機動戦士ガンダム ギレン、ハマーン、シャアの次なる答え――ジオンの最高頭脳、サナリィの最新ガンダムで宇宙世紀を総決算する   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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氷土の監視網【U.C.0090】

宇宙世紀0090年。我々地球連邦軍……からドロップアウトして、今や火星の支配者となった急進的組織「レジオン」の末端構成員にとって、この赤茶けた極寒の惑星は「最高に胃に悪い職場」以外の何物でもなかった。

 

少し前まで地表で我が物顔をしていた先住ジオン残党こと「ジオンマーズ」どもは、我がレジオンが誇る戦略ド級決戦兵器ガンダムTR-6[インレ]の圧倒的な火力の前に完全敗北。地表の支配権はアリシア・ザビ総帥のものとなり、完璧な「飛行禁止令」が敷かれた。

ここまではいい。勝ったのだから大万歳だ。地球圏でエゥーゴにボコボコにされて居場所を失った元ティターンズの負け組軍人たちにとって、新たな「楽園」が完成したはずだった。

 

だが、現実はそう甘くない。

敗れ去ったジオンマーズの往生際の悪いおっさんどもは、火星の分厚い氷の下、蟻の巣のように張り巡らされた広大な地下都市やプラントへと逃げ延び、ネズミのように潜伏しやがったのだ。

 

「……はぁ。どいつもこいつも、大人しく歴史の闇に消え失せればいいものを、なぜスペース・ノイドというのはこうも地下に潜りたがるのかねえ」

 

地下数百メートルに位置する、レジオンの第4氷下監視コンテナ。

その薄暗い監視室で、コントロールパネルの前に座るレジオン監視官の男――地球圏ではバスク・オム大佐の引き立て役、あるいはジャミトフ・ハイマン総帥の演説のサクラ程度しか役割のなかった元ティターンズ二等兵は、吐き捨てるようにため息をついた。

 

彼の任務は、この極寒の地下都市全域に張り巡らされた「徹底的な監視システム」のモニターを睨みつけ、従わない先住民(旧ジオンマーズ派)の不穏な動きを察知することだ。

画面には、レジオンの最新鋭監視ドローンが捉えた、地下パイプライン建設現場の映像がリアルタイムで映し出されている。

 

「ほら見ろ。またサボってやがる、あのモノアイ信者どもが」

 

監視官が画面を拡大すると、そこには強制労働に投入されたジオンマーズの元兵士たちが、凍える手でシャベルを握りながら、レジオンが義務付けた「公式作業着」に文句を言っている姿があった。

その作業着こそが、我がレジオンの総帥アリシア・ザビの、最高に尖った趣味が爆発した「可愛いウサギ耳付きフード仕様防寒ギリースーツ」である。

 

ガンダムTR-6[ウーンドウォート]のモチーフであるウサギを神聖視するアリシア総帥の厳命により、この地獄の強制労働現場では、どれだけ筋骨隆々のジオンの強面おっさん兵士であろうとも、頭にぴょこぴょこと揺れるウサギの耳を装着しなければならない。これに従わない者は、その場で明日の合成合成食糧の配給を半分に減らされる。

 

『おい……何が悲しくて、ジオン公国国防大学を首席で卒業したこの俺が、こんなピンクのウサギ耳を付けて氷河を削らなきゃならんのだ……』

『諦めろ、あっちの看守を見てみろよ。元ティターンズのエリートの癖に、もっとでかいウサギマークの付いた盾を持たされて虚無の目をしてるぞ』

 

音声モニターから流れるジオン残党たちの悲痛な愚痴を聞きながら、監視官は胃のあたりを摩った。

(お前たちの気持ちは痛いほどよく分かる。俺だって、地球圏にいた頃は「宇宙ノイドの傲慢さを正す正義の精鋭」を気取っていたんだ。それがどうして、火星の地下でジオンのおっさんたちにウサギ耳を被せる公務員になってしまったのか、涙なしには語れんよ!)

 

しかも、この監視業務は精神的ストレスが尋常ではない。

アリシア総帥が掲げる「女の楽園」という表向きの美しい理想を維持するため、この地下の抑圧の構図は「絶対に地表の一般市民にバレてはならない」という超一級機密扱いなのだ。

 

もし、監視漏れがあって地下のジオンマーズ残党が反乱の狼煙を少しでも上げようものなら、地表からアリシア総帥の怒りの通信が直接飛んでくる。

 

「もしもし、第4監視区画の無能な下僕さん? 私の可愛いウサギたちの視界(監視網)に、なんか薄汚い緑色のモノアイの残像が映ったような気がするのですけれど? もし私の勘違いじゃなかったら、あなたを今すぐインレの主砲の射線上に縛り付けて、大気圏突入の摩擦熱で綺麗に洗って差し上げますわよ?」

 

脳内で勝手に再生されるアリシア総帥のロイヤルサイコな脅し文句に、監視官はガタガタと震えた。あのお嬢様は冗談抜きでそれをやる。地球圏のパプテマス・シロッコだって、もう少し部下のマネジメントに関して論理的だった。火星の独裁者は、ティターンズの残虐性とザビ家の我儘さをハイブリッドで受け継いだ最強のワガママ女王様なのだ。

 

「監視官! 第3地下プラントのエネルギー伝導率に、コンマ02パーセントの異常な電圧低下を感知しました!」

隣の席のオペレーターが、悲鳴のような声を上げた。

 

「何だと!? すぐにドローンを回せ! またあのモグラどもが、旧式の『ザクII』のジェネレーターでも繋いで、地下でこっそり密造酒でも作ってやがるんじゃないか!?」

 

監視官は血相を変えて画面を切り替えた。

かつて一年戦争時代、サイド3の地下街で隠れてガンプラでも作っていたかのような手際の良さで、ジオンマーズの技術者どもはレジオンの監視網の目を盗み、信じられない執念で「独自の軍事資産」を隠匿し続けている。

前回の戦闘で地表を追われたはずなのに、彼らの「モノアイMSに対する異常な執着」は衰えるどころか、地下の暗闇でさらに異常な方向へと進化していた。

 

画面に映し出されたのは、放棄されたはずの地下坑道の奥深く。

そこには、レジオンの監視を欺くために「ただの大型掘削重機です」という偽装書類が貼られた、どう見ても『ドム』の脚部パーツとおぼしき巨大な熱源が鎮座していた。

 

「……おい、あれを見ろ。あの脚、どう見ても重モビルスーツの推進スタビライザーだろ。しかも、ホバー走行用の熱核ジェットの出力を、地下の排水タービンの騒音に同期させてカモフラージュしてやがる」

 

「あ、悪質すぎる……! 一体どれだけレジオンに嫌がらせをすれば気が済むんだ、あのジオンの生ゴミどもは!」

 

オペレーターが憤慨するが、監視官の冷や汗は止まらない。

彼らがこれほどまでのリスクを冒して、地下で兵力を温存している理由。それはただ一つ。レジオンの絶対的な象徴である「ガンダムTR-6[インレ]」を、地表から引きずり下ろすための「反抗作戦」の準備に他ならない。

 

ドナルド・レザードとかいう、元ティターンズのくせにジオンマーズの参謀をやっていたあの計算高い男が、レジオンの総攻撃のドサクサに紛れて回収していったデータ。そして、未だに地下で不気味な沈黙を保っているチェスターJr.ら、ジオンマーズ残党の主力。彼らが狙っているのは、レジオンの統制が最も緩む瞬間――すなわち、インレの定期メンテナンスによる「飛行禁止令の一時的なエアポケット」だ。

 

「監視官、どうしますか? 今すぐこの区画に、我が方の『キハールII』の威力偵察部隊を突入させますか?」

 

「バカ言え! 下手に突っついて、地下都市丸ごと爆破でもされたらどうする! この区画のパイプラインが止まれば、地表の『女の楽園』の床暖房が止まるんだぞ! そうなったらアリシア総帥のお肌が荒れて、俺たちの首が物理的に飛ぶ!」

 

監視官は慌ててそれを制止した。

これこそが、レジオンが完成させてしまった「完璧な抑圧の構図」の致命的な弱点だった。

表向きの華やかな独裁国家を維持するためには、地下の先住民たちの強制労働によるインフラ供給が絶対に不可欠。つまり、生かさず殺さず、かつ反乱を起こさせないという、極めて繊細な薄氷の上のバランスを綱渡りしている状態なのだ。

 

「……泳がせろ。ただし、監視カメラの密度を今の三倍にしろ。ネズミ一匹、ウサギ耳を付けずに通すな」

 

監視官は、冷え切った合成コーヒーを一気に飲み干し、画面上の「ジオンマーズ残党」という名の赤黒い光点を見つめた。

彼らの心の中にあるのは、地球圏への恨みでも、ジオンの再興でもない。ただ自分たちの開拓した大地を横取りし、ウサギ耳の帽子を強制してきたレジオンに対する、泥臭くも強烈な「意地」と「殺意」だ。

 

「まったく……地球圏ではネオ・ジオンのシャア・アズナブルが復活したとかいう噂で持ちきりだってのに、なんで俺たちは、こんな宇宙の僻地で、ガンダムのコスプレ少女と、ザクの幽霊どもの意地の張り合いに付き合わされてるんだか……」

 

監視官は、自分のヘルメットに貼られた、レジオン公式の「可愛いウサギのマーキング」を指でなぞりながら、心底から呪わしい自らの運命を呪った。

 

宇宙世紀0090年。ガンダムTR-6[インレ]の圧倒的な武力によって、火星の地表にはレジオンの「女の楽園」という偽りの平和が完成した。しかし、その輝かしい氷土のすぐ下では、徹底的な監視システムと、それに抗うジオンマーズの執念が火花を散らす、宇宙世紀史上最も不毛で、最もギスギスした「抑圧の構図」が、音を立てて崩壊のカウントダウンを始めていたのである。

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