機動戦士ガンダム ギレン、ハマーン、シャアの次なる答え――ジオンの最高頭脳、サナリィの最新ガンダムで宇宙世紀を総決算する   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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火星からの軍勢【U.C.0092】

宇宙世紀0092年。難民コロニー「スウィート・ウォーター」にある新生ネオ・ジオンの総帥室にて、全宇宙のスペース・ノイドから「人類を導く新たな神」として崇め奉られている男、シャア・アズナブルは、いま猛烈に頭を抱えていた。

 

その理由は、目前に迫った地球寒冷化作戦のスケジュールでもなければ、連邦軍のロンド・ベル隊が擁するあの忌々しいアムロ・レイの動向でもない。

いま彼の目の前にある事務机の上に、山積みになって放置されている「火星から合流を求めてやってきたジオンマーズ残党の惨状レポート」のせいであった。

 

「……ナナイ。私はね、確かに全宇宙のジオンの遺臣たちへ向けて、地球連邦打倒のために我が陣営へ馳せ参じよと大々的に宣言した。それは認める。しかし、だからといって、何千何万キロメートルも離れた不毛の惑星から、これほどまでに『面倒な拗らせ方』をしたオッサンどもの集団が、文字通りのオンボロ艦隊を率いて押し寄せてくるとは夢にも思っていなかったのだよ」

 

シャアは、トレードマークである額の傷を隠すための特注サングラスを人差し指で少しずらし、心底から疲弊した目で愛人のナナイ・ミゲルを見上げた。

 

彼の脳内を支配しているのは、指導者としての高潔な理想などでは決してなく、完全なる「人事権を持つ中間管理職の愚痴」そのものであった。

地球圏の人々が「さすが赤い彗星、全宇宙の残党を糾合して一大勢力を築き上げた!」と恐怖している裏で、シャアは文字通り、一癖も二癖もある宇宙世紀の負け組たちの「介護」に追われていたのである。

 

特に、つい先ほどスウィート・ウォーターの港湾区画にドックインした「チェスター艦隊」とかいう火星からの軍勢は、その極みであった。

彼らは長距離航行の末、燃料も食糧もカツカツの状態で合流してきたのだが、その第一声がこれだ。

『我らジオンマーズ! ハマーンの偽ザビ家体制を拒絶し、火星の地下でウサギ耳を強制する偽ザビ家とも戦い抜いた、純度100パーセントの正統なるジオン公国軍の生き残りなり! ダイクンの血を引くシャア総帥のために、この命を捧げに参った!』

 

(純度100パーセントの正統だと? 笑わせるな。あいつら、ただ地球圏の政治闘争の波に乗れなくて、火星の地下で芋を掘りながら10年以上もひきこもっていた頑固親父の集まりではないか! しかも、ザビ家を散々暗殺してきたこの私を『ダイクンの血統だから』というこれまた都合のいい理由だけで神格化してやがる。精神的な距離感が近すぎて気持ち悪いんだよ!)

 

シャアは机を拳で軽く叩き、不満を爆発させた。

 

「そもそも、彼らが持ち込んできたモビルスーツのリストを見たかね? 何だね、この『RFザク』だの『RFゲルググ』だのという代物は。外見は完全に一年戦争時の旧公国軍仕様なのに、中身だけはアナハイム・エレクトロニクス社の最新技術がギチギチに詰め込まれているという、最悪のオタクのこだわりみたいなゲテモノ兵器は!」

 

「総帥、落ち着いてください。彼らはあれを『ジオンの伝統と最新技術の融合』と呼んで誇らしげにしています。アナハイム・エレクトロニクス社の裏ルートからパーツを買い漁り、意地だけでアップデートし続けた結晶だそうですわ」

 

ナナイが困ったような笑みを浮かべてフォローするが、シャアのイライラは収まらない。

シャア・アズナブルという男は、兵器に対しては極めて合理的、かつ洗練された美意識を持つ男である。かつて一年戦争時に、ジオンの技術者から「ジオングの脚は飾りです」と言われた際にも、「ふん、なら要らん」と即答したほどだ。

そんな彼にとって、2世代も前の旧式MSの皮をわざわざ被せた最新鋭機など、悪趣味の骨頂であり、ただの「過去への未練の塊」にしか見えなかった。

 

「伝統などと、耳ざわりのいい言葉で誤魔化すな! 私が今、新生ネオ・ジオンの主役機として『ギラ・ドーガ』を量産させている理由が分からんのか!? 兵器というのはデチューンされた記号ではなく、時代に合わせた合理的な設計であるべきなのだ! それを何だ、あの火星のオッサンどもは! スウィート・ウォーターに入港した瞬間、我が軍のギラ・ドーガの頭部を見て『ふん、最近の若いモビルスーツはザクの気骨が足りん。もっとパイプを太くしろ』と整備兵に説教を始めたらしいじゃないか!」

 

「それは……確かに現場の若い兵士たちとの間で、深刻なジェネレーションギャップによる小競り合いが発生していると報告が入っています」

 

「だろう!? 挙げ句の果てに、チェスターJr.とかいうあの若造は、私の前に進み出て『総帥、我が艦隊には、かつて火星の地表を震撼させた、頭部をザクのモノアイに改造した緑色のガンダムTR-6[インレ]の運用データがあります! これをサザビーの設計に反映させるべきです!』と熱弁を振るいやがった! ガンダムの頭をザクに変えただけのバケモノのデータを、なぜ私の最高傑作であるサザビーに組み込まねばならんのだ! 呪われるわ!」

 

シャアはサングラスを叩きつけるように机に置き、額を押さえた。

彼が求めているのは、アムロ・レイという宿命のライバルと対等に、かつ美しく決着をつけるための戦いであって、火星の地下で脳みそまで凍りついたオッサンたちの「俺の考えた最強のジオンごっこ」に付き合うことではないのだ。

 

しかし、冷静にならねばならない。シャアは天才パイロットであると同時に、希代の政治家でもあった。

脳内の「クワトロ・バジーナ的な冷徹な計算回路」が、この厄介な火星の軍勢をどう処理すべきかを導き出し始める。

 

(……待てよ。彼らはザビ家を信奉しつつも、この私を盲信している。そして何より、過酷な火星の内戦を生き抜いてきたおかげで、パイロットとしての実戦経験だけは、我が軍の甘っちょろい志願兵どもより遥かに上だ。何より、地球連邦軍に対する恨みの深さは本物……。ならば、使い道は一つしかないな)

 

シャアの唇が、不気味に釣り上がった。

 

「ナナイ。チェスター艦隊の合流を公式に許可する。彼らをネオ・ジオンの『特別独立突撃大隊』として編成したまえ」

 

「よろしいのですか、総帥? 彼らはザビ家の思想に染まっており、いつ我が軍の統制を乱すか分かりません。危険分子になり得るかと」

 

「構わんさ。彼らの本質は、ただ『大好きなジオンの様式美の中で、華々しく死にたい』だけの哀れな亡霊なのだ。ならば、その願いを完璧に叶えてやればいい。彼らの『RFシリーズ』は、ロンド・ベル隊の連邦兵から見れば、ただの『よく動く不気味なザクのパチモノ』に過ぎん。これを前線の最も激しい過酷な宙域――アクシズの防衛線の最前線に、文字通りの『盾』として投入する」

 

シャアは立ち上がり、窓の外に広がるスペース・コロニーの人工の空を見つめた。

その目は、かつてガルマ・ザビを笑いながら謀殺し、キシリア・ザビの頭部をバズーカで消し飛ばした時の、あの冷酷な「復讐鬼」の輝きを取り戻していた。

 

「彼らには『これぞジオンの真の復興のための聖戦である!』と、私の口から直々に最高に耳ざわりの良い演説をしてやろう。ララァが死んだ時の私の苦悩に比べれば、あのオッサンどもの機嫌を取るなど、安い芝居だ。彼らは勝手に盛り上がり、勝手に感動し、そしてアムロ・レイの乗る『νガンダム』のフィン・ファンネルのサクリファイス(生贄)となって、嬉々として全滅してくれるさ」

 

「……相変わらず、ザビ家に関連する人間に対しては、一切の手加減がありませんね、総帥」

 

ナナイが呆れたようにため息をつくが、シャアは気にも留めない。

彼にとって、チェスター艦隊が地球寒冷化作戦(アクシズ落とし)を完遂するための貴重な駒、それも連邦軍のミサイルやビームの暴風を文字通り肉壁となって防いでくれる「頑丈な盾」になってくれれば、中身がザクだろうがウサギだろうが知ったことではなかった。

 

「よし、決まりだ。ナナイ、今すぐチェスターJr.をここに呼びたまえ。彼が喜びそうな『ジオン公国軍伝統の金モール付きの仰々しい肩章』を用意しておけ。それを持たせて、私の特有のトーンで『君たちの帰還を、父ダイクンも宇宙の彼方で喜んでいる』とでも言ってやれば、あの若造は感激のあまりその場で私の靴でも舐めかねんからな」

 

シャアは自らのサングラスを再び顔に装着し、完璧な「総帥シャア・アズナブル」の仮面を被り直した。

 

宇宙世紀0092年。火星の地下でレジオンの抑圧に耐え抜き、純粋なジオンの理想を信じて地球圏へと舞い戻ってきたチェスター艦隊の面々は、彼らが「人類の救世主」と信じて疑わない赤い彗星の男によって、宇宙世紀0093年の「シャアの反乱」における最も都合のいい、そして最も無慈悲な『使い捨ての防波堤』として、ネオ・ジオンの戦力図の最底辺へと組み込まれようとしていた。その残酷な神話の裏側を、火星の亡霊たちは未だ知る由もなかったのである。

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