとする。」

 

「目の前にいる枯木が何も出来ぬ老人であったならどうする傲慢な魔王よ。」

 

「であれば死ね、でなければ挑め。」

 

「嫌だと言ったらどうする。」

 

「さてな、命が散るのではないか。このようにな。」

 

白夜叉は言うと同時に片手の指をぴんと立てる。その上に灯火のような小さな丸い炎が現れた。それを何の気なしに、空中で頑張っている耀を応援し、こちらから意識を外している黒ウサギに放った。その弾速は早く一瞬にして黒ウサギに届く。

 

【くだらぬ闘争】

 

「ほう、擬似とは言え小さき太陽を受けてなお立つか枯木よ。」

 

白夜叉はなんとも嬉しそうにそう言った。にこやかに顔に笑を浮かべて、さぞ楽しそうに。黒ウサギは真後ろから感じる熱気に驚き振り向いた。底にいるのは体中の筋肉をこわばらせ、唯一動く右手に身の丈ほどの大剣を逆手に握り立つアルトリウスが居た。熱風が吹きすさぶ。辺の雪が一斉に解け、白夜で薄暗いはずの辺が明るく変わる。煌々と、いまだ衰えず燃え続けるそれを、あらん限りの力でアルトリウスは大剣の腹で振り払う。ごうと風を薙ぐ音と共に熱源は消えた。だが同時に、そこら中の温度が消えた。冷たくもない熱くもない、ただ震える。

 

「貴様、どういうつもりだ。」

 

地の底から聞こえてくるような、声が響く。

 

「ど、どういうつもり、だと?そんなの小僧、おんしを試しただけだ。」

 

白夜叉も、声が上ずる。おかしい、視界の中に立つ彼は先程の彼と同じなのか。空を飛んでいたグリフォンも、あまりの異常に地に降り立った。耀も無事だ。だがその顔はすぐれない。呼吸が整わない。恐ろしい物が目の前にいる。彼処に立っている男は誰?音が消える。先ほどまで耳を通っては抜けた風の音が今では全く聞こえない。

 

「貴様は試すというだけで黒ウサギに、いやここにいた皆を巻き込んだのか?」

 

「……そうだ、何より小僧、おんしがちゃんと黒ウサギ達を守るという自信があったからの、躊躇う必要も無いだろう。」

 

一度呼吸を置いて息を整える。でなければ魔王としての威厳が持たない。心中は乱れたまま収まらない。言い訳をしているような気分だった。だがそれでも気をしっかり持つ。これでも魔王を名乗る身なのだ。

 

「俺がもし、ここで受け止めなければどうなっていたか分かるか?」

 

「どうもならんな、小僧が受け止めぬとわかれば私は直ぐにでも火を消していたからな。」

 

「俺が守ると信じていた貴様が俺が守らぬと考えていたのか?随分と余裕だな。俺が割り込むまでの間、貴様は俺を見ていなかったぞ。」

 

「わざわざおんしを見つめる必要もなかろう、それともなにか?私が何も考えていなかったとでも思うのか?」

 

「ああ、思うさ、何故だと思う、貴様の放ったこの炎は彼女たちの命を確実に燃やすことが出来たからだ。何故確かめるだけにこれだけの炎を作る、貴様にとっての微々たる炎が、彼女たちの命にどれだけの影響をおよぼすか、わからぬ貴様ではないだろう、魔王白夜叉!」

 

張り上げた言葉が、咆哮となって白夜叉を襲う。ビリビリと身体が振るえ、蛇に睨まれた蛙のように立ちすくむ。おかしい、おかしい、何故私はこうまで恐れている。目の前のただ吠えるだけの男に何を恐れている。

 

「……いいだろう、お嬢さん、君に決闘を申し込む。敗北条件を決めろ、待ってやる。」

 

ふっと身体が軽くなる感触がした。いつの間にか手の中に汗がたまっている。鼓動が早くなっていることに今、気がついた。

 

「敗北条件は、ああ、そうだ、降参の一言、それでいい。」

 

最早自分の声が震えることを隠せない。相手はいま、重圧をといたというのに、まだ先程の咆哮が残留している。

 

「了解だ、では名乗れ。」

 

アルトリウスの回りを薄く発光する霧が包む。そしてその霧が晴れた時、鎧に包まれたアルトリウスがいた。黒ウサギの手元にギアスロールが現れる。ギフトゲームの名は、魔王と深淵歩きの決闘、クリア条件は相手に降参と言わせること、方法、あらゆる方法を問わない、しかし、死を招く行為は反則とみなし、即刻敗北とみなす、敗北条件、降参という一言を言う、又は反則行為を行う、宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します、サウザンドアイズの名の横に、サウザンドアイズの印が付けられている。

 

「白夜叉、白き、夜の魔王、白夜叉。」

 

掠れてしまっているが、なんとか言い切ることが出来た。二人の様子を見る黒ウサギ達は何も言えない。ただ図体がでかくでもどこか秘めたものがある、そうは思っていた十六夜も、目の前の事実を受け入れるには時間がかかった。

 

「その名、しかと記憶に刻みつけたぞ、白痴(たわけ)の魔王よ、私は嘗て、大王グウィンに仕えた四騎士が一人、アルトリウスだ。」

 

「大王グウィン、四騎士、どこかで……。」

 

「何を考えこんでいる、ゲームは始まっているぞ。」

 

また、冷たい声が響く、なんでこうも響くのだ、冷や汗が背をつたるが、今は気にするときでもない。右手に光剣を作り出す、先程の擬似太陽の欠片をつなげた剣、触れれば先程の比ではない熱量が光の中に封じ込められている。だがどうだ、此方に肉薄してくるアルトリウスの姿をちゃんと目に捉えていた筈なのに、どうしていつの間に目の前にいるんだ、アルトリウスは体全体を使って、抉るようにして大剣を振るう、その重さを感じさせない鋭い剣筋がいま白夜叉を捉えようとする時、本能に近い何かが白夜叉を動かす。とっさに擬似太陽の欠片火を置いて、横に避ける。アルトリウスの大剣が凍土ごと切り裂くのを尻目に白夜叉は欠片を爆発させるた。ほとばしる赤熱と共に発せられる爆炎は確実にアルトリウスを包み込んだ。ただ至近距離の爆発であるため、その衝撃は自分にも襲うことになるのだが、逆にそれを利用して遠くに逃げようとする。だがどうして、圧が消えない。まだ身体の警報は鳴り続けている、何故だ、そう白夜叉は思うと同時にヒュッという風切り音が耳をかする。猫が飛ぶように、反射でその場から離脱する、すれ違いにアルトリウスが上空からこれでもかと地面に大剣を突き刺した。身の丈近くある大剣が、その半分以上を地面の中に埋める。アルトリウスは大剣をゆったりとした動作で引き抜くと、随分と遠くに逃げた白夜叉の方へ向く。その姿は余裕と平静にあるかと思われたが、実のところ、体の大半が火傷を負っている。焚き火の中に放り込まれたかのような痛みがアルトリウスをおそうが、努めて表には出さないようにする。やはり腐っても星霊か、そうアルトリウスは独り言ちた。白夜叉の回りに無数の欠片が現れる、その数はどんどん増えて、その欠片がいきなりパッと消えたかと思うと、次の瞬間にはアルトリウスを囲う牢なる。これには流石にアルトリウスも焦る、そう何度もこの欠片を食らって立てるほど丈夫ではない。仕方なしに多少の灼熱を我慢して、牢が自分を包んで燃やさぬ内に隙間を通るように突貫して抜けだした。欠片を腹部に一つ掠ったせいで熱せられた鎧に肉が焼ける。まさか自分の身が焼ける匂いをまた嗅ぐ事になるとは思いもしなかった、アルトリウスは痛みをこらえて次の手をどうしようかと考えていた。これ以上戦いを長引かせても怪我が増えるばかりだ、さっさとこの茶番を終わらしてしまわねばな、全く、私も老いたな、死など何時でも見ていたというのにあの程度のことで抑えが効かなくなるとは、アルトリウスは熱に引き攣る身体の力を一旦抜いて、大剣を逆手に持ち帰ると弓なりに身体を歪める、ぎりぎりと弓を引くように、矢は大剣、第二陣の欠片を作る白夜叉に狙いを定め、放つ。白夜叉が黒ウサギにはなった欠片のように、遠くある差をものともせず、白夜叉の眼前に切っ先が迫る。白夜叉の思考はもはや彼女自身が繰り出すものではない、身体自身が生きるために反射で動いている。目の前に来る大剣は、何時の間にやらスローモーションとなっている、筋肉が動き、身体が地面に近づく、両足にありったけの力を注ぎ、動いた身体の横で、恐ろしい大剣は過ぎていく。避けた、あいつは何処だ、白夜叉がアルトリウスのいた所へ目をやろうとする、黒で染まる、何だ、そう白夜叉が思う、だが疑問を全て思うよりも素早くその手は繰り出される。同時に宙へ浮かぶ感覚、地面に叩きつけられる感覚、その差は殆ど無い。自分の吸い込んだ空気の居場所が途端に身体の何処にもなくなった、呻きとともに空気が体外に発せられる、そしてまたゆっくりと身体が宙に浮かぶ。

 

「頭が冷えたか、白夜叉。」

 

「……降参だ。」

 

自然とその言葉が白夜叉の口から漏れていた、どれだけやってもその先に敗北のイメージしかない。言葉を発すると、また身体が軽くなったように感じる、肩に背負わされた重荷がようやく落ちた。本当に軽くなった。アルトリウスの手が開かれ、トスッと白夜叉は地面に落ちてへたってしまう、この時点で勝敗は決した。

 

「では褒美だ、私はおんしの願いを叶えよう。」

 

アルトリウスは戦意を失った白夜叉を哀れに見下す、自分の力の使い方に嫌気が差す。どうして、こうなるのか、力で押さえ込んだ力など、何も変わらない。

 

「ならば、彼女たちに謝れ、それでいい、お嬢さんの命などいらん。」

 

へたり込む白夜叉を越えて、黒ウサギ達のいるところも過ぎる。

 

「あ、あの、アルトリウス、さん?」

 

黒ウサギが口を開いた。アルトリウスは一旦立ち止まる。

 

「……私も少し熱くなりすぎた、身体を冷やしてくる。グリフォンとの試練、上手くいったのか?いっていないのなら邪魔して悪かったな。」

 

アルトリウスはまた歩き出す、十六夜が好戦的に身体を震わして今にも何かを言ってきそうだったので、アルトリウスはひと睨みして黙らせ、そのまま十六夜の傍を過ぎる、飛鳥、耀、彼女たちに戦意はもとよりなかった、ただ困惑の表情を浮かべてアルトリウスを見つめている。

 

アルトリウスがある場所で止まると、息を吐いて、片足を上げる。そして力の限り足を落とす。アルトリウスを中心にして氷の膜に罅が広がり、しまいにはその下にある湖の飛沫がアルトリウスを包んで消した。暗い水の奥底に落ちて、彼は思う、出来ることならばまた深淵に、光を求めては争いをも求める私を深淵のそこに落としてくれ、彼の火傷した箇所が、冷たい水に冷やされて疼きが収まる、遥か頭上にはきらきらと輝く水面が微かに見える、その光すら求めることをやめようと、アルトリウスは静かに瞳を閉じた。静寂の中で、彼は煩わしい鎧と大剣をその身に仕舞う。そして彼はなんと微睡んでいた、息もできない、極寒の水の中で睡魔がゆっくりと彼の傍へ忍び寄る。意識が消えるその直前、アルトリウスはまた、前に考えたことと同じこと、あゝ、四騎士の皆にあいたいな、そう思って落ちた。




問題児たちが異世界から来るそうですよ?とのクロスオーバーですね

最後は投げやりで終わらしています。本当はガルド戦まで書こうとは思ったのですが、思いの外、文量が膨れてしまい、面倒になったので投げました。

私の中の設定ではアルトリウス、始まりの炎の光から生まれた大王グウィン達は、初めて大陸を統治した、ということで白夜叉を越え、かなり高位の神格をもつ者達だと、そういうことにしていました。大王グウィンがもし全盛期の状態で箱庭に入ったら即箱庭の頂点に立てる、そういった感じだと思います。それに使えていたアルトリウスも、かなりの力を持っていはいるが、深淵の泥をソウルの内に取り込んでしまっているため、本来あった神格は消え、闇とも光とも言えぬ曖昧な、けれども確固たる意志をもって生きる、そういう感じで書きたかったのですが、どうにも駄目ですね、上手く書けません。

一つ心配なことがありまして、箱庭の説明とかそういったことを、なるたけ文を変えられるところとか探して変えたりしてるんですが、原作の大幅コピーにあてはまらないか心配です...
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