【宇宙世紀】ジオン残党だけど火星で第二帝国を作る羽目になった件【スターウォーズ概念クロス】   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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輝ける星作戦【U.C.0091】

宇宙世紀0091年。

 

火星の氷の下で、ジオンマーズは煮詰まっていた。

 

煮詰まる、という表現は正しい。

 

彼らは負けた。

地表を奪われた。

火星の空はレジオンのインレに押さえられた。

かつての工廠もプラントも接収された。

そして生き残った者たちは、氷床下の地下区画で働かされている。

 

ここまでは、まだ戦争に負けた勢力として理解できる。

 

問題は、その作業服だった。

 

レジオン指定防寒作業服。

灰色。

分厚い。

防寒性能は悪くない。

胸にはレジオンの紋章。

背中にはウサギマーク。

そしてフードには、ぴょこんと立つウサギ耳。

 

ジオンマーズの兵士たちは、これを着せられた。

 

一年戦争を生き延びた古参も。

アクシズから火星へ来た残党も。

RFザクの整備兵も。

RFドムのパイロットも。

全員である。

 

尊厳というものは、意外と布一枚で削れる。

 

いや、耳二本で削れる。

 

「野郎ども」

 

地下第6秘匿ドック。

 

かつては資源搬送用の倉庫だった場所で、ハンスは低い声で言った。

 

彼はジオンマーズ残党の前線指揮官である。

髭面。

声が大きい。

根性論が好き。

髪型だけは、なぜかガトーに寄せている。

 

ただし、本人の戦術理解はガトーよりだいぶ粗い。

 

「今日まで、よく耐えた」

 

ハンスの前には、地下に潜伏していたジオンマーズの兵士たちが並んでいる。

 

全員、くたびれている。

全員、目が血走っている。

そして何人かは、レジオン作業服のウサギ耳部分を切り落として、代わりにジオンのマークを縫い付けていた。

 

怖い。

 

追い詰められた残党の創意工夫は、だいたい怖い。

 

「我々は屈辱に耐えた。氷を掘らされ、配管を直させられ、レジオンの看守どもに見張られ、あげくの果てに妙なウサギ耳まで被らされた」

 

兵士たちの顔が険しくなる。

 

「だが、それも今日で終わりだ」

 

ハンスは拳を握りしめた。

 

「奪われた地表を取り戻す。火星の空に浮かぶあの白いウサギのバケモノを引きずり下ろす。そしてアリシア・ザビに、火星のジオンを怒らせたらどうなるか思い知らせる」

 

地下ドックが静まり返る。

 

次の瞬間、誰かが叫んだ。

 

「ジーク・ジオン!」

 

「ジーク・ジオン!」

 

声が広がる。

 

それは美しい決起ではない。

かなり泥臭い。

かなり私怨が混じっている。

というか、半分くらいはウサギ耳への怒りでできている。

 

だが、反乱とはだいたいそういうものだ。

 

大義だけで人は動かない。

理念だけでも動かない。

屈辱。

空腹。

寒さ。

作業服。

奪われた故郷。

そういう細かい怒りが積もり積もって、最後に爆発する。

 

スターウォーズで言えば、帝国の強制労働施設で長年耐えた囚人たちが、ある日いきなり看守の銃を奪って暴れ始めるようなものだった。

 

英雄的ではある。

だが、実態はかなり切実である。

 

「作戦名を発表する」

 

ハンスが言った。

 

「我々の反抗作戦の名は、輝ける星作戦だ!」

 

しばし沈黙。

 

若いオペレーターが、小声で隣に言った。

 

「ちょっと恥ずかしくないですか」

 

隣の整備兵が答える。

 

「ジオンの作戦名はだいたい恥ずかしい。慣れろ」

 

「星の屑作戦よりは前向きですかね」

 

「比べるな。縁起が悪い」

 

ハンスは聞こえなかったふりをした。

 

「作戦の第一段階は成功している」

 

彼は背後を指差した。

 

巨大な隔壁が開く。

 

その奥に、影があった。

 

白くない。

少なくとも、もう白くはなかった。

 

そこに鎮座していたのは、レジオンの絶対的象徴であり、火星の空を支配していた巨大決戦兵器。

 

ガンダムTR-6[インレ]。

 

ただし、ジオンマーズ仕様である。

 

全身は濃い緑に塗られていた。

各所にジオンのエンブレムが描かれている。

ウサギマークは雑に塗りつぶされ、その上からモノアイの意匠が付け足されている。

顔面部分には、本当にどうかと思うほど無理やり取り付けられた大型モノアイセンサーが赤く光っていた。

 

巨大なウサギが、ジオンの亡霊に取り憑かれたような姿だった。

 

技術的には不安。

美的には問題。

精神的には威圧感がある。

 

「見ろ!」

 

ハンスは高らかに叫んだ。

 

「これが我々の新たな切り札。インレ、ジオンマーズ仕様だ!」

 

地下ドックに歓声が上がった。

 

一方、技術班は泣きそうな顔をしていた。

 

「隊長」

 

若いメカニックのカールが、片手を上げた。

 

「何だ」

 

「これ、塗装と外装偽装は終わりましたが、制御系はまだレジオン仕様です」

 

「だから何だ」

 

「操縦インターフェース、T3部隊由来の独自系統です。サイコミュ補助もエレニズム系の制御が残っています。正規マニュアルがないので、完全制御は無理です」

 

「気合で動かす」

 

「気合で動かないからマニュアルがあるんです」

 

「ジオンの兵器は気合で動く」

 

「これは元ガンダムです」

 

沈黙。

 

ハンスは胸を張った。

 

「今日からジオンの兵器だ」

 

「機体側が納得していません」

 

「説得しろ」

 

「機械に政治思想を説得するのは整備の範囲外です」

 

地下ドックの空気が少し不安になる。

 

だが、ハンスは止まらない。

 

止まれない、と言うべきかもしれない。

 

インレは奪った。

地下工作班が、レジオンのメンテナンス周期を突き、監視網の穴を使って、機体の一部制御系を乗っ取った。

完全ではない。

かなり危ない。

だが、火星の地表へ出るための切り札にはなる。

 

たぶん。

 

「カール」

 

チェスターJr.が声をかけた。

 

彼はハンスの横に立っていた。

 

まだ若い。

顔には疲労がある。

だが目の奥には、暗い火が灯っている。

 

父チェスターの遺産を背負い、地表を奪われ、地下へ追われ、インレへの復讐を誓った若者である。

 

「成功率は」

 

カールは嫌そうな顔をした。

 

「普通に言えば低いです」

 

「ジオン的に言えば」

 

「根性で五割」

 

「十分だ」

 

「十分じゃないです」

 

「地表を奪われたまま、ここで芋を数えて死ぬよりはいい」

 

カールは黙った。

 

反論できなかった。

 

ジオンマーズはすでに追い詰められている。

このまま地下で隠れていても、少しずつ削られるだけだ。

物資は減る。

人心は荒む。

レジオンの監視網は厳しくなる。

 

どこかで賭けに出るしかなかった。

 

「全軍に通達」

 

チェスターJr.は言った。

 

「本日、ジオンマーズは火星の地表を奪還する。インレを使い、飛行禁止令を破り、レジオン総帥府へ直接打撃を加える」

 

兵士たちの目が光る。

 

「ただし、忘れるな。これは父たちの復讐だけではない。ウサギ耳の恨みだけでもない」

 

ハンスが小声で言う。

 

「いや、それはかなりあります」

 

チェスターJr.は一瞬だけ黙った。

 

「それもある」

 

認めた。

 

「だが、それだけではない。我々は火星に生きる者だ。アクシズでも、地球圏でも、レジオンでもない。火星のジオンだ。地表を奪われたままでは、その名は終わる」

 

地下ドックが静かになる。

 

「だから、取り戻す」

 

短い言葉だった。

 

だが、兵士たちはうなずいた。

 

ハンスの怒号よりも、こちらのほうが効いた者もいた。

 

作戦は始まった。

 

まず、地下各所で小規模な停電が起こった。

 

レジオン監視網は、それをただの設備不良として処理した。

火星の地下では、停電は珍しくない。

むしろ日常である。

 

次に、複数のパイプラインで圧力異常が発生した。

 

これも、初動では重大視されなかった。

ジオンマーズの旧施設は古い。

配管はすぐ拗ねる。

レジオンの監視官たちは、またか、と思っただけだった。

 

そして三つ目。

 

第4氷下監視コンテナのモニターに、全区画同時通信が割り込んだ。

 

画面に映ったのは、ハンスの髭面だった。

 

『聞こえるか、レジオンの看守ども!』

 

監視室のロメロは、コーヒーを吹き出した。

 

「出た!」

 

『本日をもって、我々ジオンマーズはウサギ耳付き作業服からの完全独立を宣言する!』

 

ロメロは頭を抱えた。

 

「そこか! 最初に言うのそこか!」

 

だが、通信は続く。

 

『そして、奪われた地表を取り戻す! 輝ける星作戦、開始だ!』

 

その直後、火星の氷床が割れた。

 

地下深くで、積み重ねられていた爆薬が一斉に起爆する。

隠されていた縦坑が開く。

放棄されたはずの搬送レールが動き出す。

地下に隠されたRFザク、RFドム、RFゲルググが、次々に地表へ向けて突き上がっていく。

 

それは美しい進軍ではなかった。

 

どちらかと言えば、倉庫から一斉に飛び出した怒れる古い機械の群れである。

 

ザクのモノアイが赤く光る。

ドムの脚部が無理やり地面を蹴る。

ゲルググの肩が氷壁に引っかかり、整備兵が半泣きで誘導する。

 

「詰まるな! ゲルググの肩が詰まったぞ!」

 

「だから地下通路の幅を広げろって言ったんだ!」

 

「予算がなかったんだよ!」

 

「アナハイムに払う金はあったくせに!」

 

ジオンマーズらしい、非常に格好悪い混乱の中で、しかし反乱は確かに始まった。

 

そして、最後にインレが動いた。

 

濃緑色に塗られた巨体が、地下ドックから地表へ向かって上昇する。

 

本来なら、荘厳な出撃シーンである。

巨大兵器が立ち上がり、反乱軍の切り札として空へ舞う。

 

だが現実には、いろいろな警告音が鳴っていた。

 

『警告。塗装認識エラー。登録カラーと一致しません』

 

『警告。外部センサーに未承認モノアイパーツを確認』

 

『警告。当機はザクではありません』

 

ハンスがコックピットで怒鳴る。

 

「うるせえ! 今日からザクだ!」

 

『訂正不能』

 

「訂正しろ!」

 

『当機はウーンドウォート系列です』

 

「ジーク・ジオンと三回唱えろ!」

 

『意味不明な政治的発話を検出』

 

カールの声が通信に割り込む。

 

『隊長! システムに喧嘩を売らないでください!』

 

「こいつが先に俺を否定したんだ!」

 

『機械に承認欲求をぶつけないでください!』

 

インレは上昇した。

 

かなり不安定だった。

だが、上昇した。

 

火星の地表に、巨大な緑色の影が現れる。

 

レジオン側は、当然パニックになった。

 

『未確認巨大機、地表へ出現!』

 

『いや、識別はインレです!』

 

『インレは味方だろ!』

 

『色が違います!』

 

『顔も違います!』

 

『ウサギマークが消されています!』

 

『モノアイが付いてます!』

 

『精神的にきつい!』

 

レジオンの通信回線は悲鳴で埋まった。

 

彼らにとって、インレはただの兵器ではない。

レジオンの象徴。

アリシア総帥の力。

火星支配の証。

白いウサギの神輿である。

 

それが緑に塗られ、モノアイを付け、ジオンのエンブレムを背負って現れた。

 

これは軍事的打撃であると同時に、精神攻撃だった。

 

スターウォーズで言えば、帝国のデス・スターが突然反乱軍カラーに塗られ、巨大な反乱同盟マークを掲げて帝国艦隊へ砲を向けるようなものだった。

 

まともな士気ではいられない。

 

『総帥府へ連絡しろ!』

 

『アリシア総帥がすでに激怒しています!』

 

『でしょうね!』

 

総帥府。

 

アリシア・ザビは、巨大スクリーンに映るジオンマーズ仕様インレを見て、しばらく無言だった。

 

無言。

 

完全な無言。

 

そばにいた側近たちは、その沈黙が何より怖かった。

 

やがて、アリシアは低い声で言った。

 

「私のインレに」

 

誰も動かない。

 

「モノアイ」

 

空気が凍る。

 

「緑色」

 

さらに凍る。

 

「ジオンの紋章」

 

側近の一人が小さく震えた。

 

アリシアは立ち上がった。

 

「万死に値します」

 

その声は、火星の氷より冷たかった。

 

地表では、戦闘が始まっていた。

 

ジオンマーズのRF部隊が、レジオン防衛部隊に突撃する。

RFザクが岩陰から飛び出す。

RFドムが、ホバー禁止令を完全に無視して低空を滑る。

RFゲルググがビーム・ナギナタを構える。

 

「飛行禁止令だと? 知るか!」

 

「ホバーは飛行じゃない! ジオンの伝統だ!」

 

「レジオンの連中にドムの気持ちがわかるか!」

 

一方、レジオン側も黙ってはいない。

 

キハールII。

ハイザック系改修機。

バーザム系機体。

TR計画由来の装備をまとった機体が次々に迎撃へ出る。

 

だが、序盤の主導権はジオンマーズにあった。

 

インレを奪われた混乱。

監視網の一時麻痺。

地下からの多点同時蜂起。

そして何より、ウサギマークを塗りつぶされた精神的衝撃。

 

レジオン兵の動きは鈍かった。

 

「効いてるぞ!」

 

ハンスはインレのコックピットで笑った。

 

「見ろ、あいつら、自分たちの白いウサギが緑のモノアイになっただけで腰が引けてやがる!」

 

カールの通信が入る。

 

『隊長、調子に乗らないでください。インレの制御はまだ不安定です』

 

「わかってる!」

 

『本当に?』

 

「たぶん!」

 

『最悪の返事です』

 

その時、インレの主兵装が勝手に動いた。

 

巨大なコンポジット・シールド・ブースターが、ゆっくり旋回する。

 

ハンスは目を見開いた。

 

「おい、誰が撃てと言った」

 

『警告。制御系の競合を確認』

 

カールの声が悲鳴になる。

 

『隊長! サイコミュ補助系が暴走しかけています! ハンス隊長の脳波と機体側の制御信号が喧嘩しています!』

 

「俺の脳波が負けるわけないだろ!」

 

『そういう問題じゃありません!』

 

インレの砲口が光る。

 

次の瞬間、メガ粒子砲が放たれた。

 

凄まじい光が、火星の地表を走る。

 

レジオンの防衛塔が消し飛んだ。

同時に、そこへ突撃しかけていたRFドムが二機、巻き込まれて消えた。

 

通信が絶叫で埋まる。

 

『味方が巻き込まれたぞ!』

 

『隊長! こっち撃ってます!』

 

『インレが敵味方を識別してません!』

 

ハンスは冷や汗をかいた。

 

「今のは威嚇だ!」

 

カールが即座に叫ぶ。

 

『味方が蒸発する威嚇がありますか!』

 

「細かいことを気にするな!」

 

『細かくない!』

 

インレは暴走しかけていた。

 

レジオンの制御系。

ジオンマーズの無理やりな改造。

ハンスの荒い操縦。

火星環境。

サイコミュ補助。

全部が同時に干渉している。

 

もともと精密な巨大兵器を、恨みと記号美と塗装で奪って使おうというのが無茶だった。

 

だが、もう止まれない。

 

反乱は始まってしまった。

 

チェスターJr.は、地表へ出たRFゲルググのコックピットで、インレの暴走気味の光を見上げた。

 

「ハンス、制御できるのか」

 

『できる!』

 

カールの声が割り込む。

 

『できてません!』

 

通信の向こうで、ハンスとカールが怒鳴り合っている。

 

チェスターJr.は目を細めた。

 

これが、父の遺した火星だ。

これが、自分たちの反乱だ。

 

格好悪い。

危なっかしい。

統制も甘い。

兵器も不完全。

 

だが、進んでいる。

 

地下で何もできずに震えていた昨日よりは、ずっとましだった。

 

「全機、インレの射線に入るな」

 

チェスターJr.は通信を開いた。

 

「レジオン防衛線を突破する。目標は総帥府。アリシアを引きずり出す」

 

『了解!』

 

『ジーク・ジオン!』

 

『ウサギ耳の恨みを思い知れ!』

 

「最後の通信、誰だ。あとで説教だ」

 

とはいえ、気持ちはわかった。

 

地表の赤い砂が舞い上がる。

RF部隊が前進する。

レジオン機が迎撃する。

上空ではインレが不安定に旋回し、時々とんでもない方向へ火力をばらまく。

 

戦場は混沌としていた。

 

だが、それでもジオンマーズは押していた。

 

地下で溜め込んだ怒り。

火星を奪われた屈辱。

父たちの敗北。

レジオンへの恨み。

そして、もう後がないという焦り。

 

それらが、RFシリーズの古びた装甲を前へ押し出していた。

 

一方、レジオン側は想定外に弱かった。

 

弱いというより、乱れていた。

 

勝者として地表を支配していた彼らは、地下からの一斉蜂起に慣れていなかった。

監視網は万能ではない。

インレは奪われた。

そして総帥アリシアは、軍事的被害よりも、インレを緑に塗られたことに怒っていた。

 

指揮系統は荒れた。

 

ロメロ監視官は、第4監視コンテナで頭を抱えていた。

 

「だから言っただろうが!」

 

オペレーターが叫ぶ。

 

「言ってません!」

 

「心の中で言ってた!」

 

モニターには、地表へ噴き上がるジオンマーズ機の群れと、緑のインレが映っている。

 

「監視官、総帥府から通信です!」

 

「出たくない!」

 

「出ないともっとまずいです!」

 

ロメロは胃を押さえながら通信を開いた。

 

アリシアの声が響く。

 

『第4監視区画』

 

「はい!」

 

『なぜ、私のインレが緑色なのですか』

 

ロメロは一瞬、宇宙の真理を考えた。

 

なぜ。

それは自分が知りたい。

 

「現在、確認中です!」

 

『確認ではなく、元に戻しなさい』

 

「努力します!」

 

『努力ではなく、結果を出しなさい』

 

通信が切れた。

 

ロメロは椅子にもたれた。

 

「無理だろ……」

 

オペレーターが言った。

 

「どうします」

 

「逃げたい」

 

「業務上の回答をお願いします」

 

「監視網を部分復旧。威力偵察部隊を出す。ただし、総帥府の温水ラインは守れ」

 

「そこですか」

 

「そこを失うと我々が終わる」

 

火星の戦場は、どんどんひどくなっていった。

 

インレは暴走気味。

RF部隊は突撃気味。

レジオンは混乱気味。

アリシアは怒り気味。

監視官は胃痛気味。

 

全員、少しずつ破滅へ近づいていた。

 

それでも、ハンスは笑っていた。

 

「見ろ! レジオンが崩れていくぞ! 俺たちの勝ちだ!」

 

カールは必死に警告を出している。

 

『隊長! インレのジェネレーター出力が危険域です! このまま主砲を撃ち続けたら、機体が持ちません!』

 

「なら撃ち終わる前に総帥府へ突っ込む!」

 

『発想がミサイルです!』

 

「誉め言葉だ!」

 

『誉めてません!』

 

チェスターJr.は、その通信を聞きながら、空を見上げた。

 

インレ。

白いウサギだったもの。

レジオンの象徴だったもの。

いまは緑に塗られ、モノアイを付けられ、ジオンマーズの怒りを背負って暴れている。

 

美しいとは言えない。

正しいとも言えない。

 

だが、それは確かに反乱の象徴だった。

 

帝国の武器を奪い、帝国へ向ける。

デス・スターの弱点を突くのではなく、デス・スターそのものを盗んで塗り替える。

やり方としては最低に雑だが、火星のジオンマーズらしい。

 

「行くぞ」

 

チェスターJr.は操縦桿を握った。

 

「父上、見ていろ。これが俺たちの反乱だ」

 

彼のRFゲルググが前へ出る。

赤い砂が舞う。

ビームが交錯する。

 

総帥府は目前だった。

 

そして、その奥ではアリシア・ザビが、怒りに燃えた目で出撃準備を進めていた。

 

宇宙世紀0091年。

 

火星の地下で煮詰まった怒りは、ついに地表へ噴き出した。

 

レジオンのインレは奪われ、ジオンマーズの色に塗り替えられた。

火星の空は混乱し、監視網は乱れ、地下で働かされていた残党たちは一斉に蜂起した。

 

これは高潔な革命ではない。

整った軍事作戦でもない。

大義と復讐と作業服への恨みとジオンの記号美が、全部混ざった泥臭い反乱だった。

 

だが、戦場にいる者たちは全員本気だった。

 

フォースは存在しない。

 

だが、怒りはあった。

屈辱はあった。

奪われた地表はあった。

そして、それを取り戻すための巨大な緑のウサギガンダムも、確かにそこにあった。

 

輝ける星作戦。

 

その名前ほど綺麗ではない火星の反乱は、誰にも止められない速度で、最悪の決着へ突き進んでいく。

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