その美食屋、転生者につき   作:苦笑いの妖精

10 / 10
漫画やらアニメやら読み返しているんですが、その度にそうだっけ?が発生しており、難儀しております…。
前にも言いましたが、誰か続きを書いて頂いてもいいんですよ?


洞窟の砂浜その2

 

 補助呪文を一通りかけ直し、入口をくぐった途端に空気が変わった。

 湿った石と水の匂い。奥から流れてくる風にはどことなく海の気配がある。

 

 その全長は数十キロにのぼるとされ、深さは800メートル超。

 

 距離だけではない。枝分かれが多く、入ったものを迷わせる構造に加えて危険な猛獣が住み着いている。熟練の美食屋でも迂闊には入らない危地がこの洞窟だった。

 

 そんな入り組んだ場所を把握する最適な呪文がある。

 

 フローミ、そう唱えると頭の中へまるで3Dスキャンをしたような地図が浮かんだ。現在地から始まり分岐、傾斜、水の流れがあるところに行き止まりまで。すべてが絵として浮かぶ。あまりに広すぎるせいで一度に把握しきれないが、わからなくなったらまた唱えれば良いだけだ。それでも万が一迷った場合はリレミトもあるしな。

 

 洞窟の構造を把握したところで、次は灯りの確保だ。デインを唱えて左右の岩壁に待機させる。メラではない理由は洞窟内で炎を使って酸素を使いたくないというのもあるし、もし可燃性のガスがあったら死にかねないからだ。物理的な衝撃や爆炎はマホカンタやアタカンタで跳ね返せるが、無酸素はどうにもならない。

 

 そんな理由で選ばれた白く輝く雷球が通路を照らす。

 

 マンションに懐中電灯は用意していたが消耗品を使わないで済むならそれに越したことはない。それに直ぐに動かせる攻撃手段としても使い勝手が良かった。

 

 洞窟内は思ったより静寂さはなかった。

 

 鍾乳石から滴る水滴の音。時折聞こえてくるバサバサとした羽音。何かが石を擦るような音…等々。

 生き物の気配はあちこちにある。いつ奇襲を受けても良いように気は張り続けておく。

 

 しばらく進むとポキポキキノコが見つかった。

 

 岩の表面を覆う苔を苗床に群生していた。赤い大きな斑点のある青い傘が何層にも重なっている。かなり毒々しい見た目をしているが生食も可能な食材だ。

 

 紫色の軸を軽く折ると名前の通りにポキッと音がした。先端を口に放り咀嚼する。小気味良い食感と共に茸の味が広がる。生でも上手いが、タケノコのように使ったら更に味が引き出される様にも思った。半分ほど採取して食材庫へ保管した。

 

 さらに奥へ進む。

 

 時折フローミを再度唱えて構造を把握しながら、デインで前を照らす。分岐があっても一度立ち止まり、フローミで確認する。

 

 道が広がり、岩壁にいくつも穴が空いた大きめの空間に出たところで穴の奥から黒い影がいくつも飛び出てきた。

 

 サソリゴキブリ。

 

 名前からして酷いが、見た目もまた最悪だった。ゴキブリに近い身体にサソリの尾が付いている。

 数も多く、ザッと数百匹はいそうだ。また、自動料理の反応もかなり鈍い。…調理ができる事に驚きつつも食べる気が湧くはずもない相手に構っている時間はない。

 

 トヘロスを唱え、周囲に圧が広がった瞬間、サソリゴキブリたちは一斉に動きを止めた。今にも飛びかかってきそうだったのに岩の隙間へ逃げ込んでいく。ざわざわと遠ざかり、道が開けた。

 

 呪文の便利さを心底感じていると、洞窟の更に奥から咆哮が轟いた。

 

 どうやらトヘロスの威嚇が、何かの縄張りに触れたらしい。

 

 サソリゴキブリを追い払っただけのつもりだったが、こいつには縄張りへの攻撃に見えたのだろう。

 

 岩壁の向こうから、重い擦過音が響く。

 

 身構えていると奥に続く巨大な穴から異形な頭が現れた。

 動く突き出た三つ眼。濃い紫色の体色。蛇だというのに手も生えている。

 

 デビル大蛇。

 

 捕獲レベルにして20を超える猛獣。この洞窟におけるグルメのメインがフグ鯨ならバトルのメインはこいつだろう。

 

 補助呪文をかけ直す。ガララワニ、トロルコングと余裕の勝利を収めてきたトリコが初めて苦戦した相手だ。緊張が走る。

 

 スカラ、ピオラ、バイキルト、バーハ。そしてアタックカンタ。オーラも練をして多めに顕現させておく。

 

 練をしたことで増大した生命力、力強さに反応したのかデビル大蛇が動いた。

 

 巨体に似合わない速度で迫り、牙が横から飛んでくる。それにアタックカンタが発動した。

 

 噛みつきは弾かれ、鉄塊すら噛り取れるような威力がそのまま返る。デビル大蛇の頭が岩へ叩きつけられた。

 

 続く尾の薙ぎ払いも反射できた。胴体で押し潰すような動きも弾く。物理攻撃であればアタックカンタで返せるらしい。これなら大型の猛獣相手への近接戦の修練が出来そうだ。

 

 アタックカンタの想像以上の効果にそんな事を考えていた。

 

 今思えば油断でしかない。

 

 デビル大蛇の攻撃をかわし、拳を叩き込む。オーラを乗せた打撃は堅牢な鱗にも効いた。

 

 攻撃呪文に頼らなくても猛獣を狩れる自信を付けるために近接戦を続ける。

 

 デビル大蛇の口が開く。

 また噛みつきかと、無視して懐に潜り込んだ瞬間、黒紫の飛沫が吐き出された。

 

 毒液。

 

 アタックカンタが反応しない。どうやらドラクエでいう特技という判定が下されたらしい。距離が近いせいで防げない。

 

 腕と肩に毒がかかり、皮膚の下へ焼けるような激痛が走った。麻痺毒のような効果もあるのか、体が鉛のように重く感じる。

 

 息が詰まり、痛みのせいで思考が止まる。

 

 その隙に尾が来る。アタックカンタがあるはずなのに、発動しなかった。岩へ叩きつけられ、肺から空気が抜けた。酸欠とイレギュラーのせいで鼓動が早まり、毒が回る。視界が滲んできた。

 

 まずいまずいまずい…!

 

 半ば反射的に四次元マンションの扉を開く。

 

 デビル大蛇の追撃が来る前にギリギリ滑り込めた。扉を閉じると洞窟の音が消える。白い部屋の床へ膝をついて転がり、すぐに回復呪文を唱える。

 

 キアリーで毒を抜き、キアリクで麻痺を治す。

 そしてベホマを唱えて受けたダメージを元に戻す。

 裂けた皮膚が塞がり、重度の打撲や骨折が修復される。

 

 呼吸を整え、乱れたオーラを戻しながら補助呪文をかけ直す。

 

 アタックカンタが有用なのは間違いない。しかし制約が多い呪文である事を再認識する。調べたつもりになっていてもやはり抜けがある。

 

 単純な物理攻撃は返せても毒の攻撃は別だと理解した。元よりそういった足りない部分を知るための旅なんだ。むしろ早い内に気付けて良かったと思うべきだろう。

 

 反省もそこそこに、扉を潜る。

 

 戦場へ戻るとデビル大蛇は当然の事ながらまだ昂っていた。

 

 洞窟の通路で巨体をうねらせ、こちらを探している。傷は浅い。怒りは増している。牙の間から毒液が垂れ、岩の表面を溶かしていた。

 

 そんな姿を見た瞬間、自分でも不思議に思ったがふととある欲求が湧いた。

 

 食べたい。

 

 あんな異形をしているし、原作で食材扱いだったかどうか覚えていない。しかし食欲が、グルメ細胞が欲している。

 

 自動料理の反応は簡潔。

 

 調理可能、ならば。

 

 食べたい食材を捕獲するのが美食屋というものだろう。

 

 修行は終わりだ。封じていた呪文による攻撃を解禁する。

 

 ヒャダルコ。

 

 手足の一部が凍り、動きが遅くなる。

 

 ジバリア。

 

 足場から石の杭が伸び、胴を固定した。

 

 デビル大蛇が毒を吐こうとした瞬間にバギマを放つ。

 風の刃が口元を裂き、毒の軌道をずらした。返すようにライデインを撃ち込む。雷が鱗の隙間へ走り、巨体が痙攣する。

 

 最後に補助呪文とオーラをありったけ込めた拳を脳天へ叩き込んだ。

 

 洞窟が揺れた。

 

 デビル大蛇の頭が床へ落ちる。胴体が何度か痙攣し、やがて動かなくなった。

 

 無事に倒せたようだ。

 

 自動料理が示す感覚に従い、食材として使える場所を大まかに分ける。とりあえず丸ごと回収するのが一番早い。扉を開き、巨体を少しずつ食材庫へ移す。

 

 これだけでも来た甲斐は十分にあったと言える。

 

 しかし、本当の目的地はまだ先だ。

 

 フローミを使い直し、砂浜へ向かう道を選ぶ。洞窟はさらに深く続く。下へ向かうほど空気が冷え、水の音が増える。デインの光を前に置き、足元を確かめながら進んだ。

 

 途中でアゲハコウモリが飛んできた。原作では確かトリコが踊り食いをするという中々に衝撃的なシーンがあったはずだ。まとめてラリホーマで眠らせて捕獲しておく。自動料理によると羽部分、特に鱗粉が使えるらしい。

 

 サソリゴキブリとも何度か遭遇した。その度にトヘロスへ感謝をしながら先へ進む。

 

 道はやがて狭くなり、下り坂へ変わった。

 岩の隙間からは水が滲み、足元に細い川を作っている。水は海から続いているのか、強い塩気を含んでいた。

 

 奥へ進むほど光が増えていく。最初は点だったものが、やがて壁や天井に広がる。

 

 海蛍だ。

 

 無数の光が洞窟を照らしている。ここまで来るともはやデインの灯りは必要がない。それほどまでに海蛍の光で満ちていた。

 

 最後の通路を抜け、視界が開ける。

 

 そこには砂浜があった。

 

 洞窟の奥とは思えない景色だ。天井は高く、壁一面に海蛍がいる。まるで昼のように明るい。砂は白く、波が静かに寄せている。奥の水面は深い場所へ続き、海と繋がっているのだと分かった。

 

 当然の事ながらフグ鯨の姿はない。

 

 時期ではないのは知っていたしこれは仕方がない。

 

 しかし、フグ鯨が居ないからといって他の食材がない訳ではない。

 

 砂浜へ足を踏み入れると、すぐに食材の気配があった。

 

 浅瀬を銀色の魚影が走る。

 

 イカマグロ。

 

 尾鰭がイカの触腕になっているマグロだ。捕獲レベルは3。泳ぎながら尾の触腕を岩へ絡め、急旋回する。動きは速いが、捕獲は難しくない。ザバで水ごと浮かせ、念で包んで食材庫へ入れる。自動料理は刺身にも焼きにも向く反応を見せていた。

 

 少し奥の深度には鮮やかな珊瑚の姿があった。

 

 アミノ珊瑚。

 

 構造体がアミノ酸で構成されている珊瑚。捕獲レベルは11。粉末に加工すればどんな料理でもワンランク上がる。そのまま食べても美味しい。見た目は薄い桃色で、枝のように伸びている。軽く折ると砂糖菓子のような音がした。海面へ浮上し口に含む。

 

 まず感じたのは優しい甘さ。次に純粋な旨みのある塩気。これ一つで甘味と塩味が調整できるようだ。調味料としてかなり便利そうだ。自動料理もかなりの反応を示したので採りすぎないように注意しつつ、回収する。

 

 底には手の平程の貝がいた。

 

 ゼリーシェル。

 

 殻の中にジュレのような真珠を作る貝だ。取り出したものはシンジュレと呼ばれるらしい。捕獲レベル9。殻を開けると半透明な白玉が出てきた。指で押すと容易に変形する程柔らかい。

 

 自動料理を使うと小皿に乗った一品に変わった。

 

 冷たい皿に乗ったシンジュレは、口に入れるとすぐ溶けた。海の香りと淡い甘みがある。デザートや前菜、サラダのドレッシングにも使えそうな味だ。見た目もいいし、食事処の料理のグレードが上がりそうだ。

 

 最後に厄介なものを見つけた。

 

 ミキサーヒトデ。

 

 輪郭が鋭い刃物になっているヒトデ。捕獲レベルは5。外敵が近付くと体を高速で回転させ切り刻む。硬質ゴムのような外皮の中にはエビとカニの中間のような身が詰まっている。

 

 砂の上にいるだけならただのヒトデに見えた。

 

 近づいた瞬間に回り始める。砂が飛び、風切り音が鳴った。触れば指くらい簡単に持っていかれそうだ。油断はしない。ヒャドで丸ごと凍らせて締め、食材庫へ放り込んだ。

 

 探索や食材の採取はこれくらいで十分だろう。

 

 砂浜の岩へ手を触れ、マーキングを施す。

 

 これで次にフグ鯨の時期が来た時、ここへ直接戻れるようになった。

 

 マンションへ入り、出迎えたデビル大蛇を見て考えを巡らせる。

 

 どんな味がするのか。そしてどんな料理が合うのか。

 

 考えただけで胃の奥が熱を持つ。

 

 早速自動料理を発動させた。

 




現在の主人公の強さは、センチュリースープ編の本気形態トミーロッドに負ける程度、捕獲レベルなら60~70付近を想定しております。また、その戦闘力の殆どが呪文で換算されています。念が使えるとはいっても肉体はまだ常人ですし、グルメ細胞も宿ったばかりですしね。

あと、実はまだ原作は始まっておりません。
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