機動戦士ガンダム ギレン、ハマーン、シャアの次なる答え――ジオンの最高頭脳、サナリィの最新ガンダムで宇宙世紀を総決算する 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
宇宙世紀0091年。人類が地球圏で「そろそろシャア・アズナブルがなんかやらかしそうじゃない?」とソワソワし始めている歴史の裏舞台で、ここ火星圏のジオンマーズ残党どもは、完全に理性のリミッターをブチ切らせていた。
これまでの惨めな地下モグラ生活、そしてあのアリシア・ザビ率いる急進的組織「レジオン」から強制された「屈辱のピンク色ウサギ耳付きフード作業着」による精神的レイプ。すべてはこの日のため、あの傲慢極まりないウサギ崇拝お嬢様にジオンの恐ろしさを骨の髄まで叩き込むための、壮大な「タメ」に過ぎなかったのだ。
「野郎ども! 準備はいいか! 本日をもって、あの頭の湧いたコスプレ女王の楽園を地獄の業火に変えてやる! これぞ我がジオンマーズの総力を挙げた大反抗、名付けて『輝ける星作戦』の幕開けだぁぁぁッ!!」
火星の地下、冷気と泥にまみれた秘密ドック。錆びたスピーカーから怒号を張り上げているのは、今回の前線指揮を任された熱血漢のジオンマーズ残党兵、ガトー風の髪型だけを真似した髭面の男・ハンスであった。
彼の脳内に去来するのは、涙なしには語れない地下監獄での暗黒時代である。
毎日毎日、火星のクソ固い氷をシャベルで削らされ、ちょっとでもサボれば看守の元ティターンズのオッサンから「これだから宇宙ノイドの根性は!」と罵られ、挙げ句の果てに「総帥へのお誕生日プレゼントの巨大ウサギ雪だるま」を血眼で作らされる日々。あんな屈辱を経験するくらいなら、宇宙世紀0083年にソロモン海でデラーズ・フリートと一緒に連邦の観艦式に特攻して散っていた方が一億倍マシだった。
「ハンス隊長! 作戦の要である、例の『強奪セクション』が成功しました! レジオンの首都のドックから、あの憎きバケモノを引きずり出すことに成功したぞ!」
「よくやった! さあ、お披露目といこうじゃねえか! これが、あのガンダムTR-6[インレ]だ!!」
ハンスが狂ったように笑いながら、コントロール室のメインスクリーンを指差す。
そこに映し出されていたのは、レジオンの絶対的シンボル、全長100メートルを超える戦略ド級決戦兵器インレ……なのだが、その姿はジオンマーズの誇り高き「悪ノリ精神」によって、見るも無残な姿へと魔改造されていた。
なんと、あの洗練された白と黄色のスタイリッシュなガンダムの機体全身が、これでもかとギトギトした「濃緑色(ジオン公国軍制式カラー)」で全塗装されていたのだ。
それだけではない。ウサギマークが描かれていたブレードアンテナの直下、すなわちガンダムの顔面部分には、どこからどう見ても旧式MS『ザクII』のパーツから引っぺくってきたと思われる「真っ赤なモノアイ・センサー」が、溶接の火花も荒々しく無理やりボルト留めでガチガチに固定されていたのである。
「ガハハハハ! 見ろ! ガンダムの面影など微塵もねえ! これぞ我がジオンマーズの魂が宿った、究極の『インレ(ジオンマーズ仕様)』だ! あのお嬢様が大切にしていたウサギを、最高にイカしたワンレングス風モノアイのバケモノに仕立て上げてやったぞ!」
「隊長……! 技術部の人たち、徹夜でこれの塗装と溶接をやってましたけど、正直言って悪趣味の極みというか、ゲテモノMSの歴史に一石を投じるレベルの不気味さですね! ジオングの生みの親が見たら泣いて怒りますよ!」
若いオペレーターが引きつった顔で叫ぶが、ハンスの耳には届かない。
彼らジオンマーズの頭脳は、長年の芋掘り生活とレジオンへの恨みによって、「すべての兵器はモノアイにして緑色に塗ればジオンの勝利である」という狂信的な方程式に支配されていたのだ。
「うるさい! 技術の優劣なんざ関係ねえ! 宇宙世紀の戦いは、最終的には精神論と記号のぶつかり合いなんだよ! あいつらがガンダムを信奉しているなら、そのガンダムの頭をザクに変えてやれば、恐怖で泡を吹いて卒倒するに決まっているだろうが!」
ハンスは通信機のマイクを掴み、火星全土の地下都市に潜伏していた全ての残党たちへ向けて咆哮した。
「全軍、突撃ィィィッ! 飛行禁止令なんてクソ食らえだ! 浮け! 跳べ! 地表のウサギ小屋(首都)を跡形もなく踏みつぶせ!」
その瞬間、火星の厚い氷床が内側から大爆発を起こした。
地下の暗闇から這い出てきたのは、ジオンマーズがそれこそ貧乏の極みの中でアナハイム・エレクトロニクス社から部品を密輸し、意地と執念だけでアップデートし続けたリファインド・モビルスーツ――『RFザク』『RFドム』『RFゲルググ』の大群である。
彼らはレジオンの「飛行禁止令」という嫌がらせに対抗するため、機体の底面にこれでもかと追加スラスターをガムテープ同然の強度で括り付け、地表に向かってロケット花火のように垂直ロケットジャンプを敢行した。
「オラァッ! 久しぶりのシャバの空気だ! って、火星の空気は薄くて吸えねえ!」
「構うな! 目の前の『バーザム』っぽいレジオン機を殴れ! 股間のビーム・サーベルをへし折ってやれ!」
火星の首都上空は、一瞬にしてカオスな戦場へと変貌した。
迎え撃つレジオン側も、突如として地下から湧き出た緑色の旧公国軍モビルスーツの群れ、そして何より「自分たちの愛するインレが緑色に塗られてモノアイを発光させている」という文字通りの怪奇現象を目撃し、通信回線は大パニックに陥っていた。
『各機、慌てるな! 敵は旧世紀の遺物の……って、おい! 嘘だろ!? なんでインレがザクの顔をしてこっちを睨んでるんだ!?』
『総帥! 我が方のインレのウサギマークが、ジオンのエンブレムに上書きされています! 精神的ダメージが大きすぎます!』
『あああっ、ウサギが……僕たちの可愛いTR-6が、悪趣味なジオンのオッサンカラーに……!』
「ヒャッハー! 効いてる効いてる! 宇宙世紀0087年のグリプス戦役を戦い抜いたエリートのメンタルが、たかがカラーリング変更でボロボロになってやがるぜ!」
ハンスは奪取したインレのコックピットで、最高に下品な笑い声を上げながら、コントロールレバーを前方に叩き込んだ。
しかし、やはりそこは急造の強奪機。
地球圏の変態集団「T3部隊」が残したサイコミュ制御システム(エレニズム)は、ハンスのような「純度100パーセントの脳筋ジオン兵」の粗暴な脳波を全く受け付けなかった。
『警告、警告。サイコミュ・システムが異常な思考を感知しました。当機はザクではありません。ウサギです。システムを緊急シャットダウンします』
「あぁん!? 何がウサギだコンチクショー! 動け! 動けインレ! お前も今日からジオンの兵士なんだよ! ほら、ジーク・ジオンって三回唱えろ!」
ハンスがコンソールを拳でガンガンと殴りつけると、インレのサイコミュが完全にバグを起こした。
巨大な主兵砲である超大型コンポジット・シールド・ブースターが、敵味方の区別を完全に失った状態で、火星の成層圏に向けてデタラメな拡散メガ粒子砲をぶっ放し始める。
ドゴォォォォンッ!!
その一撃は、レジオンの首都の超高層ビルを消し飛ばすと同時に、ジオンマーズの突撃部隊の『RFドム』をも数機まとめて巻き込んで蒸発させた。まさに、狂った巨神の暴走である。
「ちょっとハンス隊長!? 火力が強すぎて味方まで消し飛んでますって! そもそも、サイコミュのインターフェースの言語設定が『T3部隊公認ウサギ語』になってて、僕たちじゃ操作マニュアルが読めません!」
「気合で読め! 漢字とジオンの精神で翻訳するんだよ! いいか、あの玉座のある総帥府にこのモノアイ・インレを突っ込ませるのが俺たちのゴールだ!」
地表は、赤茶色の砂嵐と、グポォォォンと鳴り響くザクのモノアイ音(インレの拡声器から最大音量で流している嫌がらせ)、そしてレジオンのキハールII部隊が放つビームの光で、文字通りの世紀末サバトと化していた。
アリシア・ザビ総帥の「女の楽園」という理想郷は、ジオンマーズの「ウサギ耳の恨み」が炸裂した血みどろの総力戦によって、見る影もなく崩壊していく。
「おのれ、コスプレ小娘ぇぇ! 今日こそザビ家の名前を騙った罪の重さを、この泥臭いジオンマーズの洗礼で思い知らせてやる! 全軍、オレに続けぇぇぇ!!」
ハンスの怒号とともに、緑色に染まったウサギのバケモノが、火星の首都の中心部へと向かって、狂ったようにビームを撒き散らしながら突撃していく。
宇宙世紀0091年。地球圏の歴史書には「火星における残党組織の大規模な局地内戦」としか記録されないであろうこの『輝ける星作戦』は、その実、宇宙世紀史上最も知性の低い「記号の奪い合い」と「服装への恨み」が引き起こした、全人類失笑の、しかし当事者たちだけは命懸けの、血みどろで大爆笑の総力戦へと突入していくのであった。