機動戦士ガンダム ギレン、ハマーン、シャアの次なる答え――ジオンの最高頭脳、サナリィの最新ガンダムで宇宙世紀を総決算する   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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シャアの呼び声【U.C.0092】

宇宙世紀0092年。人類の大半が「地球圏の知的エリート様たちが、またロンド・ベル隊とかいう連邦のパシリを巻き込んで小競り合いを始めたらしいぞ」とニュースを眺めている頃、ここ火星圏の地下深くに潜伏するジオンマーズの生き残りどもは、全員が揃って「極限の虚無」に包まれていた。

 

少し前まで繰り広げられていた、急進的組織「レジオン」との血みどろの泥仕合――通称『輝ける星作戦』の結末は、あまりにもお粗末なものであった。

我がジオンマーズが全魂を注いで濃緑色に全塗装し、頭部にザクのモノアイを無理やり溶接したガンダムTR-6[インレ]が、サイコミュの言語バグによって大暴走。敵味方を等しく蒸発させる大惨事を引き起こし、レジオンのアリシア・ザビ総帥も、我が方のハンス隊長も、揃って爆発の光の中に消え去った。

 

後に残されたのは、インフラが完全にブチ壊れて暖房の止まった極寒の地下都市と、これでもかとギタギタに破壊されたモビルスーツの残骸の山、そして「俺たちは一体何のためにウサギ耳の屈辱に耐え、何のために緑色のガンダムを作っていたんだ?」という、人類の知性の限界に挑むような虚脱感だけだった。

 

「……親父、見てるか。ジオンマーズの未来は、信じられないほどのマヌケな共倒れによって、今まさに風前の灯火だぞ」

 

ジオンマーズの偉大なる先代、チェスター主席の息子であるチェスターJr.は、薄暗い地下の仮設司令部で、頭を抱えて深いため息をついた。

彼の脳内を占めていたのは、高潔なるジオンの理想ではなく、あまりにも理不尽な現実への八つ当たりである。地球圏から逃げてきた元ティターンズの参謀ドナルド・レザードとかいう胡散臭い男は、インレが爆発した瞬間に「いやー、これはもう完全にビジネスモデルの崩壊ですね! お疲れ様でした!」と爽やかな笑顔を残し、残存パーツとデータをトラック数台分かっさらってどこかへトンズラこいてしまった。信じられるか? あいつ、元ティターンズのくせに引き際だけは完全にエゥーゴ並みの素早さだったんだぞ!

 

「チェスターJr.様! 大変です! 地球圏からの超長距離暗号通信を受信しました! じ、ジオンの、ジオンの神話が、ついに復活しましたッ!!」

 

そこへ、ボロボロの軍服を着た若いオペレーター(前回の戦いでインレの暴走に巻き込まれ、危うく自軍のビームでハゲ散らかしかけた男)が、狂ったように部屋に飛び込んできた。

 

「落ち着け。どうせまた地球圏のジオン共和国の腑抜けた政治家どもが、『連邦政府への自治権返上に伴う、お詫びとスタンプラリーの開催』でも通達してきたんだろ。今の俺たちに、地球圏の生ぬるいお遊戯に付き合う余裕はない」

 

「違います! ジオン共和国なんていう連邦の犬じゃありません! 新生ネオ・ジオンです! あの、一年戦争の英雄にしてザビ家の仇敵……いや、ジオンの赤い彗星、シャア・アズナブル総帥が、難民コロニーのスウィート・ウォーターで全宇宙のスペース・ノイドに向けて蜂起を宣言したのです!」

 

「……何だと!?」

 

チェスターJr.は、座っていたパイプ椅子がひっくり返るほどの勢いで立ち上がった。

シャア・アズナブル。その名を聞いた瞬間、彼の脳内の「ジオン残党回路」が、驚異的な速度でショートし始めた。

 

ジオンマーズという組織は、そもそもハマーン・カーンの台頭に反発し、「あんな小娘がザビ家のミネバ様を傀儡にしてジオンを名乗るなど言語道断! 我々こそが正統なるジオンだ!」と息巻いて火星にやってきた、いわば「頑固一徹なジオン純主義者の集まり」である。

そんな彼らにとって、シャア・アズナブルという男は、ザビ家を暗殺しまくった過去を持つ「最悪のテロリスト」であると同時に、「公国軍のエース中のエース」であり、ジオン・ズム・ダイクンの実子という「血統のバケモノ」でもあった。評価が完全にバグる相手なのだ。

 

「シャアが……あの、一年戦争の最終局面にジオングの角を飾りだと言い張り、ア・バオア・クーでキシリア閣下の顔面をバズーカでブチ抜いた、あの顔の傷が妙に色っぽい男が、ジオンの総帥になったというのか!?」

 

「はい! 通信のホログラム映像を見てください! ちゃんと額の傷を隠すための、ちょっとダサい形状のサングラスをかけて、めちゃくちゃ滑舌の良い声で『地球の寄生虫どもを粛清する!』って演説してます!」

 

オペレーターが再生したホログラム画面には、ワインレッドの軍服に身を包み、全宇宙の不満分子を煽り立てるシャア・アズナブルの姿が映し出されていた。

その演説は、火星の地下で寒さに震え、レジオンのウサギ耳フードの精神的トラウマを引きずっていたジオンマーズの生き残りたちの魂に、ダイレクトに突き刺さった。

 

(おお……これだ。これだよ、俺たちが求めていたジオンは! ハマーンの陰湿な政治ごっこでもなく、アリシアの狂ったウサギ王国でもない! 『地球に住む人類は、すべて宇宙に上がるべきなのだ!』という、スケールがデカすぎて一般人には1ミリメートルも理解できないが、なんとなく凄そうだと思わせるこの圧倒的なカリスマの暴論! これぞ真のジオンの総帥の姿だ!)

 

チェスターJr.の頭の中で、都合の良い解釈が超光速で展開されていく。

確かにシャアはザビ家を滅ぼした仇かもしれない。だが、そんな過去の家庭の事情はどうでもいいのだ。今の火星ジオンに必要なのは、この冷え切った火星の地下から自分たちを救い出し、地球連邦軍という共通の敵に向けて「合法的に全力をぶっ放していいぞ」と言ってくれる、都合のいい大義名分だった。

 

「野郎ども、集まれッ!! 緊急全軍集会だ!」

 

チェスターJr.は、残存するすべての兵員をかき集めた。

ドックに集まったのは、かつての輝きを失い、あちこちの装甲がベコベコに凹んだ『RFゲルググ』や、レジオンから鹵獲したものの扱いに困って放置されていた『キハールII』の残骸、そして長年の地下生活で顔が青白くなったジオンのオッサン兵士たち、およそ200名である。

 

「みんな、よく聞け。俺たちの火星独立の夢は、あのお転婆ウサギお嬢様との不毛な内戦によって潰えた。だが、ジオンの炎はまだ消えてはいない! 地球圏で、ダイクンの血を引く真の総帥、シャア・アズナブルが立ち上がった! 彼は今、地球連邦を根絶やしにするための、人類史上最大の『アクシズ落とし作戦』を計画している!」

 

オッサン兵士たちが、ザワザワとどよめき始めた。

 

「シャア総帥だって!? あの、グリプス戦役の時に『クワトロ・バジーナ』とかいう絶対にバレバレの偽名を使ってノースリーブの私服でエゥーゴのMSに乗っていた、あの百式の人か!?」

「ああ、そうだ! 金色のモビルスーツに乗って『まだだ、まだ終わらんよ!』と言いながらレコア・ロンドに浮気された、あのメンタルがちょっと繊細な天才パイロットだ!」

「でもよ、あの人、一年戦争の時にシャリア・ブルを自分のサイコミュのテストベッド代わりに使って使い潰したり、ララァ・スンに母親を求めたり、色々と私生活の噂がヤバいだろ……。火星のウサギ女王の次が、地球圏のマザコン総帥かよ?」

 

「黙れ! 私生活の好みの話をするな!」

チェスターJr.は一喝した。

 

「いいか、シャア総帥がマザコンだろうが、金色の趣味をしていようが、あの男は本気で地球連邦を滅ぼそうとしているんだ! 俺たちがこのまま火星の地下で、連邦の再統治が来るのを待って『昔、俺たち緑色のインレ作ったんだぜ』って近所の子供にホラ話を聞かせるだけのジジイになって死んでいくのと、シャア総帥の盾になって、華々しく宇宙の塵になるの、どっちがいい!?」

 

その言葉に、オッサン兵士たちの目が一斉にギラリと輝いた。

彼らは皆、一年戦争の敗北から10年以上、まともな「戦果」を挙げていないのだ。ある者はデラーズ紛争に乗り遅れ、ある者はグリプス戦役に置いて行かれ、火星に来てみればウサギの耳を付けさせられて芋を掘っていた。彼らの魂は、限界まで「ジオンの様式美」を求めて飢えていた。

 

「宇宙(そら)へ帰るぞ! 残ったチベ級重巡洋艦とムサイ級軽巡洋艦のエンジンに火を入れろ! 使える『RFシリーズ』はすべて艦内に叩き込め! 我ら火星独立ジオン軍の生き残り、ここに『チェスター艦隊』を結成し、シャア総帥のもとへ参集する!」

 

「おおおぉぉぉッ!! ジーク・ジオン! ジーク・ジオン!!」

 

かつてない熱量が、地下ドックを包み込んだ。

彼らはすぐさま行動を開始した。何しろ、火星の地下にはもう未練など何もない。あるのは壊れたインフラと、見たくもないウサギのマーキングだけだ。

 

チェスターJr.は、チベ級重巡洋艦のブリッジに立ち、眼下に広がる赤茶けた火星の地表を見下ろした。

 

「さらばだ、不毛の惑星よ。俺たちは、ジオンの真の神話が待つ、母なる宇宙へと帰還する。待っていてください、シャア総帥! 我々ジオンマーズの誇り、最新の『RFシリーズ』の戦力をもって、貴方の壮大なる地球寒冷化作戦の、最強の矛となってご覧に入せます!」

 

チェスターJr.の胸は、まだ見ぬ総帥への憧れと、ジオン復興の妄想でパンパンに膨らんでいた。

彼の頭の中では、スウィート・ウォーターに到着した自分たちが、シャア総帥から「よくぞ来てくれた、火星の義士たちよ。君たちのその緑色のモビルスーツこそ、我がネオ・ジオンの魂だ」と涙ながらに大絶賛され、特進でエリート部隊に配属される輝かしい未来が完璧に出来上がっていた。

 

しかし、彼はまだ知らなかった。

地球圏で彼らを待っているシャア・アズナブル総帥という男が、今、サザビーのコックピットのサイコフレームの調整に忙しく、「え? 火星からザビ家信奉者の生き残りが旧式モビルスーツの改造品を持ってこっちに向かってる? ああ、適当にロンド・ベルのミサイルを吸い寄せるための『盾』にでも配置しておいてくれ」と、1ミリメートルも彼らの情熱を気にかけていないという非情な現実を。

 

宇宙世紀0092年。火星の内戦を生き延びたジオンマーズの残党たちは、赤い彗星の甘美な呼び声に踊らされ、残された全ての軍事資産をかき集めて宇宙への大航行を開始した。これが、後に宇宙世紀0093年の歴史の表舞台で、ロンド・ベル隊の猛攻の前に最も無慈悲に消費されることになる「チェスター艦隊」の、あまりにも純粋で、あまりにもおめでたい、宇宙への帰還の第一歩であった。

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