機動戦士ガンダム ギレン、ハマーン、シャアの次なる答え――ジオンの最高頭脳、サナリィの最新ガンダムで宇宙世紀を総決算する 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
宇宙世紀0094年、そしてその後の数年間。
かつて「巨大なウサギ型超兵器(インレ)」が飛び交い、その後「見た目だけ一年戦争の骨董品(RFシリーズ)」が宇宙へ旅立っていった不毛の赤い惑星・火星。その地下数100メートルに位置する旧ジオンマーズの秘密シェルター『第28芋掘りプラント』の薄暗いコックピットの中で、火星残留兵であるグラン・ヴェイパーは、自らの血圧がサイコ・フレームの限界値並みに急上昇していくのを感じていた。
「おい、ちょっと待て。誰か嘘だと言ってくれ。……あのサングラスのナイスミドル(シャア・アズナブル)を信じて地球圏へ殴り込みに行ったチェスターJr.の坊ちゃん以下、我が火星独立ジオン軍の主力艦隊が……完全に『全滅』した、だと……?」
グランの目の前で、砂嵐まみれのホログラムモニターが非情な歴史の真実を映し出していた。
一応、公式発表風の連邦軍の通信記録(をアナハイム・エレクトロニクス社の闇ルートから3割増しの価格で買い取ったデータ)にはこうある。
『アクシズ周辺宙域における戦闘において、ネオ・ジオン軍の最外周防衛を担っていた所属不明の旧式機レプリカ部隊(チェスター艦隊)は、地球連邦軍ロンド・ベル隊の猛攻、およびアクシズに仕掛けられた核ミサイルの爆発、さらには最終局面に発生した謎の「緑色の光の津波(アクシズ・ショック)」に巻き込まれ、1機のジェガンすら道連れにすることなく、文字通り宇宙の藻屑となりました。なお、総帥のシャア・アズナブル氏は、アムロ・レイ大尉とのタイマンに夢中になっていたため、彼らの存在を完全に忘れていた模様です』
「シャア・アズナブルゥゥゥゥ!! よくも、よくも俺たちの純情な火星ジオン魂を使い捨てのエアコンフィルターみたいに消費してくれたな!!」
グランは、火星特産の粘り気だけは一丁前の「合成芋プロテイン」が詰まったプラスチック容器を、錆びついたザクII(大気圏内用ホバー改修型)の計器盤に叩きつけた。
そもそも、火星に残された彼ら残留兵の立場は、今や絶望という言葉すら生ぬるい「限界集落のさらに奥にある不法占拠地」のような状態だった。
内戦で、ティターンズの落とし子である「レジオン」の総帥アリシア・ザビ(自称)が引き起こした大惨事により、地上の監視網や巨大プラントは崩壊。
その後、「地球圏でジオンが復活したぞ! 総帥はあのシャア・アズナブルだ!」と聞いて色めき立ったチェスターJr.が、動ける艦艇と、中身だけ最新型にした『RFゲルググ』などのピカピカの最新鋭機を全部持って宇宙へ上がってしまったのだ。
つまり、現在の火星に取り残されているのは、次のような「負の資産のグランドスラム」を達成した連中ばかりであった。
* チェスターJr.の熱血演説についていけず、「いや、俺はここで芋の栽培があるから……」と居残った、ジオン魂が完全に枯渇したおじさんたち。
* アリシア・ザビの「ウサギ耳憲兵隊」に散々追い回され、精神的に去勢された元ティターンズの落武者。
* そして、中身のメカニズムを全部チェスター艦隊の最新鋭機に剥ぎ取られ、外装だけが残った「本当にただの旧式機(スペックも一年戦争時のまま)」という、動かすだけで関節がギシギシ鳴るスクラップMSの群れ。
「グラン先輩! 大変です! 地上セクター3から、地球連邦軍の『火星再統治調査船団』のジェガンが3機、この地下ゲートに向かって下降してきました! このままでは、我が軍が秘密裏に備蓄していた『宇宙世紀0079年製・未開封のジオン公国軍配給用シュレン・ソーセージ(缶詰)』がすべて没収されてしまいます!」
コックピットのハッチを叩き割らんばかりの勢いで飛び込んできたのは、後輩の少年兵、ハンス(16歳。火星生まれのため本物のガンダムを見たことがなく、GMを見るだけで『あれが伝説の白い悪魔か!』と絶叫する重度の認知バグを抱えている)だった。
「何だと!? 連邦の犬どもめ、チェスター艦隊を全滅させただけでは飽き足らず、俺たちの唯一の心の拠り所である塩分(ソーセージ)まで奪おうというのか! ええい、こうなったら残ったザクで迎撃するぞ! ハンス、お前は『RFザク』に乗れ!」
「先輩、無理です! 我がアジトに残っているRFザクは、先週、チェスター艦隊への部品供給のために『ジェネレーター』と『駆動系モーター』と『コックピットのクッション』を全部ぶち抜かれて、中身はただの『空き缶』です! 今はハンスの母ちゃんが、中で自家製の発酵芋ビールの樽を寝かせる貯蔵庫として使っています!」
「ただの物置じゃねえか!! なんだその、見た目は強そうなのに中身はただの醸造所っていうモビルスーツは! アナハイム社もそんな風に自社のフレームが使われてると知ったら泣くぞ!」
グランは頭を抱えた。
そう、今の火星独立ジオン軍(の生き残り)には、戦うための最新鋭モビルスーツなど1機も存在しない。あるのは、14年前のサイド3の片田舎のスクラップ工場から持ってきたような、本当に、純粋に、一切の誤魔化しがない「ただの旧式ザク(ザクII・F型)」だけなのだ。
「仕方がない、俺のこのザクIIで出る! モノアイの出力が低すぎて、起動するとブリッジのルームライトが消える欠陥品だが、ジオンの気骨を見せてやる!」
グランはガタガタと震えるレバーを押し込み、ザクIIの点火スイッチを入れた。
『キュィィィィン……』という、かつて一年戦争の戦場を恐怖に陥れたはずのモノアイ起動音が、なぜか『プスン……』と情けない音を立てて途切れる。
「グラン先輩! モノアイのレンズに火星の砂が詰まってて、前が何も見えません!」
「気合で見るんだよ! ニュータイプなら心の目で敵のジェガンを捉えられるはずだ! いくぞ、ジーク・ジオン!!」
地下プラントのゲートが無骨に開き、グランの駆る「本物の骨董品ザク」が火星の赤い大地へと飛び出した。
上空には、地球連邦軍が誇る宇宙世紀0090年代の傑作量産機、ジムの系譜の到達点である『ジェガン』が3機、美しく洗練されたフォルムでホバリングしていた。そのメタリックグリーンの装甲は、火星の太陽光を反射して眩しく輝いている。
『……おい、連邦軍1号機、あれを見ろ。地下から何か出てきたぞ』
『なんだあれ……? ザクIIか? レプリカじゃなくて、本物の一年戦争型か? 装甲が錆びすぎて、緑色じゃなくて茶色になってるぞ』
『かわいそうに……。地球圏ではすでに、サイコ・フレームとかいう脳波で動くビーム・バリアが実用化されているっていうのに、あんな前世紀の遺物で突撃してくるなんて。まるで、最新のステルス戦闘機に対して竹槍で挑んでくるようなものじゃないか』
連邦軍のパイロットたちは、恐怖を感じるどころか、あまりの「格差」に完全にドン引きしていた。彼らの乗るジェガンのビーム・ライフルは、一発でチベ級重巡洋艦の装甲を貫通する出力を備えている。それに対し、グランのザクが持っているのは、弾速が遅すぎて現代の火星の強風で弾道が右に45度くらい逸れる「120ミリザク・マシンガン(実弾)」であった。
「食らえ、連邦の白豚どもーー!!」
グランがトリガーを引くと、『ダダダダダ!』と、骨董品特有の景気良い発射音が響き渡った。
無数の120ミリ弾がジェガンの胸部に命中する――が。
チィィィン! カァァァン!
『……ん? 今、何か当たったか?』
『さあ? 火星の礫(れき)か何かが装甲に跳ね返っただけじゃないか?』
ジェガンのルナ・チタニウム系合金の最新装甲に対し、14年前の実弾は、まるで小さな子供が投げた泥団子のように虚しく弾け飛ぶだけだった。塗装すら剥げない。
「ば、馬鹿な……! 直撃したのに、火花すら出ないだと!? 連邦のモビルスーツは化け物か!!」
「先輩! ジェガンがビーム・サーベルを抜きました! 洗練されたデザインの細身の光の刃です! あれで斬られたら、俺たちのザクはバターみたいに溶かされます!」
ハンスが広域通信で絶叫する。
ジェガンの1機が、哀れみの目を向けながら、ゆっくりとザクIIに向けてビーム・サーベルを振り下ろそうとした。その動きは、まるで「狂暴化した野良犬を保健所の職員が網で捕獲する」ときのような、事務的かつ絶対的な作業の空気感を纏っていた。
だが、その時。
火星特有の猛烈な砂嵐(ダスト・デビル)が、突如として両者の間に吹き荒れた。
ゴォォォォォォ!!
「うわあああ! 前が見えん! 地球の温室育ちのジェガンめ、火星の自然の怒りを知れ!」
『チッ、視界がゼロになったか。おい、これ以上この砂まみれの不毛な地表で、骨董品相手にエネルギーを消費するのは無駄だ。どうせあんな旧式機、この砂嵐の中に放置しておけば、3日で関節が砂でロックされて動かなくなる』
『そうだな。連邦政府の命令は「火星圏の治安維持と生存者の確認」だ。あの引きこもり残党どもに、地球圏を脅かすような戦力はもう残っていない。引き上げるぞ』
ジェガン3機は、グランのザクにトドメを刺す価値すら見出さず、スラスターを優雅に吹かして、上空の巡洋艦へと帰還していった。
後に残されたのは、砂嵐の中で、右脚の関節が案の定砂を噛んで『ギギギ……』と完全に停止した、無様なザクIIと、そのコックピットで号泣するグランの姿だけだった。
「見捨てられた……。俺たちは、シャア・アズナブルにも見捨てられ、地球連邦軍からは『戦う価値すら無いゴミ』として見捨てられたんだ……!」
グランはステアリングに額を押し付け、激しい悔し涙を流した。
地球圏の人々は今、第二次ネオ・ジオン抗争が終わり、シャアとアムロという二大英雄が消え去ったことで、「これでようやく、宇宙世紀に本当の平和が訪れるかもしれない」と、サイド3のジオン共和国の自治権返還(U.C.0100)に向けて希望の光に沸いている。
だが、この不毛の赤い惑星の、さらに薄暗い地下の底では、全く逆の感情が、マグマのようにドロドロと煮えたぎっていた。
地球圏の連邦政府に対する怒り。
自分たちを使い捨てにしたネオ・ジオンの指導者たちへの恨み。
そして何より、自分たちを「時代遅れの骨董品」と嘲笑い、まともに相手すらしてくれなかった連邦軍のスタイリッシュなモビルスーツどもへの、狂気じみた嫉妬心。
「ハンス……聞け。地球圏の奴らが、どんなに平和の歌を歌おうとも、俺たちは絶対に許さない。ジオンの国家が消えようとも、ザビ家の血筋が途絶えようとも関係ない。俺たちのこの『ザク』や『ゲルググ』の形こそが、連邦への復讐のシンボルだ……!」
グランは、砂嵐の向こうに見えるオリンポス山の巨大なシルエットを睨みつけながら、呪詛のように言葉を吐き出した。
「先輩……。俺、悔しいです。あんな細身の、ジェガンなんていうお洒落なモビルスーツに負けるなんて絶対に嫌だ。俺たちの手で、中身が『空き缶』のRFザクに、世界中のどんなガンダムよりも恐ろしい、本物の悪魔のエンジンを詰め込んでやりましょうよ……!」
ハンスの目からも、少年らしい純真さは完全に消え失せ、火星の凍土のように冷酷な「復讐者の目」へと変わっていた。
宇宙世紀0094年から0099年にかけて。
地球圏が「ジオンの神話の終わり」に向けて時計の針を進める中、火星圏という名の、歴史の教科書から完全に忘却された隔離部屋において、最悪の思想の種子が、静かに、確実に発芽しようていた。
それは、ザビ家の再興という大義名分すら脱ぎ捨てた、純粋な「旧式機(オールズモビル)の意地と怨念」による、地球圏の全てに対するお礼参りの準備であった。彼らの執念は、火星の地下深くで、1機また1機と、外見だけが一年戦争仕様の「最凶のレプリカ(RFシリーズ)」を量産し続け、来たるべき「終わりの始まり」の鐘が鳴る瞬間を、牙を研ぎながら待ち続けるのである。