その美食屋、転生者につき   作:苦笑いの妖精

8 / 8
思っていた以上の反響に戦々恐々としている筆者でございます…。
いただいた感想やご意見、アドバイスはしっかりと糧とさせて貰います!



聖地漫遊・修行編
バロン諸島


 

 食事処の休業看板を出した数日後。自分はロニアという港町にいた。ここがバロン諸島にもっとも近い港とのこと。

 

 早速行き方について道を行く町人に聞いてみたのだが、どうやらバロン諸島への船は出ていないらしい。なんでもバロンフェイスという岩礁地帯や潮流のせいで下手に近付くと座礁してしまうそうだ。

 

 トリコと小松は船というかクルーザーみたいな移動手段を使っていた気がするが…昔の記憶のせいで定かではない。自分の勘違いだったか?

 

 できれば記憶にある原作に則った進行で行きたかったが、無理なものは仕方ない。レムオルで姿を消し、トベルーラで向かうとしよう。

 

 いや、その前にまずは腹ごしらえをしてからだ。折角の港町、海の幸を楽しまなければ嘘というものだろう。

 

 最初に目を付けたのは寸胴鍋のようなサイズの蒸籠。看板には泡エビの焼売と書かれていた。

 

 泡エビは海面に発生する藻に生息する極小の海老で、泡のような体に魚介系の出汁が詰まっているのが特徴。捕獲レベルは1以下。

 

 早速購入して味わう。

 

 立つ湯気には昆布出汁の濃い匂いが混じっている。息で表面を冷まし、放り込む。皮はモチモチで舌触りが良い。噛むとタネである豚の旨味や油と同時にかつお節の香りが鼻に抜ける。次に感じたのは貝のようなコクのある旨味。一瞬遅れて泡エビ自体に含まれる海老の味が舌に乗る。

 噛む度に泡エビから飛び出るスープが溢れ、まるで小籠包のようにも思えた。

 

 次は上に針生姜を乗せ、酢を垂らす。

 

 焼売の顔が変わった。

 

 生姜の食感と僅かな、しかし確かに感じる辛み。そして酢の酸味が見事なコンビネーションとなっていた。

 

 10個もあった焼売が数分足らずで無くなった。おかわりをしたいが、他の出店も気になるのでグッと堪えて店前を後にする。

 

 魅力的な料理の看板や登りに目移りしていると一層強い海鮮の匂いが鼻腔をくすぐった。匂いの元をみると鉄板焼きそばの屋台のようだ。

 

 登りにはオイスタートルの海鮮焼きそばと書かれている。

 

 それを見た時、既に注文は完了していた。

 

 油を引いた鉄板の上にザク切りのキャベツと麺が置かれ、ジュウと声をあげる。熱気によってキャベツが少ししんなりとしたらそこへすかさずイカ、タコ、貝柱が投入され金属ヘラでかき混ぜられる。こんがり焼き目が入ったことを確認して主役の登場だ。照りのある黒い卵が割られ、漆黒のソースが麺や具材に絡んでいく。同時に黄金色の出汁が加えられ、出汁とソースの香りが混ざった中華のコクをもつ和風、そんな非常に食欲を促進させられる匂いを撒き散らしながら完成した。

 

 皿に盛られた麺を大きく箸で掴み、頬張る。

 

 途端に走る旨味のジェットコースター。

 脳に届いた美味を紐解いていくと、まずはオイスターソースの深みがありながらも甘味のあるコク。次に港町だけあって新鮮な魚介類が持つ張りのある歯切れの良い食感は食べ応えを大いに増していた。具材の量も満足以上に入っている。

 

 箸が止まらない。みるみるうちに減っていき、大きめなサイズだったのにも関わらず焼売よりも短い時間でなくなってしまった。

 

 この世界に来る前であれば既に満腹の大満足だっただろう。しかし、グルメ細胞に目覚めたせいか食べ終えた端から消化、吸収されているのか食欲は止まらない。むしろエンジンが掛かったように増大する。

 

 ただの腹ごしらえのつもりだったが、予定変更。この港町を味わい尽くすこととしよう…!

 

 日が傾き、夕焼けが夜景に変わる頃にようやく食欲が満たされた。

 

 自動料理には出せない、人の手が入ることによる暖かみというか、言い方は悪いが少し雑な味。しかしそれが屋台飯という存在にプラスとして働いていた。

 

 荒く切られた魚、焼きすぎて少し焦げた浜焼き、強めに付けられた塩味。総じて量が多く、肉体を酷使する漁師が腹を満たすための料理は非日常を感じられたのもまた良かった。

 

 特に良かったのは夕方に食べた細波貝の磯焼きとシャケ鱈の卵であるイクラコの醤油漬けと塩風で味を付けた焼き海苔を用いたおにぎり。

 

 焼くことで静かな細波を奏でる細波貝の音色は、照らす夕日も相まってノスタルジックを想起させた。

 

 調味海の深層で採れる溜まり醤油の風味を纏った、イクラとタラコの合の子のようなイクラコはタラコの食感とイクラのネットりとした濃厚さが米と非常にマッチしている。パリパリの焼き海苔と相まって食べれば食べるほどに次が欲しくなる一品だった。

 

 自分の店でも出そうと調味海の醤油各種と時に気に入ったイクラコの筋子を購入して食材庫に保管してその日を終えた。

 

 

 次の日、既に賑わいを見せている港の誘惑を抜けて船着き場に立つ。既にレムオルで姿は消してあった。

 

 行き先はバロン諸島。

 

 ガララワニが頂点に君臨する熱帯林であり、トリコ始まりの地。

 

 トベルーラを唱え、重力の鎖を断つ。

 

 纒で体の周りにオーラを張り付かせ、風圧や潮風による影響を軽減し、離陸した。

 

 空を飛ぶこと十数分。ロニアからはそう離れていないようで、もう島の輪郭が見えた来た。

 

 同時に眼下の景色を見て、船での上陸ができない理由を改めて理解した。

 

 海面には白い筋がいくつも走っており、それによってか激しい渦潮が生まれては消える。突き出した岩はまるで牙のように並び、波がぶつかるたびに水しぶきが鋭く飛散する。

 

 確かにこれを船で進むのは自殺行為だろう。

 

 マングローブが歪に絡み合う浅瀬に降り立った瞬間、白い拳大程の何かが草むらから飛び掛かってきた。纒をしていたおかげで弾かれたそれはバロンヒルと呼ばれる、確かガララワニと共生関係にある蛭だった。…血を吸われると暫く出血が止まらなくなるんだったか。

 

 地面に転がるバロンヒルにデインを放ち、倒すと同時に抜けていた気を引き締める。

 

 ここは既に猛獣が生息する危険地帯。油断はするべきじゃない。

 

 近くのマングローブの幹に四次元マンションのマーキングを施し、いつでもこれるようにしておく。ルーラを使わない様にしているのは単純に目立ち過ぎるが故だ。

 

 あとはスカラやピオラ、バイキルトなど補助呪文もかけて密林を進む。

 

 じっとりとした高湿度による汗を拭いながら進むと木々の隙間から鮮やかなオレンジの体色をした虎が現れた。

 

 バロンタイガー、捕獲レベルは3。

 

 肉は食用には向かず、自動料理の反応も鈍い。調理できない訳じゃないが美味しくはない。そんな感じだ。

 

 食べれないなら用はない。ラリホーで眠らせ先を急ぐ。

 

 暫く進むと視界が広がる広大な沼地に出た。

 

 生物の気配がした密林とはうって変わり、シンと静寂に包まれた沼地の様子に怪しさと同時に大物の予感がしていた。

 

 トラマナを使い、沼地を歩けるようにして一歩踏み出した途端。軽自動車すら丸呑みできそうな巨大な赤いアギトが自分を挟み込んだ。

 

 

 3トンを越えるという咬筋力は、人の肉体なんて容易く食い千切る筈だった。

 

 バロン諸島の頂点はそう信じ、疑うことすらしない。しかし、カキン、と今まで聴いたこともない音と共に全てを捕食してきた顎が閉じない。

 

 ──バギクロス。

 

 それが聞こえたか聞こえなかったかはわからない。しかし、長らく頂点に君臨していたバロン諸島の王者の意識は途絶えた。

 

 

 あー、びっくりした。

 まさか沼地に入った瞬間に来るとは。咄嗟に上級呪文を使ったが、回収が大変だぞこれ…。

 

 そもそも警戒を怠っていた自分が悪いので文句は言えないのだが。…さっき油断しないって自分で言ったばかりなのになぁ。

  

 ショボくれながら肉を集めていると匂いに釣られたのか、沼の奥底からガララワニにも遅れをとらないサイズのウツボ…いや大蛇が大きな肉片を加えて沼へと消えようとしていた。

 

 沼ヘビ。捕獲レベル5。こと沼の中ではガララワニですら手をこまねく猛獣だ。

 

 食い逃げは許さんと、今度は考えて呪文を放つ。ジバリアで周囲の沼を土の杭へと変えて縫い止め、バギマで頭部を跳ねる。

 

 ガララワニと同格だけあり、その肉は上質な鰻の如しらしい。自動料理も何となくだがやる気を見せている感じもする。…最近、自己主張激しいっすね。いや、食べられるか食べれないか分かるからありがたいんだけど。

 

 これ以上漁夫られないように手早く扉を開いては回収を行っていく。しかし結構な範囲に飛び散っているせいで一ヶ所に気を取られている間に反対側をいかれたり、それを追っ払っている空に群れを成す怪鳥にも横盗られ、何か対策は無いかと脳内を検索すると一つの呪文が引っ掛かった。

 

 トヘロス。自分よりも弱い存在を寄せ付けなくする呪文。

 

 早速使うとまるで絶対的捕食者が現れたような反応と共に周囲が静まり返った。

 

 これはトリコの威圧みたいに無用な戦闘を避けられる呪文として重宝しそうだった。相手が単体や固まっていればラリホーやラリホーマでいいが、複数に散っている場合はこれで行くとしよう。注意点としては自分の気配というか闘争心、殺気を増幅するっぽいから静かに行動したい場合は使えない点は気を付けるとしよう。

 

 急ぐ必要が無くなったおかげで呪文で肉を綺麗にする余裕すらできた。

 

 原作ではそのまま直火て焼いて食べていたが、さすがに沼地にいたワニ肉をそのまま食べるのはちょっと…。同じ理由で沼ヘビもザバで清潔にしたあと強めにキアリーを掛けてから食材庫に保管する。

 

 全てのガララワニの肉と沼ヘビを食材庫へ運び終え、四次元マンション内の調理場に移動する。

 

 まずはガララワニを味わう。

 

 本来ワニ肉というと鶏肉に近いとか聞いたことがあるが、ガララワニの肉はブランド牛に負けない肉の旨味を持つらしい。

 

 ワクワクしながら自動料理を発動させる。

 

 するとまずは部位ごとに分けられた。尾肉、背肉、腹肉、脚肉等々。それぞれ脂の入り方や繊維の密度もかなり違うようだ。

 

 自動料理が最初に選んだ部位は尾肉だった。

 

 厚切りにし、表面へ最小限の塩を振る。余計な香辛料は要らないと判断したのか、味付けはほぼそれだけだった。

 

 鉄板が現れ、肉が置かれる。

 

 油が弾けると音がした瞬間、調理場の空気が変わった。

 

 脂が熱で溶ける匂い。獣肉の力強さ。沼地にいたとは思えないほど嫌な臭みはなく、むしろ生きていた環境の野性味が肉の香りに変わっている。

 焼けた表面は琥珀色になり、切れ目からは溢れんばかりの肉汁が滴る。

 

 まずはそのまま一口。

 

 口に入れた瞬間、飛び越えた旨味のハードルに思わず目を見開いた。

 

 肉質は弾力が強めなのに容易に歯で噛み切れた。味は牛肉を数倍しているような濃密な肉の旨み。噛むたびに筋繊維の奥から旨味が出てくる。次に焼けた脂の香ばしさと甘み。それらを感じさせた後まるで霞のようにスッと消えていくおかげで一切くどさを感じない。

 今まで食べてきた高級食材に比べれば数字は低い筈なのに、さすが原作初期の看板食材。格がある。

 

 次は骨付き肉。

 

 骨に沿った厚い肉は赤茶色のソースが塗られた後、表面を炙るように焼かれていた。

 肉へ歯を立てると、バーベキューソースの濃いスパイスの味と共に骨周り特有の旨味が一気に来る。肉の味に限れば先ほど食べた尾肉よりも濃い。脂と髄の香りが混ざり、胃袋へ直接訴えてくるような風味だ。

 

 海辺や河原で、手で掴んで齧り付くべき料理だった。

 

 食べてる最中にも自動料理は継続している。骨周りの肉を剥がし、残った骨はスープへ回された。

 

 透明な鍋の中で骨が煮出される。沼地の王者の骨から出た出汁は想像に反して澄んでいた。濁りは少なく、表面には脂が薄く光っている。塩を少しだけ足したスープを口に含むと、肉とはまた違う旨味の角度があった。

 

 骨の旨味。

 身体の芯へ沈むような味。

 肉の香ばしさが前面に出るステーキとは違い、こちらは腹の奥から沸き上がる旨さというべきか。

 出来上がったスープを飲み干すとグルメ細胞が僅かに反応した。星降り鮎の時のような劇的な変化ではないが確かに力が湧いてきている。

 

 既に結構満足しているのだがまだメインは残っている。

 

 沼ヘビだ。

 

 選ばれた調理法はやはりというか蒲焼きだった。

 上質な鰻の如しと言われたら、まずはそれだろう。

 

 沼ヘビは下顎から尾の先まで開かれ、大小様々な骨が処理されていく。ヘビって軟体というか筋肉で動いていると思っていたのだが、想像の5倍くらい骨があって驚いた。

 

 自分が蛇の肉体構造に驚いている間にも工程は進んでいく。

 

 余分な水分が抜かれ、皮は薄く残される。脂の位置を整えた後、炭火に似た熱源が現れた。表面が軽く炙られると、皮がキュッと縮み、身がふっくらしてくる。

 

 タレは昨日買った調味海の調味料が使われていた。お気に入りの溜まり醤油に、海のミネラルが入ったみりんの、うみりん。スイーツの海であるシュガーシーの砂糖。他にも隠し味として空飛び昆布の出汁や香油サソリの香油も極僅か入っているようだ。

 

 タレが塗られ、炭火に晒される。

 タレがしっとりしてきたら火元から離し、タレを塗り、焼く。

 表面に照りが出た瞬間、理性が揺れた。

 今までも良い香りがしていたが、熱が入ったことによって滲んだ沼ヘビの脂と合致したことによるかけ算が行われたのだろう。

 

 匂いだけで白飯が一升はいけるだろう。

 なんて考えた途端、奥のコンロにある鍋の一つが近付いて来た。蓋を開けるとそこには炊き立ての米が用意されていた。どことなく得意気な自動料理さんを拝み倒しつつ、出来上がったそれに箸を入れる。

 

 沼ヘビの蒲焼き丼。

 

 箸を入れると皮が少し抵抗し、すぐに身がほどけた。米と一緒に口へ運ぶ。

 

 身は驚くほど柔らかい。鰻よりも少し弾力があり、噛むと繊維がほぐれて脂が出る。脂は濃い。だがピリリとした香油のおかげか、後味がくどくならずに締まっている。タレの甘みが米へ染み、皮の香ばしさがその上から覆う。口の中で蒲焼きの味が完成し、飲み込んだ後に沼ヘビそのものの旨味が戻ってくる。

 

 もう一口。

 さらに一口。

 

 一口が次の一口を呼び、気付けば丼が空になっていた。

 

 いまさら丼一杯程度でエンジンの掛かった自分の食欲が満たされる訳もない。

 追加で白焼きも試す。

 こちらは塩と少量の香油だけ。蒲焼きより素材の味が分かる。脂の中に仄かな土の香りがあり、噛むほどに淡白な旨味が染み出す。蒲焼きは米を食べるための料理だが、白焼きは酒が欲しくなる料理だった。

 

 最後に沼ヘビの肝。

 

 串焼きになったそれ。強い苦みがある。だが同時に肝特有の癖のある味があった。飛び抜けて美味い訳ではないが、これがないと蒲焼きを食べた感じがしないのもまた事実だった。

 

 そのあともガララワニのステーキや蒲焼き丼をいくつもおかわりをして、結局かなりの量を食べてしまった。

 

 食後に再びグルメ細胞が反応する。

 やはり食べることは強化につながる。

 

 ただし、美味いからといって食いすぎると普通に動きが鈍るから腹八分目を心掛けよう。

 

 グルメ細胞に腹八分目の概念があるかは不明だが、そこは考えないことにした。

 

 

 翌朝。

 

 朝食には昨日残しておいたガララワニのスープと鍋で炊いた米を使った雑炊と、沼ヘビの白焼きを食べる。

 

 もはや説明は不要だろう。大変美味でございました。

 

 さて、バロン諸島での目的は一応は達した訳だ。

 ガララワニの戦闘力確認、捕獲、そして賞味。

 結果だけ見れば成功だ。

 

 しかし、反省点も多い。

 

 特に沼地へ足を踏み入れた瞬間に襲われたことと、咄嗟にバギクロスを使って肉を飛び散らせたことの二点が酷かった。

 

 やはり猛獣相手の戦闘経験がまだ浅いせいで警戒や予想が甘過ぎるし、咄嗟の判断も荒いと言わざるを得ない。

 

 通じる力は持っているのに使い手が未熟すぎてこれでは宝の持ち腐れでしかない。これが捕獲レベル数十の猛獣か相手なら、同じミスが命取りになる可能性もある。

 

 しかし、それらは実地経験を積むしか改善方法はない気もする。やっぱ原作の流れを踏襲するのは正解ということだろう。

 

 反省もほどほどにして、最後にバロン諸島を軽く探索した。

 

 残念ながら食材として面白そうなものは見つからなかった。

 いやまぁガララワニと沼ヘビだけでも十分なのだが。

 

 昼になる前に透明な料理処として活動している街、ダイニーへ戻る。

 

 休業看板を片付け、屋台を展開して透明の料理処の営業を再開する。

 とは言え次の遠征も決まっている為、大掛かりな持ち込み調理は受けず、今回は限定メニューだけを出す。内容はガララワニの各部位の炭火焼きステーキ、ガララワニの骨出汁スープ、そして沼ヘビの蒲焼き丼だ。

 

 看板を書き換えた瞬間、常連たちが席に座る。星降り鮎の時ほどの騒ぎにはならない。しかし、原作でも有名とされていたバロン諸島の食材。ガララワニと聞いて動く美食屋や商人はそれなりに多い。…今思えば捕獲レベル5の肉をIGOの会談で出すって中々では?いやめっちゃ美味いんだけどさ。

 

 それをみて調理、配膳を始めると、すぐに人だかりができた。

 ガララワニの肉が焼ける匂いは分かりやすく旨みが伝わる。脂が落ち、煙が立つ。塩だけ、なんなら味付けも何もないそのまま焼いた肉が皿へ乗る。横には骨出汁スープの入った椀。最後に沼ヘビの蒲焼き丼。希望者には空飛び昆布の出汁を付けてひつまぶし風にするサービスも行う。

 

 最初に提供したのは常連客である美食屋。

 

 ガララワニのステーキへ迷わず噛み付く。次の瞬間に目を細め、黙って咀嚼を続けた。派手な反応はない。だが食べる速度がすべてを物語っている。肉を飲み込むと椀を取り、骨出汁を啜る。そこで一度息を吐いた。

 

 肉で興奮した胃袋をスープで落ち着かせる。

 

 次に沼ヘビの蒲焼き丼。

 一口食べた客が丼を二度見した次の瞬間、箸の動きが早くなった。

 

 その日の営業はいつもより短めで終わった。

 

 追加を望む声は多いが多めに仕込んだ料理が無くなってしまったのだから納得して貰うしかない。

 

 なごり惜しまれつつも店を閉め、四次元マンションへ戻る。

 

 食堂に座り、今日の売上を整理した。

 さすがに星降り鮎の時程ではないが、屋台とは思えない額は言っている。

 

 さて、路銀も稼げた事だし用意をしよう。

 

 次に行く場所は決まっている。

 

 砂浜の洞窟でフグ鯨だ。

 捕獲レベルは29。

 

 実際はその前に虹の実が入るのだが、あれはIGOが管理するビオトープ内での話であり、顔が利くトリコだから入れた場所だ。…星降り鮎の保護や食材の保全についてちょっと提供すれば入れる気がしなくもないが、ワインとして出回ってる位だし金さえ積めば手に入れるのも難しくないと判断して今回は省略する。戦闘経験もトロルコングとその統括個体であるシルバーバック位だし、確か食べられないと明言されてた気がするからそこでもあまり気が乗らない。

  

 と、話を戻そう。

 

 フグ鯨は毒化個体や一部だけの処理はすでに経験済みだが、自分で捕獲したことは当然ない。最難関である毒袋の処理は自動料理があるから心配しなくて良い。

 捕獲自体もラリホーで恐らくいける筈…。最悪を考えてデリケートタイプのノッキングガンを買っておこう。

 

 なんてつらつらと捕獲方法を書いたものの、恐らく今回は捕獲はできないだろう。理由は以前にも言った気がするが時期が合わないからだ。

 

 とはいえ、捕獲場所の環境まで含めて体験する価値は大いにある。マーキングをしておく事で次回の時期が来た時にスムーズに捕獲までできるようになるだろうしな。それにフグ鯨が居なくとも普段人の手が入らない場所だし他にも珍しいグルメ食材はあるだろう。

 

 そこに美味いものがある限り、自分の足が止まることはないのだ。

 




毎度の事ながら小説に盛り込めなかった設定を一つ…。
主人公の自動料理は発動した食材のポテンシャルを最大限引き出した料理が自動で作成されるチート能力なのですが、できないことも存在します。それはセンチュリースープやグルメ恵方巻きのような、複数の食材を組み合わせる料理は作成できないということです。
メインとなる食材を調理する能力なのでセンチュリースープの具材を全て揃えてもそれぞれを最大限美味しくする調理になってしまうので一つの料理として調和させるのは難しい…みたいな感じです。

それでは次話でまたお会いできることを願っております!
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