【宇宙世紀】ジオン残党だけど火星で第二帝国を作る羽目になった件【スターウォーズ概念クロス】   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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第二次ネオ・ジオン抗争【U.C.0093】

遠い昔、はるか彼方の銀河系で――

 

辺境から駆けつけた戦士たちは、伝説の英雄と肩を並べて戦えると信じていた。

 

だが、英雄が見ていたのは彼らの顔ではない。

 

戦術図。

作戦時刻。

敵味方の配置。

そして、長年追い続けてきた宿命の相手。

 

信奉者たちが「名誉ある先鋒」と呼んだ場所を、指揮官は冷静に「敵を食い止めるための最外周」と呼んでいた。

 

この銀河でも、その二つの意味が、ついに戦場で一つになろうとしていた。

 

 

宇宙世紀0093年3月。

 

シャア・アズナブル率いる新生ネオ・ジオンと、ブライト・ノア率いるロンド・ベルの戦いは、最終局面へ突入していた。

 

小惑星アクシズは地球への落下軌道に乗り、周辺宙域では無数のモビルスーツと艦艇が激突している。

 

その最外周。

 

新生ネオ・ジオン主力部隊から遠く離れた宙域に、火星から来た旧式艦の一団が配置されていた。

 

チェスター艦隊。

 

旗艦チベ級重巡洋艦一隻。

 

ムサイ級軽巡洋艦二隻。

 

輸送艦一隻。

 

所属モビルスーツ、RFザク、RFドム、RFゲルググ。

 

公式編制上は、新生ネオ・ジオン特別独立部隊。

 

チェスターJr.の解釈では、シャア総帥から直々に認められた名誉ある先鋒。

 

作戦司令部の認識では、ロンド・ベルが本隊へ到達するまでの時間を稼ぐ外周防衛部隊。

 

現場の言葉に直せば、最初に敵とぶつかる防波堤である。

 

「見ろ、カール」

 

旗艦チベ級のブリッジで、チェスターJr.はメインモニターに映るアクシズを指差した。

 

胸には、シャアから授けられた金色の肩章が輝いている。

 

無重力のため、房飾りが顔の周囲を漂っていた。

 

本人は威厳だと思っている。

 

ブリッジ要員は、少し邪魔だと思っている。

 

「これこそ、我々が求めていた戦場だ」

 

副官のカールは戦術図を見た。

 

「本隊との距離が開いています」

 

「我々の力を信頼しているのだ」

 

「救援が来るまで時間がかかる配置とも言えます」

 

「またそれか」

 

「命令書へ書かれていたとおりです」

 

チェスターJr.は鼻を鳴らした。

 

「我々は総帥の剣であり、盾だ」

 

「盾は、壊れる前に持ち主が動かすものです」

 

「今日はやけに縁起が悪いな」

 

「現実担当ですので」

 

その時、警報が鳴った。

 

「敵艦隊、接近!」

 

オペレーターの声がブリッジに響く。

 

戦術図へ、無数の光点が現れた。

 

ジェガン部隊。

 

護衛艦。

 

そして、その中央にある極めて高い出力反応。

 

「ロンド・ベルです! 先頭に新型ガンダムを確認!」

 

メインモニターに、白と濃紺のモビルスーツが映し出される。

 

背中には、左右非対称に並んだ六枚の板状兵器。

 

νガンダム。

 

搭乗者は、アムロ・レイ。

 

一年戦争でジオンの名だたるエースたちを打ち破り、十四年後の今なお最前線に立ち続ける男だった。

 

チェスターJr.は息を呑んだ。

 

「……あれが、本物の白い悪魔か」

 

「敵はガンダムだけではありません」

 

カールが冷静に言う。

 

「ジェガン隊も多数。後方にはラー・カイラムの反応があります」

 

「総帥府へ報告。同時に救援を要請しろ」

 

「了解」

 

チェスターJr.は司令席から立ち上がった。

 

「全軍、第一種戦闘配置! RFザク隊を前面へ。RFドム隊は左右に展開。RFゲルググ隊は中央で敵の突破に備えろ!」

 

艦内に警報が鳴り響く。

 

カタパルトへRFシリーズが運ばれていく。

 

丸い頭部。

赤いモノアイ。

太い動力パイプ。

大型の肩装甲。

 

外見だけなら、一年戦争の博物館から持ち出してきた骨董品である。

 

だが、その内部には更新されたジェネレーター、新型推進器、全天周囲モニター、現行型のビーム兵器が組み込まれていた。

 

火星の地下で、手に入った部品を継ぎ足しながら改修され続けた異形の現代兵器。

 

古い姿に、新しい牙を隠した火星の亡霊たちだった。

 

『RFザク隊、出撃準備完了!』

 

「よし」

 

チェスターJr.は拳を握る。

 

「ロンド・ベルの若造どもに教えてやれ。ザクも、ドムも、ゲルググも、まだ終わってはいない!」

 

『ジーク・ジオン!』

 

RFシリーズが次々と宇宙へ飛び出した。

 

 

ロンド・ベルのジェガン隊は、一瞬だけ判断を迷った。

 

レーダーへ表示されている識別情報は、旧ジオン公国軍のもの。

 

モニターに映る姿も、ザクやドムにしか見えない。

 

だが、推進反応だけが異常に高い。

 

『見た目を信じるな!』

 

ジェガン隊の隊長が叫ぶ。

 

『火星系残党の改修機だ! 旧式ではない!』

 

連邦軍はすでに、チェスター艦隊の情報を得ていた。

 

奇襲効果は、以前ほど期待できない。

 

それでも、火星の兵士たちは一歩も退かなかった。

 

RFザクが急加速し、ザク・マシンガンを模したビーム兵器を発射する。

 

ジェガンのシールドが貫かれた。

 

RFドムが低い姿勢で敵編隊の側面へ回る。

 

胸部の拡散ビームがセンサーを焼き、視界を奪われたジェガンへビーム・バズーカを叩き込む。

 

RFゲルググがビーム・ナギナタを回転させ、接近した敵機のライフルを切り落とした。

 

『骨董品だと思って近づいたのが間違いだ!』

 

火星の古参兵が笑う。

 

『俺たちは十四年間、地下で遊んでいたわけじゃない!』

 

RFシリーズは決して弱くなかった。

 

機体ごとの仕様は統一されていない。

 

整備効率も悪い。

 

だが、それぞれのパイロットが自分の機体の癖を熟知していた。

 

右腕の反応が遅ければ、左側へ敵を誘う。

 

推進器の出力が偏っていれば、通常では不可能な旋回へ利用する。

 

センサーが壊れれば、噴射光と機体の振動だけで敵を追う。

 

火星で生き延びること自体が、彼らにとって一つの戦闘技術だった。

 

ジェガン二機が撃破される。

 

RFザクも一機が爆散する。

 

両軍のビームが暗い宇宙を走り、アクシズの表面を照らした。

 

「戦線を維持しています!」

 

オペレーターが叫ぶ。

 

「敵ジェガン隊の前進を阻止!」

 

チェスターJr.の顔に笑みが浮かぶ。

 

「見たか! 我々は戦えている!」

 

「敵の主力は、まだ動いていません」

 

カールが答えた。

 

その直後だった。

 

νガンダムの背中から、六基のフィン・ファンネルが放たれた。

 

板状の兵器が、意思を持つ生き物のように散開する。

 

正面からではない。

 

上から。

 

下から。

 

背後から。

 

複数の射線が、火星のモビルスーツを同時に捉えた。

 

『なんだ、この板は!』

 

RFザクのパイロットが叫ぶ。

 

『敵機の姿がないのに、ビームが――』

 

通信が爆発音に変わった。

 

一機。

 

二機。

 

RFザクが立て続けに撃ち抜かれる。

 

RFドムがファンネルへ砲撃する。

 

一基を捉えた。

 

だが、残る機体が死角へ回り込み、RFドムの推進器を破壊した。

 

制御を失った機体へ、ジェガン隊の集中砲火が浴びせられる。

 

「ザク三番機、消失!」

 

「RFドム一機、大破!」

 

「左翼部隊、後退しています!」

 

初めて遭遇するサイコミュ兵器。

 

しかも、それを操るのはアムロ・レイ。

 

火星で鍛えた経験も、機体の癖を利用する技術も、複数方向から同時に撃ち込まれるビームまでは想定していなかった。

 

νガンダムが戦線へ突入する。

 

RFゲルググ二機が迎え撃つ。

 

一機が正面からビーム・ナギナタを振るう。

 

νガンダムはシールドで受け止め、機体をひねって踏み込んだ。

 

もう一機が背後から斬りかかる。

 

アムロは振り返らない。

 

フィン・ファンネルの一撃が、背後のRFゲルググの腕を撃ち抜いた。

 

『後ろを見ずに当てただと!?』

 

次の瞬間、νガンダムのビーム・サーベルが、正面のRFゲルググを両断した。

 

チェスターJr.は、言葉を失ってモニターを見ていた。

 

「これが……地球圏のニュータイプか」

 

「救援要請への返信です!」

 

通信士が声を上げる。

 

「読み上げろ!」

 

「総帥府よりチェスター艦隊へ。現位置を維持し、ロンド・ベルの突破を可能な限り遅延させよ。アクシズ防衛および作戦遂行のため、敵戦力の拘束を継続されたし」

 

チェスターJr.は待った。

 

続きがあると思った。

 

だが通信士は黙っている。

 

「それだけか」

 

「……以上です」

 

「救援部隊は」

 

「記載がありません」

 

カールが戦術図を拡大した。

 

新生ネオ・ジオン本隊は別方向へ移動している。

 

チェスター艦隊がロンド・ベルを引きつけている間に、主力部隊はアクシズ周辺の配置を整えていた。

 

「我々を囮にしている」

 

カールが言った。

 

「違う」

 

チェスターJr.は反射的に否定した。

 

「これは作戦上の役割だ」

 

「同じです」

 

「違う!」

 

「言葉が違うだけです!」

 

チベ級の艦体が大きく揺れた。

 

ジェガン隊の砲撃が、ムサイ級一番艦を捉える。

 

推進器から炎が噴き出す。

 

『旗艦へ! 機関部をやられた! 退避を――』

 

通信の途中で、ムサイ級が爆発した。

 

白い閃光。

 

遅れて破片が宇宙へ広がる。

 

ブリッジが静まり返った。

 

火星から、ともに来た船だった。

 

地下ドックで何度も修理した。

 

出航直前まで残っていたウサギのマーキングを、古参兵たちが半日かけて削り落とした。

 

その船が、一瞬で消えた。

 

「盾は、壊れる前に持ち主が動かすものです」

 

カールが静かに言った。

 

EP14で聞いた言葉だった。

 

「チェスターJr.様。このままでは全滅します」

 

「総帥は、我々を同志と言った」

 

「同志だから、危険な任務を与えないとは言っていません」

 

「父の遺志を認めた」

 

「それも本心だったのでしょう」

 

「なら、なぜ助けない!」

 

カールは、まっすぐチェスターJr.を見た。

 

「総帥にとって、本心と利用は両立するからです」

 

チェスターJr.は胸の肩章を見た。

 

赤い彗星から授けられた、祝福の証。

 

いまは、光を反射するだけの金属に見える。

 

シャアは嘘をついていなかった。

 

火星の戦いを認めた。

 

チェスターJr.の働きを評価した。

 

同志として迎えた。

 

そして、使える兵士として最も必要な場所へ置いた。

 

英雄としての言葉と、指揮官としての判断。

 

その二つは、シャアの中で矛盾していなかった。

 

矛盾していると思い込んでいたのは、チェスターJr.のほうだった。

 

「総帥は、俺たちを救う神ではなかった」

 

「はい」

 

「最初から、そんなことは言っていなかった」

 

「はい」

 

また艦体が揺れる。

 

残存RFザクは四機。

 

RFドムは一機。

 

RFゲルググは二機。

 

敵は迫っている。

 

チェスターJr.は、ゆっくりと肩章を外した。

 

「全艦へ通達」

 

オペレーターが回線を開く。

 

「チェスター艦隊は、二隊に分かれる」

 

カールが振り向く。

 

「第一隊は、俺と旗艦チベ級、RFゲルググ隊。命令どおり、この宙域に残る」

 

「チェスターJr.様!」

 

「第二隊は、カールの指揮下で、残存ムサイ級、輸送艦、RFザクおよびRFドムを率い、火星方面へ離脱する」

 

「認められません! 一緒に帰るべきです!」

 

「誰かが残らなければ、撤退はすぐに発覚する」

 

「だからといって――」

 

「俺は、この艦隊を地球圏へ連れてきた」

 

チェスターJr.は、外した肩章をカールへ差し出した。

 

「責任がある」

 

「責任とは、生きて帰ることです」

 

「全員は無理だ」

 

「では、少しでも多く!」

 

「だから、お前たちを帰す」

 

カールは肩章を受け取らなかった。

 

チェスターJr.は、その手へ無理やり押しつける。

 

「火星へ持って帰れ」

 

「こんなものを持ち帰って、どうするんです」

 

「伝えろ。俺たちは赤い彗星を信じてここへ来た。そして、赤い彗星も一人の人間だった」

 

カールの手の中で、金色の房が揺れる。

 

「地球圏のジオンがすべて偽物だったと言う必要はない。だが、すべて本物だったとも言うな」

 

「チェスターJr.様……」

 

「誰かの神話に、自分たちの未来を全部預けるなと伝えろ」

 

警報が強くなる。

 

νガンダムが、旗艦へ接近している。

 

「行け、カール」

 

カールは唇を噛んだ。

 

「必ず、あとから来てください」

 

「努力する」

 

「約束してください」

 

チェスターJr.は少しだけ笑った。

 

「考えておく」

 

かつて自分が返したのと同じ言葉だった。

 

カールは敬礼した。

 

「火星で待っています」

 

「芋を残しておけ」

 

「一番まずいものを」

 

「いい部下だ」

 

カールはブリッジを出た。

 

 

残存ムサイ級と輸送艦が、アクシズの影へ向かって離脱する。

 

数機のRFザクとRFドムが護衛につく。

 

ロンド・ベルの一部が、それを追おうとする。

 

だが、チベ級が艦首を回し、残ったすべての砲門を開いた。

 

メガ粒子砲の一斉射撃。

 

ジェガン隊が散開する。

 

追撃の足が止まった。

 

「よし」

 

チェスターJr.は、遠ざかる味方の反応を見た。

 

「これでいい」

 

旗艦の前には、νガンダム。

 

その背後には、無数のジェガンとロンド・ベル艦隊。

 

勝ち目はない。

 

だが、チェスターJr.の顔から迷いは消えていた。

 

「RFゲルググ隊へ」

 

『聞こえている』

 

「すまない」

 

短い沈黙のあと、古参パイロットが笑った。

 

『火星へ残って芋を掘るよりは、こっちを選んだのは俺たちだ』

 

もう一人も言う。

 

『ただし、あの世でチェスター主席に会ったら、息子の作戦が雑だったと報告するぞ』

 

「好きにしろ」

 

『総員、突撃する』

 

二機のRFゲルググがνガンダムへ向かう。

 

古いジオンの姿をした火星の亡霊と、宇宙世紀最新鋭の白いガンダム。

 

十四年の時間差が、同じ戦場で向かい合った。

 

一機目がビーム・ナギナタを振り下ろす。

 

νガンダムはビーム・サーベルで受け止める。

 

二機目が側面から加速する。

 

フィン・ファンネルが、その進路へビームを放つ。

 

RFゲルググの脚部が吹き飛ぶ。

 

それでも止まらない。

 

残った推進器を最大出力にし、機体ごとνガンダムへ突っ込む。

 

『火星を忘れるな!』

 

νガンダムのビーム・ライフルが、RFゲルググの胴体を貫いた。

 

爆発。

 

もう一機も、直後にフィン・ファンネルの集中射撃を受けた。

 

最後のモビルスーツ反応が消える。

 

「全砲門、νガンダムへ」

 

チェスターJr.は命じた。

 

「射線上に味方機なし!」

 

「当然だ。もう、誰もいない」

 

チベ級の主砲が放たれる。

 

νガンダムは回避する。

 

フィン・ファンネルが旗艦を取り囲む。

 

チェスターJr.は、最後に火星方面へ通信を開いた。

 

届く保証はない。

 

それでも話した。

 

「こちら、火星独立ジオン軍チェスター艦隊」

 

彼の声は、不思議なほど穏やかだった。

 

「我々は、赤い彗星を追って地球圏へ来た。伝説の英雄なら、火星で失ったものに意味を与えてくれると思った」

 

フィン・ファンネルの一撃が砲塔を破壊する。

 

艦内で爆発が起きる。

 

「だが、意味というものは、誰かから与えられるものではなかったらしい」

 

二撃目。

 

推進器が停止する。

 

「火星に残る者たちへ。ジオンの名を捨てろとは言わない。ザクを捨てろとも言わない。どうせ言っても捨てないだろう」

 

ブリッジに、小さな笑いが起きた。

 

「だが、自分たちが何を守り、何のために戦うのかは、自分たちで決めろ」

 

三撃目が艦体を貫いた。

 

照明が消え、非常灯だけが赤く光る。

 

遠くでは、ムサイ級と輸送艦の反応がアクシズの影へ消えていく。

 

カールたちは、逃げ切った。

 

「親父」

 

チェスターJr.は暗い宇宙を見た。

 

「俺は、あんたより少しだけましな終わり方ができたかな」

 

答えはない。

 

チェスターJr.は、最後の命令を出した。

 

「残存砲門――撃て」

 

チベ級の砲が光る。

 

同時に、νガンダムのビームがブリッジを貫いた。

 

 

白い光。

 

 

宇宙世紀0093年3月。

 

火星独立ジオン軍チェスター艦隊は、アクシズ周辺宙域で壊滅した。

 

公式記録には、短く記された。

 

新生ネオ・ジオン所属、旧式機混成部隊。

 

ロンド・ベルとの交戦により撃破。

 

司令官以下、多数が戦死。

 

そこに、火星の名はほとんど残らなかった。

 

レジオンとの内戦も。

 

緑色のインレも。

 

ウサギ耳作業服への恨みも。

 

火星の地下で耐えた年月も。

 

勝者の記録には不要な情報だった。

 

 

一方。

 

アクシズの影を抜け、一隻のムサイ級と輸送艦が戦場を離れていた。

 

艦内には、数機のRFシリーズ。

 

火星へ帰る生存者たち。

 

カールはブリッジで、チェスターJr.の最後の通信を聞いていた。

 

手の中には、金色の肩章。

 

シャアが与えた神話の証。

 

そして、その神話の中で命を使い果たした者の遺品。

 

若い兵士が尋ねた。

 

「これから、どうするんです」

 

カールは、遠い火星の方角を見た。

 

「帰る」

 

「帰って、それから?」

 

「生きる」

 

「それだけですか」

 

「伝える」

 

「何を」

 

カールは肩章を握りしめた。

 

「地球圏のジオンも、赤い彗星も、我々を救う神ではなかった」

 

「では、ジオンを捨てるんですか」

 

カールは答えるまで、少し時間を置いた。

 

「捨てられると思うか」

 

兵士は、自分が乗ってきたRFザクを思い出した。

 

「無理ですね」

 

「私もそう思う」

 

カールは窓の外へ視線を戻した。

 

「だから今度は、誰かのジオンではなく、我々自身のジオンを作る」

 

その思想は、まだ名前を持っていなかった。

 

ハマーンのジオンではない。

 

シャアのジオンでもない。

 

サイド3の共和国でもない。

 

誰にも利用されず、誰にも見捨てられない、火星に残された者たちだけのジオン。

 

やがて彼らは、古いモビルスーツの形に新しい技術と捨てられた者たちの怨念を詰め込み、再び地球圏へ姿を現すことになる。

 

オールズモビル。

 

ジオンの神話が終わったあとも、その形だけを鎧として残し続ける、火星の亡霊たち。

 

 

シャア・アズナブルは、チェスター艦隊壊滅の報告を受けた。

 

短い沈黙のあと、彼は言った。

 

「そうか」

 

それだけだった。

 

悲しまなかったわけではない。

 

だが、作戦は続いている。

 

アクシズは地球へ向かっている。

 

ロンド・ベルは迫っている。

 

そしてアムロ・レイが、νガンダムに乗って戦場へ出ている。

 

戦術図から、チェスター艦隊を示す光点が消された。

 

一つの駒が失われた。

 

作戦上は、ただそれだけの処理だった。

 

 

だが、火星へ向かう船の中には、名前が残っていた。

 

顔が残っていた。

 

地下で食べた合成芋の味が残っていた。

 

ウサギ耳への恨みが残っていた。

 

緑色のインレを見上げた記憶が残っていた。

 

そして、チェスターJr.が最後に遺した言葉があった。

 

誰かの神話に、自分たちの未来を預けるな。

 

その言葉は、生きるための教訓にもなる。

 

同時に、地球圏のすべてを拒絶する復讐の教義にもなり得る。

 

フォースは存在しない。

 

だが、死者の言葉が生存者の中で別の意味へ変わり、次の戦争を育てることなら、この宇宙では何度も起きてきた。

 

チェスター艦隊は滅びた。

 

しかし、見捨てられた者たちの物語は、ここから始まる。

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