機動戦士ガンダム ギレン、ハマーン、シャアの次なる答え――ジオンの最高頭脳、サナリィの最新ガンダムで宇宙世紀を総決算する 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
宇宙世紀0122年。
地球圏の不届きな連邦市民どもが「宇宙世紀122年にもなってジオンとか言ってる奴らって、まだ『ギレンの野望』の初期ロットのディスクを磨いてるタイプのオタクでしょ? ウケるー。時代はやっぱりフォーミュラ計画による小型モビルスーツの、スタイリッシュでエコなライフスタイルだよね!」と、歴史の重みを忘れてインスタントな平和にうつつを抜かしている、まさにその瞬間――。
火星の象徴たるオリンポス山の山頂、赤茶けた冷酷な風が吹き荒れる最終防衛線の岩陰。
火星独立ジオン軍(通称:オールズモビル)を率いる絶対不覇の最高指揮官であり、その本質は「一年戦争のジオン公国軍のミリタリーカタログを枕元に置かないと夜も眠れず、ザクの排熱パイプの曲線美について語り出すと余裕で丸三日は徹夜できるという、全宇宙で最も拗らせた重度のファーストジオン原理主義の老将」、シャルル・ロチェスターは、愛機である『RFゲルググ』のコックピットの中で、自身の魂(ロマン)がかつてないほどの超高温で核融合を起こし、限界突破していくのを確かに感じていた。
「フハハハハ! 泣いても笑ってもこれが最後の宴だ! 寄って集かって最新鋭の『ガンダムF90』なんぞを大量投入しおってからに! 連邦軍の若造どもめ、ジオンの伝統たる『重量感(マッシブ)』と『深紅のロマン』の前に、そのひょろひょろした小型モビルスーツがどれほど無力か、骨の髄まで叩き込んでくれるわ!」
シャルルが狂ったように笑いながら操作レバーをガシガシと引き絞ると、彼の漆黒の『RFゲルググ』――その実態は、シャルルの個人的な趣味嗜好(悪ノリ)により「やっぱりジオンの指揮官機といえば赤でしょ! でも今回は死に場所だから黒も混ぜてシャア・アズナブル総帥の思い出と黒い三連星の渋さをハイブリッドしちゃおう!」と、極めて贅沢にカラーリングされた最高級の魔改造機が、火星の低い重力を無視してヌラリと駆動した。
彼の脳内を支配しているのは、これまで40年間、火星の冷たい地下都市で耐え忍んできた、狂気とも言える「レトロ浪漫への妄執」のすべてだ。
オセアノン・パプらがハマーン・カーンと決別したあの瞬間から、歴代のジオンマーズ、レジオン、ネオ・ジオンの残党たちが紡いできた火星の歴史。それは地球圏の連邦軍から見れば「なんか遠くの方でずっとバカな内輪揉めを繰り返している、絶滅寸前の生霊たちのドタバタ劇」に過ぎなかったかもしれない。
だが、シャルルにとっては違う。このオリンポス山こそが、全宇宙のジオンオタクたちの聖地であり、自分がその最後の「神主」なのだという、極めてめんどくさい自負があった。
「シャルル閣下! 通信が入っています! 地下ドックの整備班からですが……『閣下のこだわりで追加した、ゲルググの頭部の特大ツノ(アンテナ)のせいで、サナリィから盗んだ最新アビオニクスが激しい電波障害を起こしています! 照準が全く合いません! 今すぐツノをノコギリで切り落としてもよろしいでしょうか!?』とのことです!」
通信ウィンドウに映った副官の顔は、涙と鼻水でグチャグチャになっていた。すでにオリンポス山の拠点は、連邦軍の第13実験戦術部隊による再度の総攻撃を受け、四方八方からビームの雨が降り注ぐ絶望的な状況だ。それなのに、最高指揮官の機体が「ツノのせいでまともに動かない」という、ギャグマンガのような事態に直面していたのである。
「バカ者ォォォ!! 切り落とすなど言語道断!!」
シャルルはコックピットのコンソールを、ガンダリウム合金の手袋でガンと殴りつけた。
「ゲルググの頭部アンテナとはな! ジオン公国軍における『私はお前たち一般兵とは一味違う、給料も3倍もらっているエリートなのだぞ』という無言の社会的ステータス表示なのだぞ! それを切り落とすなど、サラリーマンから名刺を奪うのと同じ行為だ! 照準など合わなくて結構! ジオンの戦士なら、敵のモビルスーツのツインアイの輝きを肉眼で睨みつけ、魂の導き(ニュータイプ的なアレ)でビーム・ナギナタを叩き込めばそれで良いのだ!」
「閣下ァァァ!! そんな精神論でサナリィの超高性能ヴェスバーが防げるわけがありませんよォォォ!!」
副官の悲痛な絶叫を置き去りにして、シャルルはRFゲルググのフットペダルを思いきり踏み込んだ。
ドゴォォォォン!!
背面の高出力スラスター(外見は一年戦争時のゲルググそっくりだが、中身はアナハイム・エレクトロニクス社が極秘裏に開発した最新の小型高密度ジェネレーターを強引にツイン接続したもの)が爆音を上げ、漆黒の巨体が火星の大地を滑るように急加速した。
目の前には、オリンポス山の防衛線を文字通り「札束(圧倒的な物量)」で踏み荒らしにやってきた、連邦軍のジェガン部隊、そして彼らが誇る最新鋭モビルスーツ『ガンダムF90』が、獰猛な牙を剥いて待ち構えている。
『前方に敵の指揮官機、ゲルググタイプを確認! 待て、あの機体、スペック表にない異常な熱源反応を示しているぞ!? 骨董品のくせに、なんで我が方の最新のジェガンよりジェネレーター出力が高いんだよ! おかしいだろアナハイム!!』
迎撃に現れた連邦軍のパイロットが、モニター越しに泡を吹いて恐怖しているのが見える。
それもそのはず、シャルルの『RFゲルググ』は、「全高20メートル超の巨体に、最新の小型モビルスーツ2機分のジェネレーターを強引に詰め込んだ」という、物理法則と燃費の概念をドブに捨てた『超弩級のハリボテ・モンスター』だったからだ。
「フハハハハ! 驚くのはまだ早いぞ、地球圏の温室育ちの坊やども! これが我がオールズモビルのテクノロジーの嫌がらせ、ジオン浪漫の結晶だ!」
シャルルは叫びながら、背中に背負ったビーム・ナギナタ(外見は一年戦争時の黄色い発光体だが、中身はサナリィから強奪したF90の2号機のビーム・サーベルの基部を2個直列に繋ぎ合わせた、出力がバカみたいに高い大出力プラズマ兵器)を、頭上でジャグリングのようにお調子者全開でブンブンと振り回した。
ビシュゥゥゥゥン!!
「死ねぃ、連邦のモルモットどもが!」
漆黒のRFゲルググがすれ違いざまに放った一閃により、ジェガンAタイプが盾ごと一瞬で分子レベルまで溶かされ、火星のチリ(爆辞)と化した。
『隊長! ダメです! あのゲルググ、デカいくせに動きがキモすぎます! まるで宇宙世紀0079年のエースパイロットのビデオを2倍速で再生しているみたいだ!』
『ひるむな! こっちは最新のF90だぞ! ヴェスバーの最大出力で、あのデカブツを装甲ごと消し飛ばせ!』
連邦軍の最新鋭小型MSが、背面の可変速ビーム・ライフル(ヴェスバー)をシャルルのゲルググに向けて展開した。
だが、シャルルはニヤリと老獪な笑みを浮かべた。
「ふん、サナリィの計算尽くの兵器など、我がジオンの『職人芸(オタクの執念)』の前には通用せんわ!」
シャルルは操縦桿を神業のような細かさでガチャガチャと叩いた。RFゲルググは、全身に配置された姿勢制御バーニア(これまた見た目は古いアポジモーターのフタだが、中身は最新の電子制御マイクロ・スラスター)を狂ったように一斉噴射し、まるでコマのように超高速回転しながら、ヴェスバーの光線をミリ単位のビジュアルでひらりと回避した。
「見たか! これぞジオン伝統の『ゲルググ・スピン』! 特に意味はないが、見た目がめちゃくちゃカッコいいから、敵のパイロットの精神的動揺を誘うのには最適なのだ!」
「いや、ただの無駄な燃料消費ですよ閣下ァァァ!! 基地の残存燃料が残り10%を切りました!」
基地のハンス班長からの通信が入るが、シャルルは完全にゾーンに入っていた。
彼にとって、この戦いは国家の防衛でもなければ、ザビ家の復興でもない。自分たちの信じた「モビルスーツは、ジオン公国軍の形をしている時が一番輝いている」という、全宇宙の連邦政府に対する究極の『当てつけ』であり、巨大な自己満足の終着駅なのだ。
だが、楽しいお祭りの時間は、常に終わりを迎える。
ズガァァァァン!!
突然、シャルルのRFゲルググの右肩が激しく爆発し、機体が大きくよろめいた。
コックピットのモニターが真っ赤な警告灯で染まり、「サナリィ製ハッキングOSが、敵のガンダムの新型センサーと同期し、こちらの手の内を先読みし始めました!」という、最悪のシステムエラーが表示される。
「ぬうっ!? おのれ……、やはり本物のガンダムF90か!」
砂塵の向こうから現れたのは、かつて自分たちがオリンポス・ベースから強奪し、赤く塗り替えてトゲを溶接したはずの『ガンダムF90(2号機)』……ではなく、連邦軍の第13実験戦術部隊が地球圏からわざわざ持ってきた、もう一機の白い悪魔――『ガンダムF90(1号機)』の、完全戦闘仕様であった。
1号機のツインアイが、火星の暗い空の下で「お前たちのレトロ浪漫はここで終わりだ」と告げるかのように、冷酷にギラリと輝いた。
『火星独立ジオン軍の最高指揮官、シャルル・ロチェスター! お前たちの犯した罪は、サナリィの最高機密を盗み、あろうことかガンダムの肩に悪趣味なトゲを溶接したことだ! 連邦軍の、そしてすべてのモビルスーツ・デザイナーのプライドにかけて、お前をここで完全にスクラップにしてやる!』
1号機のパイロット(最新のエリート教育を受け、オタクのロマンなど1ミリも理解しない合理主義の塊のような若者)の、冷たい声が通信回線をノイズ混じりで突き刺す。
「フ、フハハハ……! 言うようになったではないか、地球圏のひよっこめ!」
シャルルのコックピットは、すでに過負荷に耐えかねたジェネレーターの熱で、サウナ状態を通り越して「火星の芋焼き器」のようになっていた。警告音が耳を聾するほど鳴り響き、モニターの半分はノイズで砂嵐に変わっている。
それでも、シャルルはレバーを握る手を緩めなかった。
「お前たちに何が分かる……! 効率ばかりを追い求め、モビルスーツをただの『小さくて便利な道具』に貶めたお前たちに! かつて一年戦争の時、ザクのモノアイが一瞬光るだけで、全地球の連邦兵が夜も眠れないほどの恐怖に震えた、あの『神話の時代』の美しさが、1ミリでも理解できるかァァァ!!」
シャルルは、残されたすべてのエネルギーをビーム・ナギナタの結晶体へと注ぎ込んだ。
彼の漆黒のRFゲルググの全身から、無理な出力上昇による青いプラズマの火花が激しく吹き出す。その姿は、滅びゆくジオンの歴史そのものが、最後に放つ意地の輝きのようであった。
「我が魂は一年戦争のグラナダにあり! 全宇宙のジオンオタクたちよ、私の背中を見よ! これが最後の……ジオンの突撃だァァァ!!」
シャルルの叫びとともに、漆黒のRFゲルググは火星の大地を蹴り、ガンダムF90(1号機)に向かって、時速500キロメートルを超える狂気の特攻(ラスト・ダンス)を仕掛けた。
対するガンダムF90(1号機)は、一切の感情を排した無機質な挙動で、右腕のビーム・ライフルを正確にゲルググのコックピットへと照準した。サナリィの高性能コンピュータが、ゲルググの突撃軌道を0.0001秒で計算し、完璧な迎撃シークエンスを完了する。
『時代の終わりです、お爺さん。……消え去りなさい』
次の瞬間、オリンポス山の山頂が、目も眩むような純白の閃光によって包み込まれた。
ドォォォォォォォン!!!
サナリィの最新鋭ビーム・ライフルの一撃は、シャルルのRFゲルググの胸部装甲を正確に貫き、その内部にあった「密輸されたアナハイム製高性能ジェネレーター」を直撃、一瞬にして大爆発を起こさせた。
漆黒の巨体は、爆辞の炎の中でバラバラのパーツへと分解され、シャルルが40年間守り続けてきた「特大の頭部アンテナ」が、火星の赤い砂の上に『突き刺さる』ようにして転がった。
「見事だ、連邦のガンダム……。だが……我がオールズモビルの浪漫は……永遠に……不滅……」
シャルルの意識が、火星の冷たい爆風の中に溶けて消えていく。
コックピットが完全に消滅するその最後の瞬間まで、彼の脳裏には、宇宙世紀0079年、サイド3の阅兵式でギレン・ザビ総帥が叫んでいた「ジオン公国万歳!」の幻聴が、この上なく心地よい爆音で鳴り響いていた。
宇宙世紀0122年。
火星独立ジオン軍の最高指揮官シャルル・ロチェスターは、オリンポス山の落日とともに、その波乱に満ちた(そして最高に拗らせた)生涯を閉じた。
彼の戦死、そして愛したRFゲルググの完全な大破をもって、火星全土を巻き込んだ『第二次オールズモビル戦役』の勝敗は、実質的に決定することとなる。
連邦軍の兵士たちが「ふぅ、やっとあのめんどくさいゲルググオタクを片付けたぞ」と、安堵のタバコに火をつける中、オリンポス山の麓の地下ドックは、勝利した連邦軍の総攻撃によって次々と爆破され、40年以上にわたって積み上げられてきた「ジオンの遺産(と、大量のプラモデルの金型)」は、すべて不毛の赤茶けた土の下へと、永遠に埋葬されていくのであった。