機動戦士ガンダム ギレン、ハマーン、シャアの次なる答え――ジオンの最高頭脳、サナリィの最新ガンダムで宇宙世紀を総決算する   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

20 / 24
フォーミュラ計画の影【U.C.0118】

宇宙世紀0118年。

地球圏の全人類が「モビルスーツの小型化? 大賛成! だって維持費は安いし、お財布に優しいし、何より戦場で敵のビームが当たりにくくなるから命がけの鬼ごっこには最適だよね!」と、平和ボケを限界突破した脳みそで小躍りしている頃――。

 

地球連邦軍の軍事予算を合法的に、かつ湯水のごとく貪り食うために設立された政府直轄のシンクタンク、サナリィ(海軍戦略研究所)の地球圏中央開発室。その最高機密が厳重に保管されている特等オフィスの片隅で、連邦軍から出向してきた『フォーミュラ計画』の主任予算査定官であり、その本質は「サナリィの天才変態技術者たちが提出してくる、物理法則を無視したキテレツ兵器の請求書に承認ハンコを押すだけのストレスフルなお仕事」を拝命したしがない中間管理職、ボリス・エイルリッヒは、自分の髪の毛が『ソーラ・システムII』の照射を浴びたがごとく、ごっそりと抜け落ちていく極限の恐怖と闘っていた。

 

「おい、ふざけるな。私は絶対にこの開発経費の追加申請書に判は押さんぞ。誰が認めるか、こんな国家予算をまるごとブラックホールに投げ込むような狂気のペーパーを!」

 

ボリスの前に山積みにされていたのは、現在サナリィが総力を挙げて開発中の次世代小型高性能モビルスーツ、通称『Fシリーズ』のテストベッド運用に関する公式予算報告書であった。そこには、サナリィの天才(悪魔)どもが満面の笑みで書き殴った、あまりにも「美しくない」数字の羅列が並んでいる。

 

『サナリィ・フォーミュラ計画・火星環境実証試験・中間予算申請書:

我が研究所が開発した新型超小型高出力ジェネレーター、および新型ミッションパック(換装仕様)の最終極地テストを行うにあたり、地球圏の演習場では「パワーが出すぎてコロニーの外壁に穴が開く」「万が一暴走したら月が削れる」等の些細な不都合が発生する恐れがあります。つきましては、地球連邦軍の全面協力のもと、火星圏のオリンポス・ベースを排他的な実験場として指定。新型機「ガンダムF90」の1号機および2号機、ならびに予備のガンダリウム合金装甲板30トン、高性能ビーム・サーベルの予備結晶体100個を現地へ輸送するための、特別軍事航路運賃、および現地での「おやつ代(火星特産ポテトチップス購入費含む)」として、追加で300億連邦ドルを要求します』

 

「おやつ代に300億ドルかかるわけがあるか、この税金泥棒どもめ!! どんな超巨大なジャガイモを火星で買い占める気だお前らは!!」

 

ボリスは、官給品の安っぽいボールペンをデスクの天板が割れんばかりの勢いで叩きつけた。

 

「おい、説明しろ! なぜ地球圏のグラナダやフォン・ブラウンの最新ドックを使わずに、わざわざ地球からめちゃくちゃ遠くて、通信のタイムラグが往復で何十分もかかる不毛の極寒地獄『火星のオリンポス・ベース』なんぞをテストベッドに選んだ!? 先週、我が方の軍事査察部がアナハイム・エレクトロニクス社の上層部と接待ゴルフをした際、あのアナハイムの役員が『いやー、サナリィさんが火星で新型ガンダムのテストをするなんて、本当に素晴らしい自殺行為ですね! あそこには昔から、たちの悪い生霊だか旧式モビルスーツのオタクだかが地下にワンサカ引きこもっているのに、わざわざ最新のおもちゃを届けに行くなんて、まさに飛んで火に入る夏の虫。うちのジェガンを買い続けておけば安泰なのにねぇ』と、ワインを片手にゲラゲラ笑っていたぞ! これをどう説明するんだ!?」

 

隣に控えているサナリィ側のプロジェクト推進窓口(一年戦争時は民間技術者としてホワイトベースの V作戦の機密を盗み見ようとしてブライト・ノアに本気で修正ビンタを食らった過去を持つ、重度のガンダム信者の男)が、眼鏡の奥の目をギラつかせながら、わざとらしいまでのドヤ顔をして見せた。

 

「いやぁ、ボリス主任。アナハイム社の負け犬の遠吠えに耳を貸すとは、連邦軍の査定官ともあろうお方が情けない。あのアナハイムの守銭奴どもは、我がサナリィが『モビルスーツの小型化』という歴史的パラダイムシフトを提唱したせいで、自分たちが抱えている『全高20メートル超えのデカくて重くて無駄に高いジェガンやヘビーガンの在庫』が全部スクラップになる恐怖で夜も眠れないのですよ。火星圏への進出? ああ、あれは純粋な環境テストです。火星の砂嵐はミノフスキー粒子並みに精密電子機器に悪影響を与えますからね。え? 火星独立ジオン軍? オールズモビル? はっはっは! 何ですかその、骨董品店の名前みたいな組織は。宇宙世紀0100年にジオン共和国が完全に自治権を放棄して消滅したというのに、いまだにザクだのドムだののプラモデルを実物大で作って喜んでいる絶滅危惧種の老兵が、我がサナリィのハイテクの結晶であるガンダムF90に傷ひとつつけられるわけがございませんよ。もし彼らが襲ってきたら、最新のビーム・ライフルで一瞬にして分子レベルまで蒸発させて、火星の肥やしにして差し上げます」

 

「その慢心が命取りだって、過去40年以上の宇宙世紀の歴史が証明しているだろうがァァァ!!」

 

ボリスの悲痛なツッコミが、最先端のクリーンルームに虚しく響き渡る。

しかし、これこそが宇宙世紀0118年の「地球圏の、そしてサナリィの現実」であった。

 

地球連邦政府も、そして軍の上層部も、完全に『無敵の全能感』に酔いしれていたのだ。

かつて地球を恐怖に陥れた一年戦争のジオン公国も、アクシズのハマーン・カーンも、シャア・アズナブルのネオ・ジオンも、すべては歴史の教科書の中の出来事。今の若者たちにとって「ジオン」とは、ゲームの敵キャラクターか、歴史マニアが居酒屋で熱弁を振るう古臭いトピックに過ぎなかった。

そのため、連邦軍の軍事官僚たちは、サナリィが開発した『ガンダムF90』という新型超兵器さえあれば、全宇宙のいかなる反乱分子も一瞬で鎮圧できると信じて疑わなかった。火星の地下深くで、老将シャルル・ロチェスターをはじめとする『オールズモビル』の狂信者たちが、最新のジェネレーターを旧式のザクやゲルググの皮(装甲)で包み込んだ変態仕様の「RFシリーズ」を狂ったように大量生産していることなど、彼らの華やかなオフィスの中では「ただの都市伝説」として片付けられていたのである。

 

「ええい、もういい! とにかく、火星でのテストベッド選定は決定事項なのだな!? 予算の判は押す! だが、もし万が一、あの最新鋭のガンダムが火星のガラクタコレクターどもに奪われるような大失態をやらかしたら、お前たちサナリィの役員全員を、作業用プチ・モビルスーツに乗せて木星のヘリウムガスの回収に強制労働させてやるからな!」

 

ボリスが半ばヤケクソで承認スタンプを書類に叩きつけると、オフィスのメインモニターに、火星のオリンポス・ベースの現在の様子がリアルタイムの衛星画像で映し出された。

 

そこには、赤茶けた不毛の大地にそびえ立つ、連邦軍の最新鋭の軍事基地の姿があった。

滑走路には、地球圏から到着したばかりの強襲揚陸艦が鎮座し、そのハッチからは、サナリィの技術の粋を集めた白いモビルスーツ――『ガンダムF90』の2号機が、厳重なセキュリティに守られながら搬出されているのが見える。

 

『こちらオリンポス・ベース管制室。地球圏のサナリィ本部へ報告。フォーミュラ計画・テスト機体の搬入はすべて順調、トラブルは皆無です。現地は非常に静かで、アリの子一匹、いや、旧式モビルスーツ一機すら観測されていません。火星の先住民どもは、我が連邦軍の圧倒的な威容に怯えて、地下のネズミ穴の中で震えているようです。これより、ミッションパックの換装実験の第1フェーズに移行します』

 

モニターから流れる現地の連邦軍士官の声は、これ以上ないほど弛緩しきっており、まるでリゾート地にバカンスにでも来たかのような緊張感のなさであった。

 

「……信じられん。なぜこいつらは、これほどフラグを建築するのが上手いんだ」

 

ボリスはモニターを見上げながら、冷たい汗が背中を伝うのを覚えた。

地球圏の人間はみんな、大きな勘違いをしている。

ジオンという国が消え、シャアというカリスマが消えたからといって、宇宙に住む人々の「地球の特権階級どもに、俺たちの運命をコントロールされてたまるか」というドス黒い怒りが消滅したわけではないのだ。

むしろ、公式な対話の窓口がなくなったことで、その怒りはより地下深く、より純粋な狂気へと発酵し、連邦政府のレーダーが絶対に届かない火星の地底で、恐るべき軍事資産として蓄積されている。

 

「報告します、ボリス主任! サナリィのハッキング検知システムが、火星軌道上の旧式通信インフラから、極めて微弱な暗号通信を傍受しました! 解析したところ……サイド3の旧ジオン系闇ルートから流出した、我が方の『F90・機体制御 OS』のアップデートデータと、火星の地下ドックの IDが完全に一致しました! 奴ら、最初から我が方の新型機のスペックをすべて把握した上で、手ぐすねを引いて待っています!」

 

「ほら見ろ!! 言わんこっちゃない!! あの火星の引きこもり共(オールズモビル)、サナリィのシステムを完全にバックドアから覗き見してやがった!!」

 

ボリスはデスクの上のペン立てをひっくり返した。

サナリィの自称・天才技術者どもが「アナハイム社に勝ったぞ!」と祝杯を挙げているその裏で、火星のオタクどもは「へぇー、今度の連邦のガンダムは15メートル以下なんだ。じゃあ、俺たちのRFゲルググのビーム・ナギナタのリーチなら、間合いに入る前に一刀両断にできるね!」と、完璧な対策会議(シミュレーション)を終わらせていたのだ。

 

彼らが開発しているという『RFシリーズ』。それは、かつての一年戦争の栄光を忘れられない老人たちのノスタルジーの産物などではない。最新の技術をあえて「ザクの形」「ドムの形」という、連邦軍の兵士が「なんだ、ただの旧式か」と油断する外見に偽装した、極めて悪質で実戦的な『精神的トラップ兵器』だったのだ。

 

「主任、やはり火星の連邦軍第13実験部隊に今すぐ警戒警報を発令し、テストを中止させますか!?」

 

オペレーターが青ざめた顔で尋ねるが、ボリスは力なく頭を振った。

 

「無駄だ。今さら『火星の地下にザクの形をした化け物が埋まっています!』なんて上層部に言ってみろ。せっかく『フォーミュラ計画は順調! 連邦の軍事技術は宇宙一!』とプレスリリースを出して株価を上げているサナリィの幹部たちの面図を丸潰れにすることになる。そんな真実を報告した瞬間、明日から私のポストは、マイナス200度の冥王星軌道上の資源探査船の動力炉の掃除係に直行だぞ」

 

「は、はあ……」

 

「いいか、書類上はすべて『想定の範囲内』だ。火星独立ジオン軍などというものは公式には存在しない。ただの地域住民のデモか、あるいはアナハイム社が仕掛けた悪質な産業スパイ活動として処理する。……そう、彼らがオリンポス・ベースの防衛線を突破して、ガンダムの2号機を文字通り『強奪』していく、その運命の瞬間(宇宙世紀0120年)まではな……」

 

ボリスは、自分自身の胃の痛みを紛らわせるように胃薬の錠剤をまとめて口に放り込むと、承認された予算書類の山を、サナリィの超高速シュレッダーの中へと叩き込んだ。

 

宇宙世紀0118年。

地球圏において、サナリィの『フォーミュラ計画』は、次世代の希望の光として大々的に新聞の第一面を飾っていた。人々は「小型化された新しいガンダム」のスマートなデザインに目を奪われ、これで宇宙の平和は未来永劫、保証されたのだと信じ込んでいた。

しかし、その光が絶対に届かない、火星のオリンポス山の影。

シャルル・ロチェスター率いるオールズモビルの兵士たちは、地球圏から送られてくるサナリィのテストデータをモニターで見つめながら、不敵な笑みを浮かべていた。

 

彼らにとって、連邦軍の最新鋭モビルスーツは、恐れるべき対象などではなかった。

自分たちの『ジオンの正統なる美学』を証明するための、最高に贅沢な生贄であり、歴史の表舞台へと返り咲くための「極上の踏み台」に過ぎなかったのだ。

オリンポス・ベースの格納庫で、何も知らずに調整を待つ『ガンダムF90(2号機)』の白い装甲。その胸の奥にあるコックピットに、オールズモビルの執念の刃が突き立てられ、機体がジオンの深紅の闇に染め上げられるその日まで、彼らは火星の冷たい地下で、じっと息を潜めてその「獲物」が熟すのを待ち続けるのである。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。