ーーうぅむ、困った。生き返ってしまったがどうすればいいのか全くわからない。
少年は自らが生き返ったことに対し淡白だった。空を見上げ、自らの幼い手を見て、改めて自分が生き返ったのだと認識した。
ーーはぁ、なぜ生き返るにしても幼い身体にしたのか、これでは行動範囲が狭まってしまう、難儀なものだ。
少年は森のなかで目覚めた。大きな木の元に凭れて眠っていたのだ。身体が嘗ての姿よりずっと小さくなって、服は麻で繕ったようなみすぼらしい物を上下着ていた。
ーーとりあえず、真っ直ぐ進んでみるか。
少年は木々を避けて、できるだけまっすぐ進んでみることにする。途中で見つけた川で、水面に映る自分の姿を見た。黒い髪に黒い目、なるほど、自分姿形そのまま幼くしたのか、少年はそう思って、川の傍で少々の休憩を取ると、川に従って下り始めた。日も暮れ始めた頃、森を抜けた。直ぐそこに、大きな家があった。少年は、生き返ったこの辺りの情報をもらおうとその家に近寄った。
玄関と思わしきところに、初老の男性がいた。玄関先にある花壇に水を撒いていた。
「もし、少しいいだろうか。」
初老の男性は少年を姿を認めるとニコリと笑った。
「おや、坊っちゃん一人でこんなところまで、どうしましたかね。」
「ふむ、困ったことに生き返ってしまってな、ここが何処だかわからずにいる。良ければここらの事を教えてはくれなんだろうか。」
生き返るという言葉に初老の男性はきょとんとする。
「へぇ、生き返る、そいつぁたまげたね。ってことはなにかい、父母おらんってことかいね。」
「そうなるな。」
「ほう、なるほどなるほど、ならいい場所に生き返ったね、坊っちゃん。ここは父母がおらん孤児を扱う施設なんですわ。」
「ん?だからなんだ。」
「どうせ寝床も行くところも決まっちゃないなら、施設の預りになりなさいな、衣食住に知識までついてやってくる。」
「ほう、確かに、ではお言葉に甘えよう。」
「では、まずは自己紹介を、深見語ともうします。お名前は?坊っちゃん。」
「アルトリウス、嘗ては深淵歩きアルトリウスと呼ばれていた。」
「そうですかい、けったいな名前ですな。」
「まあな、あまり気に入ってはいないのだが、所でフカミ、生き返りと言った若い男がいるというのに疑わないのだな。」
「それを言いますなら坊っちゃんだって何の驚きも困惑も見せないじゃないか。」
「困惑していないわけじゃないんだがな。いちいちあたふたしていては仕方がないだろう。」
「はは、そうですな。」
「で、何故フカミは動じない。」
「いやなに、こういったことに慣れっこなんですよ。天使も悪魔も堕天使も、ドーンと来いってやつでしてね。」
「不思議なやつだな、君は。」
「世の中の不思議ってのは慣れっちまえば唯の日常ですからね。ま、詳しい話は中でしましょうや。そろそろ飯の時間でね、子どもたちに作ってやらないといけない。」
「そうか、大変だな。」
「坊っちゃんも、私を大変にさせる者の一人になりますがね。」
「世話になる。」
アルトリウスと深見は共に施設の中に入る。途中でアルトリウスが、その坊っちゃんというのはやめてくれないか、呼ばれ慣れないからむず痒い、と言うと、深見は、まぁ、あと幾年かしたら背も大きくなって坊っちゃんとは言えんようになるでしょう、と返した。この児童養護施設、深見は孤児院と言っているが、名前はフカミ園と言い、そのまんまである。このフカミ園、駒王町という所から少しした森に面した場所にある。アルトリウスにとっては全く知らない地理に名前に何からに、何故言葉が通じるのかさえ謎であったが、深見もアルトリウスもこの世の不思議と切り捨ててしまった。アルトリウスは後に、戸籍等の融通のため、都合のいい姓名の名前を考えるにあたって、深見歩という名にした。深見はアルトリウスに、別段自分と同じ名字にしなくても良いのだが、と言われたが、アルトリウス自信、深見という名が気に入ったのと、深見自身をアルトリウスが気に入っていたので、深見歩とした。
孤児院の中には七人の子供がいた、子どもと言っても勿論大小ちらほら差があるが、上から、巧、晴人、朱麗、イリナ、陸、遥、藍だ。イリナだけ、両親の事情でフカミ園に預けられていた。客観的に見て大人びた少年という印象を持つアルトリウスに、フカミ園の子どもたちは最初、距離を感じていたが、一度アルトリウスの人柄に触れ、共に時間を過ごしていると、アルトリウスも子どもたちと打ち解け、気の良い兄役となった。
又、アルトリウスは深見から色々とこの世界の事情を聞いていた。天使、堕天使、悪魔、この三勢力が絡み合っていること、その知識とともに、その昔あった三すくみの大戦の事、その影響であぶれた子どもたちをこのフカミ園が預かっていたこと、それらの話を聞いて、アルトリウスは色々と飲み込むことが出来た。どうりで私がこの場に現れても動じないわけだとアルトリウス思い、また戦争の傷跡がいまだ残っていることに嘆息を漏らした。戦争を経験したことがあるものにしか分からぬであろう苦痛を思って、アルトリウスは子どもたちにより明るく生きられるように、子どもたちが卒業するまでの間がんばろうと思った。
◆
ある時、アルトリウスは、深見にここらの地理をもうちっと確認して頭に入れてきたらどうだと言われてアルトリウスはフカミ園をでた。手に地図を持って。幾ばくか歩いていると、何やら荘厳な神社の前に付いた。
ーーこれは、ここらにあるという深見の言っていた神社というものか。
ちなみにアルトリウスは深見やら園の子どもたちに字を教えられた為、拙いながらも時の読み書きがある程度できるようになっていた。
ーーどれ、お小遣いに持たされたお金でも使って、何か願掛けでもしてみるか。
アルトリウスはそう思って。鳥居を潜らず横に避けて通る。深見に神社の前にある鳥居という所はこの世界で言う神が通る道だと聞いていたからだ。アルトリウス自身、あまり神という言葉に良い気持ちは持っていない。アノール・ロンドでは自分が守っていた大王グウィンやその親族たちは神として崇められていた。一部でアルトリウスや四騎士、それに使える騎士たちも一種の神として崇められていたらしいが。神は何処にもいない。いるのは力で統治する貴族らだけだ。それをアルトリウスは身を持ってしっている。
ーーまあ、郷に入れば郷に従えと言う。フカミ園の皆に対する祈りを捧げるくらいならいいだろう。
しかしどうだろう、アルトリウスが心静めて本殿への道を歩いてみると、喧騒が聞こえる。中には子供の悲鳴も。アルトリウスの首筋にちくりとした感触する、何者かの気配がした。アルトリウスが振り向いてみると、そこにはしめ縄のされた大木があった。
ーー御神木というものか。
アルトリウスが駆け寄って近づくと、大樹の根本に、天へと伸びようとする真っ直ぐな枝がある。
ーー使えというのか。
アルトリウスは一瞬の潜考の後、枝を根本から折った。
「その身の一部、使わせてもらう。」
そうアルトリウス言うと、喧騒の元へと走った。喧騒があったのは本殿を越え、少しした離れの家、その中だった。
「さあ、差し出せ、その汚らわしき堕天の子を!」
「渡すものですか、この娘は、私と、あの人の大切な娘!命潰えても渡しはしない!」
男の声に女性の声、なるほど、だいたい事情が理解できた、アルトリウスは左手に枝を握りしめ、既に破られている麩を抜けて黒装束に湾曲した刃物をもつ四五人の男達と娘を抱き壁際に追い詰められている女性たちの間に割って入る。割り込む存在に、その場にいた者達は驚きの表情とともに、黒装束の集団が武器を構えて叫ぶ。
「去ね、ガキがしゃしゃるな!」
アルトリウスは怯まず、後ろにいる女性達に言う。
「目を瞑っていなさい。」
女性が目を瞑る事はないが、娘は目をぎゅっとつむった。
「去ぬのであれば死ね!」
黒装束の一人がアルトリウスに斬りかかる。冷静にアルトリウスは刺剣の要領で振り下ろされる刃を払い、体全体を使い首を一突きする。その一突、寸分狂わず気道を抜け頚椎を砕く。呻く声も出せず死ぬ。ズルリと力の抜けた男を支えながらアルトリウスは枝を引き抜く。
「ふん、他愛なし。」
アルトリウスの言葉が吐かれた次には複数の刃が襲う。アルトリウスは死んだ男に覆い被されるようにしゃがみ込む。死んだ男の骨肉に刃が食い込む。その刃が再び中に浮かんだ瞬間、アルトリウスは横に死んだ男をを捨て、振り下ろす寸前の正面の男に飛びかかり、首に枝を差し込むと同時に押し倒す。直ぐに体勢を直し、左右から来る刃より早く、左の方へ倒れるようにして腹部に枝をさし、呻く男がアルトリウスを掴むより先に空振った右の方の男の首をつき、戻るようにして残る男の首をつく。
「ふぅ、終わったか?」
倒れ血を流す死体を捨て置いて、アルトリウスは女性たちの方へ向いた。信じられないとでもいったような目を女性はしている。娘は女性にしがみつきエグエグと泣いている。アルトリウスは女性たちの元へ近寄る。怯えたように女性が娘を抱く力を強めた。
「お嬢さん、何時まで泣いている、もう泣き止みなさい。」
アルトリウスはしゃがみ、そう言う。娘は、泣くことは完璧には止めないが、目を開けてアルトリウスを見た。
「いい子だお嬢さん。私の目から視線を話しちゃいけない。そうだ、いいか、お嬢さん、怖い人達は私が倒した。だから君が泣いていると、君のお母さんが安心できない。笑顔を見せて、安心させてあげなさい。」
アルトリウスはすくと立ち上がる。
「お母さんは娘さんにこの現状を見せないように。抱きしめるなりしてあげなさい。私は少しここらの安全を確認してくる。」
そう言って部屋を出ようとすると、女性がアルトリウスを呼び止める。色々と聞きたいことがあるだろうが後にしてくれと言って部屋をでた。他の部屋を探っていると、走って女性達のいるところへと向かう気配がした。部屋の隙間からちらりとその姿を捉えてみれば、黒い翼を持った男が血相を変えて走っているのが、ちらとだが見えた。
ーー父親か。堕天使であるならある程度の力を持っているだろう。
アルトリウスはそう思い、後の事に鑑賞する必要もないだろうと考え、その場を後にした。その手に握り続けていた御神木の枝は、役目を終えると朽ちて崩れた。
◆
フカミ園へ帰る途中、ニつのか細い気配が、アルトリウスの肌を撫でる。ぬるりとした血臭がわずかだが漂っている。なにかと思って道を外れて、ヤブの中に入ってみれば、そこには二匹の猫が荒い息とともに倒れていた。白い猫を守るようにして黒い猫が寄り添っている。
ーー今日は色々とあるな、混血の娘に、唯の猫ではない何か、か。はぁ、恵まれているな。
アルトリウスはそのまま猫を見捨てるわけにも行かず、胸に抱えてフカミ園に連れて行くことにした。恐らく傷が癒えたら煙のように消えるだろう、そう思った。
◆
フカミ園につくと玄関先に簡素なパイプ椅子を置き、そこに座る深見がいた。
「ここは夕陽が綺麗だな、深見。」
「ですなぁ、坊っちゃん。」
「又、面倒事を増やす、すまんな。」
「ううむ、神社の方角の空が、随分妙に騒いでた故、何かあったかと思いましたが、未だ生臭い闘諍は消えませんか。」
「争い消える、それこそ我の滅びである。煙を起こす火は何時だって我らだ。」
「で、ありますなぁ。」
「治療をしてやりたい。なに、傷も癒えれば自由気ままに旅に戻るさ。」
「ま、別に困るこたぁないんですがね。では、ちゃちゃっと直して、休んでもらいましょうや。」
「だな。」
フカミ園の中に入り、部屋の一角にある棚のから、深見は救急箱を取り出して、救急箱から小さな液体の入った小瓶やら、何やら術式の記された包帯やら、普通の医薬品ではないらしい物々を傷ついた猫達に施した。荒い息が、ゆっくりと正常になっていく。しかしこの奇妙な医薬品の数々に疑問を抱き、アルトリウスは深見に、何故こうも効き目のある薬品を持っていんだ、尋ねてみると、深見は、私にも色々とふかぁい過去がありますんでな、見た目そこな人と変わりやしませんが、これでもながぁくながぁく生きている、とすれば知識も後ろに付いてやってくるもんで、何かにつけて役立ててるんですわ、と答えた。アルトリウスは、そうか、では生きた時間は無駄ではなく生きるということか、と問えば、いんや、振り返って考えてみると、やっぱし無駄ってのはあるもんで、どう考えても時間を溝に捨てた時ってのは見つかるもんですな、と笑って返された。とりあえず二匹の猫は園の子供には見せず、アルトリウスの寝ている部屋のベッドに寝かされた。アルトリウスは深見から布団を出してもらって床で寝た。
◆
猫は一日ぐっすりと眠ると、目をぱっちりと開けて力強く立つことができるようになっていた。目が覚めてみると、すぐそこには、自分達を観察するアルトリウスがいる、黒猫はまだ眠気が抜けきっていない白猫の前に立ち、アルトリウスに威嚇した。それに対してアルトリウスは顎を撫で、ふむ、流石深見の薬、あれだけの傷を一日で直すとは、恐れ入る、そう言って特に何かするでもなく立ち上がり、部屋の扉を開き、閉めぬままに部屋をでた。
わざとらしく気配を漂わせて行くアルトリウスの誘いに、現状助けてもらった恩もあってか、黒猫達はアルトリウスの行所へと向かう。気配をたどって足を運んだ先にはアルトリウスと深見がいた。小さな部屋に幾つもの棚がある、ここは猫達の傷に手当をした場所だ。深見はパイプ椅子に座っている。皺の寄った目が、ちろりと部屋に入ってきた黒猫達を見つめる。深見は満足したように頷いた。
「確かに、治っているようですな。」
「だからそう言ったろう、何故自分の腕を信用しないんだ。」
「怪我が治ったかどうか、それを見極めるには見るしかないんですわ。これでも昔は医者をかじってましたからね、慢心しちゃあいけないって肝に刻み込んでるんですよ。」
「うぅむ、医者とは難しい物なのだな。」
「坊っちゃんは医者にお世話になったことないんで?そりゃあないでしょう、坊っちゃん、あんたたーくさん戦った目をしてるってのに。」
「よほど大きくなければ自然治癒に任せてたからなぁ。自分で取ってつけたように水で流して包帯をまくだけにしていたよ。」
「よくもまぁ生きてますな。」
「いやぁ、今でこそ幼い姿で生きているが、これでも一度死んでいるからなぁ。」
「ま、傷を負っても私が直しますんで大丈夫でしょうや。」
「それは助かる、どうにも巻き込まれる体質らしくてな。」
深見とアルトリウスは猫達そっちのけでケラケラ笑いながら喋っいる。猫達はぽかんとそれを見つめていた。アルトリウスは猫達の様子に気づいて言った。
「傷が治ったのだから後は自分達の好きにしてくれ。ここに住むも良し、また逃げの生を行くも良しだ。」
猫達は考えこむように見つめ合う。二匹は意を決したような面持ちでアルトリウスと深見を見た。ドロンとけむり玉が弾けたかのように煙が起こり、それが消えるとそこには黒と白の幼い少女が二人いた。黒が姉で、白が妹だろうとアルトリウスは推測した。黒髪の姉は黒、白髮の妹は白い甚平の様な簡素な布の服を着ていた。姉妹とも大きめの服であり、ゆったりとした服の隙間から見える腕の線や太ももの瑞々しさを見れば、大体の男は釘付けにされるのであろうが、枯れてしまっている深見とアルトリウスからの感想といえば、どちら共に活発そうな娘であるなぁという印象しかなかった。
「少しの間でいいにゃ、ここで休ませでくださいにゃ。」
黒髪の少女がそう言って頭を下げた。アルトリウスはちらと深見を見遣る。深見はアルトリウスの視線を待ち受けてたかのように、ニコリと笑った。アルトリウスは視線を少女たちに戻すと、近寄って二人の頭をポンポンと叩いて言う。
「そうかしこまるな、可愛らしい少女二人に頼まれて断れる奴はいないさ。」
詳しいことは深見に聞きなさい、そう付け加えて自室に戻ってしまった。
「おや、私は坊っちゃんに全部任せようと思ったのに、任せられちゃった。」
深見はおずおずと言った風の二人に対して、またニコリと笑った。
「ま、いいでしょう。じゃあ私に付いてきなさいなお嬢さんがた、貴女達のお部屋に連れてってあげよう。」
それからと言うもの、二人の少女(黒髪の姉が黒歌、白髮の妹が白音)はフカミ園に住むことになった。白音は常に人型で過ごしていたが、黒歌は自由奔放で猫になったり人になったりと好きなようにしていた。女の子が二人新しく入って、フカミ園の若い男子たちは色々とどぎまぎした、と後から晴人や陸からアルトリウスは聞いた。一番年上の巧でさえ、フカミ園の女子率が高くなってからというもの、何処か肩身の狭い想いをしており、何かにつけてアルトリウスの部屋で過ごすことが多くなった。新参のアルトリウスであるが、目に見える多少の幼さとは裏腹に、その精神の熟し様に、何かと頼りになるお兄さん役を何時の間にやらなっていた。深見は、アルトリウスについてのあらゆる情報を作るにあたって、アルトリウスの年齢をどれほどにしようかと悩んだが、アルトリウスたっての希望で、成人する五六年前にしてくれとのことで、それに合わせて戸籍を作った。
◆
黒歌と白音は最初こそ、慣れないフカミ園での生活の中、笑顔を見せる余裕はなく、何かにつけてびくびくとしていたようであったが、次第に安心して暮らせるようになったのか、笑顔を見せ始めるようになった。白音は幼いイリナたちとキャッキャと遊び、黒歌はそれらをまとめる良いお姉さんとなっていた。彼女たちを救ったアルトリウスには、尊敬も深く、白音はアルトリウスに良く懐いていた。黒歌もアルトリウスに信頼を寄せた。そんなようやく安寧を手に入れ始めていた彼女たちを狙うものはいないわけではない、事あるごとにフカミ園付近にまで手を伸ばしてきた。その度に、アルトリウスは眠っていても起きて、なにか作業をしても一旦中断し、迫り来る敵を屠っていた。その時々によって屠り方は変わっていたが、あまりにも絶え間なく来る時には、深見に協力を仰ぎ対処した。深見は初老ながらも、そこらの敵であるなら簡単に倒せるような術を持っていた。影に隠れて敵の首を切り裂くキアランの様な暗殺術を持っていれば、また正面切って戦う合気柔術を修得していた。その多芸さにはアルトリウスも驚いた。
◆
ぶっきらぼうな巧やら、落ち着いた性格の晴人、何かしらにつけて世話焼きな朱麗を筆頭に、中々に平和な罅を過ごしていると、何時からか、アルトリウスの中で声が聞こえるようになっていた。最初こそ微弱な、それこそ集中しなければ聞き取れないような声だったが、一日一日過ぎるごとにその声は大きくなった。
ーーおい、おい!いい加減気づけ!
流石に一字一句完全に聞き取れるまでに頭のなかに響けば看過することはできなくなる。アルトリウスは折角身についてきた語学を試そうと読書にふけっていたのに邪魔されたとため息を付いた。
「だれだ、先程から私の中で喚くのは。」
ーーお、ようやく気づいたか。
「気づくも何も、そう呼ばれては気づかぬほうがおかしい。で、誰なんだ君は。もしや私の中に居るもう一つの格か?いやしかし多重の格を持った覚えが無いんだがなぁ。」
ーーいや、何かもっと驚くとかそう言った事をすべきじゃないか?お前のことをこの世界に生まれる時より見てきたが、些かお前は淡白すぎるぞ。
「今更だな、見てきたのなら分かるだろう。」
ーーまぁ、そうだが。
「はぁ、質問に答えてくれないか、君は誰だ。」
ーーおゝ、そうだな、俺はドライグだ、かの有名な赤龍帝ドライグ、どうだ、驚いたか?
「はて、赤龍帝、何だったか。」
ーーいやいやいや、お前さん深見に教えてもらっていただろう、堕天使や悪魔の話と一緒に。
「ん?あゝ、あれか、神器というやつか。」
ーーそう、それだ。
「そういえば二天龍の話もあったな、その片割れが赤龍帝だったか。」
ーーそうだ!ようやく思い出したか。
「それで、何か用か?」
ーーいや、用があるわけではないが……。
「そうか。」
アルトリウスはまたベッドに寝ながら読書を再開する。
ーーお、おい、もっと何か無いのか……。
「はぁ……分かった分かった相手をしてやる、表に出てきてくれ。」
ーー無理だ、表にはでられん。
「そうか、実に残念だ、では読書に戻る。」
ーー待ってくれ、ほら、な?
「なんだ。」
ーー少しの間でいい、精神の中に来てくれ。
「精神?」
ーーそうだ、俺と話したいと思って意識を心の奥底に沈めてくれりゃあ直ぐにでも入れる。ま、最初こそイメージし難くて難しいだろうがな。
又一つアルトリウスは溜息ついて、目を瞑り、言われたとおりにしてみる。途端にまぶたの奥の暗闇は、霧がかった白色に覆われた。
「ぬお、もう来たのか!?恐ろしい早さだな。」
目の前に深紅の巨龍が立っている。その息遣いが、気配が、熱となってアルトリウスの肌を伝った。
「どうだ、実物を前にするとやはり驚きが湧くだろう。」
「ほう、ここが精神世界か、興味深いな。」
「実物目にしてもそれか!とことん淡白だな。」
「性格だ、仕方ないだろう。にしても、デカイな。一口でぺろりと食われそうだ。」
「喰いやしないさ、今代の依代だからな。死んでもらっちゃあ困る。」
「そうか、ならよかった。」
「さてと、相棒、聞きたいことがある。」
「なんだ。」
「お前さんの記憶は、この世界の記憶、そしてもう一つの記憶がある。俺はお前さんの記憶を見ることができるはずなんだが、そのもう一つの記憶が見ることが出来ない。心当たりがあるか?」
「ふむ、なるほど。あるぞ。」
「そうか、その記憶を俺は見ていいのか?」
「見ていいと言ったら見られるようになるのか?」
「なる、だろうな、恐らく。」
「いいぞ、別段見られて気味が悪いとも思わない。見たければ存分にどうぞ、だ。」
「おゝそうか、そいつは良かった。お前さん、やけに強いし、幼い割に成熟しすぎているからな、見ていてどうにももう一つの記憶が気になっていたんだ。」
「そういうものか。」
「そういうものだ。」
「所で赤龍帝ドライグ、聞きたいことが私にもある。」
「ドライグで良い。で、なんだ。」
「この精神世界ではなんだってできるのか?」
「あゝ、できると思うぞ、お前さんの精神の中だしな。確固たるイメージが出来ていれば、空だって飛べるんじゃないか?まぁ、ここには空と呼べるものが無いから飛ぶという感覚があるかどうかよくわからんがな。」
「そうか、上々だな。」
「何かしたいことでもあるのか?」
「あゝ。」
「なんだ。」
「いやなに、君が今覗こうとする記憶の断片を見せてやろうかと思ってな。」
「ほう、何をするんだ?」
「私が過去にやってきたことの一つを今ここで見せてやる。」
アルトリウスの足元から黒くドロッとした粘着質の泥が溢れてきた。こぽこぽと泡を立てて弾ける雫が白を黒に汚していく。
「時にドライグ、お前の炎は、天をも焦がすか?」
「なっ、急にどうしたんだ相棒。」
「お前の爪は、空をも割くか。」
黒黒とした皮膜がアルトリウスを包み、ぐにゅりと形を変えたそこには、嘗ての鎧を纏ったアルトリウスがそこにいた。
「お前の体は、決して潰えぬ終古を宿すか。」
その手には身の丈ほどある大剣と盾が握られていた。
「であれば死ね、でなければ去ね。」
アルトリウスは駆けた。困惑するドライグもあからさまな敵意と殺意を肌に感じれば透かさず臨戦態勢に入った。アルトリウスの大剣が風切り音を立てて振るわれた。
走り書きです、こうなっていったら良いなと思って設定も何もない思ったことを適当な言葉で書いてみた結果がこれです。まぁ中身がすっかすかですが、それでも最後まで読んでいただけたのであれば重畳、楽しんでいただければなお重畳です