【宇宙世紀】ジオン残党だけど火星で第二帝国を作る羽目になった件【スターウォーズ概念クロス】   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

10 / 16
氷土の監視網【U.C.0090】

宇宙世紀0090年。

 

レジオンは勝った。

 

火星の地表は、アリシア・ザビ総帥のものになった。

ジオンマーズは地下へ逃げた。

ガンダムTR-6[インレ]は空を押さえ、レジオンの飛行禁止令は火星全土に敷かれた。

 

地表から見れば、完璧な勝利である。

 

だが、地下の監視室で働く末端兵士から見れば、話はかなり違った。

 

「辞めたい」

 

第4氷下監視コンテナ。

 

火星地下数百メートルに設置された、狭くて寒くて空気が悪くて、しかも上司からの通信だけはやたら鮮明に届く監視室で、レジオン監視官ロメロは、今日も心からそうつぶやいた。

 

隣のオペレーターが、モニターから目を離さずに言う。

 

「昨日も言ってましたよ」

 

「昨日より今日のほうが辞めたい」

 

「明日は?」

 

「もっと辞めたい」

 

「順調ですね」

 

「何がだ」

 

ロメロは元ティターンズ兵だった。

 

地球圏にいた頃は、黒い制服を着て、それなりに胸を張っていた。

ティターンズはエリートだ。

地球圏の秩序を守る。

スペースノイドの反乱を抑える。

自分たちは連邦の剣であり盾である。

 

そう思っていた時期が、彼にもあった。

 

それが今では、火星の地下でジオン残党にウサギ耳付き防寒作業服を着せる仕事をしている。

 

人生はどこで間違えるかわからない。

 

「なあ」

 

ロメロは隣のオペレーターに聞いた。

 

「俺たち、帝国軍の看守みたいになってないか?」

 

「看守ではありますね」

 

「いや、そういう意味じゃなくて。ほら、銀河帝国の強制労働惑星で、囚人を見張ってる下級兵士みたいな」

 

「だいたい合ってます」

 

「合ってるのかよ」

 

「強制労働、監視網、反乱分子、巨大兵器、総督府。要素はそろってます」

 

「やめろ。自覚すると心が壊れる」

 

ロメロの目の前には、監視モニターが並んでいる。

 

第3地下パイプライン建設区画。

第7氷床採掘現場。

旧ジオンマーズ補給トンネル。

レジオン再教育作業所。

地下輸送路。

廃坑道。

廃坑道。

また廃坑道。

 

火星の地下は、無駄に広い。

 

移民初期の都市施設。

古い鉱山。

ジオンマーズ時代の地下工廠。

使われなくなった資源プラント。

誰が掘ったのかよくわからない謎の横穴。

 

そのすべてに、ジオンマーズの残党が潜り込む可能性があった。

 

「なぜスペースノイドは地下に潜るんだ」

 

ロメロはぼやいた。

 

「宇宙に出たり地下に潜ったり、忙しすぎるだろう」

 

「地表にいるとインレに撃たれますから」

 

「それは我々が撃つ側だからいいんだよ」

 

「撃たれる側は嫌でしょうね」

 

「正論を言うな。監視業務が重くなる」

 

モニターの一つに、強制労働区画の映像が映っている。

 

そこでは、旧ジオンマーズの兵士たちが、パイプラインの修理作業をしていた。

 

全員、レジオン指定の防寒作業服を着ている。

 

灰色の厚手の服。

胸元にはレジオンの紋章。

背中にはウサギマーク。

そしてフードには、ぴょこんと立つウサギ耳。

 

ロメロは、その映像を見るたびに、なんとも言えない気持ちになる。

 

「なあ」

 

「はい」

 

「あの作業服、必要か?」

 

「防寒服は必要です」

 

「ウサギ耳は」

 

「総帥府の指示です」

 

「つまり必要ないんだな」

 

「政治的には必要です」

 

「一番嫌な必要性だ」

 

音声モニターから、労働中のジオンマーズ兵の愚痴が拾われていた。

 

『俺は一年戦争でソロモンから撤退した男だぞ……。なんで火星の地下でウサギ耳を付けてパイプを磨いているんだ……』

 

『黙って作業しろ。耳を外したら配給が半分になる』

 

『ジオン公国軍人としての尊厳はどうなる』

 

『尊厳は昨日の夕食と一緒に配給終了だ』

 

ロメロは思わず目をそらした。

 

「つらい」

 

オペレーターが言う。

 

「監視してるこっちもつらいですよね」

 

「違う。あいつらの気持ちがちょっとわかるのがつらい」

 

ロメロたちレジオン側の元ティターンズ兵も、決して楽ではなかった。

 

レジオンは勝った。

地表を支配した。

インレを持っている。

アリシア総帥は火星の新しい支配者になった。

 

だが、勝った側の末端に楽が回ってくるとは限らない。

 

むしろ仕事は増えた。

 

地下労働区画の監視。

ジオンマーズ残党の摘発。

資源プラントの警備。

防衛サテライトとの連携。

インレの整備時に発生する飛行禁止令の穴の補正。

総帥府からの突然の視察対応。

ウサギ耳作業服の着用率報告。

 

最後の仕事が一番意味不明だった。

 

「監視官」

 

オペレーターが言った。

 

「第7採掘現場、ウサギ耳着用率94パーセントです」

 

「6パーセントは?」

 

「耳部分をヘルメット内に折り込んでいます」

 

「反抗的だな」

 

「ただ、作業効率は折り込んだほうが高いです」

 

「報告書には?」

 

「着用状態に軽微な乱れあり、作業効率維持のため現場判断で経過観察、と書きます」

 

「お前、レジオンより官僚に向いてるな」

 

「元連邦軍ですから」

 

ロメロは頭を抱えた。

 

共和国が帝国へ変わっていく時、たぶん一番しぶとく生き残るのは官僚である。

 

その時、別のモニターに黄色い警告が出た。

 

第3地下プラント。

電圧変動。

コンマ02パーセント低下。

 

ロメロは一気に顔を上げた。

 

「またか」

 

オペレーターが素早く入力する。

 

「第3地下プラントで微弱な電力低下。通常作業では説明困難です」

 

「ドローンを回せ」

 

「了解。偵察ドローン6号、7号を投入します」

 

監視映像が切り替わる。

 

火星の地下坑道。

薄暗いトンネル。

古い配管。

結露した壁。

そこを、小型ドローンが進んでいく。

 

ロメロは画面を睨んだ。

 

「ジオンマーズの連中だ。絶対に何かやっている」

 

「ただの漏電では」

 

「ただの漏電なら火星では日常だ。警告が出る前に誰かが祈って終わりだ。コンマ02パーセントだけ綺麗に抜かれるのは、誰かが何かを隠している時だ」

 

ドローンの映像が、放棄された倉庫区画へ入る。

 

そこには、掘削機材が並んでいた。

 

少なくとも、書類上は掘削機材である。

 

だがロメロは、映像を見た瞬間に顔をしかめた。

 

「止めろ。拡大」

 

映像が拡大される。

 

大型掘削脚部ユニット。

そう書かれた札が貼ってある。

 

だが、その形状はどう見ても掘削機ではなかった。

 

太い脚部。

大型の熱核ジェット系ユニット。

妙に見覚えのあるスカートアーマー構造。

そして、配管の陰に少しだけ見えている、丸みのある装甲。

 

ロメロは低く言った。

 

「RFドムの脚だな」

 

オペレーターが顔を引きつらせる。

 

「地下に隠していたんですか」

 

「隠していたんだろうな」

 

「飛行禁止令でホバー走行できないのに?」

 

「だから隠しているんだ。禁止されると、余計にやりたくなるのがジオンだ」

 

画面の中で、ドローンがさらに奥へ進む。

 

倉庫の壁には、手書きの文字があった。

 

ウサギ耳を許すな。

地表を返せ。

モノアイは死なず。

輝ける星作戦。

 

ロメロは椅子にもたれた。

 

「輝ける星作戦」

 

「何ですか、それ」

 

「知らん」

 

「知らないのに嫌な予感がしますね」

 

「こういう手書きスローガンは、だいたいろくでもない作戦の前兆だ」

 

ロメロは、宇宙世紀における残党組織の特徴をよく知っている。

 

物資がなくなる。

人員が減る。

補給が切れる。

すると、なぜかスローガンが増える。

 

そしてスローガンが増えた組織は、だいたい何かしらの突撃を始める。

 

「監視官、威力偵察を出しますか」

 

「待て」

 

ロメロは即答した。

 

「下手に突っつくな」

 

「ですが」

 

「あの区画の近くには地表居住区の熱供給ラインが通っている。もしジオンマーズの残党が自爆でもしたら、総帥府の温水設備が止まる」

 

オペレーターの顔色が変わった。

 

「それはまずいです」

 

「まずいなんてもんじゃない」

 

ロメロは真顔で言った。

 

「アリシア総帥のお風呂が冷えたら、俺たちの命も冷える」

 

誰も笑わなかった。

 

冗談ではなかったからである。

 

アリシア・ザビ総帥は、火星の支配者だった。

 

ザビ家の後継を名乗る少女。

元ティターンズ残党を従える総帥。

レジオンの象徴。

インレの主。

火星地表の女王。

 

そして、とても機嫌が難しい。

 

総帥府からの通信が入るだけで、監視室の空気は凍る。

内容が業務連絡でも凍る。

映像付きだとさらに凍る。

 

ロメロの脳内で、アリシアの声が勝手に再生された。

 

『第4監視区画の皆さん。私の楽園の床暖房が止まった理由を、三十秒以内に説明できますか? できない場合は、あなたたちをインレの外装磨き担当にします。宇宙服なしで』

 

ロメロは震えた。

 

「泳がせる」

 

「泳がせるんですか?」

 

「泳がせる。ただし、監視密度を上げる。ドローンは三倍。音声拾収も強化。熱源の変動は全部記録しろ。ネズミ一匹、いや、ザクのボルト一本でも見逃すな」

 

「了解」

 

オペレーターが端末を叩く。

 

ロメロは、モニターに映るRFドムらしき脚部を見つめた。

 

ジオンマーズは負けた。

地表を奪われた。

父親世代の指導者も、多くの戦力も失った。

地下で強制労働をさせられ、ウサギ耳を被せられている。

 

普通なら折れる。

 

だが、ジオン残党は普通ではない。

 

デラーズ・フリートもそうだった。

アクシズもそうだった。

火星に逃げたチェスターたちもそうだった。

 

負けるたびに、むしろ面倒になって帰ってくる。

 

銀河帝国の残党が、デス・スターを失ってもまた別の巨大兵器を作りたがるように。

反乱軍が基地を潰されても、また別の氷の惑星に潜むように。

 

残党というものは、消えたように見えて、地下で煮詰まる。

 

「監視官」

 

オペレーターが言った。

 

「ドローン8号が別の反応を発見しました。旧ジオンマーズ補給トンネル奥、熱源小。複数」

 

「映せ」

 

画面が切り替わる。

 

そこには数人の旧ジオンマーズ兵がいた。

 

ウサギ耳付き防寒服を着ている。

だが、フードの耳部分にはジオンのマークが油性ペンで描かれていた。

 

一人が小声で言う。

 

『耳に魂を入れれば、それはもはやウサギではない。ジオンの角だ』

 

別の一人がうなずく。

 

『そうだ。これは屈辱ではない。新たなるスパイクアーマーだ』

 

ロメロは無言になった。

 

オペレーターも無言になった。

 

しばらくして、ロメロが言った。

 

「報告書には書くな」

 

「なぜですか」

 

「総帥府が知ったら、もっと変なデザインを公式採用する」

 

「それは困りますね」

 

「困る」

 

ロメロは、深くため息をついた。

 

レジオンは勝った。

だが、統治は勝利よりずっと面倒だった。

 

地表を支配するには、地下を働かせなければならない。

地下を働かせるには、完全に潰してはいけない。

だが、潰さなければ反乱の芽が残る。

反乱の芽を摘もうと監視を強めれば、ますます恨まれる。

恨まれると、もっと地下に潜られる。

 

完璧な帝国などない。

 

デス・スターがどれほど巨大でも、小さな排熱口は残る。

インレが火星の空を支配しても、地下の排水タービンの影までは見通せない。

総帥府がどれほどきらびやかでも、床暖房の熱は地下の労働者から来る。

 

レジオンの支配は、実はかなり繊細な綱渡りだった。

 

「地球圏では」

 

オペレーターがつぶやいた。

 

「シャア・アズナブルがまた動き出しているらしいですね」

 

「らしいな」

 

ロメロは興味なさそうに答えた。

 

「アクシズをどうこうするとか」

 

「地球圏は相変わらず派手だな」

 

「それに比べて、我々は火星地下でウサギ耳の着用率監視ですか」

 

「比べるな。心が死ぬ」

 

ロメロはヘルメットを外した。

 

そこには、小さなレジオン公式ウサギマークが貼られている。

 

彼はそれを見て、またため息をついた。

 

「俺は何になりたかったんだろうな」

 

「ティターンズのエリートでは?」

 

「昔の話だ」

 

「今は?」

 

「地下の看守だ」

 

「正確には、地下強制労働区画の治安維持および監視網運用担当です」

 

「言い換えてもつらいだけだ」

 

その時、監視システムに新しい警告が出た。

 

未承認通信波。

微弱。

暗号化。

発信源不明。

複数区画へ拡散。

 

ロメロの表情が変わる。

 

「来たな」

 

「ジオンマーズですか」

 

「たぶんな」

 

「内容は?」

 

「解析しろ」

 

オペレーターが急いで処理する。

 

数秒後、断片的な単語が表示された。

 

輝ける星。

地表奪還。

インレ。

整備周期。

監視網の穴。

チェスターJr.

 

ロメロは目を閉じた。

 

「やっぱりか」

 

「反乱ですか」

 

「反乱の準備だ」

 

「どうします」

 

ロメロは少し考えた。

 

すぐに総帥府へ報告すれば、アリシアは怒る。

大規模掃討を命じるだろう。

地下区画は荒れる。

インフラは止まる。

火星地表の統治にも影響が出る。

その責任は、最初に報告した第4監視区画にも少なからず降ってくる。

 

報告しなければ、反乱は進む。

後で発覚すれば、もっと怒られる。

 

どちらも嫌だった。

 

帝国の下級兵士とは、常にこういう立場である。

上は巨大兵器と玉座を語る。

下は、どのタイミングで報告すれば自分の首が飛ばないかを考える。

 

「監視レベルを上げる」

 

ロメロは言った。

 

「総帥府への報告は?」

 

「一次報告だけ出す。詳細は解析中とする」

 

「時間稼ぎですね」

 

「そうだ」

 

「暗黒面っぽい判断です」

 

「生存戦略だ」

 

ロメロは、モニターの中の地下坑道を見つめた。

 

そこには、見えない火種がある。

ジオンマーズの残党が、屈辱と寒さとウサギ耳への恨みを燃料にして、何かを始めようとしている。

 

一方で、レジオンは地表を支配したことで、逆に地下に縛られている。

インレを持っている。

飛行禁止令もある。

監視網もある。

だが、全部を完全には見られない。

 

完璧な支配など、存在しない。

 

火星の氷の下で、反乱の音が小さく響き始めていた。

 

ロメロは冷めた合成コーヒーを飲み、顔をしかめた。

 

「まずい」

 

オペレーターが聞いた。

 

「コーヒーですか」

 

「いや、全部だ」

 

彼らの上には、レジオンの地表都市がある。

さらにその上には、インレがいる。

その下には、ジオンマーズの残党がいる。

そしてその間に挟まれているのが、自分たち末端監視官である。

 

一番割に合わない場所だった。

 

宇宙世紀0090年。

 

レジオンは火星の地表を支配した。

ジオンマーズは氷の下へ潜った。

アリシア・ザビは女の楽園を夢見た。

チェスターJr.は奪われた地表の奪還を誓った。

 

そしてその狭間で、名もない監視官たちは、今日もモニターを睨み続ける。

 

帝国の支配は、巨大兵器だけでは維持できない。

それを支えるのは、疲れた下級兵士と、終わらない報告書と、胃に悪い監視業務である。

 

フォースは存在しない。

 

だが、嫌な予感は今日も警告音より正確だった。

 

第4氷下監視コンテナのモニターの端で、小さな赤い光点が一つ、また一つと増えていく。

 

反乱は、まだ始まっていない。

 

だが、火種はもう見えていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。