【宇宙世紀】ジオン残党だけど火星で第二帝国を作る羽目になった件【スターウォーズ概念クロス】 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
遠い昔、はるか彼方の銀河系で――
国を失っても、鎧と掟を捨てなかった戦士たちがいた。
中央の歴史書は、彼らを時代遅れの残党と呼んだ。
だが彼らにとって、その古い鎧は単なる武具ではなかった。
故郷を失っても、自分が何者であるかを忘れないための証。
仲間と敵を見分けるための印。
そして、二度と誰かの都合で使い捨てにされないという誓いそのものだった。
この銀河の赤い惑星でも、過去の鎧を脱ぐことを拒んだ者たちが、静かに一つの軍勢へまとまり始めていた。
宇宙世紀0100年。
ジオン共和国の自治権返還から、三か月。
火星、第28地下プラント。
かつて資源採掘と食料生産に使われていた施設は、地球圏から運び込まれた大量の中古部品によって、再び軍事工場へ姿を変えつつあった。
格納庫には、解体されたザクの外装が並ぶ。
ドムの脚部。
ゲルググの腕。
旧共和国軍から流出したセンサー。
アナハイム系の闇業者から購入した駆動装置。
出所不明の高出力ジェネレーター。
どの部品も、単体では旧式か中古品だった。
だが、火星の技術者たちは、それらを一つの機体へまとめようとしていた。
「主機、出力上昇」
整備員が端末を確認する。
「七十。八十。九十――定格へ到達」
格納庫中央に立つモビルスーツの胸部から、低い駆動音が響いた。
外見はザクII。
丸い頭部。
太い動力パイプ。
右肩のシールド。
左肩のスパイク。
一年戦争当時の姿を、異様なほど忠実に再現している。
だが、その内側に収められているのは、二十一年前の機械ではなかった。
更新型の熱核反応炉。
改良されたムーバブルフレーム。
全天周囲モニター。
リニアシート。
現行型に近いビーム兵器制御装置。
複数の時代と企業から集められた技術を、一年戦争の外装で包んだ異形の機体。
初期型RFザクである。
「頭部、起動」
赤いモノアイが点灯した。
光はレールに沿って左から右へ動き、中央で止まる。
グラン・ヴェイパーは、その姿を満足そうに見上げた。
「これだ」
隣に立つカールは、腕を組んだまま動かなかった。
「何がだ」
「俺たちの新しい力だ」
「外見は四十年近く古い」
「中身は新しい」
「なら外見も新しくしろ」
グランは鼻で笑った。
「何もわかっていないな」
「性能を考えれば当然の話だ」
「性能だけなら、地球圏の機体をそのまま真似ればいい。だが、それでは俺たちが作る意味がない」
「兵器に意味を背負わせすぎると、またインレのようになるぞ」
格納庫にいた整備員たちが、一斉に目をそらした。
緑色に塗られた巨大ガンダムの記憶は、いまだ火星地下社会で最も触れてはならない話題の一つである。
グランは咳払いした。
「あれは改造方針が少し大胆すぎた」
「敵味方が消滅した」
「失敗から学ぶのが技術だ」
「モノアイは残すのか」
「そこは譲れん」
カールはRFザクを見上げた。
「この機体で、何をするつもりだ」
「火星を守る」
「それだけか」
グランは即答しなかった。
カールは、その沈黙を見逃さない。
「連邦へ復讐するためではないのか」
「連邦が何もしなければ、こちらも何もしない」
「地球圏へ戻る準備をしているように見える」
「将来、必要になるかもしれない」
「何のために」
「俺たちが、まだ生きていると証明するためだ」
グランの目には、チェスター艦隊壊滅の光景が焼き付いていた。
本人が地球圏で見たわけではない。
生存者の証言。
戦闘記録。
損傷したRFシリーズのデータ。
そして、カールが持ち帰った金色の肩章。
それらを何度も見聞きするうちに、直接目撃した記憶のように定着していた。
「地球圏は、俺たちを終わったものとして扱った」
グランは言う。
「連邦軍は、旧式ザク一機しか動かせない貧しい残党だと思っている。サイド3は旗を降ろした。歴史書には、火星の戦争そのものがほとんど載らない」
「だから武力で認めさせるのか」
「話し合いで認めた者がいたか」
カールは答えられなかった。
火星の存在は、地球圏の政治にとって常に小さすぎた。
小さすぎて、問題が起きるまで無視される。
そして問題が起きれば、危険な残党として処理される。
その構造自体は、グランの言うとおりだった。
だがカールは、それでも生活を守る道を選びたかった。
「この機体は防衛用に限定する」
「誰が決める」
「地下居住区の代表会議だ」
「農業区画の連中に、軍事判断を任せるのか」
「その農業区画がなければ、兵士も技術者も餓死する」
「だから軍の上に民間人を置くと?」
「軍は住民を守るためにある。逆ではない」
グランの表情が険しくなる。
「それでまた、判断が遅れる」
「独断で戦争を始めるよりはいい」
二人の対立は、もはや個人間の口論ではなかった。
火星社会全体が、二つの方向へ分かれつつあった。
カールを支持する者は、生活の再建を優先した。
連邦軍との衝突を避ける。
交易を再開する。
旧レジオン系住民と旧ジオンマーズ兵を、一つの火星社会へ統合する。
武力は必要最低限にとどめる。
一方、グランを支持する者は、軍備の拡張を求めた。
連邦は信用できない。
地球圏のジオンも信用できない。
火星の安全は、火星の軍隊だけが守れる。
二度とシャアのような英雄へ未来を預けず、自らの力だけで立つ。
両者が共有しているのは、火星を守りたいという願いだけだった。
そのための方法は、正反対だった。
対立を決着させるため、地下居住区の代表会議が開かれた。
会場となったのは、旧ジオンマーズ司令室。
かつてチェスター主席が座っていた席は、長年空席のままになっている。
誰も座ろうとしなかった。
父チェスターの後継者だったチェスターJr.も死んだ。
アリシア・ザビも消えた。
シャア・アズナブルも、アクシズとともに歴史から姿を消した。
火星には、全員が認める指導者がいなかった。
「我々には統一された指揮系統が必要だ」
グランが訴えた。
「連邦軍が再び来た時、代表会議を開いて多数決を取るつもりか」
「だからといって、軍人へ全権を渡すわけにはいかない」
カールが答える。
「かつてレジオンが何をしたか、忘れたのか」
「アリシアと同じにするな」
「権力を持つ前は、誰もがそう言う」
会議室がざわめく。
旧レジオン側の住民は、軍事組織の再建に強い警戒心を示していた。
ジオンマーズの古参兵は、民間統治では連邦へ対抗できないと考えている。
若い世代は、そもそも一年戦争もザビ家も知らない。
彼らにとってジオンは、両親や祖父母が語る遠い神話だった。
神話のために、また戦争を始める意味がわからない者も多かった。
会議はまとまらなかった。
カールとグランの言葉が、同じ場所を何度も回り続ける。
その時、会議室の後方から、低い声が響いた。
「どちらも半分正しい。そして、半分間違っている」
全員が振り返った。
立っていたのは、一人の老人だった。
長身。
白髪。
深い皺。
古いジオン公国軍の軍服。
ただし、腹部だけは加齢に合わせて大きく仕立て直されている。
シャルル・ロチェスター。
一年戦争を経験した旧公国軍人。
チェスター主席の古い協力者。
火星内戦の混乱期には、複数の地下施設を転々としながら兵士と技術者をまとめ、戦力の温存に努めてきた老将だった。
「シャルル閣下」
古参兵の一人が立ち上がる。
シャルルは手で制した。
「閣下などと呼ぶな。もう公国軍は存在せん」
そう言いながら、軍服は脱いでいない。
カールは尋ねた。
「半分間違っているとは、どういう意味です」
シャルルは、まずグランを見た。
「軍隊だけでは国は守れん。食料を作る者、機械を直す者、子供を育てる者がいなければ、軍など腹を空かせた老人の集まりだ」
次にカールを見る。
「だが、生活だけでも守れん。連邦が火星の価値に気づいた時、話し合いだけで地下施設と資源を守れると思うか」
カールは答えない。
シャルルは二人の間へ進んだ。
「問題は、軍か民間かではない」
「では、何です」
「我々が何者なのか、決まっていないことだ」
シャルルは、空席になっている主席の椅子へ目を向けた。
「チェスターはザビ家の正統を信じた。アリシアは自らをザビ家の後継者と称した。チェスターJr.はシャアを新たな総帥と信じた」
誰も口を挟まない。
「そして全員、遠くの血統と神話に振り回された」
グランが言った。
「だから、我々自身のジオンを作るべきです」
「そのとおりだ」
カールがシャルルを見る。
「ジオンの名に、まだこだわるのですか」
「名前を捨てれば、地球圏が我々を受け入れてくれると思うか」
「少なくとも、不要な戦争は避けられます」
「名称を変えた程度で、連邦が地下の兵器と資源を見逃すものか」
「では、ジオンを名乗って戦争を待つと?」
「待つのではない。備える」
シャルルは会議室の全員を見渡した。
「我々はザビ家の臣下ではない」
古参兵の一部が表情を変える。
「ダイクンの後継者を待つ必要もない」
今度はカールがわずかに眉を上げた。
「赤い彗星の帰還を願うこともない。地球圏の共和国へ正統性を認めてもらう必要もない」
シャルルは言葉を区切った。
「我々は火星で生き残った」
それだけだった。
だが、その一言は重かった。
「レジオンにも、地球連邦にも、アクシズにも、シャアにも守られず、それでも火星の地下で生き残った。それが我々の正統性だ」
グランの目が輝く。
一方、カールは警戒を強めていた。
「新しい国家を作るつもりですか」
「国家などという大層なものではない。市民を養う領土も、正式な政府も、地球圏に認めさせる外交力もない」
「では」
「共同体だ」
シャルルは答えた。
「火星の居住区を守る者。地下都市を維持する者。工場で兵器を作る者。そして、火星を再び支配しようとする者と戦う軍隊」
「その組織に、ジオンの名を?」
「直接は使わん」
グランが驚く。
「なぜです」
「ジオンという名は、あまりにも多くの者が使いすぎた」
シャルルは鼻を鳴らした。
「ザビ家。デラーズ。アクシズ。ハマーン。シャア。全員が自分こそ正統だと言い、最後には兵士を置き去りにして滅びた」
「では、我々は何と名乗る」
シャルルは、地下ドックの方向を見た。
そこにはザク、ドム、ゲルググの姿をしたRFシリーズが並んでいる。
「我々に残ったのは、古い兵器の形だ」
「古い兵器……」
「オールズモビル」
シャルルは、ゆっくりと言った。
「過去の機動兵器を鎧とし、その内側へ新しい力を詰め込む。地球圏が捨てた歴史を、我々が引き受ける」
会議室が静まり返る。
オールズモビル。
古いモビルスーツ。
時代遅れという侮蔑を、そのまま旗へ変えた名前。
「火星独立ジオン軍という名は、対外的な軍事組織名として残す」
シャルルは続ける。
「だが、我々全体を結ぶ呼び名はオールズモビルとする。ザビ家のためではない。ダイクンの血のためでもない。火星に残された者たちのための組織だ」
カールが尋ねた。
「目的は」
「火星の自治と防衛」
「地球圏への攻撃は」
「連邦が我々を放置する限り、こちらから全面戦争を仕掛ける必要はない」
グランが不満そうに振り返る。
「しかし――」
シャルルの視線が彼を止めた。
「復讐だけでは組織を維持できん。憎しみでは発電機は動かず、怒りでは芋は育たん」
カールが、わずかに笑った。
「魂でもジェネレーターは動きません」
「誰の言葉だ」
「かつてシャア総帥が言いそうな言葉です」
「皮肉だな」
シャルルも小さく笑った。
「だが、忘れるな」
老人の表情が再び険しくなる。
「地球圏が、我々を過去として踏み潰そうとするなら、その時は過去のほうから噛みつく」
それが、オールズモビルの基本方針となった。
組織の再編が始まった。
カールは居住区と生産部門を担当した。
食料。
医療。
資源採掘。
住居。
旧レジオン系住民との調整。
彼は、オールズモビルが軍隊だけの組織にならないよう監視する役目を引き受けた。
グランは軍備と技術部門を担当した。
RFシリーズの開発。
パイロットの訓練。
地下ドックの拡張。
地球圏からの技術流入経路の確保。
彼は復讐という言葉を口にしなくなった。
代わりに、防衛、抑止力、独立維持という言葉を使うようになった。
意味がどこまで違うのかは、本人にもわかっていなかった。
シャルル・ロチェスターは、全体を統括した。
公式の肩書は、火星独立ジオン軍最高司令官。
だが、彼が最も時間を使ったのは、兵器の設計でも作戦計画でもなかった。
古参兵と若者を、同じ組織へまとめることだった。
一年戦争を知る者たちは、ザクの形に誇りを見た。
火星生まれの若者たちは、なぜ四十年前の外見へこだわるのか理解できなかった。
「合理的ではありません」
若い技術者が、RFゲルググの設計会議で言った。
「最新の内部構造に合わせ、外装も再設計すべきです」
シャルルは尋ねた。
「性能は上がるか」
「当然です」
「どの程度だ」
「重量を一割近く削減できます」
「採用だ」
古参兵たちが驚く。
「しかし閣下、それではゲルググの伝統的な曲線が!」
「形を守ることと、無駄を守ることは違う」
シャルルは設計図を指差した。
「遠目にゲルググとわかればいい。中身まで四十年前に戻す必要はない」
「動力パイプは」
「必要なければ外せ」
古参兵たちがざわめく。
グランまで困惑した。
「それでは、ジオンの魂が」
「魂は被弾箇所を増やすためにあるのか」
誰も答えられなかった。
シャルル・ロチェスターは頑固だった。
だが、愚かではなかった。
古い姿は、軍の旗として残す。
同時に、その姿へ縛られて敗北することは許さない。
外見はザク。
性能は現行機以上。
連邦軍が骨董品だと油断した瞬間、その認識を裏切る。
RFシリーズは、懐古趣味ではなく欺瞞兵器として再定義された。
年月が流れた。
宇宙世紀0105年。
宇宙世紀0110年。
宇宙世紀0115年。
地球圏では大規模な戦争が減少し、地球連邦軍の警戒心は薄れていった。
軍事予算は削減される。
ジェガンは改修を重ねながら使われ続ける。
アナハイム・エレクトロニクスは、巨大化したモビルスーツの維持費と、自社製品の高価格化に頭を抱え始める。
一方、サナリィ――海軍戦略研究所では、新たな構想が進んでいた。
モビルスーツの小型化。
機体を軽くする。
ジェネレーターを小型化する。
全高を抑えながら、従来以上の出力と運動性を実現する。
フォーミュラ計画。
その情報は、断片的ながら火星にも届いていた。
オールズモビル地下司令室。
年老いたシャルルは、連邦軍の新型機に関する資料を読んでいた。
「全高十五メートル以下」
グランが言う。
彼もすでに若くはない。
髪には白いものが混じっている。
「従来型より小さいのに、出力は高い。全身のハードポイントへ、任務別の装備を換装する構想です」
「機体名は」
「F90」
メインモニターに、白いモビルスーツの設計予想図が映る。
無駄を削った細身の機体。
全身のハードポイント。
従来のガンダムとは異なる、小型で合理的な姿。
シャルルは長く見つめた。
「気に入らんな」
グランが笑う。
「小さすぎるからですか」
「違う」
「では」
「合理的すぎる」
シャルルは、自軍のRFゲルググへ視線を移した。
火星の地下で長年改良され続けた機体。
古い姿。
新しい内部。
オールズモビルの思想そのもの。
「連邦は、我々が古い時代へ閉じこもっていると思っている」
「実際、外見だけなら」
「ならば、新しい時代の象徴を古い時代の手で奪えばいい」
グランの笑みが消えた。
「奪う?」
「F90を火星へ誘い出す」
「どうやって」
「連邦軍は、新型機を過酷な環境で試験したがる。火星は低重力、寒冷、砂塵、広大な無人地帯。実験場として理想的だ」
「確実に来るとは」
「来るように仕向ける」
シャルルの目に、老いてなお消えない光が宿る。
「サイド3と地球圏の協力者を使え。火星環境試験の有用性を、サナリィと連邦軍へ流す」
「連邦の最新鋭ガンダムを、我々の目の前へ運ばせるのですか」
「そうだ」
「危険すぎます」
「だから価値がある」
シャルルは立ち上がった。
「F90を奪えば、三つのものが手に入る」
「三つ?」
「連邦の最新技術」
一本目の指を立てる。
「フォーミュラ計画の情報」
二本目。
「そして、地球圏へ突きつける象徴だ」
三本目。
「ジオンの時代は終わった。古いモビルスーツは過去の遺物。連邦はそう信じている」
シャルルはRFザクの映像を拡大した。
「その過去の亡霊が、未来のガンダムを奪う」
グランは、ようやく老将の狙いを理解した。
これは単なる兵器強奪ではない。
オールズモビルが歴史の表舞台へ戻るための宣言。
連邦が捨てた過去は、まだ終わっていない。
ジオンの形をした亡霊が、地球圏の未来を奪い取る。
その光景自体が、彼らの存在証明になる。
「パイロットが必要です」
グランが言った。
「若く、反応が速い者。新型機へ短時間で適応できる者」
「候補は」
「ディーツ・ヴァルター」
「どんな男だ」
「操縦技術は優秀です」
「ほかには」
「勢いがあります」
「性格は」
「勢いしかありません」
シャルルは少し考えた。
「ガンダムを敵の格納庫から盗み出すには、ちょうどいい」
「本気ですか」
「慎重な者は、敵の基地で機体を乗り換えようとは考えん」
「馬鹿と勇敢を混同していませんか」
「突撃する瞬間だけは、よく似ている」
シャルルは笑った。
「ディーツを呼べ。二年かけて鍛える」
「二年?」
「連邦がF90を火星へ運ぶまでだ」
「来なかった場合は」
「待つ」
「いつまで」
シャルルは地下司令室を見渡した。
この場所で、彼らは何十年も待ってきた。
アクシズから離れ。
レジオンに支配され。
シャアに見捨てられ。
ジオン共和国が消滅するのを見届け。
それでも武器を捨てず、生き延びた。
「我々は待つことだけは得意だ」
宇宙世紀0115年。
地球圏が長い平和に慣れ、戦争を過去の出来事として扱い始めた頃。
火星の地下では、火星独立ジオン軍――オールズモビルが一つの軍事組織として完成しつつあった。
最高指揮官、シャルル・ロチェスター。
軍備・技術部門、グラン・ヴェイパー。
生活・生産部門、カール。
一年戦争を知る古参兵。
火星で生まれた第二世代。
ザビ家を知らず、シャアの演説も聞いたことがない若者たち。
彼らを結びつけているのは、もはや一人の英雄への忠誠ではない。
見捨てられたという共通の記憶。
二度と誰かの盾にならないという誓い。
そして、古いモビルスーツの姿をした鎧だった。
地下ドック。
整列したRFザク、RFドム、RFゲルググのモノアイが、次々と赤く点灯する。
外見は過去。
内部は現在。
狙っているのは未来。
シャルルは、その軍勢を前に宣言した。
「我々はザビ家のために戦うのではない!」
古参兵たちが直立する。
「ダイクンの血統を待つのでもない!」
若い兵士たちが拳を握る。
「地球圏の偽物のジオンに、正統性を認めてもらう必要もない!」
格納庫に声が響く。
「我々が生き残ったという事実そのものが、我々の正統性である!」
背後の大型モニターに、オールズモビルの新たな部隊章が表示された。
古いジオンの意匠を受け継ぎながら、ザビ家の紋章とは異なる、火星独自の旗。
「本日、火星独立ジオン軍を再編する!」
シャルルは拳を掲げた。
「我々こそ、歴史に見捨てられたすべての者たちの軍勢!」
兵士たちも一斉に拳を上げる。
「我々こそ、地球圏が葬った過去の守護者!」
RFシリーズの駆動音が、地鳴りのように広がる。
「我々こそ――オールズモビルである!」
歓声が地下ドックを揺らした。
「ジーク・オールズモビル!」
誰かが叫んだ。
一瞬、古参兵たちは戸惑った。
長年使い続けた「ジーク・ジオン」とは違う。
だが、シャルルが同じ言葉を繰り返す。
「ジーク・オールズモビル!」
今度は全員が応えた。
「ジーク・オールズモビル!」
カールは、歓声から少し離れた場所に立っていた。
手には、チェスターJr.の金色の肩章がある。
あの日から、ずっと保管してきた。
赤い彗星が与えた神話の証。
そして、誰かの神話へ未来を預けた者が支払った代償。
「これでよかったと思いますか」
若い兵士が、カールへ尋ねた。
「わからない」
カールは答えた。
「止めなかったのに?」
「武力が必要なのは事実だ」
「では」
「だが、武力は理由を欲しがる。理由はやがて敵を欲しがる」
若い兵士には、その意味がよくわからなかった。
カールは肩章を見つめる。
チェスターJr.は、誰かの神話へ未来を預けるなと言った。
オールズモビルは、英雄を待つことをやめた。
その点では、彼の遺言を守っている。
だが、代わりに自分たち自身を神話にしようとしていた。
見捨てられた最後のジオン。
過去の守護者。
地球圏に背を向けた火星の戦士。
新しい神話は、すでに始まっている。
「これが正しい道かは、まだわからない」
カールは言った。
「ただ、間違った時に止める者は必要だ」
「それが、あなたですか」
「そのつもりだ」
カールは肩章をしまった。
遠くで、若きパイロットのディーツ・ヴァルターがRFザクへ乗り込んでいる。
これから彼は、ガンダム強奪のための訓練を始める。
本人はまだ、自分が火星の歴史を大きく動かすことになるとは知らない。
ただ、新しい愛機に乗れることを喜び、大声で整備員を急かしていた。
『早くカタパルトを開けてくれ! 俺が連邦の最新鋭機を奪ってくるところを、全員に見せてやる!』
整備員が通信で怒鳴り返す。
『まだ二年先の話だ! 先に基本訓練を終わらせろ!』
『大丈夫だ、勢いで何とかなる!』
『一番大丈夫じゃない答えだ!』
シャルルは、そのやり取りを聞いて満足そうに笑った。
グランは頭を抱えた。
カールは、さらに不安になった。
遠い昔、はるか彼方の銀河系で、古い鎧と掟を守り続けた戦士たちは、中央の支配へ従わず、辺境で独自の道を選んだ。
彼らの鎧は古く見えた。
だが、その中にある技術と戦意まで古いわけではなかった。
この宇宙の火星でも同じだった。
地球圏は、ジオンの時代が終わったと信じている。
ザクも。
ドムも。
ゲルググも。
すべて博物館へ収められる過去の兵器だと考えている。
だが、その過去は火星の地下で武装していた。
古い姿へ新しい力を詰め込み。
見捨てられた記憶を燃料に変え。
未来のガンダムを奪う日を待っている。
宇宙世紀0115年。
火星独自の「最後のジオン」、オールズモビルは正式に組織化された。
彼らは、もはや帰還する英雄を待たない。
自分たち自身が、火星の神話になることを選んだ。
その選択が自立への第一歩となるのか。
新たな戦争へ向かう第一歩となるのか。
答えはまだ出ていない。
ただ、地下司令室の戦術図には、すでに一つの白い機体が表示されていた。
サナリィ製次世代小型モビルスーツ。
ガンダムF90。
オールズモビルの最初の獲物である。